相場展望 3月31日号 5月の米FRB利上げ+0.5%で冷や水も 日銀は「円安容認」、国民生活苦どうする?

2022年3月31日 09:31

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/28、NYダウ+94ドル高、34,955ドル(日経新聞より抜粋
  ・直近2週間で+1,900ドル強上げており、目先の利益確定売りが先行し一時▲309ドル下げる場面があった。
  ・だが、原油安を受けて消費関連銘柄が買われる中、ハイテクが買い直され、NYダウは取引終了にかけて上げに転じた。
  ・米原油先物相場が終値で▲7%下落した。ガソリン高が消費を冷やす懸念が後退し、小売りのウォルマート、ホームデポ、ビザが上昇、ハイテクも高くマイクロソフトなどがNYダウを押し上げた。
  ・市場では「四半期決算が近づき、年初来で相対的に下げが大きいハイテクに持ち高調整の買いが続いている」との声があった。
  ・米債券市場は利回り平準化が進み、利ザヤ縮小するとの見方から金融が下げた。
  ・株式分割計画が明らかになったテスラが+8%高、エヌビディアも上昇した。

【前回は】相場展望 3月28日号 「弱含みで始まっても、引けにかけて急上昇」 が、日米株式相場で続く不思議

 2)3/29、NYダウ+338ドル高、35,294ドル(日経新聞より抜粋
  ・NYダウが35,000ドル台を回復するのは2/10以来。
  ・ロシア国防省が3/29、ウクライナの首都キエフなどで軍事活動を縮小と発表。停戦交渉の進展を期待し、幅広い銘柄が買われた。
  ・米原油先物が続落し、ガソリン高が消費を冷やすとの懸念が和らぎ株高を後押し。
  ・ロシアとウクライナの交渉団は3/29、トルコで停戦協議を再開し、今後も継続。ロシア軍事活動縮小発表と合わせ、停戦に向けて前進しているという見方を誘った。
  ・なお、先行き不透明とはいえ、市場では「投資家心理がかなり悪化している反動で買いを呼びやすい」との声が聞かれた。
  ・欧米によるロシア産原油の禁輸措置が将来和らぐとの期待から、原油先物は朝方▲7%安の98ドル台に下げる場面があった。
  ・インフレ懸念が薄れ、消費関連が買われやすく、ハイテクも上昇した。
  ・半面、原油安を受け石油のシェブロンは売られ、資源安でキャタピラーも下げた。

 3)3/30、NYダウ▲65ドル安、35,228ドル(日経新聞より抜粋
  ・NYダウは5営業日ぶりに反落し、短期的な過熱感から上昇を牽引していた消費関連やハイテクが利益確定売りに押された。
  ・ウクライナ情勢が引き続き投資家心理の重荷となった。ロシア軍は3/29に首都キエフでの軍事行動の縮小を表明した後も、東部を中心に激しい攻撃を加えている。
  ・前日は停戦交渉の進展を期待し、幅広い銘柄が買われたが、反動の売りが出た。
  ・ウクライナ情勢の不透明感や米原油在庫の減少などで、米原油先物が+3%強上昇したのも株売りを誘った。
  ・ガソリン高による消費圧迫が意識され消費関連が売られ、ホームデポ・ビザ・ディズニーの下げが目立った。ただ、NYダウの下値は堅かった。
  ・世界経済の先行き不透明感から、欧州に比べ相対的に景気が底堅い米国に資金を移す動きが継続しているとみられる。

●2.米国株:米国株は欧州からの資金移動で堅調だが、FRBの5月大幅利上げで冷や水も

 1)長短金利差がフラット化している点に注目したい。
  ・米長短金利差が平たん化
    3/31 2年物金利  2.312%
       10年物金利  2.358%
       金利差    0.046%
  ・長短金利差が逆転すると、市場では景気後退の予兆と受け止められる。
  ・5年物金利は2.442%となり、すでに10年物国債利回りを上回っている。

