相場展望11月6月号 米国株: 金利据え置き⇒長期金利低下⇒株高の構図 「つなぎ予算」は11/17に失効⇒政局混乱に注意 日本株: 岸田首相の17兆円経済対策はインフレ増進策 衆院総選挙は来夏のシナリオ?

2023年11月6日 10:08

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)11/2、NYダウ+564ドル高、33,839ドル(日経新聞より抜粋
  ・朝発表の米経済指標で、賃金インフレが鈍化を示し、米金融引締めが長引くとの警戒感が和らぎ、NYダウは4日続伸した。米長期金利が低下し、株式の相対的な割高感が薄れ、買いを誘った。1日の上げ幅としては6月上旬以来、5ヵ月ぶりの大きさとなった。ハイテク株比率が高いナスダック総合指数は5日続伸、前日比+232高の13,294で終え、1日の上げ幅は8月下旬以来の大きさとなった。
  ・11/2発表の2023年7~9月期の米労働生産性指数で企業の賃金負担を示す単位労働コストは前期比年率で▲0.8%低下し、3四半期ぶりの低下となった。ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想の+0.7%上昇に反してマイナスとなり、賃金の上昇圧力が和らいだろ受け止められた。同日発表の週間の新規失業保険申請件数は21.7万件と市場予想の21.4万件以上だったうえ、前回分も上方修正した。労働需給の逼迫が和らいでいるとの見方が株式相場の支えとなった。
  ・米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置いた。会合後の記者会見でパウエル議長は今後の政策決定について、不確実性やリスクを踏まえ「注意深く進める」と述べた。次回12月会合で利上げを見送るとの見方が強まりつつあり、株式の買い安心感につながった。
  ・市場では「今の利上げサイクルが終了したという保証はないものの、今のところは選択肢から外れていることを好感した買いが入っている」との声が聞かれた。
  ・米債券市場で長期金利が4.6%台前半まで低下する場面があった。前日に米財務省が公表した2023年11月~2024年1月の国債発行計画で発行の増加規模が市場予想を下回ったことも、賃金インフレの鈍化を示す指標と併せて金利低下につながった。
  ・個別銘柄では、ドラッグストアのウォルグリーンズや建機のキャタピラー、ホームセンターのホームデポなど幅広い銘柄が買われた。電気自動車のテスラや画像処理半導体のエヌビディアの上げも目立った。顧客情報管理のセールスフォースやスマートフォンのアップルも高かった。一方、保険のトラベラーズは売られた。

【前回は】相場展望11月2日号 米国株: 「金利据え置き」で株価上昇、「インフレ高を忘れる」 日本株: 「底入れサイン」出るも、騰落レシオは「警戒感」示唆

 2)11/3、NYダウ+222ドル高、34,061ドル(日経新聞より抜粋
  ・11/3朝発表の10月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数が市場予想を下回り、米連邦準備理事会(FRB)の金融引締めが長引くことへの警戒が和らいだ。米長期金利の低下が続き、株式の相対的な割高感が薄れ、NYダウは5日続伸。
  ・雇用統計では雇用者数が前月比+15万人増と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想の+17万人を下回った。8~9月分も下方修正された。失業率は3.9%と前月と同じ3.8%を見込んでいた市場予想を上回った。平均時給は前月比+0.2%増で、市場予想+0.3%ほど伸びなかった。
  ・市場では「労働需給の逼迫が緩和し、賃金上昇圧力を高めないペースでの雇用の伸びが続くとの期待が強まった」との声があった。
  ・10月の米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業(サービス業)景況感指数も市場予想以上に低下し、米景気の減速を示した。
  ・長期金利は一時、前日比▲0.18%低い(債券価格は高い)4.48%と、9月下旬以来の水準に低下した。今週発表の経済指標や11/1の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けてFRBの追加利上げ観測が後退し、週初めの4.9%から大幅に水準を切り下げている。
  ・金利低下を背景に不動産や素材・金融・電気・通信サービス・消費関連など幅広い業種や銘柄に買いが入った。NYダウ構成銘柄では金融のゴールドマンサックスや映画・娯楽のディズニーなどが買われた。半導体のエヌビディアやAMDの上昇が目立った。一方、スマートフォンのアップルは下落した。11/2夕に発表した2023年7~9月期決算で売上高と1株利益が市場予想を上回ったものの、決算説明会で示した10~12月期の売上高見通しが慎重だった。
  ・NYダウの上げ幅は一時+320ドルを超えた。前週末に約7ヵ月ぶりの安値を付け、自律反発狙いの買いも続いた。週間の上げ幅は+1,600ドル強と、昨年10月下旬以来の大きさだった。

