相場展望12月8日号 金利低下でもハイテク株は反落、流れに変化か 中国の「ゼロコロナ政策」の規制緩和にリスク

2022年12月8日 11:58

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)12/05、NYダウ▲482ドル安、33,947ドル(日経新聞より抜粋
  ・米11月ISM非製造業景況感指数が市場予想を上回り、米連邦準備理事会(FRB)の金融引締めの長期化懸念が広がり、米長期金利が上昇し株式の割高感につながった。
  ・ISM非製造業指数は56.5と10月から改善し、市場予想53.7をも上回った。
  ・11月雇用統計では雇用者数や賃金の伸びが市場予想を上回り、労働市場の引締まりによるインフレ圧力の根強さを示したと受け止められていた。
  ・米ウォール・ストリート・ジャーナルは12/5、12/13~14に開く米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅が縮小される一方、来年の政策金利見通しが9月に比べて引上げられる可能性があると報じた。
  ・FRBが一段と政策金利を引上げ、米景気や企業業績の悪化を招くとの警戒も、投資家心理の重荷になった。長期金利は前週末の3.49%から一時3.6%台に上昇した。
  ・NYダウは一時▲580ドルを超え、長期金利上昇でマイクロソフトなど高PERのハイテク株が売り優勢、セールスフォースは▲7%余り下げ、NYダウを押し下げた。
  ・インフレが消費を抑えるとの見方から、ディズニーなど消費関連も下落。中国・上海工場の生産縮小のテスラは大幅安、アマゾンの下げも目立った。

【前回は】相場展望12月5日号 FRB「タカ派発言」微調整、ウォール街「ハト派」解釈 日本株: 11/24高値、外国人売りで▲3.2%下落、調整モードへ

 2)12/06、NYダウ▲350ドル安、33,596ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備理事会(FRB)の利上げが長期化し、米景気を冷やすとの懸念からハイテクや景気敏感株を中心に売りが優勢となり、一時▲528ドルまで下げた。
  ・前日発表の米11月ISM非製造業景況指数や、前週末発表の米11月雇用統計が米景気の底堅さを示した。
  ・FRBは12月会合では利上げ幅を縮小するが、今回の利上げ局面での政策金利の到達点は市場が想定していたより高くなるとの警戒感が広がった。
  ・12/9には米11月卸売物価指数(PPI)が発表される。米金融政策を占う上で、PPIがインフレ率鈍化傾向を示すのか確認したい市場関係者は多く、積極的買いは見送り。
  ・12/6は米金融大手の経営陣が相次いで消費に言及したのも投資家心理を冷やした。JPモルガン・チェースのCEOは「インフレが全てに浸食している」と指摘した。消費者の購買力低下で、先行きの景気後退をもたらす可能性があると認識を示した。
  ・アップル・マイクロソフトなど主力ハイテク株が軒並み売られた。景気敏感株の下げも目立ち、ボーイング・キャタピラー・ディズニー・ビザなど消費関連株も下落。EUが個人情報保護の一段の規制強化でメタが▲7%安、アマゾンも安い。

 3)12/07、NYダウ+1ドル高、33,597ドル(日経新聞より抜粋
  ・前日まで2日間で▲830ドル余り下落したことから値ごろ感の買いが相場を支えた。反面、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが米景気を冷やすとの見方から上値は重かった。
  ・市場の関心はFRBが12/13~14に開く米連邦公開市場委員会(FOMC)後に公表する委員らの政策金利見通しに集まる。12/9発表の米11月卸売物価指数(PPI)など物価指標がそのヒントになるため、内容を見極めようと積極的な買いが手控えられた。
  ・米長期金利が一時3.40%と9月以来の低水準を付けたものの、株式の相対的な割高感が薄れたとみる買いは強まらなかった。「長期金利低下は景気不安を映している」と受け止められた。
  ・セールスフォース・アップルなどハイテク株が下げ、メルク・J&Jは上昇した。アナリストが需要の低下を指摘した、テスラの下げが目立った。

●2.米国株:

 ・2023年の利上げ長期化観測が高まる。
 ・長期金利低下にもかかわらず、ハイテク株の多いナスダック総合が下落と物色の流れに変化。

 1)米主要株指数     11/30    12/7  差異  下落率
    NYダウ      34,589ドル 33,597  ▲992 ▲2.9%
    ナスダック総合   11,468   10,958  ▲510 ▲4.4
    SP500        4,080    3,933  ▲147 ▲3.6
    半導体株指数(SOX) 2,826    2,673  ▲157 ▲5.4
    長期金利       3.505%   3.417 ▲0.088 ▲2.5