 2)FRBの5月金利引き上げ+0.50%が、楽観論からの眠りを覚まされるきっかけになる可能性がある。

 3)米国は原油高騰でガソリン高となり消費が抑制される傾向に向かっている。ただ、株式市場は、ウクライナ情勢の不透明感やロシア産エネルギー依存低下策からの景気後退を意識した資金が流入したおかげで、堅調な様相を示している。米景気後退への意識が強まれば、米株高の危うさが表面化する可能性がある。

●3.中露資産巡る警戒感が強まるばかり、中露首脳の結束で政治リスク(ブルームバーグより抜粋

 1)モルガンスタンレー3/29の見方。
  ・投機筋が牽引する最近の株価持ち直しが持続する可能性は低い。
  ・逆張り取引や四半期末のお化粧買いが、株価反発に寄与した。
  ・投資家やトレーダーは、この株価反発局面で利益確定するとともに、4~6月期(第2四半期)に特大の相場変動がある可能性にヘッジするよう、改めて促がした。

●4.ロシアvsウクライナ関連:「ロシアのキエフ攻撃縮小⇒停戦協議」に『騙されるな』

 1)ウクライナへは侵略された経済損失70兆円、ロシアに賠償請求 (時事通信)
  ・侵略が長期化すれば、損失のさらなる増大が避けられない見通し。

 2)プーチン大統領は、「侵略終結への妥協の用意がないもよう」=米高官(ロイター)

 3)英調査機関によると、ロシアの戦費「1日最大3兆円」、高額な精密誘導弾(読売新聞より抜粋
  ・戦費は、最初の4日間で1日当たり70億ドル(約8,610億円)。5日目以降は200~250億ドル(約2兆4,600億円~3兆7,500億円)。
  ・ロシアの歳入は年間25兆ルーブル(約31兆2,500億円)程度。
  ・NATOのスタブリティア元最高司令官は、プーチン氏は「国民の支持を失う前に金欠になっている」と皮肉った。
  ・西側諸国の制裁で、ミサイルや戦闘機に必要な半導体は禁輸となり、入手困難。
  ・戦闘での損失を確認している軍事情報サイト「Oryx」によると、露軍は侵攻で失った戦車300両など2,000以上の兵器と装備品。ウクライナの損失の約4倍という。

 4)首都キエフ周辺のロシア軍の動きは、「本当の撤退」ではなく「再配置」(共同通信)
  ・米ホワイトハウス広報部長は3/29の記者会見で、「撤退ではなく再配置」だとして、「ロシアの発表に騙されてはいけない」と指摘した。

 5)ウクライナ大統領、露の軍事活動「縮小」は「信じる根拠ない」(日テレ)
  ・停戦協議中も戦闘続く。

 6)ロシアは、帝政ロシア・ソ連・ロシアと体制は変われども、「軍事外交は変わらず」
  ・首都キエフへの攻撃縮小は、停戦合意へのサインではない。停戦合意は、首都キエフでの攻防でロシア前線部隊の損耗が著しく、戦闘継続のための「部隊再編の時間稼ぎ」にしか過ぎない。     
  ・ロシアからの発信では、単に「首都キエフの攻撃縮小」としか言っていない。
  ・停戦合意に向けての攻撃縮小ならば、『侵略の全面停止』とロシア発表があってしかるべき。
  ・停戦は、欧米の証券界の『淡い期待』でしかない。まだまだ、ロシアからの戦闘は終わっていないし、停戦協議は「戦闘中の一幕」に過ぎないとみたほうが正しいと思われる。

●5.G7、ロシアが求める天然ガス料金のルーブルでの支払いを契約違反だとして拒否(NHK)

