相場展望11月10日号 バイデン民主党は善戦も、「インフレ退治優先の利上げ継続の覚悟強まる」と予想 日本株:「円安一服」「米国株の連れ安」に備えを

2022年11月10日 11:50

印刷

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)11/7、NYダウ+423ドル高、32,827ドル(日経新聞より抜粋
  ・11/8投開票の米中間選挙は大統領の政党と議会の多数党が異なる「ねじれ」となる可能性が高まっている。企業や富裕層への増税など株式相場の逆風になりやすい法案の成立が難しくなるとの見方から、先回りする買いが入った。
  ・インフレの高止まりを受けて、民主党のバイデン大統領の支持率は伸び悩み、下院では共和党が過半数の議席を得るとの見方が多い。政策面ではバランスが取られるとの期待が株価を支えた。
  ・個別では、ドラッグストアのウォルグリーンズやバイオ製薬のアムジェンなどディフェンシブ株の上昇が目立った。顧客管理のセールスフォースやソフトウェアのマイクロソフトといったハイテク株も高い。スマートフォンの供給遅れを発表したアップルは売りが先行したが、その後は上げに転じた。大規模な人員整理が伝わったメタが大幅高。電気自動車のテスラは下洛した。

【前回は】相場展望11月7日号 米インフレ退治には、FRB政策金利の誘導目標到達点は、現在3.75~4.00%->8.00~9.00%の可能性も

 2)11/8、NYダウ+333ドル高、33,160ドル(日経新聞より抜粋
  ・11/8の米中間選挙で政権と議会の「ねじれ」になれば、株買いを促すとの見方から、先回り的な買い優勢となり、8月下旬以来の高値となった。
  ・中間選挙では与党・民主党が下院で少数派に転落すると見られている。民主党が主張してきた増税や規制強化など企業業績の逆風になる政策が成立しにくくなるとの見方が、株買いを促した。
  ・中間選挙後は政治を巡る不透明感が薄れ、株が買われるとの経験則も後押しした。
  ・NYダウは一時+528ドルまで上げたが、11/10に米10月消費者物価指数(CPI)が発表されるため、内容を見極めたい投資家が多く、積極的な買いは限られた。
  ・肥満治療薬の有効性を公表したバイオ製薬のアムジェンが+6%上昇、航空機のボーイング、クレジットカードのアメックス、セールスフォースなどハイテク株が上げた。

 3)11/9、NYダウ▲646ドル安、32,513ドル(NHKより抜粋
  ・米国の中間選挙の大勢が判明せず、政治の先行きが不透明になっているとの見方から売り注文が増え、NYダウは4営業日ぶりの下洛、しかも▲600ドルを超える大幅な値下がりとなった。
  ・米中間選挙で投票日から一夜明けても連邦議会の上院・下院ともに大勢が判明せず、政治の先行きが不透明になっているという見方から、売り注文が増えた。
  ・IT関連銘柄の多いナスダック総合指数も、▲2.4%の大幅な下落をした。
  ・為替市場では、米長期金利が一時上昇したことなどを手掛かりに円安となり、一時146円台まで円安となった。
  ・市場関係者では「投資家の関心は、中間選挙の結果に加えて、11/10発表の米10月消費者物価指数で記録的なインフレが収束する兆しが読み取れるかどうかに集まっている」との声がある。

●2.米国株:バイデン民主党善戦でも「インフレ抑制の利上げ覚悟強まる」

 1)米10月CPI(消費者物価指数)発表11/10に警戒
  ・JPモルガン・チェースの予想(ブルームバーグ)
  ・総合CPIが前年同月比+7.6%以下のケース:SP500は+5%余り上昇。10年物国債利回りは4%割れ。
  ・+7.9~+8.0%に低下のケース:若干の好材料として、SP500は+1~+1.5%上昇。
  ・9月の+8.2%程度以上:波乱を予想。
  ・8.4%以上のケース:SP500は最大▲6%下洛の公算が大きい。

 2)暗号資産の急落に警戒
  ・暗号資産は11/9、急落した。暗号資産を代表するビットコインは▲13.4%の下落となった。
  ・米国株と連動しやすい暗号資産の動向に、注意が必要と思われる。

 3)米FRBは、「インフレ抑制にための利上げで、景気減速リスクは取る覚悟」強まる
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長発言にあるように、力強い利上げ継続の手綱を緩めることはない、と思われる。
  ・今回の米中間選挙で明らかになったのは「米国民がインフレ抑制を強く望んでいる」ことであった。そにため、インフレ高騰を招いたバイデン政権・民主党に対する風当たりの強さが、中間選挙での苦戦を強いられる原因となった。このことは、バイデン大統領やパウエルFRB議長も身にしみたであろう。そういう意味でも、2年後の大統領選挙を目指してバイデン大統領もFRBも「インフレ抑制のため、景気減速リスクよりも、断固とした利上げ継続」の覚悟を決めさせた米中間選挙であった、と思われる。
  ・なお、バイデン民主党政権がこの度の中間選挙で善戦した要因は、米国選挙民の「トランプ氏への忌避感」であり、民主党政権への信認であるとは言えないと、見ている。
  ・あくまで、中間選挙前の状況からは民主党が善戦したとはいえ、下院では共和党多数となり「政権と議会のねじれ」には変わりはなさそうである。バイデン大統領の公約「富裕層に対する増税」と「規制強化」は、大統領に就任して以来、2年間近く全くと言って良いぐらい進展していない。むしろ、公約に比べて逆に「規制緩和」が進んでいるのが現状である。議会との「ねじれ」の中公約実現は遠くなり、公約違反で民主党支持者の離反さえ予想される次回大統領選挙となりそうだ。バイデンでもなくトランプでもない、新しい大統領が求められる展開を予想する。

