相場展望12月18日号 米国株: NYダウは過去最高値圏にあり、下落リスクをお忘れなく 日本株: 「朝高、一巡後は伸び悩む」展開に、相場の軟調懸念増す

2023年12月18日 11:47

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)12/14、NYダウ+158ドル高、37,248(日経新聞より抜粋
  ・12/13の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて2024年の米利下げ観測が強まり、連日で過去最高値を更新した。朝方発表の11月の米小売売上高が市場予想に反して増加したのも、米景気に対する楽観につながった。
  ・米連邦準備理事会(FRB)は12/13まで開いたFOMCで政策金利を3会合連続で据え置いた。併せて発表した参加者の政策金利見通しは2024年に現在の水準から+0.25%の利下げ3回を見込んでいることを示し、パウエルFRB議長は記者会見で利下げ開始時期についての議論を始めたことを明らかにした。金融引締めの長期化が米景気を冷やすとの懸念が後退し、買い安心感につながった。
  ・11月の小売売上高は前月比+0.3%増と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想の▲0.1%減を上回った。年末商戦が好調な滑り出しとなり、米消費の底堅さを示したと受け止められた。
  ・2024年の米利下げ観測を背景に米長期金利は一時前日比▲0.14%低い(債券価格は高い)3.88%と7月以来の水準に下がった。米国債利回りの低下が続き、株式の相対的な割高感が薄れているのも相場の支えになった。
  ・NYダウは一時+200ドル近く上昇したが、午後には下げに転じる場面もあった。上昇基調が続き、前日もFOMCを受けて大幅高となっていた。高値警戒感や相場の過熱感が意識され、利益確定や持ち高調整の売りが出た。
  ・景気敏感株への買いが目立ち、NYダウでは建機のキャタピラーや金融のゴールドマンサックスが大幅上昇した。化学のダウや石油のシェブロンも上げ、電気自動車のテスラが買われた。一方、医療保険のユナイテッドヘルスや日用品のP&Gといったデフェンシブ株が売られた。ソフォトウェアのマイクロソフトなどハイテク株も安かった。動画配信のネットフリックスなどを筆頭にハイテク大手には売られる銘柄が多かった。

【前回は】相場展望12月14日号 米国株: 金利据え置きが、来年の利下げ観測を誘発し株高へ 日本株: 米国株は追い風も、円高急伸と国内政治の混迷は「逆風」

 2)12/15、NYダウ+56ドル高、37,305ドル(日経新聞より抜粋
  ・連日で最高値を更新した。米景気の先行きに対する楽観的な見方を背景に買いが続き、7日続伸した。もっとも、高値警戒感から利益確定売りも出やすく、NYダウは下げる場面も
あった。
  ・米連邦準備理事会(FRB)が来年に利下げに転じるとの見方が引続き相場を押し上げた。足元にかけては消費や雇用の堅調さを示す経済指標が目立ち、米景気の先行き不安は薄れている。相場の先高観は強く、上昇に乗り遅れまいとする買いが入った。
  ・もっとも、米株相場の上値は重かった。ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は12/15に米CNBCの番組で、FRBの金融政策について「我々は物価上昇率を2%に戻すために引締めが十分かどうかという問題に集中している」と述べた。2024年3月に利下げする可能性について問われると「考えることすら時期尚早だ」との認識を示し、市場の早期利下げ観測を牽制した。
  ・市場では、早ければ3月に最初の利下げがあるとの見方が広がっていたが、ウィリアムズ氏の発言を受けて、前のめり気味の期待が修正された。アトランタ連銀のボスティック総裁もロイター通信のインタビューで、物価上昇率の伸びが鈍れば「2024年7~9月のどこか」で利下げを開始する可能性があると述べた。これも早期の利下げ観測の後退につながった。
  ・個別銘柄では、航空機のボーイングや半導体のインテル、顧客情報管理のセールスフォースが上昇した。半導体のエヌビディアや電気自動車のテスラも上昇した。半面、通信のベライゾンや医薬品・医療機器のJ&J、外食のマクドナルドは下げた。

●2.米国株:NYダウは過去最高値で推移、下落リスクをお忘れなく

 1)NYダウは「利下げ観測」が支えとなって、過去最高値圏で推移するも、リスクをお忘れなく
  ・米11月小売売上高が前月比+0.3%増で、予想に反し増加、景気後退懸念が和らぐ。
  ・年末商戦が好調なスタートを切ったのが売上を押し上げたもよう。
  ・好調な労働市場を背景に個人消費は底堅く推移している。
  ・株式市場は、FRBの利下げ観測が根強く、金利が低下し、株式相場を支える。

 2)FRBの金利低下は2024前半はないと予想、高金利は続くと見る
  ・このため、インフレ率の低下は鈍化し、株式市場が織り込んでいる来年度の利下げの可能性が低くなると予想する。
  ・米経済活動の強さがあるうちは、高水準な金利は続くと見る。