●6.ロシア、2022年経済成長率▲8.5%、経済制裁と外資撤退が響く、S&P予測(時事通信より抜粋

 1)昨年11月予想+2.7%⇒3/22下方修正▲8.5%。

 2)経済制裁を背景にロシア通貨ルーブルの暴落で、インフレ率も12%。

 3)輸出や投資が減り、内需も著しく落ち込む。

●7.中露外相3/3会談、ロシアは中国の協力で経済制裁に対抗する考え(毎日新聞)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/28、上海総合+2高、3,214(亜州リサーチより抜粋
  ・企業業績内容に着目した買いが、相場全体を支える流れとなった。
  ・主要企業の決算報告が進む中、予想を上回った銘柄が物色されている。
  ・ただ、国内の新型コロナ感染再拡大が不安視され、株価指数が安く推移する場面もみられた。
  ・新型コロナの1日当たり感染者数の過去最多を更新する中、上海市は市を2分割し、事実上のロックダウンに突入した。上海市の西側は3/28から4日間、東側は4/1から4日間の封鎖。
  ・業種別では、エネルギーが相場を牽引し、発電もしっかり、不動産が買われた。半面、消費関連が冴えない、医薬品・ハイテク・運輸が売られた。

 2)3/29、上海総合▲10安、3,203(亜州リサーチより抜粋
  ・新型コロナ感染再拡大の警戒感が重石となる流れとなった。
  ・中国本土では感染者の増加に歯止めがかからず、上海市は事実上のロックダウン(都市封鎖)に突入した。
  ・経済行動の停滞が不安視されたが、株価の下値は限定的。
  ・中国経済対策の期待感が強まる中、株価指数はプラス圏に浮上する場面があった。
  ・中国人民銀行(中央銀行)は、4~6月期の流動性を確保するため、近く預金準備率を引き下げる可能性があると、証券専門紙が報じている。
  ・業種別では、ハイテクの下げが目立ち、不動産が急落、消費・非鉄が売られた。半面、医薬品が高く、エネルギーもしっかり、公益・海運・銀行が買われた。

 3)3/30、上海総合+62高、3,266(亜州リサーチより抜粋
  ・中国政府による経済対策への期待感が相場を支える流れとなった。
  ・中国人民銀行(中央銀行)の資金供給が買い安心感を誘った。人民銀行は3/30、1,300億元を市中に供給した。また、証券専門紙は3/29までに、4~6月期の流動性を確保するため、近く預金準備率を引き下げる可能性がある、と報じている。
  ・外部環境の改善もプラス、ウクライナとロシアの停戦交渉が進展したと伝わる中世界経済が混乱するとの不安がやや薄らいだ。
  ・業種別では、不動産の上げが目立ち、消費関連も高く、ハイテクが急伸した。反面、エネルギーが冴えない。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/28、日経平均▲205円安、27,943円(日経新聞より抜粋
  ・前週末まで上昇が続いた反動で、利益確定売りが優勢となった。
  ・しかし、為替が123円前半まで下落したことで、輸出関連を中心に買いが入り、日経平均は下落幅を縮小した。
  ・3/25の米株式市場でハイテク株比率の高いナスダック総合指数が下落し、東京市場でも値嵩ハイテク関連を中心に利益確定売りが広がった。
  ・中国の上海市が3/28から一部を対象に事実上ロックダウン(都市封鎖)したことも相場の重荷となり、午前に一時▲300円を超える下落となった。
  ・その後、下げ渋った。
  ・円相場の下落が輸出関連に追い風となるとの見方から、株価指数先物に買いが入り、相場を支えた。
  ・東エレク・レーザーテク・大手海運が安く、トヨタ・デンソーなど自動車関連が高く、INPEX・三菱商が買われた。

