相場展望5月11日号 米4月消費者物価は高止まり、6月FOMCで利上げか 日本株: テクニカル指標「買われ過ぎ」、市場は「個別株人気で強い」状況続く

2023年5月11日 10:25

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)5/08、NYダウ▲55ドル安、33,618ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)の調査で米銀行の貸出態度が厳しくなっていることが分かり、企業活動の悪化につながるとの懸念が出た。半面、経営不安に揺れる地域銀行株への買戻しが米株相場を支えた。
  ・FRBが5/8に発表した1~3月期の融資担当者調査によると、大企業・中堅企業の商工業ローン向けの貸出基準は前回調査に比べ厳しくなった。企業の資金調達環境が悪化することで、米景気の冷え込みにつながるとの懸念が相場の重荷になった。
  ・半面、米地銀株の上昇は投資家心理の悪化に歯止めをかけた。パックウェスト・バンコープは財務の補強を目的に減配すると発表し、株価は一時+30%上昇した。米規制当局が空売りなど金融株の取引規制を検討するとの思惑が市場で意識されたこともあり、ウェスタン・アライアンス・バンコーポレーションやザイオンズ・バンコーポレーションも上昇した。
  ・NYダウ構成銘柄では、ドラッグストアのウォルグリーンズブーツや工業製品・事務用品のスリーエムが下落。一方、今週に決算発表を控える映画・娯楽のディズニーは上昇。クレジットカードのアメリカンエクスプレスも買われ、相場を支えた。ハイテク株比率が高いナスダック総合では、ネット検索のアルファベットや半導体のエヌビディアが上昇した。

【前回は】相場展望5月8日号 米国:「金利引下げ」⇒インフレ再急騰・景気悪化を招く 中国: 経済の「日本化:失われた30年」へまっしぐら  日本:決算発表本格化、来週以降は材料乏しく軟化か

 2) 5/09、NYダウ▲56ドル安、33,561ドル(日経新聞より抜粋
  ・5/10に4月米消費者物価指数(CPI)の発表を控え、投資家の様子見姿勢が強かった。米地銀株の不安定な値動きに加え、米政府の債務上限問題などへの警戒が相場の重荷になった。
  ・市場予想によれば、CPIは物価の瞬間風速を示す前月比の伸びが3月の+0.1%から+0.4%に加速すると見られている。エネルギー・食品を除くコア指数は前月比+0.4%、前年同月比+5.5%上昇する見通しで、インフレ抑制が進んでいないと受け止められる可能性がある。
  ・米地銀のパックウェスト・バンコープやウェスタン・アライアンス・バンコーポレーションが大幅安となる場面があった。インフレ高止まりでFRBの金融引締めが長期化すれば、金融機関の経営環境も厳しさを増す。米銀の貸出態度の厳格化が米景気や企業業績を一段と押し下げることへの警戒が強かった。
  ・米政府の債務上限問題を巡っては、バイデン米大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長が5/9夕に協議する予定となっている。与野党の隔たりは大きく、早期の歩み寄りを期待する参加者は少ない。現時点では、米政府が債務不履行(デフォルト)に陥ると見る投資家は多くないが、協議が難航する可能性が嫌気された。NYダウは▲100ドル余り下げる場面があった。
  ・半導体のインテルや工業製品・事務用品のスリーエム、スポーツ用品のナイキが下落。半面、大型の新規受注を公表した航空機のボーイングが買われた。顧客情報管理のセールスフォースも高かった。CPI発表を控えて電気自動車のテスラやスマホのアップルなど主要ハイテク株の一角に利益確定売りが出た。

