相場展望12月22日号 黒田バズーカ砲の逆襲、「金利引上げ」で日本重傷か 米FRB「市場対話型」、日銀「問答無用型」の目立つ違い

2022年12月22日 11:08

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)12/19、NYダウ▲162ドル安、32,757ドル(日経新聞より抜粋
  ・NYダウは12/14~16の3日間で▲1,100ドル超下げた後で、短期的な戻りを見込んだ買いが入り、買一巡後は米利上げの継続が景気を冷やすとの懸念から幅広い銘柄に売りが出て、下げ幅は一時▲300ドルを超えた。市場では「休暇を取る市場関係者が増えており、薄商いで値動きが大きくなりやすい」との声が聞かれた。
  ・米長期金利の上昇を受け、相対的な割高感が意識されやすい高PER(株価収益率)のハイテク株が売られたことも相場の重荷となった。ハイテク株比率の高いナスダック総合指数は4日続落し、交流サイトのメタ▲4%、ネット通販のアマゾン▲3%下落。
  ・インフレ抑制に向け、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引締めが長期化するとの観測が強い。
  ・全米住宅建設業協会(NAHB)が12/19に発表した12月の住宅市場指数が市場予想に反して低下し、景気悪化への警戒感が強まったとの見方もあった。
  ・消費関連株の下げが目立ち、映画娯楽のディズニーが▲5%安、スポーツ用品のナイキは▲3%安で終えた。
  ・米長期金利は一時、前週末比+0.11%高い(価格は安い)3.60%を付け、ハイテク株の売りにつながった。マイクロソフトとアップルが▲2%近く下げた。

【前回は】相場展望12月19日号 FOMC通過、高金利の長期化観測浮上し、株価軟調 欧州もインフレ抑制で金利引上げ、中国経済後退へ

 2)12/20、NYダウ+92ドル高、32,849ドル(日経新聞より抜粋
  ・NYダウは前日までの4営業日で約▲1,350ドル下げており、主力銘柄の一部に短期的な戻りを見込む買いが入った。ただ、世界の主要中央銀行による金融引締めが景気を冷やすとの懸念は根強く、上値は重かった。
  ・日銀は金融政策決定会合で、長期金利の変動許容幅を拡大することを決めた。大規模緩和の縮小に向かうと受け止められ、主要国の長期金利の上昇につながった。
  ・ドルは主要通貨に対して売られ、「米国外での事業比率が高い企業の収益悪化が今後は和らぐとみた買いも入った」との指摘もあった。
  ・IBM・ボーイング・キャタピラーなど海外での売上高比率が高い銘柄の上げが目立った。米原油先物相場の上昇を背景にシェブロンが買われ、ディズニーなど消費関連も高い。米長期金利上昇で利ざや拡大の思惑からJPモルガンチェースも上げた。一方、金利上昇局面では割高感が意識される高PER(株価収益率)のハイテク株は軟調、セールスフォースやアップルは下げた。目標株価を引下げたテスラは▲8%下落した。

 3)12/21、NYダウ+526ドル高、33,376ドル(日経新聞より抜粋
  ・スポーツ用品のナイキの四半期決算が市場予想を上回り急伸し、投資家心理が上向き、幅広い銘柄に買いが広がった。ナイキの2022年9~11月決算は売上高では主力の北米が好調で市場予想以上に増え、1株利益も市場予想を上回った。株価は+12%上昇し、NYダウを82ドルあまり押し上げた。
  ・12/21発表の米12月消費者信頼感指数は市場予想を上回り、4月以来の高水準となった。「年末にかけて米消費者の心理がかなり改善したことを示した」と受け止められた。米経済の大半を占める個人消費が停滞するとの懸念が和らいだのも相場を支えた。
  ・景気敏感株が買われ、航空機のボーイング・化学のダウが上げた。米原油先物相場が大きく上昇し、資源高の恩恵を受けやすい石油のシェブロンや建機のキャタピラーが上げた。スマホのアップルや顧客情報管理のセールスフォースといったハイテク株も総じて高い。動画配信のネットフリックスや交流サイトのメタが上昇した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)12/19、上海総合▲60安、3,107(亜州リサーチより抜粋
  ・ほぼ全面安の展開。
  ・新型コロナ感染再拡大が不安視された。国内の主要都市で、新規感染者数が急増。上海市や広州市など各地の小中学校でオンライン授業が始まり、上海ディズニーランドは営業時間を短縮した。また、病院の外来に受診者が殺到し、各地で医療提供体制が逼迫し始めたとも伝わっている。
  ・業種別では、バイオ医薬関連の下げが目立つ。環境保護関連も冴えない。

 2)12/20、上海総合▲33安、3,073(亜州リサーチより抜粋
  ・前日までの軟調な地合を継ぐ流れとなり、約1カ月半ぶりの安値水準に低迷した。
  ・中国で新型コロナ感染が急増し、足元の経済活動が停滞すると不安視された。
  ・ワールド・エコノミクスが12/19発表した最新調査によると、今年12月の中国企業信頼感指数は調査開始の2013年1月以降で最低水準に落ち込んだ。
  ・中国人民銀行(中央銀行)が朝方公表した銀行貸出指標となる12月の最優遇貸出金利は予想通り前月と同水準(1年物3.65%、5年物4.30%)に据え置かれた。
  ・業種別では、不動産の下げが目立ち、消費関連・金融・医薬品・運輸などが安い。