 2)3/29、日経平均+308円高、28,252円(日経新聞より抜粋
  ・今日の高値で取引を終え、1/18以来の2カ月ぶりの高値となった。
  ・米原油先物相場の下落や円安ドル高の基調を材料に、朝方から買い優勢だった。
  ・3月期の配当権利付き最終売買日に当たり、配当再投資に絡んだ先物買いが相場を押し上げ、引けにかけて上げ幅を広げた。
  ・米長期金利の低下で、グロース(成長)株の一角に買いが入った。
  ・配当権利取りの流れの中高配当株への売りが手控えられ、日本郵船や商船三井は上昇して終えた。
  ・日経平均が伸び悩む場面があった。
  ・市場では「原油高や米金利上昇の企業業績への影響を見極めるまでは、上値追いは難しい」との声があった。
  ・200日移動平均線(3/28、28,269円)が目先の上値になると意識した利益確定売りがあった。
  ・ファストリ・ソフトバンクG・エムスリー・リクルート・KDDIが上げた。半面、塩野義・資生堂・三井不・JR東海が下げた。

 3)3/30、日経平均▲225円安、28,027円(日経新聞より抜粋
  ・3月期末の配当の権利落ちで、日経平均は▲225円下落した。前日までの配当狙いの買い需要がなくなったことで、売り優勢となり下げ幅は500円を超える場面があった。
  ・足元で進んでいた円安ドル高に一服感が出てきたことも、日本株の重荷になった。
  ・反面、ウクライナ情勢の緊張緩和への期待が下値を支えた。
  ・日銀の黒田総裁が首相官邸で岸田首相と会談したと伝わった。政府・日銀による円安対応がなされるとの思惑から為替市場では円買いが進行し、円相場は一時121円台前半まで円高ドル安に動いた。トヨタや任天堂など海外売上高比率の高い銘柄を中心に日経平均の重荷となった。
  ・配当狙いの買い需要がなくなり、高配当銘柄の下げも目立った。ウクライナとロシアの停戦合意への期待が膨らむ中、資源インフレ圧力が後退したことも手伝い、総合商社や住友鉱などが下落した。
  ・日銀の国債買いで長期金利の低下し、銀行株も冴えない動きが目立った。
  ・日本郵船・日本郵政・日本製鉄が下落、KDDI・出光興産・三井金も下げた。反面、東電・板硝子・資生堂は上げた。

●2.日本株:先行き不透明感が強まるか?

 1)3月期末の配当権利落ち▲250円に相当する3/30の▲225円下落だった。

 2)ただ、最近、権利落ちを埋めて上昇することが多くあったことを意識すると、先行きの不透明感を覚える。

 3)円安の急進は、日本企業の多くにとってコスト上昇で企業業績にマイナス要因。円安で潤う企業は輸出企業に限られ、日本全体でみると消費も下がって景気後退につながるだろう。政府・日銀の、円安の許容・追認政策は考えられない愚策。

●3.黒田・日銀は、「国民」を向いて「インフレ抑制」か? 「政府の番犬」を続けるのか?

 1)円安は、日銀が誘導・許容したとみる。
  ・日銀は長期金利を0.25%の低金利に抑える ⇒ 日米金利の格差が急拡大⇒円安 加速の構図になっている。
  ・円安の加速は、資源高による物価上昇を増幅し、国民の生活苦を直撃する。

 2)日銀は、円安の進行を放置するのか?今回の円安は、日米金利差が拡大したことから起こっている。
  ・3/30 米10年債金利 +2.358%
      日10年債金利 +0.210%
  ・日銀総裁と岸田首相は3/30に会談したが、「円安の話題なし」(DZHフィナンシャル)

 3)日銀が守りたいものは、「政府財政」。
  ・1,000兆円を超える国債の金利負担の急増を防ぐ=財政を支える。

 4)日銀の存在意味「誰のための日銀」か?
  ・円安急進・インフレ高騰から国民生活を守るのも大きな責任。
  ・日銀は今回の円安について、効果的な防衛策を打っていない。
  ・決して、政府の番犬ではないはず。

 ●4.企業動向
  1)日野自 3月期決算最終損益+150黒字⇒▲540億円赤字、排ガス改ざん(共同通信)
       リコールが影響
  2)東芝  エレベータ事業を約4,800億円売却へ、米オーチス、中国・美的が関心(共同)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4307 野村総研   業績好調。
 ・4480 メドレー   業績堅調。
 ・2412 ベネフィット・ワン 業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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