 3) 3/10、NYダウ▲30ドル安、33,531ドル(日経新聞より抜粋
  ・米債務上限問題を巡る不透明感が根強く、株式相場の重荷となった。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引締め長期化への警戒もあり、NYダウの下げ幅は一時▲300ドルを超える場面があった。
  ・バイデン大統領は5/9夕に野党・共和党のマッカーシー下院議長と連邦債務の上限引上げについて協議したが、目立った進展がなかった。5/12にも再び協議する。市場では「どのような事態になるか見通しにくく、相場の重荷になっている」との声があった。
  ・4月の消費者物価指数(CPI)では、前月比の上昇率が+0.4%と市場予想と一致した。エネルギー・食品を除くコアCPIの伸び率は+0.4%と、3月実績や市場予想と同じ。インフレ沈静化には時間がかかり、FRBの引締めが長期化することへの警戒もあった。
  ・NYダウ構成銘柄では、クレジットカードのアメリカンエクスプレス、スポーツ用品のナイキ、映画娯楽のディズニーといった消費関連の下げが目立った。
  ・朝方は買いが先行した。CPIが市場予想よりも上振れすることへの警戒が強かったため、CPIの発表後は米債券市場で長期金利が低下し、NYダウは一時+200ドル余り上昇した。割高感が薄れたと見られ高PER(株価収益率)のハイテク株が買われ、ナスダック総合指数は反発した。顧客情報管理のセールスフォース、ソフトウェアのマイクロソフト、スマホのアップルが上昇した。アルファベットが+4%高となったのは、子会社グーグルが文章や画像を自動でつくる生成人工知能(AI)を40超の言語で提供すると発表し、買いが入った。

●2.米国株:米4月消費者物価指数(CPI)は総合で鈍化も、コアCPIは横ばいと高止まり

 1)4月米消費者物価指数(CPI)の状況
  ・総合CPI 前年同月比+4.9% 市場予想+5.0% 前3月+5.0%
   コアCPI      +5.5%     +5.5%    5.6%
  ・総合CPIは2年ぶりの5%割れ、インフレが鈍化しつつあることが示された。だが、CPIはFRB目標2%の2倍以上であり、依然として高い伸びが続いている。コアCPIにいたっては、高止まりの状況が続いている。

 2)6月FOMCでも「利上げ」の可能性高まる
  ・雇用市場も堅調を維持しており、FRBは今まで通り、今後のデータを見てからとのスタンスを継続すると思われる。
  ・データがこの状況が続くなら、6月FOMCでも「利上げ」の確率が高いと思われる。

●3.大手ヘッジファンドの巨額損失、72時間内に報告義務=SEC規制(ブルームバーグより抜粋

 1)運用額15億ドル(約2,030億円)以上の大手ヘッジファンドに対する監視が大きく強化されることになる。

 2)プライベートエクイティ(PE、未公開株投資会社)にも報告義務が発生する。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)5/08、上海総合+60高、3,395(亜州リサーチより抜粋
  ・週明け5/8の中国本土市場は、主要指数の上海総合指数が前営業日比+60高の3,395と反発した。約10カ月ぶりの高値を更新した。
  ・銀行株が投資家心を上向かせる流れとなった。複数の大手都市銀行が預金金利を引下げたと伝わり、利ざや改善期待が改めて広がった。4月に公表された各商業銀行の年次報告書によれば、預貸利ざやの縮小が危険水域に入っていた実態が判明した。また、金融当局は商業銀行に預金金利の一段の引下げを促した模様とも伝わっていた。
  ・商品市況高が追い風となる流れとなった。5/5のNY市場ではWTI原油先物が+1.4%高と急反発し、ロンドン金属取引所(LME)ではアルミなど主要非鉄の先物価格が上昇した。
  ・本土の各指数は小じっかりと寄りつき、徐々に上げ幅を広げた。
  ・業種別では、金融が相場を牽引し、石油・石炭などのエネルギーも高く、非鉄・鉄鋼が物色され、保険・証券・公益・ハイテク・インフラ関連・メディア・娯楽が買われた。半面、酒造は安く、不動産・空運・小売が売られた。
 
 2) 5/09、上海総合▲37安、3,357(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の内需の弱さが懸念される流れとなった。
  ・4月貿易統計では、人民元建て輸入が▲0.8%減少し、3月の+6.1%増からマイナス成長に転落した。輸出の伸びは、3月の23.4%から4月の16.8%に縮小している。
  ・また、上海総合指数は前日に急反発し、約10カ月ぶりの高値水準を回復しただけに、売り圧力も意識された。ただ、下値は限定的だった。
  ・直近の経済指標が総じて低迷するなか、当局は経済対策を強めるとの期待感が続いている。
  ・業種別では、半導体関連の下げが目立ち、医薬品・エネルギー・消費関連も下げた。半面、証券は高く、不動産・銀行の一角が買われた。

