相場展望7月10日号 米国株: 銅にも25⇒50%関税引上げ⇒アメリカ・ファーストを損なう恐れ 日本株: 石破首相は、トランプ関税でより頑固な日本対応にどう対処?

2025年7月10日 14:11

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)7/7、NYダウ▲422ドル安、44,406ドル
 2)7/8、NYダウ▲165ドル安、44,240ドル
 3)7/9、NYダウ+217ドル高、44,458ドル

【こちらも】相場展望7月7日号 米国株: トランプ氏の減税・歳出法の可決により、自ら首を絞める可能性 日本株: トランプ関税など悪材料出尽くしまで、日経平均は軟調

●2.米国株:銅にも25⇒50%関税引上げ⇒アメリカ・ファーストを損なう恐れ

 1)高関税が、(1)米国の物価高 (2)消費の悪化、をもたらす
  ・トランプ氏は、高関税政策がもたらす悪影響を最小化してみている。
  ・そして、高関税を使って
    ・財政赤字の解消
    ・家計の負担軽減
    ・各国への政治的介入
   を図っている。
  ・しかし、高関税の目に見える好効果は、まだ見えていない。

 2)トランプ氏は、銅にも25⇒50%関税引上げ⇒アメリカ・ファーストを損なう恐れ
  ・米国が使用する銅の6割はメキシコやチリなどからの輸入に頼っている。米国内で銅の生産量を急拡大しなければ、米国に被害をもたらすことになる。銅の新規の産出は簡単ではない。たとえ、新規銅鉱山が発見できたとしても、輸送路確保に年月がかかる。銅の国内生産を増産できないと、米国内の銅の価格上昇を引き起こし、銅を使用する製品の価格上昇を呼び、インフレ圧力となる。

  ・トランプ氏は、銅の米国内での増産のメドを立てずに、高関税に突っ走ってしまったようだ。米国製造業の復活や、中国の産業への対抗に不利な形成を生じることになる。この銅の高関税政策は、トランプ氏のいう米国産業の復活の妨げになろう。

  ・ただ、関税収入を増やす効果はある。しかし、「米国第一主義」には反すると評価される可能性がある。

●3.関税収入、今年は44兆円超、昨年の3倍へ=ベッセント米国財務長官(時事通信)

●4.トランプ氏、ドルの基軸通貨の地位喪失なら「敗戦と同じ」(時事通信)

 1)トランプ米国大統領は7/8、ホワイトハウスで記者団に対し、通貨ドルが基軸通貨の地位を失えば、「大きな世界戦争に敗れたようなものだ」と述べ、危機感をあらわにした。
 2)ドルとは別の決済手段を模索する新興国グループ「BRICS」諸国に対し、10%の関税を課す意向を示した。トランプ氏は中国やロシア、ブラジルなど有力新興国で構成するBRICSの加盟国なら「10%の関税を支払わなければならない」と明言した。BRICSは「ドルを破壊しようとしている」と非難した。

●5.トランプ氏、銅に関税50%を課すと表明、医薬品は200%賦課も(ブルームバーグ)

 1)銅の関税導入は7/末か8/1の可能性高い=ラトニック商務長官
  ・これを受け、NY商品取引所(COMEX)の銅先物価格は一時+17%上昇。日中の上昇率としては少なくとも1988年以来の大きさを記録した。

 2)医薬品は、米国内に生産拠点移転の猶予期間として1年~1年半後に200%の高関税も=トランプ氏

 3)半導体関税についても近く発表へ=トランプ氏

●6.BRICSに同調で+10%追加関税と米国大統領(共同通信)

 1)トランプ大統領は7/6、中国やロシアなど主要新興国で構成するBRICSの反米国政策に同調する国に+10%の追加関税を課すと表明した。自身の交流サイト(SNS)に投稿した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)7/7、上海総合+0.8高、3,473
 2)7/8、上海総合+24高、3,497
 3)7/9、上海総合▲4安、3,493

●2.中国6月生産者物価指数(PPI)は前年比▲3.6%下落、2023年7月以来最大の落込み(ロイター)

