相場展望12月4日号 米国株: 長期金利低下で割高感薄れ株価上昇、節税対策売りに注目 日本株: 円高局面入り、円安で株高だった相場に試練

2023年12月4日 10:36

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)11/30、NYダウ+520ドル高、35,950ドル(日経新聞より抜粋
  ・約4カ月ぶりに年初来高値を更新し、2022年1月以来の高値となった。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ局面が終了したとの見方が相場の支えとなった。11/29夕に四半決算を発表した顧客情報管理のセールスフォースが大幅高となり、NYダウを押し上げた。引けにかけて買いの勢いが強まり、この日の高値圏で終えた。
  ・足元で米景気やインフレの鈍化を示す経済・物価指標が目立ち、FRB高官からも現在の政策金利が適切との見解を示す発言が増えている。11/30発表の10月の米個人消費支出(PCE)物価指数ではエネルギー・食品を除くコア指数が前年同月比3.5%上昇と、9月の3.7%上昇から減速し、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想と一致した。
  ・個別銘柄では、セールスフォースが+9%強上げ、指数を+140ドル余り押し上げた。11/9夕に発表した2023年8~10月期決算が市場予想を上回り、通期の業績見通しを上方修正した。人工知能(AI)関連のIT(情報技術)投資が強まり、業績の追い風になるとの期待が広がった。医療保険のユナイテッドヘルスや航空機のボーイングの上げも目立った。
  ・一方、大型ハイテク株の一角が下げ、ハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数の重荷となった。エヌビディアやAMDなど半導体関連が売られた。ネット検索のアルファベットや電気自動車のテスラも下げた。11月のシカゴ購買部協会景気指数(PMI)が55.8と、10月の44.0から大幅に上昇し、市場予想の46.0を上回った。
  ・米長期金利が4.3%台と前日終値4.25%を上回って推移したのも、PER(株価収益率)が高く金利敏感株とされるハイテク株の売りを誘った。今月に入って大きく上げていた銘柄が多く、利益確定売りも出やすかった。
  ・NYダウの11月の上げ幅は+2,898ドルだった。月間の上昇率は+8.77%と昨年10月以来の大きさだった。

【前回は】相場展望11月30日号 米国株: 戻り高値の警戒感で足踏み、年末商戦の株価支えに注目 中国株: 海外の投資急減で成長エンジンが止まり、長期停滞傾向強まる 日本株: 円高と売買高減少が、株高にブレーキ

 2)12/01、NYダウ+294ドル高、36,245ドル(日経新聞より抜粋
  ・午前に米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が米大学のイベントで発言した。FRBによる利上げ局面が終了したのと市場の観測を後押しする内容との受け止めから、米長期金利が低下した。株式の相対的な割高感が薄れたとみた買いが膨らみ、連日で年初来高値を更新
した。
  ・パウエル議長は午前に米大学のイベントで挨拶し、金融緩和の時期を推測するのは「時期尚早」だと述べた。「適切であればさらなる金融引締めをする用意がある」と従来の見方も繰り返した。一方で、現在の政策金利の水準を「かなり引締め的」と表現し、市場では「これまでの発言よりやや金融引締めに積極的なタカ派姿勢が薄れている」との声が聞かれ、株買いを促した。
  ・12/1発表の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は46.7と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想の47.7を下回った。個別項目では「製造」や「雇用」が落ち込んだ。景気減速を示す内容だったとの受け止めから、FRBによる金融引締めの長期化観測が後退した。
  ・債券市場で米長期金利が4.2%台前半と、9月上旬以来の低水準を付ける場面があった。米金利低下で株式の相対的な割高感が和らいだ。
  ・個別銘柄では、ドラッグストアのウォルグリーンズや顧客情報管理のセールスフォース、金融のゴールドマンサックスなどが高かった。石油のシェブロンや航空機のボーイングも上昇した。ネット通販のアマゾンも買われた。一方、半導体のインテルや小売のウォルマート、ソフトウェアのマイクロソフト、医療保険のユナイテッドヘルスが売られた。前日に新型車の出荷を始めた電気自動車のテスラは下落した。

●2.米国株:金利低下が後押し⇒株価上昇の局面、節税対策の売りに注目

 1)NYダウは12/1に36,245ドルと、2022年1月4日高値36,799ドルに迫る勢い
  ・ただ、牽引役のフィラデルフィア半導体株指数(SOX)はダブルトップ形成の可能性があり、注目したい。また、SP500 指数も同様の状況にある。

 2)米国の消費や生産が減速するとの見方が浮上
  ・米個人消費支出(PCE)、10月は伸び縮小し、コア指数は前年同月比3.5%上昇にとどまった。9月の3.7%から鈍化した。
  ・価格指数も鈍化もして景気減速示唆。

 3)FRBの利上げ局面が終了したとの見方が一段と強まる
  ・パウエルFRB議長の発言を受け「積極的なタカ派姿勢から軟化」との見方が広がる。
  ・発言を受け、長期金利は12/1、一時4.19%と9月以来の水準まで低下し株価は割高感が薄れて続伸した。