●2.米国株:FRB金利据え置き・米雇用統計⇒米長期金利低下⇒株高という構図

 「つなぎ予算」が11/17に失効、政局の不透明感が株式相場への波及に留意

 1)FRB金利据え置きと米雇用統計受け、米長期金利低下を好感し、株価上昇
  ・株価上昇の要因
  ・賃金インフレへの懸念が後退
  ・米長期金利(10年債利回り)が4.57%まで低下
  ・米失業率3.9%に上昇し、労働市場の逼迫感と経済の過熱感が緩和
  ・長期金利の低下で、割高感が薄れた株式に買いが入り上昇
        10/31    11/1 11/2  11/3
   長期金利 4.931%   4.734 4.668 4.576
   NYダウ +123ドル高 +221 +397 +222
   ナスダック総合 + 61高 +210 +232+184

 2)「つなぎ予算」が11/17に失効、政府機関一部閉鎖懸念が再浮上する懸念に留意
  ・米下院議長が共和党から選出されたが、強いリーダーシップは期待できない。共和党内で紛糾し、消去法的に選出されたためである。
  ・そのため、政権与党であり上院で多数を占める民主党との協議において、共和党をまとめる力不足が露呈する可能性がある。
  ・「つなぎ予算」が11/17に失効するが、その前に2023年会計年度の予算が成立できるかが問題になる。現状では、民主党と共和党の妥協点を見出すのは難しいと思われる。
  ・ウクライナ追加支援の増額、中東情勢の悪化停止、政府機関の一部閉鎖などままならない状況を迎えることになりそうだ。
  ・米国の政治的混乱が、株式市場に影響を及ぼす可能性に留意したい。

 3)注目のイベント
  11/08 9月卸売売上高
  11/09 週次失業保険申請件数
      パウエルFRB議長のIMF(国際通貨基金)討論会参加
  11/10 11月ミシガン大消費者信頼感指数

●3.米利上げ終了観測強まる、雇用統計が労働市場軟化を示唆(ロイターより抜粋

 1)市場が織り込む来年1月までの利上げ確率は、30⇒12%に低下した。50%を超える確率で2024年5月までに利下げが実施され、その後2024年末までに数回利下げが行われるという予想も織り込まれた。

 2)10月雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比15万人増加で、市場予想以上に減速した。さらに、平均時給の前年比での上昇率は低水準となったほか、失業率は3.9%に上昇し、2022年1月以来の高水準を更新した。

●4.米追加利上げ検討の必要性、判断は「尚早」=ミネアポリス連銀総裁(ロイター)

 1)「インフレ目標である2%に下げるのに十分な進展が得られているか、データを見守り続けなければならない。判断をするのは時期尚早だ」と語った。

●5.労働市場は改善も、FRBの次の一手に予断持たず=リッチモンド連銀総裁(ロイター)

●6.米追加利上げ不要、政策「十分に制約的」=アトランタ連銀総裁(ロイター)

 1)このまま推移すれば、インフレ率を目標とする2%にするためには現在の金融政策は十分に制約的だと考えられる。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)11/2、上海総合▲13安、3,009(亜州リサーチより抜粋
  ・中国の景気鈍化が改めて不安視される流れとなった。
  ・11/1に公表された10月の財新中国製造業PMI(民間)は49.5に低下し、景況判断の境目となる50を3ヵ月ぶりに割り込んだ。
  ・10/31に発表された中国製造業PMI(国家統計局)も市場予想を下回り、節目の50を再び割り込んでいる。
  ・経済対策の期待感などで朝方は買われたものの、上昇の勢いは続かず、後場途中からマイナスに転じた。
  ・業種別では、ハイテク関連の下げが目立ち、酒造・食品・飲料も冴えず。医薬・不動産・素材・インフラ関連・軍事関連・空運なども売られた。半面、銀行はしっかり。エネルギー・自動車・公益・海運も買われた。

