相場展望8月26日号 米国株: FRB議長の利下げ示唆あるも、利下げは時期尚早 日本株: (1) FRB利下げと、(2) エヌビディア決算には「用心深く」対処を

2025年8月26日 10:56

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/21、NYダウ▲152ドル安、44,785ドル
 2)8/22、NYダウ+846ドル高、45,631ドル
 3)8/25、NYダウ▲349ドル安、45,282ドル

【前回は】相場展望8月21日号 米国株: NYダウ「小動き」続くなか、半導体・ハイテクが売られる傾向 日本株: テクニカル分析と信用取引額の縮小は、黄色信号が点滅

●2.米国株:FRB議長の利下げ示唆あるも、利下げは時期尚早

 1)FRB議長の利下げ示唆で、9月利下げ観測強まる⇒NYダウは最高値更新&ドル安
  ・8/22のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長は講演で、利下げに一歩踏み込んだ話をした。この講演を好感した、米国株式市場は8/22に急騰した。
  ・同時に、為替市場は金利が低下するとの思惑から「ドル安・円高」が進行した。

 2)しかし、地区連銀総裁の多くが「利下げに慎重」発言
  ・クリーブランド連銀総裁 : 利下げに慎重姿勢を維持すべき。
  ・カンザスシティー連銀総裁 : 9月利下げ判断は、さらなるデータが必要。
  ・リッチモンド連銀総裁  : 物価は上昇圧力の方向に向かっているが、
                 労働市場は妥当な状態にある。

 3)利下げ支持者が増加
  ・トランプ大統領に加えベッセント財務長官も、金利引下げを要求した。
  ・FRB理事からも利下げ支持者が2名から増えている。

 4)結論:利下げは時期尚早
  ・利下げ支持者の根拠として、労働市場の悪化を挙げている。しかし、物価上昇圧力を過小評価している。
  ・FRBが2025年9月以降に利下げを実施しても、関税の価格転嫁が進み2026年に再び利上げを余儀なくされる可能性がある。現在、インフレは+3.1%と、FRBの目標である+2%にはまだ距離がある。インフレ退治は道半ばの状況にある。
  ・この段階での利下げは米国景気をテコ入れすることになり、さらなるインフレを加速させかねない。
  ・トランプ大統領の利下げ要求の視点は、米国国債の利払い増加を抑えたいということにある。彼には、物価上昇を抑えるという観点はない。利払い増加で、米国財政赤字が増えることはトランプ氏の失政と批判されるのを避けたいという狙いがある。トランプ氏にとって、インフレは自分の責任ではないと理解しているようだ。
  ・トランプ関税による消費者への価格転嫁は始まったばかりである。まして、FRBのインフレ目標率+2%には遠いのが現状である。2025年後半の利下げ実行が、さらなる物価上昇を招き、結果として必要以上の利上げにつながる恐れがある。現段階での利下げは時期尚早といえる。

 5)注目のイベント:特にエヌビディア決算に注目
  (1)8月注目の指標
   ・8/26  消費者信頼感指数
         4~6月期GDP
        新規失業保険申請件数
   ・8/27  5~7月期エヌビディア決算発表
        中国への輸出、米国ハイテク株の主導銘柄だっただけに要注意
   ・8/29  7月個人消費支出(PCE)価格指数
  (2)9月米国連邦公開市場委員会(FOMC)での金融政策で重要な指標
   ・雇用の減速や、インフレ加速がみられるかに注目。
    ・9/05 米国8月雇用統計
    ・9/11 米国消費者物価指数
  (3)9月FOMCで「利下げ決定」されれば、2024年12月以来、6会合ぶりのことになる。

●3.トランプ氏、輸入家具に対する「大規模な」関税調査実施へ(ロイター)

 1)関税調査は今後50日以内の完了し、関税率が決定されるという。トランプ氏はSNSで、「これにより、ノーズカロライナ州、サウスカロライナ州、ミシガン州、そして全米の各州に家具産業が戻ってくるだろう」と述べた。

●4.フィッチ、米国格付けを据え置き、政策不確実性による成長鈍化を予想(ロイター)

●5.インテル、米国政府による10%株式取得に合意=トランプ氏SNS投稿(ロイター)

 1)異例の政府介入に米国メディア「自由主義の資本市場の原則に反する」(TBS)

●6.トランプ関税、10年間で財政赤字4兆ドル削減の可能性=議会予算局(ロイター)

●7.パウエルFRB議長、「雇用に下振れリスク」、利下げの可能性示唆(NHK)

●8.FRB議長、9月利下げ示唆もコミットせず、労働市場巡るリスク指摘(ロイター)

 1)パウエルFRB議長はジャクソンホールでの講演で、
  ・雇用の「下振れリスクの高まり」を指摘し、
  ・今後の利下げについては「慎重に進める」
  という見解を示した。

●9.利下げを急がず、労働市場なお堅調=カンザスシティー連銀総裁(ロイター)

●10.小売の巨人ウォルマートに異変、利益3年ぶりの予想割れ、株価下落(ブルームバーグ)

 1)保険金請求、訴訟費用、事業再編コストが増加し、利益を圧迫した。

●11.米国新規失業保険申請23.5万件で+1.1万件増、約3カ月ぶりの大幅増(ロイター)

 1)雇用減速を映す。(ブルームバーグ)
 2)継続受給者数も高水準。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/21、上海総合+4高、3,771
 2)8/22、上海総合+54高、3,825
 3)8/25、上海総合+57高、3,883

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/21、日経平均▲278円安、42,610円
 2)8/22、日経平均+23円高、42,633円
 3)8/25、日経平均+174円高、42,807円