 3)NYダウは「下落リスク」増と見る
  ・したがって、現在、「利上げ停止」⇒「来年度の金利引下げ」を織り込んで史上最高値にあるNYダウは「期待外れ」の局面を迎えると思われる。
  ・米長期金利も4%割れと3%台まで低下した。急ピッチな金利低下を引き起こしているが、覚醒すれば反動高となり得る。金利の再上昇局面で、株式相場が荒れる可能性がある。
  ・現在の株価の高水準局面は、利益確定売りの場面と思われる。
  ・つまり、経済活動の底堅さで、インフレ率の低下は遅れ、FRBの利下げも遅くなると見る。

●3.FRB高官が、早期利下げ観測を牽制(日経新聞より抜粋

 1)NY連銀のウィリアムズ総裁は、「我々は物価上昇率を2%に戻すために、金融引締めが十分かどうかという問題に集中している。2024年3月利下げ期待問題があるが、考えることすら時期尚早だ」と述べ、株式市場の早期利下げ観測を牽制した。

 2)アトランタ連銀のボスティック総裁も、「物価上昇率の伸びが鈍れば、2024年7~9月のどこかで利下げする可能性がある」と述べ、これも早期利下げ観測の後退につながった。

 3)FRB高官の発言を受け、NY債券市場では長期債利回りが3.91%と、下げ渋った。

●4.米11月輸入物価は前月比▲0.4%下落、2カ月連続下落、来年のインフレ低下を示唆(ロイター)

 1)11月の燃料と食品を除くコア輸入物価指数は+0.1%上昇、10月は▲0.1%下落。

●5.米11月小売売上高は前月比+0.3%増、予想▲0.1%・10月▲0.1%を上回る(フィスコ)

●6.米・先週分新規失業保険申請件数は20.2万件、予想22.0万件から改善(フィスコ)

●7.米FRB、バランスシート縮小の終了時期は未定=パウエル議長(ロイターより抜粋

 1)パウエル議長は記者会見で、「現時点で量的引締め(QT)のペース変更は協議していない」と語った。

 2)FRBは昨年以降、利上げを補完する取り組みとしてバランスシートを縮してきた。保有する国債と住宅ローン担保証券を毎月1,000億ドル弱削減しており、保有残高は昨年夏の9兆ドル弱から、現在は7兆7,000億ドルに減っている。

 3)パウエル議長発言は、FRBから金利を引下げてもバランスシート縮小は引続き進める可能性があることを意味する。

4)市場関係者の多くはQTの行方を探るバロメーターとして、FRBのリバースレポファシリティに注目している。主にMMFからキャッシュが流入するこのファシリティは、過剰流動性を示すと見られており、残高は2022年末の2兆6,000億ドルから12/13時点で8,230億ドルまで減少している。

●8.米10 年債利回り、来年前半までに3%台に低下へ=ガンドラック氏(ブルームバーグより抜粋

 1)ガンドラック氏はダブルライン・キャピタルの創業者。

 2)長短金利の逆転が解消されていくと思う。

 3)債券価格は上昇し、トレンドラインは崩れた、と指摘した。

●9.途上国の2022年債務返済額が過去最高に、世銀「危機リスク」鐘警(ロイターより抜粋

 1)途上国の2022年の利払いを含む対外債務返済額が前年比+5%増の4,435億ドルと過去最高に達したと明らかにした。

 2)途上国の債務返済額は2023~2024年には+10%増加する可能性がある。

 3)最貧国75カ国の返済負担が最も大きく、対外債務返済額は2022年に過去最高の889億ドルを記録。2023年から2024年にかけて+40%増える見通しという。利払いだけでも2012年以降4倍に増えて236億ドルに達した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)12/14、上海総合▲9安、2,958(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済の先行き不透明感が重しとなる流れとなり、年初来安値を付けた10/23以来、約2ヵ月ぶりの水準に落ち込んだ。
  ・12/12閉幕した翌年の経済政策方針を決める中国の重要会議「中央経済工作会議」では、期待されていた強力な景気刺激策導入の方針は打ち出されず、アナリストの一部から落胆の声が聞かれた。
  ・足元では、景気鈍化を示唆する指標公表が相次ぐ状況だ。
  ・中国人民銀行(中央銀行)が12/13発表した、11月の金融統計では、人民元建て新規融資額が予想に届かず、マネーサプライ(通貨供給量)M2の伸びは前月水準を下回った。
  ・また、明日12/15に小売売上高や鉱工業生産など11月の各種統計が公表される。
  ・ただ、指数はプラス圏で推移する場面も見られ、下値は限定的だった。
  ・12/14の外国為替市場で、対米ドルの人民元が大幅上昇する中、国内からの資金流出懸念が和らいだ。
  ・業種別では、酒造の下げが目立ち、ハイテクも冴えず、医薬・不動産・金融・エネルギー・自動車・軍事関連などが売られた。半面、メディア関連しっかり、素材・公益・海運が買われた。