 2)11/3、上海総合+21高、3,030(亜州リサーチより抜粋
  ・投資家心理が上向く流れとなって、約2週間ぶりの水準を回復した。
  ・米長期金利の低下基調や、米中関係の改善期待が支えとなった。
  ・昨夜の米債券市場で、金融引締め長期化の警戒感が後退するなか、米10年債利回りの低下が続き、約3週間ぶりの低い水準に達した。米中関係を巡って、今月中旬に米国で開催されるアジア太平洋経済協力機構(APEC)の首脳会議に合わせ、バイデン米大統領と中国の習近平・国家主席が対面会談することで両国は原則合意したと発表している。
  ・また、当局の相場重視スタンスもプラス。
  ・中国の国家安全部は11/2、国内株式市場における「空売り」に警告を発した。「中国に対する国際社会の信頼感を動揺させ、国内金融の混乱を引き起こそうとしている」と批判した。「混乱に乗じて利益を得ようとしている」として、空売り勢を強く非難した。
  ・業種別では、ハイテク関連の上げが目立ち、消費関連もしっかり。インフラ関連・素材・医薬・公益なども買われた。半面、銀行は冴えない。不動産・運輸の一角も売られた。

●2.中国への直接投資、1998年以降で初のマイナス、外国企業の中国離れが鮮明(共同通信より抜粋

 1)中国国家外貨管理局が11/3公表した、7~9月期の国際収支で、外資企業による直接投資が▲118億ドル(約1兆7,600億円)のマイナスになった。新規投資よりも撤退や事業の縮小が大きくなったことを意味しており、比較可能な統計を公表している1998年以降で初のマイナス。

 2)半導体を巡る米国の輸出規制や、7月の改正反スパイ法の施行などで外資企業の投資意欲が減退していることが背景にあるとみられる。

 3)上海市などのゼロコロナ政策があった2022年4~6月期以降に前年同期比で▲5~▲8割程度の大幅な落ち込みが続いていた。


■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)11/2、日経平均+348円高、31,949円(日経新聞より抜粋
  ・米金融引締めの長期観測の後退を背景に前日の米株式相場が上昇し、東京市場でも半導体など主力株の一角が買いを集め、3日続伸した。上げ幅は+450円を超える場面もあったが、節目の32,000円近辺では利益確定目的の売りが目立ち、朝高後は高い水準を維持しつつも上値は重かった。
  ・米連邦準備理事会(FRB)は11/1まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の据え置きを決めた。前日の米市場では長期金利の上昇一服を背景に、ハイテク株比率が高いナスダック総合指数の上昇率が大きかった。東京市場でも値がさの東エレク・アドテストなどハイテク関連株が軒並み高となり、日経平均を押し上げた。
  ・前日の取引時間中に決算を発表したトヨタへの買いが継続したことや、緩和的な国内金融政策が続くとの見方も投資家心理を強気に傾けた。海外短期筋の先高観は根強く、株価指数先物への買いが断続的に入った。半面、日経平均は前日に+742円高と今年2番目の上昇幅を記録するなど直近の急伸で短期的な過熱感も意識されやすかった。
  ・午前に通期業績予想と年間配当計画の上方修正を発表したキッコマンが大幅高となった。サイバー・富士電機・京セラも上昇した。一方、通期業績予想の下方修正でヤマハ・アステラスが大幅安。オリックス・日本製鉄も下げた。

 2)11/3、祝日「文化の日」で休場

●2.日本株:米株価上昇と、決算発表シーズンで好業績銘柄に注目

 岸田首相の人気取り政策がインフレに、衆院総選挙は来夏がシナリオ?

