相場展望1月12日号 日本株:(1) 日銀利上げ (2) 円高 (3) 高物価リスク (4) 岸田政権の不安定化の懸念材料に注目

2023年1月12日 10:41

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)1/09、NYダウ▲112ドル安、33517ドル(日経新聞より抜粋
  ・前週末発表の昨年12月米雇用統計を受け、利上げ長期化懸念の後退で買いが先行し一時+300ドルを超えた。
  ・雇用統計では平均時給の上昇率が縮小し、賃金インフレを背景に米利上げが長引くとの観測が後退した。米長期金利が低下し、金利上昇局面で売られやすい高PER(株価収益率)のハイテク株が買われ、顧客情報管理のセールスフォースやソフトウェアのマイクロソフトが上昇。半導体のエヌビディアや電気自動車のテスラが上げた。
  ・しかし、前週末に+700ドルと大きく上げた後とあって、次第に目先の利益を確定する目的の売りが優勢となった。秋以降に堅調だったディフェンシブ株が売られ、製薬のメルクや医薬・日用品のJ&J、バイオ製薬のアムジェンが下洛したのも相場の重荷となった。
  ・1/12発表の昨年12月米消費者物価指数(CPI)の内容を見極めたい投資家が多い。
  ・サンフランシスコ連銀デイリー総裁は1/9、米ウォルストリート紙のインタビューで米政策金利について「5%以上となる可能性は本当に高い」と述べた。米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに前向きな姿勢を維持しているとの見方も相場の重荷となった。

【前回は】相場展望1月9月号 市場に再浮上する「利上げ停止・利下げ期待」、FRBは「利上げ継続」と2極化

 2)1/10、NYダウ+186ドル高、33,704ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が同日の講演で金融政策運営に関して踏み込んだ発言をしなかった。市場では、タカ派寄りの発言が警戒されていたため、買い安心感につながった。
  ・パウエル議長はスエーデンで開かれた国際会議で「インフレ時には物価の安定を回復するために、短期的に不人気な政策も求められる」と語った。このところFRB高官による利上げ継続に前向きな発言が目立っていたが、パウエル氏の講演では「特にタカ派的な発言がなかったことで投資家は安堵した」と言う。
  ・ただ、12月米消費者物価指数(CPI)の発表を1/12に控えて様子見ムードも強く、相場は伸び悩む場面もあった。前週末発表の12月米雇用統計では平均時給の伸びが鈍化した。「CPIもインフレ懸念を和らげる内容になるかが焦点」との指摘があった。
  ・米原油先物相場が上昇し、資源高の恩恵を受けやすい建機のキャタピラーや化学のダウが買われ、ソフトウェアのマイクロソフトやクレジットカードのビザとアメックスなど景気敏感株も上げた。
  ・一方、アナリストが投資判断を引下げた航空機のボーイングは安い。前日に引続いてディフェンシブ株の一角に売りが出て、医療保険のユナイテッドヘルスや飲料のコカコーラが安い。
  ・ハイテク株比率の高いナスダック総合は3日続伸し、ネット通販のアマゾンや交流サイトのメタ、動画配信のネットフリックスが買われた。

 3)1/11、NYダウ+268ドル高、33,973ドル(日経新聞より抜粋
  ・1/12朝に予定される12月米消費者物価指数(CPI)の発表を先回りし、一段のインフレ減速が示されると期待した買いが入った。
  ・大型ハイテク株が総じて上げたのも市場心理の改善につながった。
  ・CPIは11月まで2ヶ月連続で前年同月比の伸び率が縮小し、市場予想も下回った。12月もさらに減速すれば米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引締め長期化の観測が後退し、相場を押し上げると見込んだ買いが入った。
  ・前週末に発表された12月米雇用統計では、サービス価格を左右する賃金の伸び率低下が確認されていた。
  ・米債券市場では長期金利が低下し、相対的な割高感が薄れた高PER(株価収益率)のハイテク株が追い風となった。ソフトウェアのマイクロソフト、スマホのアップルなど主力株が買われた。NYダウ構成銘柄以外では、ネット通販のアマゾンが+6%高。ホームセンターのホームデポや化学のダウ、スポーツ用品のナイキといった景気敏感株や消費関連株の一部も上昇。一方、通信のベライゾンや日用品のP%Gなどディフェンシブ株は下げが目立った。