 1)中国国家統計局7/9発表。
  6月実績▲3.6%減、予想は▲3.2%減、5月は▲3.3%減だった。

 2)貿易戦争を巡る不透明感や国内需要低迷で、中国経済は苦境に立たされており、
  政策当局に一段の対策を求める圧力が高まっている。

 3)6月の消費者物価指数(CPI)は前年比+0.1%上昇と、5カ月ぶりにプラスとなったが住宅市場低迷の長期化や米国関税の逆風も重なり上昇は小幅にとどまった。予想は横ばい、5月は▲0.1%下落だった。消費者の節約志向を背景に自動車などは値下がりして、デフレへの懸念が続いている。

●3.習主席、新産業発展とともに重工業維持の必要性を改めて強調(ロイター)

●4.中国で日本車メーカーに明暗、トヨタ+6.8%増・ホンダ▲24.2%減・日産▲17.6%減(読売新聞)

 1)2025年1~6月期の新車販売台数、電気自動車(EV)を主力とする中国メーカーとの競争が激化したが、トヨタは前年同期の実績を上回ったが、ホンダ・日産は大幅減。トヨタは83.7万台、ホンダは31.5万台、日産は27.9万台だった。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)7/7、日経平均▲223円安、39,587円
 2)7/8、日経平均+101円高、39,688円
 3)7/9、日経平均+132円高、39,821円

●2.日本株:石破首相は、トランプ関税でより頑固な日本対応への対処にどうする?

 1)トランプ相互関税(基本関税10%+上乗せ部分との合算)
  ・7/7発表14カ国の状況(4/2時点)
    日本      25%(24%)        タイ        36%
    韓国      25 (25と同率)      インドネシア    32
    マレーシア   25 (日本と同じ引上げ)  カンボジア     36
    カザフスタン  25             バングラディシュ  35
    ラオス     40 (48から低下)     チュニジア      25
    ミャンマー   40 (低下)        セルビア       35
    南アフリカ   30 (同率)        ボスニアヘルツェゴビナ 30

  ・7/9発表の6ヶ国
    フィリピン   20             アルジェリア    30
    ブルネイ    25             イラク       30
    モルドバ    25             リビア       30

  ・7/9追加発表の1ヶ国
    ブラジル    50 (10%)米国にとって貿易黒字国である。前大統領ボルソナーロ氏の訴追不満の表われ。

  ・自動車・部品への関税は25%と、変わらず
   鉄鋼・アルミへの関税は50%に引上げた。

 2)日本に新しい関税率の書簡を送った
  ・インフレ再燃懸念などから、約1ヵ月ぶり1.5%台まで上昇。
    ・日本10年債利回りは上昇。
       7/1  1.400%
       7/9  1.516

  ・トランプ関税で、円安・ドル高が進行。
    ・円相場の推移。
       7/1  142.68円
       7/9  146.89
    ・日本・米国との金利差の縮小観測から円安が進行。

 3)関税発動を再延期
  ・関税発動の推移。
     4/2⇒7/9⇒8/1
  ・トランプ氏の言動をみると、彼の発言の全てが「ディール(取引)」から出た発想だ。したがって、「8/1」は次のステップの日程にしか過ぎない。よって、トランプ氏の脅しに屈しない限り、3度目の延期を言い始めるだろう。各国は、トランプ氏の「ディール」に慣れてきたのである。トランプ氏を怒らせないように、先送りする方法で対処している。

  ・米国で話題のTACO理論「トランプはいつもビビって止める」が今回も囃されることになりそうだ。

 4)日本の関税交渉材料
  (1)日本は米国投資でナンバー・ワンであり、米国雇用にも寄与している。今後も対米国投資を積み上げていく。

  (2)米国造船業の再構築
   ・造船では、日本の造船量は年900万トンで世界3位でシェア13%の造船実績。建造受注高は1,100万トンベースを4年間継続している。
   ・米国の造船量は年3万トンに過ぎず、世界シェアは0.04%。米国では造船設備が老朽化し、熟練労働者も散逸し不足している。軍艦も改修能力が劣り、日本・韓国に依頼する状況となってきている。このため、中国の軍艦は新造船が急増、米国の軍艦は老朽化が目立っている。中国の軍艦数も、米国を上回り、凌駕してしまった。

