相場展望12月19日号 FOMC通過、高金利の長期化観測浮上し、株価軟調 欧州もインフレ抑制で金利引上げ、中国経済後退へ

2022年12月19日 10:28

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移
 1)12/15、NYダウ▲764ドル安、33,202ドル(日経新聞より抜粋
  ・下げ幅は9月中旬以来3カ月ぶりの大きさ。
  ・米連邦準備理事会(FRB)による金融引締め継続が景気後退を招くと警戒され、景気敏感株やハイテク株など幅広い銘柄に売りが強まり、一時▲900ドルを超えた。
  ・FRBは12/13~14に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表した政策金利見通しで2023年末時点の予想を5.1%とし、前回9月の見通し4.6%から引上げた。パウエルFRB議長は記者会見で「利上げ継続が適切」と主張し、景気を犠牲にしてでもインフレ抑制を最優先とする考えを改めて示した。
  ・12/15発表の米小売売上高は前月比▲0.6%減と市場予想▲0.3%より悪化したこともあり、「来年の米景気の後退局面入りの現実見が増した」との見方があった。
  ・米機関投資家が運用の参考指標にするSP500株価指数が目先の下値支持線とされてきた3,900を下回り、投資家心理を冷やしたとの見方があった。
  ・景気悪化で個人消費の冷え込みが懸念され、映画・娯楽のディズニーが▲4%下げた。化学のダウや工業製品・事務用品のスリーエムなど景気敏感株は総じて売られた。アップルが▲4%強下落するなど、主力ハイテク株の下げも目立った。交流サイトのメタ、ネット検索のアルファベット、半導体のエヌビディアなども大幅安。

【前回は】相場展望12月15日号 米株市場は「ハト派」解釈も、FRBは「タカ派」姿勢堅持

 2)12/16、NYダウ▲281ドル安、32,920ドル(ロイターより抜粋
  ・FRBは連邦公開市場委員会(FOMC)で+0.5%利上げを決定、2023年FF金利予想が5.1%となり、今後、少なくとも+0.75%の追加利上げが実施されることを示唆した。
  ・市場関係者は年末年始を控え、商いが細り始めていることから、相場のボラティリティが増しているとの見方を示している。
  ・世界の主要中央銀行が利上げを決定し、インフレ対応はまだ終わっていないとの見解を示したことで、世界的に債券が売り圧力にさらされた。
  ・NY連銀のウィリアムズ総裁は、FRBが来年、予想以上に政策金利を引上げる可能性があるとの見解を示した。また、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁も、政策金利がピークに達した後、約1年間はその水準にとどまると考えることは「合理的」と述べた。
  ・市場関係者は、「ようやく市場が『悪いニュースは悪い』と理解し始めたように感じられる。10月の底値以降、市場はFRBが上手く軟着陸できるという過ぎた楽観論を織込み続けてきた」と指摘した。
  ・世界の中央銀行の大半が引締め政策を取っているため、今年の市場が「サンタクロース・ラリー」と呼ばれる年末の上昇を記録する見込みは薄くなっている。
  ・SP500の主要11セクターは全て下落、不動産が▲2.96%超下落し、下げを主導した。自動車のGMが▲3.91%。メタが+2.82%・アドビが+2.99%上昇した。

●2.米国株:重要イベント通過、金融引締め長期化観測が浮上し、株価軟化

 1)主要株価指数の推移 : 半導体などハイテク主導の下落
             12/13    12/16   下落幅  下落率
  NYダウ       34,108    32,920  ▲1,188 ▲3.48%
  SP500         4,019     3,852  ▲ 167 ▲4.16
  ナスダック総合    11,256    10,725  ▲ 551 ▲4.90
  半導体株指数(SOX)  2,821     2,636  ▲ 185 ▲6.56

 2)市況:重要イベント通過し、高金利の長期化から世界景気後退観測が強まる
  ・重要イベント「FOMC」通過で、楽観から、タカ派的な現実視点に転換し下洛へ。
  ・クリスマス休暇入りを控え、持ち高調整の売り圧力が出やすい。
  ・年度末を迎え、損切りと抱き合わせの益出し売りで相場は軟化しやすい。
  ・好材料が乏しく、買い優位となる手掛かりがない。
  ・世界の主な中央銀行の金利引上げ長期化観測から、景気後退懸念が強まる。

 3)まとめ:高金利の長期化観測で、高水準の株価は反動安へ
  ・米金利の急激な上昇局面はピークアウトし、金利上げ幅の縮小段階に入り株価は反騰し米株価は高水準に達していた。
  ・しかし、インフレ退治のため欧州中央銀行(ECB)、英中央銀行などの金利引上げに端を発して、米国の中央銀行であるFRBの金融引締めの長期化観測が浮上した。中国経済の景気後退感が強まり、原油価格など資源先物価格の軟化も重なった。
  ・米国の高インフレ率は鈍化傾向がみられるものの、賃金上昇率は高水準にあり、失業率も低く新規失業保険申請件数も低い状況にある。こうした状況もあり、早期の金利引下げ期待感が後退し、金融引締め長期化観測が強まった。
  ・そのため、足もとで高水準にまで高騰していた米国主要株価指数は反動安に転じる局面となり、上げ幅が大きかったハイテク株が主導し9/14から米国株は全面安となった。
  ・年末を控え、米株市場は好材料が乏しく、市場参加者も減少するため、しばらくは株価軟調局面が続きそうだ。