 2)12/15、上海総合▲16安、2,942(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済の先行き不透明感がくすぶる流れとなり、3日続落し、年初来安値を付けた10/23以来、約2ヵ月ぶりの水準に落ち込んだ。
  ・中国指導部は2024年の財政赤字目標を対国内総生産(GDP)で3%とすることを決定した模様、と伝わったが、比率は改定後の2023年の目標値3.8%を下回っているため、2024年の大規模な財政出動は望めないと悲観された。
  ・取引時間中に公表された11月中の中国経済統計は、不動産関連など一部を除き概ね良好だったものの、アナリストの一部からは、「新型コロナウイリス禍の混乱を受けたベース効果の影響も大きく、中国景気の持ち直しを確認するには至らない」と指摘されている。
  ・中国の不動産支援策や金融当局の大規模な資金供給などを手掛かりに、指数は小高く推移していたが、後場途中からマイナスに転じた。
  ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、医薬も冴えず、公益・軍事関連・エネルギー・素材・金融・メディア・娯楽などが売られた。半面、不動産はしっかり。不動産支援策の効果が期待されている。北京・上海の中国2大都市は12/14、不動産市場のテコ入れ策を揃って発表した。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)12/14、日経平均▲240円安、32,686円(日経新聞より抜粋
  ・一時1ドル=140円台後半まで急速に進んだ円高・ドル安進行を受けた輸出関連株や株価指数先物への売りが優勢で、特に輸出採算の悪化を懸念した自動車株の下げが目立った。午後に下げ幅は一時▲400円を超えた。
  ・12/13まで開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を受け、米利上げ停止や来年の利下げ転換への思惑が強まり、米長期金利が低下した。東京市場では銀行株や保険株などの売りを促した。岸田文雄内閣の一部閣僚交代など国内政治情勢を巡る不透明感も意識され、午後に入ると海外勢と見られる円買いや日本株売りの動きが強まる場面があった。
  ・朝方は買いが先行した。前日の米株式市場でNYダウが過去最高値を更新するなど主要株価指数が上昇した流れを引き継いで高く始まった。金利低下を受けて半導体などグロース(成長)株の一角に資金が向かい、相場を下支えした。後場中ごろからは売り方の買い戻しや個人による押し目買いも入り、やや下げ幅を縮めた。
  ・個別銘柄では、三菱UFJ・トヨタ・デンソーが売られた。一方、リクルート・ソフトバンクG・アドテストは上昇した。

 2)12/15、日経平均+284円高、32,970円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式市場で主要株価指数が上昇した流れを受け、東京市場では運用リスクを取りやすくなった投資家の買いが優勢だった。上げ幅は一時+400円を超えた。
  ・前日の米株式市場でNYダウが最高値を更新するなど、主要株価指数は上昇。来年の米利下げ観測が支えで、米長期金利の低下でグロース(成長)株が買われた。前日の米株高をきっかけに前日に下げていた日本株に見直し買いが向かった。
  ・日経平均は午前の中ごろに上げ幅を拡大した。株価指数先物を中心に売り方の買い戻しが入り、相場上昇に弾みがついた。もっとも、午後に入ると、日経平均は伸び悩んだ。外国為替市場で1ドル=141円台半ばまで円高・ドル安が進み、輸出関連や株価指数先物の売りにつながった。週末を控えた手仕舞い売りも出やすかった。
  ・個別銘柄では、アドテスト・東エレク・信越化が買われた。トヨタ・ソニーも高く、郵船など大手海運株の上げも目立った。一方、三菱UFJ・三井住友FGなど銀行株が冴えない。KDDI・アステラスも下げた。

●2.日本株:日経平均は「朝高が一巡後は伸び悩む」展開が続く、相場は軟調気味

 1)日経平均の最近の特徴「朝高、買い一巡後は下落」
  ・朝高⇒下落の推移 12/11    12/12   12/13 12/14 12/15
         朝高+600円超上昇 +300円超 +260 ▲400 +400
         終値+483円    +51    +82 ▲240 +284

 2)株式市場の「勢い」が徐々に「減退」の傾向を示す
  ・新高値銘柄数の推移 12/11 12/12 12/13 12/14 12/15
             73   89   59   62   36
  ・新高値銘柄数が示す相場のエネルギーの減退。

 3)円相場は「円高」基調に転換済み
  ・円相場の推移 12/1   12/13  12/14 12/15
   円:対ドル  148.03円 145.59 141.40 141.93

 4)日米長期金利(10年)の金利格差が縮小し、円高基調に転換
  ・日米長期金利差の推移 12/1  12/13 12/14 12/15
          金利差 3.491% 3.328 3.256 3.205
  ・米FRBの利下げ観測で米長期金利が低下したのが大きい。
  ・日銀のマイナス金利解除も新たな焦点となりつつある。日本の金利上昇が、日米金利差の縮小に拍車をかけ、さらなる円高リスク。

 5)日経平均をチャートで見ると、「下方基調」を示す
  ・日本の金利上昇、米国の金利低下⇒円高⇒株安の流れを示唆か。

●3.トヨタ自・豊田自動織機・アイシンの3社、デンソー株を最大6,100億円で売却(時事通信)

●4.東京ガス、米天然ガスのロック・クリフ・エネジー社を約4,050億円で買収(ロイター)

 1)東京ガスは2030年に海外利益を3倍規模に拡大し、利益2,000億円のうち500億円は海外事業から得る目標を掲げている。

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4502 武田 高配当利期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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