●2.米国株:

 ・インフレ率の「伸び鈍化」にスポットライトを当て、株価上昇
 ・1/12は消費者物価指数の発表、最近「噂で買われ」たので「事実で売り」の材料出尽くしの下洛に注意したい

 1)1株当たり利益(EPS)で見方が分かれる
  ・SP500構成銘柄の2023年EPSは、2通りの見方が出現。
  ・下方:218ドル⇒180ドルと減益。
  ・上方:+6.8%増    
  ・現在はインフレ鈍化に焦点が向いて株価上昇しているが、企業業績の動向に注目したい。

 2)格言の「噂で買い」「事実で売り」に注意
  ・1/12は米消費者物価指数(CPI)に発表がある。ここのところ、消費者物価指数の伸び率鈍化で「買われてきた」が、発表を受け「事実で売り」の材料出尽くしの売りとなるか、注目したい。
  ・NYダウは昨年12月に下落した反動で、1月は上昇しているともみえる。株価的にはボックス圏での値動きとなっており、1月初めから反動高の傾向にあるだけに、1/12のCPI指数発表による株価反応に着目したい。

●3.米FRB、過剰利上げの回避は「困難」、オバマ政権時代の高官が指摘(ロイターより抜粋

 1)オバマ政権時代の大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたローマー氏は1/7、米連邦準備理事会(FRB)が経済にショックを与えてインフレ率を押し下げようとする取り組みはまだ初期段階にあるとし、必要以上に金利を引上げてしまうリスクを回避するのは困難との見方を示した。

 2)その上で、「必要以上の痛みを与えることなくインフレ率を引下げたいのであれば、問題が完全に解決する前に方向転換をする必要があるだろう」とした。

●4.米アトランタ連銀総裁、5%超に利上げし「長期」にわたり維持を(ブルームバーグ)

●5.世界銀行、2023年世界GDP成長予測+1.7%に下方修正、景気後退リスク警告(フィスコ)

 1)(1)インフレ高止まり(2)金利上昇(3)戦争が逆風となり、30年間で3番目の低成長。
   景気後退と債務リスク緩和のため、世界が緊急に行動する必要がある。(ブルームバーグ)

●6.インドネシア大統領、銅も今年半ばをめどに輸出禁止(時事通信)

 1)昨年12月にアルミニウムの原料となるボーキサイトの輸出を今年6月から禁止と発表。

●7.ベトナム、アジア投資で8年連続首位、中国は1つ下げて4位に後退 (共同通信)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)1/09、上海総合+18高、3,176(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家のリスク選好が持続する流れ。
  ・中国リオープン(経済再開)の進展と当局の景気重視スタンスが引続き材料視された。過度な景気懸念が後退している。
  ・共産党機関誌「人民日報」は1/8付で、中国人民銀行(中央銀行)の党書記を務める郭樹清氏のインタビューを掲載。郭氏は「中国の経済成長は迅速に正常化する」との見解を示した。
  ・業種別では、非鉄・産金の上げが目立ち、医薬品・金融もしっかり。不動産は冴えない。

 2)1/10、上海総合▲6安、3,169(亜州リサーチより抜粋
  ・売り圧力が意識される流れとなった。
  ・上海総合指数は前日までに6連騰し、約1ヶ月ぶりの高値水準を回復していた。ただ、下値は限定的。
  ・中国リオープン(経済再開)の進展や、当局の景気重視スタンスが相場を下支えした。
  ・中国人民銀行(中央銀行)の共産党委員会書記を務める郭樹清氏(中国銀行保険監督管理委員会主席)はこのほど、「中国の経済成長は迅速に正常化する」との見解を示した上で、民間企業への支援を強化し、プラットフォーム企業の健全な発展を促す方針を表明した。
  ・業種別では、金融が下げを主導し、素材・発電が冴えず。消費関連は物色された。