●3.FRBはインフレ抑制の取り組みをやり直す=リッチモンド連銀総裁(ブルームバーグより抜粋

 1)米リッチモンド連銀バーキン総裁は11/7、パウエルFRB議長率いる金融当局が、高インフレ抑制の取り組みを「やり直す」と述べた。

 2)バーキン総裁は、「インフレは鈍化するはずだが、早急な鈍化や予測可能であることを期待すべきでない」と指摘。「政策金利やバランスシートに関する当局の行動がインフレ率を押し下げるには時間がかかる。だが、当局はやり通す。1970年代から重要な教訓の1つは、時期尚早に勝利宣言をしないということだ」と話した。

●4.ゴールドマンS、SP500構成企業の利益見通しを下方修正 (ブルームバーグ)

●5.企業動向

 1)ツイッター、従業員の25%解雇へ、リストラ第1弾(ロイター)
 2)メタ、1.1万人超を解雇、従業員の13%、業績不振で過去最大規模(共同通信)
 3)フェデックス、一部航空貨物便の運航停止、需要低迷でコスト削減(ブルームバーグ)

●6.ユーロ圏CPI、10月は前年比+10.7%、ECBは利上げ継続へ(ロイター)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)11/7、上海総合+7高、3,077(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策の期待感が相場を支える流れとなった。
  ・直近で公表された経済指標に、景気悪化を示唆する内容が多かった点を踏まえ、「中国当局は景気テコ入れの動きを強める」との見方が広がった。
  ・10月貿易統計では、ドル建て輸出が予想外のマイナス成長に落ち込んだことが判明。
  ・新型コロナ感染拡大や行動抑制の強化を警戒した売りが先行したものの、指数はほどなくプラスに転じた。コロナ感染を巡っては、中国当局は「ゼロコロナ」政策を堅持すると繰り返し述べているが、市場では規制緩和の期待も根強い。
  ・業種別では、エネルギー関連の上げが目立ち、非鉄や鉄鋼など素材も高い。ハイテク株は冴えない。

 2)11/8、上海総合▲13安、3,064(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済活動の停滞が改めて不安視される流れとなった。
  ・国内で新型コロナの新規感染者数が約半年ぶりの高水準で推移する中、複数エリアで行動規制が強化されている状況にある。
  ・広東省の広州市海珠区では、都市封鎖が当初の11/7までの3日間から、11/11まで延長された。新型コロナ感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を巡って、当局が堅持する方針を繰返しているだけに、防疫措置の長期化も危惧された。
  ・ただ、下値は限定的で、中国経済対策の期待感などで下げ渋る場面も見られた。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、半導体も冴えず。エネルギー・素材も安い。

 3)11/9、上海総合▲16安、3,048(亜州リサーチより抜粋
  ・新型コロナの新規感染者増が懸念され、経済活動が停滞されると不安視された。
  ・国家衛生健康委員会の11/9発表によると、11/8に新たに確認された感染者は有症・ 無症状で計8,335人と、前日の7,691人から644人増加。4/30以来の高水準。
  ・中国10月消費者物価指数(CPI)が前年同月比+2.1%増となり、上昇率は市場予想+2.4%・前月実績+2.8%からは鈍化した。一方、生産者物価指数(PPI)は▲1.3%。市場予想▲1.5%ほどではなかったが、前月実績+0.9%からマイナスに転じている。
  ・業種別では、エネルギー関連の下げが目立ち、酒造や食品・自動車・小売など消費関連株が安い。反面、不動産は中国当局が資金調達をサポートすると伝わり急伸。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)11/7、日経平均+327円高、27,527円(日経新聞より抜粋
  ・前週末の米株式相場の上昇を受けて、日本株にも買戻しが優勢だった。東エレク・ファストリなど値嵩株が牽引した。
  ・前週末に発表された10月の米雇用統計が米金融引締めへの警戒感を一層強める内容ではなかったとの受け止めが短期筋の買いを誘い、日経平均は+400円超まで上昇。ただ、今日の上昇については「前週末に下落した反動による買戻しの域を出ていない」という見方もあり、上値では戻り待ちの売りも出やすかった。
  ・決算内容が振るわなかった銘柄の下げや、百貨店株の下落も目立った。ダイキン・アドテスト・テルモ・オリンパスが上昇、キッコーマン・協和キリン・リコー・帝人・三越伊勢丹が下落した。