 3) 5/10、上海総合▲38安、3,319(亜州リサーチより抜粋
  ・前日の軟調な地合を継ぐ流れとなった。
  ・中国景気の持ち直しには時間を要するとの見方が広がっている。中国輸入の低迷などを受け、内需の弱さが指摘された。
  ・また、米中のインフレ指標発表を前に、様子見ムードも漂っている。
  ・国有企業のバリュエーション見直しの動きで、このところ上昇が目立っていた現地で「中字頭」(社名が「中国」で始まり、政府系企業を親会社に持つ)と呼ばれる銘柄群に売りが先行した。
  ・業種別では、金融が下げを主導し、石油・医薬品・ハイテク・運輸・不動産が売られた。半面、自動車はしっかり、電力設備・素材の一角が買われた。ガソリン車メーカーにとっては、自動車排ガス規制の警戒感がやや薄れたことも好感。関係当局は5/9、排ガス規制をさらに厳格化する「国6b」基準に関し、当初予定通り7/1から適用すると正式発表した。そのうえで、実際に路上を走行して排ガス評価する「RDE」(Real Driving Emissions)試験も新たに義務付けたが、「国6b」を満たす既存自動車の場合、RDE試験で基準が達成できなくても半年間の猶予期間を与えると通知した。

●2.米国の輸入に占める「中国比率」が下がり続ける背景、電子機器などの生産がベトナムやインドなどに移転(東洋経済)

 1)アジアなど14カ国から米国が輸入するなかの中国比率は、2013年の70%⇒2022年に50.7%に低下。

●3.中国の対GDP債務比率、過去最大の279.7%、企業融資が急増(ブルームバーグより抜粋

 1)ゼロコロナ政策が昨年遅くに解除され、経済活動の本格再開に伴い企業向け銀行融資が1~3月期に急増した。前四半期から+7.7%上昇、ここ3年で最も大きな上げを記録した。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)5/08、日経平均▲208円安、28,949円(日経新聞より抜粋
  ・為替市場で円高・ドル安が進み、主力の輸出関連を中心に売りが優勢となった。大型連休前まで日本株は急ピッチで上昇してきたため、高値警戒感から利益確定売りが出やすかった。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)は大型連休中に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で+0.25%の利上げを決めた。米金融引締めの長期化で米景気が減速するとの懸念も重荷になった。
  ・日経平均は下げ渋る場面も多かった。今日から新型コロナウィルスの感染症法上の位置付けが「5類」に移行するのに伴い、リオープン(経済再開)を期待した買いが入った。アジアの株式市場が総じて堅調に推移したことも日本株の支援材料となった。
  ・日経平均への寄与度が高いファストリが売られた。トヨタ・三菱UFJも下げた。一方、JALなど空運株が買われ、任天堂・JTの上昇も目立った。
 
 2) 5/09、日経平均+292円高、29,242円(日経新聞より抜粋
  ・海外短期筋による先物を中心とした断続的な買いで日経平均を押し上げ、上げ幅は一時+300円を超える場面があった。2022年1/5以来、およそ1年4カ月ぶり高値。前日に米ハイテク株が買われた流れを受け、値嵩の半導体関連株の上昇が目立った。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)は、米銀の融資基準が厳格化していると発表した。市場では、「日銀は金融緩和を維持する姿勢とあって、欧米に比べて日本では金融不安が起こりにくいとの見方から、短期筋を中心に海外投資家が日本株のアロケーション(資産配分)を増やしているようだ」との指摘があった。
  ・主力企業の2023年3月期決算発表が本格化するなか、好調な業績見通しや株主還元策を発表した銘柄には買いが集まった。前日に決算を発表したJFE・川崎汽船が売買を伴って大幅高となった。
  ・東エレク・アドテストが高く、第一生命も買われた。一方、リコーが大幅下落、JALも売られた。

 3) 5/10、日経平均▲120円安、29,122円(日経新聞より抜粋
  ・5/9に1年4カ月ぶりの高値を付けており、前日の米国株安を受けて目先の利益を確定する売りが出やすかった。東エレクなど主力の値がさ株が下げ、日経平均を下押しした。主要企業の決算発表が相次ぐなか、個別株の値動きが目立った。決算発表のあったダイキン・塩野義・日本製鉄の下落が目立った。一方、午後に今期見通しを発表したトヨタは一時上昇率が+2%を超えた。株主還元強化を発表した銘柄などへの買いも相場を下支えした。
  ・前日の米株式市場でハイテク株が下落し、投資家心理の重荷となった。日本時間今晩に4月の米消費者物価指数(CPI)の発表を控え、持高調整の売りも出やすかった。
  ・大平金・NTNが大幅安。半面、丸井・横川電・三菱重は年初来高値を更新した。