●2.日本株:(1)FRB利下げ、(2)エヌビディア決算に「用心深く」対処を

 1)パウエルFRB議長の利下げに前向き発言で、急速に進む「ドル安・円高」
  ・円相場の推移
    8/21(米国)  148.57円
    8/22(日本)  148.61
    8/22(米国)  146.65    
  ・ただし、8/25(米国時間)はインフレ懸念が強まり147.74円へと円安に転換。

 2)日銀の利上げ観測は、銀行・保険株には追い風
  ・9/18~19開催の日本銀行金融政策決定会合に注目。
  ・日本の物価は上昇続き、家計負担はより重く苦しくなり続けている。
    ・日本の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)は日銀が目標とする+2%を大きく上回っている。
    ・日本の7月CPIは前年同月比+3.1%上昇と、8カ月連続で+3%台となっている。日銀が物価安定の目標+2%を、40カ月連続で上回っている。
  ・米国財務長官は8/13、「日銀は利上げに、後手に回っている」と発言した。
    ・植田・日銀は重い腰を上げ、利上げに踏み切る方向だ。
  ・日銀利上げにより、恩恵を受けるのは下記の通り。
    ・利ザヤ拡大で業績向上が期待される銀行株。
    ・運用収益の増大が期待される保険株。

 3)日本長期金利は上昇している
  ・日本10年国債利回りの推移
    ・8/05  1.486%
     8/12  1.505
     8/13  ベッセント財務長官の発言
     8/19  1.597
     8/20  1.624
     8/25  1.625
  ・10年国債利回りは、着実に上昇している。
  ・日本・米国の金利差の縮小は、「円高・ドル安」の進行を促することになる。

 4)日経平均は、(1)FRB利下げ (2)エヌビディア決算 (3)海外短期投機筋の動きに注意
  (1)FRB利下げが、期待外れになった場合の備え
   ・利下げ期待値は、▲0.50%下げだろう。
    それが実際には、▲0.25%に決定されれば、株式相場は「期待外れ」と受け止めて「売り」になる可能性がある。
   ・まして、「据え置き」となれば、株式相場は荒れるだろう。

  (2)エヌビディアの5~7月期決算発表
   ・エヌビディアの決算発表は、常に驚きの成長をみせ、米国株全体を牽引してきた。
   ・ところが、中国政府によるエヌビディア半導体へのバックドア疑念が提起され中国販売に暗雲が垂れ込めた。さらに、中国向け半導体「H20」の生産停止との報道もある。
   ・決算内容よりも、見通しに注目が集まることになる。

  (3)日経平均は上昇を牽引してきた海外短期筋の買いが8/25午前で終わった可能性
   ・8/25、日経平均は朝方に一時+500円超の上昇となった。この要因は、前日の米国株高を受けて、海外短期筋による株価指数先物の買い上がりにあったと思われる。
   ・ところが、利益確定売りが出るとともに、日経平均の上昇は伸び悩み、縮小に転じた。
   ・このところの日経平均の急上昇は、海外短期筋による先物買いが牽引してきたことにある。とりわけ、相場の流れに従って大量の資金を投入することで相場を形成する商品投資顧問(CTA)の暗躍があっただけに、警戒が必要。CTAが相場は天井と判断して8/25の日経平均の午前+500円超⇒午後+174円への上げ幅縮小だとすると、赤信号点滅の可能性がある。

 5)日銀にとってご主人は政府・財務省・自民党で、国民はどうでもよいのか
  ・日銀の利上げ観測は、(1)物価上昇リスクと(2)米国財務長官発言などを背景に、強まっている、という。しかし、物価上昇は日銀目標の+2%を超えて、40カ月続いている。+3%台は8カ月連続だ。今頃になって、利上げ理由に「物価上昇」は挙げられない。やはり、(2)の米国政府の要人の発言という外圧に屈したとみるべきだろう。

  ・植田・日銀総裁は就任して1年5カ月になるが、発言の中に「国民・家計を守る日銀」という言葉を聞いたことがない。

  ・日銀が利上げをすると、巨額の国債の利子負担額が膨大なものとなり、財政負担が膨張する。黒田・日銀総裁時代から植田・総裁に至るまで「利上げに反抗」してきた理由は日銀の財務省子会社論にあるのではないか。

  ・円相場は115円⇒160円近辺まで下落したことがある。さすがに160円近辺まで円安・ドル高となると、米国から日本は「為替操縦国」の烙印を押され、ペナルティを課せられそうになった。その時点で、やっと巨額の「円買いの為替介入」を実施した。

  ・日本の食料自給率は低く、輸入に頼っている。牛・豚・鶏の飼料も輸入に頼っている。円安進行で直撃するのは、食料・原油・ガスの輸入コストである。黒田・植田・日銀総裁は、国民の家計負担の大きさには関心を向けなかった。黒田・元総裁は、政府から2024年春の叙勲で瑞宝大綬章を授けられた。授章のコメントでは「財務省・日銀への感謝」を述べたが、「国民」への言葉はなかった。

  ・次の日銀の利上げ時期は秋になる可能性がある。
   ・日銀利上げの外堀は、外圧で埋められた。
   ・利上げに伴い、国債の利子負担が急増することになる。
    次の視点は、急増する利子負担を求めて、国民からどのように徴収する(課税強化)かということになろだろう。
    インフレとともに自然増収する「消費税」の増税は格好の標的になるだろう。

●3.国交省、来年度予算案概算要求の重要項目、造船業強化を掲げる方針(NHK)

 1)船の建造量を引き上げるための国内の造船所の拡張や、老朽化した設備を自動化や省力化の機能を持つ設備に更新するための支援を想定している。

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4384 ラクスル        業績好調
 ・6572 オープングループ    業績好調
 ・7180 九州ファイナンス    業績順調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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