 3)12/21、上海総合▲5安、3,068(亜州リサーチより抜粋
  ・新型コロナ新規感染の急増が不安視される流れとなった。
  ・北京大学病院の専門家は、「コロナ感染は『爆発期』に入った」との見解を示した。感染流行は1月下旬の春節以降も続くとの見方もあり、経済活動停滞も不安視される状況。
  ・世界銀行は12/20発表のリポートで、中国の2022年GDP予想を2.7%と予測。9月時点の予測値2.8%から▲0.1%引下げた。新型コロナ感染拡大、防疫措置の見直しなどの面で不確実性が残るほか、不動産業界が直面する圧力がマクロ経済や金融システムに影響を及ぼす恐れがあると指摘した。もっとも、下値は限定されている。
  ・中国人民銀行(中央銀行)が資金供給を続けていることや、政府の経済対策に対する期待感が相場を下支えした。
  ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、自動車も安い。銀行・保険はしっかり。

●2.中国12月景況感指数は48.1、11月51.8から低下し2013年1月以来の低水準(ロイターより抜粋

 1)ワールド・エコノミストは「中国の経済成長が劇的に鈍化し、2023年には景気後退に(リセッション)向かっている可能性を示唆している」と指摘した。

 2)今年の中国経済の成長率はわずか+3%にとどまり、約50年ぶりの低成長を見込む。

●3.中国の財政赤字、1~11月は過去最大約▲147兆円、ゼロコロナ政策で打撃(ブルームバーグ)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)12/19、日経平均▲289円安、27,237円(日経新聞より抜粋
  ・米景気悪化への警戒感から前週末の米株が下げた流れを引き継ぎ、株価指数先物に売りが出て、下げ幅は一時360円超となり、約1ヶ月半ぶりの安値水準で終えた。
  ・12/16のNYダウは前日比▲281ドル(▲0.8%)安で終えた。東京市場でも景気敏感の自動車や機械、電気機器が売られた。
  ・日経平均は200日移動平均線を終値で下回り、「先安観が意識される」との声が出た。
  ・銀行や生命保険の一部には思惑的な買いが入った。政府内の一部で、政府と日銀が2013年に結んだ共同声明の見直し論が浮上していると伝わった。
  ・訪日外国人(インバウンド)による消費の復調が期待される百貨店も堅調に推移した。
  ・ファストリ・ダイキン・トヨタ・ホンダ・第一三共・アステラスが安く、三菱UFJ・三井住友FG・第一生命・三越伊勢丹・高島屋が上げた。

 2)12/20、日経平均▲669円安、26,568円(日経新聞より抜粋
  ・朝方は足元の相場下落を受けた自律反発狙いの買いが先行したが、日銀が大規模緩和の修正を決めたことを受けて、午後は一段安となり一時▲800円を超える下洛となった。
  ・日銀は12/20まで開いた金融政策決定会合で、長期金利の許容変動幅について±0.5%程度への拡大を決めた。市場では「日銀は現状の金融政策を維持するとの見方が大勢だったため、想定外の緩和修正を受けて株価はショック安の様相を呈した」との声。
  ・日銀の緩和修正によって円高・ドル安が進んだほか、長期金利が上昇し、日産自・三菱自など自動車株や住友不・三井不といった不動産株の下落が目立った。ソフトバンクG・楽天・東エレク・ソニー・日本電産・安川電・キーエンスも安い。金利上昇を手掛かりに上昇した金融関連株を除くとほぼ全面安の展開だった。

 3)12/21、日経平均▲180円安、26,387円(日経新聞より抜粋
  ・日銀が12/20に大規模な金融緩和を事実上縮小したのを受け、売り優勢となり一時▲300円安、5日続落は8月下旬以来、10/13以来およそ2カ月ぶりの安値となった。
  ・日銀は12/20、長期金利の変動許容幅を「±0.5%程度」に拡大した。黒田総裁は記者会見で「金融引締めではない」と強調したが、市場は事実上の利上げと受け止めた。「日銀への不信感は高まった。マイナス金利政策の解除まで思惑が進みかねない」との見方があった。
  ・東証の業種別では、「輸送用機器」の下落が大きかった。日銀の緩和修正後の円高進行を嫌気し、自動車株が連日で売られた。トヨタやホンダは年初来安値を更新した。三井不など不動産の下げも目立った。
  ・一方、日経平均は下げ渋り、プラス圏に浮上する場面もあった。貸出金利の上昇による利ざや改善期待で銀行株が前日に続き上げた。三菱UFJ・三井住友FG・みずほFGが年初来高値を更新した。
  ・パナ・フジクラ・キャノンが下落、川崎汽船・日清粉・明治・エムスリーが買われた。