  (3)鉄鋼
   ・米国USスチールを日本製鉄が買収したが、2028年までに110億ドル(1.6兆円)を投資し、老朽化した生産設備の更新をする。それにより、(1)能力の拡大(2)商品メニューの多様化(3)生産・販売を倍増させる。
   ・トランプ氏の米国産業再興に「造船」があるが、前提は主材料の鉄鋼業の再生が必須である。

  (4)アラスカLNG開発
   ・総事業費6兆円超、1,300kmの天然ガスパイプラインの建設。
   ・日本にとっても、中東依存の低下と、運送日数の短縮化が可能となる。

  (5)米国車の日本国内での販売協力
   ・米国車が日本で売れないのは、米国自動車メーカーが日本に進出したが、販売不振で自ら撤退したためである。
   ・米国車の販売不振の責任を、日本に求めるのは筋が悪い。欧州車は、特に東京では高いシェアを誇っている。
   ・今回、トヨタはトヨタ系列の販売網に乗せて売ると、提案している。

 5)石破政権のトランプ関税に対するスタンス
  ・石破首相「安易な妥協はしない」、同時に「議論は進展がある」と発言し、今回の書簡は「協議の期限を延長するもの」との認識を示した。
  ・米国の対日本の貿易赤字対策として上記4)のように提示しているが、トランプ氏はますます硬化し、日本への関税率を24⇒25%に引上げた。
  ・石破政権は、安倍・茂木氏の交渉を再評価して、取り入れることがあってもよいのではないか?

●3.トランプ25%相互関税で、日本のGDP▲1.9%減少と大和総研が試算 (共同通信)

 1)日本の実質国内総生産(GDP)は、2025年に▲0.8%減、2029年には▲1.9%減少するとの試算を発表した。
 2)財務省の貿易統計によると、2024年の日本の対米国輸出は全体の3割近くを占める自動車などを除くと、「建設・鉱山用機械」が8,953億円で最も多い。相互関税の対象品目では「科学光学機器」5,895億円、「重電機器」4,943億円が続く。(産経新聞)

●4.「日本に関税25%」とトランプ氏発表、8/1から、「対抗措置とれば税率上乗せ」と警告も(TBS)

 1)トランプ政権は現在、日本からの輸入品に10%の関税を4月から課している。7/9まで発動が一時停止されている相互関税の「上乗せ分」を併せて24%だったが、「25%」はそれを上回る水準で、発動されれば日本経済に大きな打撃が予想される。

●5.5月実質賃金「▲2.9%」減、マイナス賃金は5ヵ月連続(共同通信)

 1)名目賃金に当たる現金給与総額は前年同月比+1.0%増の30万141円。賃金上げが物価上昇に追いつかないぐらいという状況が続いている。
 2)物価の変動を示す消費者物価指数が+4.0%増で、差し引きした実質賃金はマイナスとなった。
 3)厚労省は「給与の増加が物価高に追いついていない。今後の動向がどうなるか注視していく」とコメントしている。

●6.内閣府、景気判断はコロナ禍以来の「悪化」、5月動向指数は前月比▲0.1%低下(時事通信)

 1)「悪化」は、4年10ヵ月ぶり。内閣府の定義では、「景気後退の可能性が高い」ことを示す。
  ・3月に発生したトヨタ自動車系列部品メーカーの工場爆発火災事故での供給制約、米国向けなど輸出数量の低下も響いた。
  ・5月の商業販売や求人などに関する5指標がマイナスに動いた。
  ・内閣府は、トランプ米国政権による高関税措置の影響も反映されているとみている。

 2)基調判断はこれまで「景気の下げ止まりを示している」だった。

 3)第一生命経済研究所は、景気の現状は『後退』というほどは落込んでいない、と指摘。ただ、「米国関税の影響が本格的に出て、輸出の減少や企業業績の悪化につながれば、日本経済が耐えられるか心配になる状況だ」と話した。

●7.TYK、インドに5億円投資し新工場、鉄鋼用耐火物を生産、12月稼働・販売拡充(中部経済新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2201 森永製菓     業績回復期待
 ・4384 ラクスル     業績好調
 ・9843 ニトリ      業績順調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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