 2)11/8、日経平均+344円高、27,872円(日経新聞より抜粋
  ・米中間選挙の結果に対する期待から前日の米株式相場が上昇し、日本株にも株価指数先物への買いが断続的に入った。ソフトバンクGが年初来高値を更新するなど、指数寄与度の高い値嵩株を中心に幅広い銘柄が買われた。
  ・日経平均の上げ幅は+400円を超える場面があった。
  ・11/8投開票の米中間選挙では、大統領の政党と議会の多数党が異なる「ねじれ」になるとの見方が広がっている。バイデン政権が株式市場に逆風となる法案を出し難くなるとの観測が、海外投機筋などの先高観を強めているという。
  ・業種別では、海運・保険・不動産・精密機器が上昇した。野村證券のストラテジストは「米中間選挙の結果をにらんだ先回りの買いのほか、4~9月期決算で上方修正する企業が多いことも日本株の先高観につながっている」と見ていた。節目28,000円水準では、短期的過熱を警戒した利益確定売りも目立った。
  ・東エレク・レーザーテクなど半導体株が買われ、ソニー・商船三井・第一生命・三井不・オリンパスが高い。NTTデータ・オリックス・三菱商事が売られた。

 3)11/9、日経平均▲155円安、27,716円(日経新聞より抜粋
  ・ピークを迎えた主要企業の決算発表を材料視した売買が活発となる中、市場の失望を誘った銘柄への売りが重荷となった。前月に約2カ月ぶりの高値を付けており、このところ上昇が目立った銘柄に利益確定の売りが出やすかった。
  ・朝方は前日の米株高を好感して日本株にも買いが入り、上昇する場面もあった。好決算を発表した銘柄に物色が向かったほか、半導体関連や成長株の一角が上昇。
  ・もっとも日経平均は前日までの2営業日で+2%超上昇し、節目の28,000円に迫っていた。相場が上昇する局面では高値圏にある銘柄に利益確定の売りが出て上値を抑えた。午後に入ると、上値の重さがより意識され、値嵩株を中心に売りがかさんで下げ幅を広げた。
  ・米中間選挙は、市場は既に政権と議会の「ねじれ」を織込んでおり、相場への影響は限定的だった。
  ・任天堂は▲7%安、GSユアサ・ダイキンの下げが大きい。クラレ・古河電工が急伸。

●2.日本株:「円安一服」と「米国株に連れ安」リスクに注意

 1)相場の牽引役に変化 :円安⇒円高に転換
  ・11/9のNY為替相場は146.40円/ドル

 2)米中間選挙では、予想に比べて「与党・民主党が善戦」「野党・共和党が苦戦」
  ・米株価は、政権党と野党との「ねじれ」で、民主党の政権公約「増税」「規制強化」が実行できないとの思惑で直近の株価は上昇してきた。ところが、「バイデン民主党の善戦・トランプ共和党の苦戦」で、株価上昇の前提条件が崩れた。
  ・そのため、このところの「米国株上昇分はそげ落ちる」展開となる可能性が当面はありそうだ。
  ・米国株式市場の経験則として「中間選挙後は不透明感が払拭され株高」があるが、最近はその「経験則を先回りする株高」となっていた。その点からも、「株高の巻き戻し」で下洛局面も想定しておきたい。

 3)日本株も、「円安一服」と「米国株に連れ安する」リスクがありそうだ。
  ・円安で輸出企業中心に決算発表は好調な業績となっていたが、ここにきて「円安一服し、円高に振れている」点にも注目したい。
   10/21 東京市場150.38円/ドル⇒11/9 東京市場145.83円/ドル
  (参考)11/9 NY市場146.439円/ドル
   円安が日本株上昇の牽引役を担ってきただけに、その影響に注意を払いたい。
  ・日本株は、米国株の上昇・下洛に相関しやすいため、米国株動向に備えが必要。

●3.企業動向

 1)村田製作所 中国で新生産棟を建設開始、投資額445億円、2024/4月竣工(ロイター)
        積層セラミックコンデンサの中長期的需要増加に対応する体制構築目指す
 2)ダイキン  生産の国内回帰を検討、円安・脱中国依存で(産経新聞)

●4.企業業績

 1)三井物産  通期純利益8,000⇒9,800億円、前期比+7.1%増に上方修正(ロイター)
        LNG取引で収益増加
 2)任天堂   9月中間決算、純利益2,304億円、前年同期比+34.1%増(共同通信)
 3)SUMCO  12月通期純利益677億円見通し、前期比+65%増、予想上回る(日経新聞)
 4)出光興産  3月通期営業利益予想3,750⇒4,250億円に上方修正(フィスコ)
 5)スズキ   3月通期営業利益予想1,950⇒2,900億円、前期比+51.5%増(ロイター)
 6)日産自   3月通期営業利益見通し3600億円、前年比+45.6%増(ロイター)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします)

 ・6768 タムラ製作所    業績好調。
 ・8308 りそな       業績好調。
 ・9202 ANA        業績回復期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事