 2)まとめ 
  ・11/30をピークに、下落に転じている。
  ・なかでも、反騰が大きかったハイテク株を中心に利益確定売りが出て、下落。   
  ・「長期金利低下で上昇するハイテク株」が、株価下落に転換し、注目したい。

●3.FRBのピーク金利5%超えに言及=WSJのFEDウォッチャー(フィスコより抜粋

 1)米11月ISM非製造業景況指数が予想外に改善したことに加え、ウォールストリートジャーナル(WSJ)紙のFEDウォッチャーが、賃金の高い伸びにより、FRBは政策金利であるFF金利誘導目標を5%以上へ引上げることを検討することになり、現在市場が織込んでいる以上に政策金利が上昇する可能性に言及した。

 2)FRBの意向を市場に伝達する手段としてWSJが利用される傾向が強いため、注目材料となった。

 3)米国株式・債券市場は反落。10年債利回りは3.61%まで上昇した。ドル高となった。

●4.米11月ISM非製造業景況指数は56.5、予想53.5を上回る急激な伸び(フィスコ)

●5.米10月製造業受注は前月比+1.0%増、予想+0.7%・9月+0.3%を上回る(フィスコ)

 1)米ISM製造業の生産指数64.7、2021/12以来の高水準(フィスコ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)12/05、上海総合+55高、3,211(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家のリスク選好が高まる流れとなった。
  ・中国本土では、新型コロナ新規感染者数が減少傾向にあり、行動規制など防疫措置が主要都市で一段と緩和された。
  ・9月中旬以来の人民元高の動きもプラスとなった。
  ・モルガン・スタンレーは最新リポートで、中国株を2年ぶりに引上げたのも支えた。
  ・業種別では、金融株が相場を牽引し、ゼネコンも急伸、エネルギーもしっかり。
 
 2)12/06、上海総合±0、3,212(亜州リサーチより抜粋
  ・中国リオープン(経済再開)の進展が相場を支える流れとなった。
  ・中国国内では、新型コロナの新規感染者数の減少しつつある。また、当局は早ければ今週7日にも、コロナ規制緩和に向けた10項目の新たな対策を発表する模様などと報じられた。他、来年1月にも、新型コロナの感染症分類を引下げる可能性があるとも伝わっている。
  ・米利上げの長期化観測などを嫌気して売られる場面がみられたものの、下値は堅く、指数は終盤にプラス圏に再び浮上した。
  ・業種別では、消費関連の上げが目立ち、ハイテクも高い。不動産は冴えない。

 3)12/07、上海総合▲12安、3,199(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済の先行き不安が強まる流れとなった。
  ・11月中国貿易統計では、人民元建て輸出の伸びが0.9%に留まり(予想8.2%増)、輸入は1.1%減と予想外のマイナスだった(予想7.1%増)。内需の弱さが印象づけられた。
  ・新型コロナ感染症対策の緩和方針が発表されたが、内容は想定通りだったとの見方もあり、好感する買いは限定された。
  ・業種別は、エネルギー関連の下げが目立ち、ハイテク・金融も安い。医薬品は高い。

●2.中国株式:中国のゼロコロナ政策の大幅緩和に問題点

 1)問題点
  (1)ワクチン接種率の低さ
  (2)集団免疫の少なさ

 2)リスク
  ・日本ではワクチン接種が5回目を実施中、流行も第8波である。欧米も日本も、感染爆発を抑制しながら、集団免疫を獲得した可能性が高い。したがって、新型コロナ感染症数は一定の限度がみられ、死亡者は減っている。
  ・しかし、中国はゼロコロナ政策もあり、現在は第2波であり、集団免疫は得られていないと思われる。有効率が95%以上の高い欧米諸国などが接種しているワクチンと違って、中国製のワクチンは有効率50%をやや超える程度と言われている。
  ・この状況で、規制緩和するにはファイザー製やモデルナ製などのワクチン接種を実施するか、集団免疫を得るための施策が必要である。ゼロコロナ政策をこの段階で大幅緩和すると中国の感染は大爆発するリスクがある。一説によると死亡者は150万人との予測もある。