 3)1/11、上海総合▲7安、3,161(亜州リサーチより抜粋
  ・重要な経済指標の発表を前に買いが手控えられる流れとなった。中国では、あす1/12に12月物価統計、1/13に貿易統計が公表される。その内容を見極めたいとするスタンスが強まった。もっとも、下値を叩くような売りはみられない。
  ・中国リオープン(経済再開)の進展が改めて材料視され、指数はプラス圏で推移する場面もみられた。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、ITハイテク医薬品・素材・運輸が安い。

●2.中国銀行保険監督管理委員会主席の郭樹清氏、「ハイテク企業の取締り緩和」(フィスコ)

●3.モルガンS、中国株と人民元に強気な見方を示す、ゴールドマンに続く(ブルームバーグ)

●4.中国、春節期間の旅客数は20.95億人の見込み(新華社)

●5.アリババ創業者・ジャック・マー氏、「アリペイ」のアント社の経営権放棄(ロイター)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)1/09、祝日「成人の日」で休場

 2)1/10、日経平均+201円高、26,175円(日経新聞より抜粋
  ・米賃金インフレの鈍化で米金融引締めの長期化懸念が後退し、ハイテク株などに買いが先行し、上げ幅は一時+300円を超えたが、その後は利益確定売りで上値を抑えた。
  ・米市場では前週末1/6発表の12月雇用統計で平均時給の伸びが市場予想を下回り、賃金インフレへの警戒が和らいだ。利上げの長期観測の後退で長期金利が低下し、NYダウは2営業日で+1.8%上昇した。
  ・東京市場でも東エレクやアドテストといった値嵩の半導体株が上昇するなど、買い優勢の展開となった。
  ・もっとも、買いが一巡すると日経平均は伸び悩んだ。利益確定や戻り待ちの売りが出たほか、日米金利差の縮小から円高・ドル安が進んだのを、受けて「国内の企業業績に慎重な見方が広がる」との声が聞かれた。
  ・1/12発表の12月米消費者物価指数(CPI)後に一段と円高が進むとの見方もあり、積極的に上値を追うムードは乏しかった。
  ・スクリン・太陽誘電・ソフトバンクG・日本製鉄・住友鉱が高く、電力・銀行が下落。

 3)1/11、日経平均+270円高、26,446円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株高を受け、投資家心理が強気に傾いた。東証プライムの8割超が上昇し、幅広い銘柄に買いが入り、日経平均は+300円を超える場面があった。
  ・前日の米株式市場でハイテク株を中心に上昇が目立ち、東京市場でも相対的にPER(株価収益率)の高いグロース(成長)株に買いが入った。
  ・中国の経済正常化に期待して、景気敏感株などを買う動きも広がった。
  ・1/12発表の米消費者物価指数(CPI)を前に投資家の様子見ムードも強まり、午後の値幅(高値と安値の差)は32円程度にとどまった。「国内の、機関投資家からは売り注文が多かった」との声があった。
  ・前日に決算発表した安川電が大幅上昇、キーエンス・HOYA・ファナック・日本製鉄が高い。三越伊勢丹・Jフロント・高島屋・エーザイ・第一三共も売りに押された。

●2.日本株:

 ・(1)利上げ (2)円高 (3)物価上昇 (4)岸田政権不安化リスクを抱える
 ・株式相場は利益確定の売りタイミングか

 1)黒田・日銀総裁は任期終了前に、事実上の利上げを12月に実施
  ・任期終了は4/8であるが、それまでに2回目の事実上の利上げが予想される。
  ・海外投資家の日本国債の「売り」スタンスは維持されており、売りが再開されれば日銀は追い込まれることになる。日本の長期金利は上昇が必至となるが、それは、日本株価にとって悪いサインとなる。

 2)日本の長期金利上昇は、「円高」の進展に直結し、輸出企業は業績悪化する
  ・日本長期金利上昇は、米国長期金利との乖離幅は縮小するため、円高は必至である。
  ・昨年後半は「円安」で輸出企業の業績向上と囃され、輸出企業の株価は高騰した。「円高」進展となれば、企業業績にマイナス要因となり、日経平均は下落圧力を受けるだろう。