 4)12月後半からクリスマス休暇に入るため市場参加者減少
  ・薄商いとなるが、仕掛けやすい局面入りのとなるため注意したい。
  ・12月中盤から、節税対策の売り(含み損銘柄の売却)で株価は抑えられる場合もある。

 5)注目のイベント
  ・12/06 ISM非製造業指数(11月)
       JOLS求人件数(10月)
  ・12/08 雇用統計(11月)
  ・12/12 消費者物価指数(CPI)
  ・12/12~13 米連邦公開市場委員会(FOMC)

●3.OPECプラス、追加減産合意できず、複数加盟国が220万バレルの自主的追加減産へ(NHK)

●4.FRB高官の発言

 1)FRBの政先金利、ピークかそれに近い水準=NY連銀総裁(ロイター)

 2)FRBの利上げ終了「知るには時期尚早」=SF連銀総裁(ロイター)
  「現在、利下げは全く考えていない」(フィスコ)

 3)当面かなりの引締め政策を維持すると予想=ウィリアムズ米NY連銀総裁
   インフレ2%目標達成への仕事は終わっていない(フィスコ)

●5.米・電気自動車(EV)税優遇策、中国産材料を制限へ、2024年から(ロイターより抜粋

 1)中国・ロシア・イラン・北朝鮮など懸念される国からの材料を制限し、米EV供給網において中国などの依存度脱却を目指す。

 2)バッテリーについては2024年から、その材料となる鉱物は2025年から適用する。

●6.独・11月失業率は予想5.8%外に上回り5.9%、2年半で最悪(ブルームバーグ)

 1)欧州1の経済大国で景気の弱さが労働市場に影響を及ぼし始めている。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)11/30、上海総合+7高、3,029(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策の期待感が相場を支える流れとなった。
  ・中国の景況感が悪化する中、当局は景気を押し上げるために対策を強めるとの期待が広がった。
  ・朝方公表された11月の中国製造業PMIは49.4に低下し、予想49.8に反し前月実績の49.5も下回った。
  ・主要指数は前日、約4週ぶりの安値水準に落ち込んでいたとあって、値ごろ感も着目された。
  ・業種別では、石油関連の上げが目立ったが、原油高が追い風。主要輸出国が追加減産を検討していると伝わる中、昨夜のNY取引所ではWTI原油先物が+1.9%高と続伸した。発電もしっかり、金融・医薬・酒造・食品・運輸なども買われた。半面、ハイテクは冴えず、自動車・不動産・素材・軍事関連も売られた。

 2)12/01、上海総合+1高、3,031(亜州リサーチより抜粋
  ・自律反発狙いの買いが優勢となる流れだった。
  ・上海総合指数は取引時間中に、約1カ月ぶりの安値を付けた。
  ・中国経済対策の期待感が強まる。遅れていた不動産デベロッパーの救済策に関して、進捗の動きが伝えられている。現地メディアが11/30付けで報じたところによれば、国内最大手銀行の中国商工銀行が不動産デベロッパーを招き、会議を開いた模様だ。
  ・過度な景気不安もやや薄らぐ。取引時間中に公表された11月の財新製造業PMI(民間による)は50.7に拡大し、前月実績49.5と市場予想49.6を上回った。景況判断の境目となる50に再び浮上した。前日発表された国家統計局などによる製造PMIは、予想外に悪化していた。
  ・業種別では、不動産の上げが目立ち、通信・金融・エネルギー・公益などが買われた。半面、消費関連は冴えず。自動車に関しては、年間販売実績を積み上げるために、自動車メーカー各社が相次いで値下げを発表したことも不安視された。素材・運輸の一角も売られた。

●2.中国11月製造業景況指数が2カ月連続で「50」割れ、輸出・不動産低迷で(産経新聞より抜粋

 1)中国国家統計局は11/30、景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)が11月は49.4だったと発表した。
  ・前月比▲0.1低下し、好不況を判断する節目の「50」を2カ月連続で下回った。
  ・輸出低迷と不動産不況の長期化が重荷となって、需要不足が続いている。
  ・輸出の新規受注指数は46.3と、前月から▲0.5悪化し、8カ月連続で「50」を割り込んだ。

 2)11月非製造業指数は50.2で、前月から▲0.4低下。
  ・当局による統制強化に端を発した不況が続く不動産の低迷が続いている。

 3)習近平政権は、今年1月に「ゼロコロナ」政策を正式に終えた。経済政策を重視する方針に転じたが、(1)不動産不況や(2)輸出低迷で内需悪化を抱えるなど景気回復の勢いがみられない。習政権は、金融緩和などにより景気を下支えしようとしている。

●3.中国の大手投資会社、アナリストに中国経済の弱気発言や富の誇示を禁じる(ブルームバーグより抜粋

 1)中国当局は今年、銀行員の「享楽主義」的なライフスタイルを批判し、共産党は習近平総書記(国家主席)が進める「共同富裕」(共に豊になる)運動に従うように銀行員に命じた。