●3.ゴールドマン、大型リストラ検討、最大▲4,000人削減=米紙報道(時事通信より抜粋

 1)FRBの急速な利上げを背景に市場環境が悪化、主力の投資銀行業務の収益が低迷しているためボーナスも大幅削減するという。4,000人は全従業員の8%に相当する。

●4.米バイデン政権、原油戦略備蓄(SPR)の補充計画開始、まず300万バレル購入(ブルームバーグより抜粋

 1)高いガソリン価格の抑制のため、SPRから計1億8,000万バレルの石油を放出していた。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)12/15、上海総合▲7安、3,168(亜州リサーチより抜粋
  ・中国景気の先行きが不安視される流れとなった。
  ・11月中国経済統計は、消費や投資関連などが軒並み事前予想を下回った。
  ・また、米国で積極的な利上げ観測が再燃していることも不安視された。
  ・しかし、中国経済対策への期待感が相場を下支えし、下値を叩くような売りはみられない。
  ・国営メディアは12/14、中国当局が経済発展を目指した内需拡大計画を策定中と報じた。
  ・業種別では、セメント・鉄鋼・非鉄など景気動向に敏感な銘柄が安く、ハイテクはしっかり

 2)12/16、上海総合▲0.8安、3,167(亜州リサーチより抜粋
  ・前日の軟調な地合を継ぐ流れとなった。
  ・中国景気の先行き不安が強まっている。国家統計局が12/15発表した11月経済統計では、消費や投資関連などが事前予想を軒並み下回った。中でも、小売売上高は前年同月比▲5.9%減少し、2カ月連続のマイナス成長。
  ・ただ、下値は限定的。翌年の経済政策方針を決める中国の重要会議「中央経済工作会議」は、延期観測が流れたが当初見通し12/15に始まったもようで、例年と同様なら3日間開催され、最終日に国営メディアが声明を報道する。今回の会議では、積極的な財政・金融政策が打ち出されるほか、不動産を巡る政策スタンスが一段と軟化される可能性があるとの観測が流れた。劉鶴・副首相は12/15、不動産は「国民経済の基幹産業」であるとの認識を示している。
  ・業種別では、ITハイテクの下げが目立ち、自動車も冴えない。不動産・金融は上げた。

●2.中国11月不動産投資は前年比▲19.9%減、過去最大の落込み(ロイターより抜粋

 1)減少は9カ月連続、10月は▲16%減だった。

●3.中国11月消費▲5.9%減、物流停滞(毎日新聞)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)12/15、日経平均▲104円安、28,051円(日経新聞より抜粋
  ・米連邦公開市場委員会(FOMC)では、大方の予想を通り+0.5%の利上げが決定され、米連邦準備理事会(FRB)は金融引締めに積極的な「タカ派」的姿勢を維持した。
  ・前日の米国株が下落する中、日本株も売りに押された。
  ・日本と中国の経済再開期待が下支えとなり下値は限定的だった。
  ・足もとでは、米消費者物価指数(CPI)の伸びが鈍化しており、FRBの引締め姿勢が軟化するとの期待も一部では浮上していた。前日までに日米の株式相場は上昇していたため、今日は売り優勢となった面もある。キーエンス・Z・エムスリーなどのグロース(成長)株の下げが相対的に大きかった。
  ・指数は朝方下げた後、午後に掛けて膠着感の強い展開となった。最大の注目イベントだったFOMCは政策金利の見通しなども含め、市場で大きなサプライズなく通過、「欧米のクリスマスシーズン到来を控え、持ち高を傾けづらい」との声もあった
  ・相場全体が方向感を欠く中、防衛費の増額方針を手掛かりに三菱重工は年初来高値を更新。百貨店・鉄道が上昇、中国景気が上向くとの期待でINPEXや総合商社など資源関連も上げた

 2)12/16、日経平均▲524円安、27,527円(日経新聞より抜粋
  ・11/10の27,446円以来、約1ヶ月ぶりの安値水準となった。
  ・前日の欧米株式相場が景気後退懸念を背景に急落した流れが波及し、後場は海外勢の手仕舞い売りも膨らみ、一段安となった。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)の金融引締めに伴う景気後退が警戒され、前日は米NYダウの▲2.2%安を初め、欧米の主要株価指数が軒並み大幅安となった。
  ・12/15発表の米11月小売売上高が市場予想を下回ったのも投資家心理の重荷となり、東京市場では朝方から値嵩のハイテク株を中心に幅広い銘柄に売りが出た。午後に入ると、日経平均は徐々に下げ幅を拡大した。
  ・来週からクリスマス休暇に入る海外投資家が多く、持ち高調整の売りが出やすかった。
  ・欧米の利上げで来年は景気後退色が強まるとの見方から、海外勢はグローバルに株式のウエートを引下げ始めているとの声も聞かれた。
  ・東エレク・アドテスト・ソフトバンクG・サイバーの下げが目立ち、川崎汽が逆行高。

●2.日本株:空売り比率が低調なのに、日経平均は売り優位で下落という軟調相場へ

 1)日経平均の動向
  ・        12/14   12/16  下落幅  下落率
日経平均   28,156円  27,527  ▲629  ▲2.23%安

 2)空売り比率が低い中、日経平均は売り圧力が強く下落
  ・空売り比率は12/15に38.8%となり、極めて低い水準となった。にもかかわらず、日経平均は▲104円安と下洛した。
  ・外国人の先物は、買い手口は弱いものの、売り一色ではない。このことから、このところ現物株に対する外国人に加えて国内年金基金の売りが進展したことによるものと思われる。短期筋の売り圧力が主導する反落局面でないだけに、しばらくは値幅整理が必要になると思われる。

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・2801 キッコーマン   業績堅調。
 ・3141 ウエルシア    業績堅調。
 ・6523 PHC       業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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