 3)日本の物価高騰で悲鳴を上げる、庶民の生活と企業コスト上昇
  ・東京区部の物価上昇は前年同月比+4%と、急ピッチの上げ。
  ・物価上昇を織込んだ実質賃金は▲3.8%。
  ・政府は大幅賃金アップを大企業に求めているが、恩恵を受ける対象は3割である。大企業に利益を吸い上げられる中小企業で働く7割の人には、賃金アップは期待できず、物価高騰のみで受難が続く。まして、年金受給者36百万人にとっては、物価対策から放置されることになる。
  ・物価上昇に伴う企業コストのアップで、特に中小企業は価格転嫁できず苦難が続く。

 4)中国による日本人へのビザ発給停止
  ・事実上の中国への入国禁止措置である。
  ・ビザ発給停止は、世界で日本・韓国だけであり、特に日本に対しては停止期間が明示されていない。つまり、弱い日本を狙い撃ちにした揺さぶりと思われる。中国の考えに耳を傾ける親中派と呼ばれる岸田首相・林外相をターゲットに攻勢に出て、中国寄りの判断への転換を求めているとみられる。なお、岸田首相は総理就任まで広島県日中友好協会の会長であり融和で、林外相は親中国派の第一人者と評され、招かれもしないのに訪中を大臣就任時から強く願っていたのは有名である。中国が敬意を払ってきた強硬派の安倍元首相とは立ち位置が大きく違う。中国に弱い韓国ではあるが、伊大統領は中国に対し、日本と比べて毅然として米国寄りを鮮明にし北朝鮮にも対立軸が明確である。
  ・これは、中国リスクの1つに過ぎない。

 4)管・前首相が、岸田首相に苦言を呈し、岸田政権が不安定化し、株式には不透明感漂う
  ・歴代の総理大臣は国民を代表するため、派閥会長を離脱してきたが、岸田首相は派閥会長を継続いたまま首相を務めている。(テレ朝)
  ・異次元少子化のための消費税増を言うのは、行政改革などを徹底的に実行してからであって、順番が違う。これでは国民はついて来ない。(日テレ)

 5)そろそろ利益確定の売りタイミングか
  ・日経平均は、1/4安値25,716円⇒1/10高値26,446円まで+730円高・+2.83%高。
  ・日経VIX(恐怖)指数は、1/10現在で17.95と、「買われ過ぎ」を示唆する20を大きく割り込んでいる。
  ・今日はNYダウ高を背景に日経平均は上昇すると思われるが、いったん利益確定売りのタイミングに入ったと言えそうだ。

●3.東京23区の消費者物価は前年比+4.0%上昇、約40年ぶり(TBS)

 1)都市ガス+36.9%上昇、電気代+26%上昇、生鮮食品除く食料品は+7%アップ。

●4.中国、日本と韓国でビザ手続き停止、コロナ対策に入国規制に報復(ブルームバーグ)

 1)日本の外務省は、日本は中国人に対するビザ発給手続きを停止しておらず「対等な措置」とは言えない、と抗議し撤回を要求した。(毎日新聞)

 2)中国は日本に対して追加措置として、中国での乗り継ぎビザも停止(産経新聞)  

●5.企業動向

 1)ファストリテイリング 国内社員の年収、最大40%引上げへ、人件費増15%(NHK)
             物価上昇も踏まえ、国際的人材の獲得競争に対応するねらい。
 2)明治   アイスクリーム18品目、菓子96品目、再値上げ(FNN)

●6.企業業績

 1)コジマ  第1四半期決算、営業利益は前期比▲72.6%減益(フィスコ)
 2)安川電  3~11月純利益+21%増、人手不足でロボット需要、部品不足緩和(日経新聞)
 3)キューピ 今期純利益▲19%減、値上げも原材料高を補えず(日経新聞)
 4)ローソン 3~11月純利益+7%増、国内事業回復で(日経新聞)
 5)ウエルシア 今期純利益+5%増に上方修正(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)   

 ・4661 OLC     業績回復期待。
 ・6323 ローツェ   受注好調。
 ・6367 ダイキン   業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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