 2)一方で、世界2位の経済大国である中国が、透明性の高いデーターやアクセスに対する制限への懸念も強まっている。

●4.中国で呼吸器疾患が急増、日本大使館が在留邦人10万人に予防呼び掛け(読売新聞)

 1)子供重症化の恐れ。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)11/30、日経平均+165円高、33,486円(日経新聞より抜粋
  ・米長期金利の低下を背景に主力のグロース(成長)株を中心に次第に買いが優勢となった。午前は利益確定目的の売りや戻り待ちの売りが出て、下げる場面が目立った。
  ・午後に入り、日経平均は徐々に上昇の勢いが増した。米株価指数先物が日本時間11/30に高く推移したことや、アジアの株式相場が総じて堅調に推移したことが支援材料になった。市場では「このところ日本株は下げが続いていたため、見直し買いが入りやすかった」との声が聞かれた。
  ・午前は下げる場面が多かった。前日は米主要株価指数は高安まちまちで日本株の方向感を決定づける材料にはならなかった。外国為替為市場で円高・ドル安基調が続き、日本株の株価指数先物や輸出関連の重荷になった。下げ幅は一時▲100円を超えた。
  ・日経平均の月間騰落率は+8.51%。月間ベースでの上昇は5カ月ぶり。
  ・個別株では、アドテスト・TDKが買われ、東エレクも上昇して終えた。一方、リクルート・資生堂が下げ、トヨタ・三井住友FGも安い。

 2)12/01、日経平均▲55円安、33,431円(日経新聞より抜粋
  ・11/30の米株式市場でハイテク株が下落し、国内市場でも半導体関連株などに売りが出た。高値警戒感から利益確定売りも出やすかった。
  ・指数寄与度の大きい東エレク・アドテスト・ソフトバンクGなど値がさハイテク株の一角に売りが出て指数を押し下げた。11/30にハイテク株比率の高いナスダック総合株価指数、半導体銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が下落したことが重荷だった。
  ・12/1に米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の発言機会があるイベントを控え、買いを手控える投資家も多かった。FRBの利上げ局面が終了したとの見方が足元で強まる中、パウエル議長が市場の楽観的なムードを牽制するとの声もあった。
  ・もっとも、11/30の米NYダウは年初来高値を更新しており、日経平均は一方的な下値模索の展開にならずに上げる場面もあった。日経平均は前日夕に比べ円安・ドル高が進行し、自動車株には買いが入った。
  ・個別株では、楽天・エムスリー・太陽誘電が下げた。一方、トレンド・セブン&アイ・アマダが上昇した。

●2.日本株:12/1米国で円相場は146円台突入、円高局面入りで株式相場は試練

 1)円相場は12/1、146.46 円、FRBの利上げ終了との見方が強まり日米金利差縮小
  ・日米金利差の縮小で円買い・ドル売り
   日米長期金利差の推移 11/1    11/30  12/1
   日本10年物利回り   0.947%  0.689  0.705
   米国10年物利回り   4.734%  4.326  4.209
   日米金利差       3.787%  3.637  3.504
   円・ドル相場     151.25円  147.08  146.46(12/1米国)

 2)12/1の日経平均は▲55円安だが、少数の値がさ株の値動きが大きく翻弄された
  ・日経平均へのマイナス寄与度が高い上位5銘柄 ▲103円
   ファストリ・ソフトバンクG・東エレク・アドテスト・TDK
   日経平均へのプラス寄与度が高い上位5銘柄+ 53円
   レーザーテク・トレンド・第一三共・セブン&アイ・トヨタ

 3)12/1のは空売り比率が37.9と低水準の中で小幅安したのが懸念
  ・ただ、新高値銘柄数は106と、新安値は18と少なく、日経平均は根強さを保つ。
  ・高値警戒感の強まりに注目したい。

 4)日経平均は「円安」局面で、株高を享受してきただけに、「円高」局面に注意
  ・12/1の日本時間では円相場は148円台前半だったが、12/1米国時間で146円台と急激な「円高」局面入りした。
  ・その要因は、FRB議長の発言「積極的タカ派でない」との受け止めから、「金利が低下⇒日米金利差の縮小⇒円高・ドル安」に転換したことにある。
  ・市場は「円高」急伸したことを受け、12/4は狼狽売りが予想される。
  ・ただ、織り込みが進めば、株価は次第に落ち着き始めると思われる。

●3.10月の国内宿泊者数は延べ5,314万人、昨年同月比+20.6%増=観光庁(NHK)

●4.セブン&アイ、豪州のセブン・イレブンを1,670億円で買収(ロイター)

●5.セブン&アイが自社株買い1,100億円、1株を3株にする株式分割も実施(ロイター)

●6.NEC、防衛などの事業で人員1,000人増へ、国の予算拡大で受注増加(朝日新聞)

●7.トヨタは中国生産を一部停止、ホンダは▲900人削減、ガソリン車低迷で(時事通信)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・3141 ウエルシア 業績堅調。
 ・3288 オープンハウス 業績堅調。
 ・3401 帝人 業績回復期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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