 3)まとめ
  ・中国の現状のままでの規制緩和には、大流行となるリスクが大きい。
  ・ファイザーやモデルナなどのワクチン接種の実施を進め、マスク等の防疫措置を行いながら、集団免疫を獲得する方向に持って行くことが望ましいと思われる。
  ・拙速な規制緩和は、経済再開にとって大きなマイナス効果が想定される。中国は、GDPは世界2位・世界の工場という地位を得ただけに、世界経済にとっても、ゼロコロナ政策の規制緩和には注目したい。失敗すれば、世界の工場の地位は、他の地域へと雪崩を打って移っていく可能性がある。

●3.中国11月自動車販売が不振、販売業者の73%が目標未達、ゼロコロナで(NNA)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)12/05、日経平均+42円高、27,820円(日経新聞より抜粋
  ・前週末の相場下落を受け、ファストリなど値嵩株などに自律反発狙いの買いが入る。中国本土の新型コロナの新規感染者数が減少傾向で上海・香港株が上昇し、支えた。ただ、足もとの円高・ドル安の進行から輸出企業の業績改善期待が縮小し自動車株などに売りが出て、上値を抑えた。
  ・「12/2発表の米11月雇用統計は米国景気や物価の先行きを見極めるには決め手に欠け、来週の米11月消費者物価指数(CPI)や米連邦公開市場委員会(FOMC)まで動きたくないとの投資家が多い」との声があった。
  ・ファナック・エーザイ・資生堂・オムロンが高く、東エレクなどが売られた。

 2)12/06、日経平均+65円高、27,885円(日経新聞より抜粋
  ・朝方は金融引締めの長期観測による前日の米株式相場の下落を受けた売りが先行。その後は、円相場が137円台まで下落したことや、中国の新型コロナ対応の規制緩和を手掛かりにした買いが次第に優勢となり、上げに転じた。
  ・円高基調の一服は自動車など輸出関連株の下支え要因となった。中国では各地で新型コロナ対策の緩和が相次いで伝わり、経済活動の再開を意識。中国当局は今後も規制緩和を進めるとの見方から、中国や世界経済の下振れ懸念がやや和らぎ、投資家心理の改善に伴う買いで、日経平均は午後に上げ幅を100円以上に広げる場面があった。
  ・日経平均が心理的節目の28,000円に近づくと利益確定売りで上値が重くなった。
  ・ファストリが続伸、1銘柄で日経平均を+60円近く押し上げた。ファナック・日産・ヤマハ発・日産自・ホンダが買われ、ソフトバンクG・エーザイ・テルモが下落。

 3)12/07、値日経平均▲199円安、27,686円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米市場で主要な株価指数が軒並み下落し、東京市場でも値嵩ハイテク株などに売りが出て指数を押し下げ、下げ幅は一時▲230円を超えた。
  ・米連邦準備理事会(FRB)による利上げの長期化に警戒感が広がった12/6の米株式市場では、主要な半導体関連株で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が▲2%超下げた。東京市場でも値嵩の半導体関連を中心に売りが出て、東エレクの1銘柄だけで日経平均を▲60円程度押し下げた。
  ・日経平均が25日移動平均(27,894円、12/6時点)を下回るなか、売りが一巡した後押し目買いが入った。最近の株高局面で利益確定していた個人や、上昇相場に乗り遅れていた個人の買いが入ったとの見方があった。
  ・中国のゼロコロナ政策の緩和期待などを背景に、インバウンド(訪日観光客)の一角が上昇したのも支えになった。
  ・TDK・太陽誘電・ファストリ・味の素が下げ、高島屋・東急・ふくおかFGが上昇。

●2.日本株:

 ・日経平均は12月になり、上がれば下げるを繰返す「もちつき相場」。
 ・米ハイテク株下落の流れを受け、軟弱な展開。
 ・相場は全体的に、「弱含み」基調に。
  1)指数の変化    12/1   12/2   12/3   12/4   12/6   12/7
     日経平均   +257円 ▲448円安 + 42   + 65  ▲199
     新高値銘柄    40     9     7     11    18
     新安値銘柄    12    24     30     37 31
     値上がり銘柄  620    167    616    723   1,049
     値下がり銘柄数1,150   1,637   1,136   1,044    686

●3.日本国内の景気「停滞感」が強まる、企業トップが懸念する物価高による個人消費の低さと、利上げによる米国経済の減速(朝日新聞)


●4.企業業績

 1)丹青社   2023/1月期通期純利益18億円⇒1.5億円、前期比▲89%減(ロイター)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・5713 住友鉱山    銅価格高騰期待。
 ・7011 三菱重工    国策の防衛力強化期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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