●2.日本株:黒田バズーカ砲の逆襲を受け「利上げ」で日銀は瀕死の重傷へ、日本売り始まるか

 1)日銀は12/20、10年物日本国債の上限金利を0.25%から0.50%に引上げた
  ・黒田総裁は、「利上げではない」と技術的な措置であると述べた。「金利を引上げるつもりも、金融を引締めるつもりも、まったくない」と言う。

 2)目立つ、米国FRBの市場との民主的な対話型誘導施策、日銀の強圧的な問答無用型施策の違い
  ・米FRB議長は、金融政策変更に当たって民主的な「市場との対話」を重視し、ショックを和らげるというソフトランディング方式を取っている。
  ・黒田・日銀総裁は、FRBとは真逆で、事前予想させずに突然「問答無用型」の決定をし、市場にショックを与えるというハードランディング方式を取っている。
  ・米FRB議長は市場から信頼を得る努力をしている。日銀、特に黒田総裁は、予告なしの政策変更決定を好むため「市場の日銀への不信感がが高まる」ため、疑心暗鬼となりやすく市場の協力は得られにくくなるリスクがある。金融市場は国民の生活に直結しており、日銀1人だけで運営しているわけではない。

 3)10年国債利回りの上昇
  ・        12/19 ⇒ 12/21  伸び率
   10年国債利回り 0.251%  0.475  短期日で+189.3%高

 4)金利の急激な上昇は、深刻な影響をもたらす
  ・借入れコスト増は、融資を受ける企業業績の悪化につながる。とりわけ、中小企業にとって致命傷になりかねない。
  ・債券価格の低下で、銀行・年金・保険会社の既発債保有の債券に損失が発生。つまり、運用リスクが大きくなる。年金の期待利回りは低下し、支給年金額の減額に追い込まれる可能性が高まる。
  ・銀行も貸出債権の健全化を目指し融資スタンスを厳しくして、貸し剥がしが企業倒産を招く可能性が出てくる。結果、銀行は不良債権の急増に悩まされる。

 5)日銀こそ、倒産リスクがある
  ・黒田バズーカ砲の結果、日銀の保有国債は500兆円を超えるまで膨張し、国が発行した国債の5割を超える保有比率となった。政府が垂れ流す赤字を、日銀が金融面で支えている構図である。これは、健全な財政を求める法律違反の状態ではないか。つまり、異常な状態に置かれているのが現状である。
  ・日銀の9月期決算は保有債券の評価損で赤字となった。
  ・今後、利上げが続くなら、金融業界・資金運用業界にとどまらず、債券保有する機関の潜在的赤字が表面化するリスクが増大する。それは、日銀をも直撃するだろう。日銀は保有債券が1%下落するだけで▲5兆円、10%下落で▲50%兆円の損失を抱える。

 6)日銀の倒産リスクは、日本全体に悪影響を及ぼす
  ・政府は毎年、日銀から1兆円以上の運上金を得ているが、これが無くなる。つまり、政府の財政に欠落が生じる。
  ・日銀が債務超過となった場合、日本政府が補填する必要がある。これも、政府ひいては国民の負担増と跳ね返ってくる。
  ・先進国の中央銀行が債務超過に陥ると、「日本売り」となり、「悪い円安」を招き、国民生活の悪化に直結する。

 7)株式相場は大混乱のリスク
  ・債券での損失補填のため、含み益のある株式が狙い撃ちで売られるだろう。
  ・さらに、銀行の貸出厳格化にともない、企業は手元資金を確保するために、保有株式の売却に走る可能性がある。
  ・円安によるコスト増のため、企業は企業収益確保のため株式売却益を求めるケースも出てくるだろう。
  ・岸田首相は賃金上昇3%を期待しているが、金利上昇で期待はしぼむことになろう。

●3.日銀は12/20,長期金利上限を0.25%⇒0.5%程度に拡大(毎日新聞)

 1)政策金利の正常化を市場は意識、株安は一時的か=GCIAM池田氏(ロイター)
 2)大規模緩和を修正、事実上の利上げ(時事通信)

●4.経済産業省は12/19、次世代半導体の研究開発拠点「LSTC」を設立(日テレ)

 1)11月に設立した「Rapidus」と両輪で、量産基盤を構築していく考え。
 2)LSTCとは、技術研究組合最先端半導体技術センターのこと。

●5.日銀の国債保有額が9月末で初の5割超、大規模取得で異例の事態(共同通信)

●6.企業動向

 1)東芝    パワー半導体生産棟を姫路工場に新設し、生産能力2倍超に(ロイター)
 2)イビデン  中国のプリント配線板工場を中国企業に177億円で売却(日刊工業新聞)
        イビデンは成長期待できるデータセンサ-用ICパッケージで世界首位。
        1,800億円をかけ岐阜県大垣市の河間事業場を2024年1月稼働で再構築中。
        国内最大規模の新工場・大野事業場も12/12に着工。
 3)京セラ   長崎・諫早に半導体関連の新工場建設、雇用1,000人(長崎新聞社)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・5929 三和     業績堅調。
 ・6098 リクルート  業績堅調。
 ・9006 京急     業績急回復。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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