●2.日本株:テクニカル指標では「買われ過ぎ」、市場は「個別株人気で強い」状況続く

 1)テクニカル指標は「買われ過ぎ」を示唆
  ・EPS(1株利益)は減少、市場は買い人気が高くPER(株価収益率)は上昇。5/10のEPSは1,572円と低下傾向続くが、PERは18.52倍と上昇し、歪さが拡大。
  ・騰落レシオも、天井圏といわれる120を超えている。
                   5/9   5/10
   騰落レシオ(25日移動平均)  143.20  132.21     
   騰落レシオ(06日移動平均)  219.52  169.39
   日経平均が5/9に+292円高となり移動平均は上昇、5/10は▲120円安となったが、騰落レシオはやや低下も高水準圏にある。本日5/11も下落の可能性を示唆。
  ・「騰落レシオ(25日)―空売り比率」で見ると、5/9は「101」と異常値が出現した。5/10が下がったが「91.61」と依然として高原状態にある。

 2)5/10の日経平均の下落は、買い手の「利益確定売り」が要因
  ・5/10の下落は「売り仕掛け」はなし、「空売り」比率が40.6%と低く、外国人の株式先物手口は若干の買越しとなっている。 
  ・買い上がってきた筋に「高値警戒感」が出てきた可能性がある。

 3)ただ、新高値・新安値銘柄数の推移を見ると、株式相場に「強気」の状況を示している
  ・         5/9   5/10
   新高値銘柄数   398 278
   新安値銘柄数 8 17

 4)日経平均の200日移動平均は、「乖離率が高く」、「強く買われ過ぎ」を示唆している
  ・乖離率   5/9 +6.01%   5/10 +5.52%
  ・乖離率が+5%超の現象は、なか見られない状況にあることを認識しておくべき。

 5)決算発表シーズンであり、好業績や自社株買いなどの材料で「個別株」買いに焦点が集まった流れとなっている。

●3.3月実質賃金が前年比▲1.9%減少、減少は12カ月連続(NHK)

●4.企業動向

 1)丸井    発行済み株式の11.62%、400億円を上限に自社株買い(ロイター)
 2)三菱商事  自己株式6%、3,000億円を上限に取得を発表(ブルームバーグ)

●5.企業業績

 1)川崎汽船  2024/3期純利益+1,200億円計画、前期比▲83%減、市場予想+1,008億円(ブルームバーグ)
 2)任天堂   2023/3期最終利益+4,327億円、前年比▲9.4%減(読売新聞)
 3)日本郵船  2023/3期最終利益+1兆125億円、前年比+0.3%増(HNK)
 4)商船三井  2023/3期最終利益+7,960億円、前年比+12.3%増(NHK)
 5)川崎汽船  2023/3期最終利益+6,949億円、前年比+8.2%増(NHK)
 6)ニトリ   2023/3期最終利益+951億円、前期比▲1.6%減、輸入コスト高(NHK)
 7)三菱重工  2024/3期純利益見通し+1,900億円、前期比+45.6%増(時事通信)
 8)トヨタ   2023/3期営業利益+2兆7,250億円、前期比▲9.0%減(朝日新聞)
         2024/3期営業利益見通し+3兆円、前期比+10.1%増
 9)旭化成   2023/3期純損失▲913億円、過去最大(朝日新聞)
         電池材料関連で▲1,863億円の減損
 10)パナソニック 2023/3期最終利益+2,655億円、前期比+4.0%(産経新聞)
          2024/3期最終利益見通し+3,500億円、前期比+31.8%増
 11)コニカミノルタ 2023/3期純損失▲1,050億円、従来予想+55億円黒字(フィスコ)
           2017年買収の遺伝子検査企業(米国)の減損▲1,166億円

■IV.注目銘柄(投資はご自身の責任でお願いします)

 ・4686 ジャストシステム 業績堅調。
 ・7012 川崎重工     業績絶好調。
 ・9519 レノバ      業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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