 1)11/2の日経平均は+348円高だが、値下がり数は逆に増加⇒相場地合いは強くない
  ・値上がり・値下がり銘柄数の推移 11/1   11/2
              値上がり 1,308   883
              値下がり 328    722
              日経平均 +742円高 +348
 2)過熱感が上昇
 ・日経平均上昇も、値下がり銘柄数が増加し、株価上昇に懸念材料。
          11/1  11/2
  値上がり銘柄数 1,308  883
  値下がり銘柄数 328  720
  日経平均   +742円高 +348円高
 ・ストキャスティクスが上昇傾向にあり、割安感が薄れる方向にある。
          11/1 11/2
       FAST 41  74
       SLOW 24  45

 3)日米長期金利の差は縮小し、円安⇒円高に転換する可能性を示唆している
          10/31  11/1  11/2   11/3
  日米長期金利差 3.995%  3.787 3.758  3.661
  円相場     150.21円 151.25 150.42 149.38
  日本の財務省は「介入」を仄めかすが、介入は愚策。むしろ、日米の長期金利差の縮小政策を通じて「円安防止」を果たすべき。

 4)岸田首相の17兆円の追加経済対策が、インフレ増進を勢い付けるリスク
  ・既に「デフレ脱却済」である。インフレが急伸中である。円安・資源高・人手不足が引き起こし⇒値上がりラッシュ⇒物価急伸。
  ・岸田首相は「デフレ脱却ができるかどうかの瀬戸際」だからこそ、「あらゆる政策を総動員」、という。しかし、その政策は、インフレ増進策でしかない。
  ・現状の物価高をさらに押し上げるということは、実質賃金マイナスが続く庶民の生活に「さらなる実質賃金切り下げ」を誘因させ、生活苦を増すだけ。
  ・インフレ退治に、「1年限定」の所得税減が「意味あるか?」。インフレ退治には、日銀の金融緩和策⇒利上げ含めた金融引締め策への転換は必須。

 5)衆議院解散は来年、初夏以降とみる。
  ・岸田首相が「解散風を吹く」のは、自民党内での求心力を保つため。それは、自民党掌握の「自信のなさ」の裏返し。
  ・岸田首相は過去の先達が踏襲してきたルールを破って、派閥会長を続けているのは何故か?自民党の第4派閥の「力のなさ」であるために、派閥会長も継続している証し。自民党は過去、首相になると「派閥会長を辞任」「派閥から離脱」して、「首相の職務に専任」してきた。派閥会長を辞任することで、派閥レベルから昇華し、「オール自民党のトップ」として国政を主導するためであった。
  ・9月内閣改造の目的は、各派閥にまんべんなく閣僚・副大臣・政務官ポストをバラまくことで、来年9月の自民党総裁選挙を優位に進める手だてとみた。自民党総裁選挙を優位に進めるための「適材適所の人事」をしたに過ぎない。その結果としての、エッフェル塔お姉さん、人権侵害が確定した議員、違法な選挙指導をして辞任した議員、不倫発覚で辞任した議員を重用した。総裁選挙の対抗馬と見込まれる議員を、封じ込めるために閣僚にした。
  ・減税を来年6月に遅らしたのは、衆院議員総選挙を来年初夏以降に設定したのは、減税効果で支持率を高め、解散に打って出る目論みとみた。衆院選挙で劣勢といわれる衆院選挙でそこそこの議席数を確保し、来年9月の自民党総裁選挙で再選されるシナリオを描いているとみる。

 6)3月期会社の決算発表シーズンで好業績銘柄に買いが入る場面を想定
  ・米株式市場で好決算を発表した企業の株価が上昇している。日本株式相場にも波及するとみる。
  ・日経平均は、米株高を背景に、好材料に焦点を合わせ上昇するとみた。
  ・短期筋の外国人も、売り手控えている。

●3.企業業績

 1)ヤマハ、通期予想を再度下方修正、最終利益+500⇒+420億円(フィスコ)
 2)SUBARU、2024年3月期営業利益+3,000⇒+4,200億円上方修正(ロイター)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2914JT高配当期待。
 ・4004レゾナック業績回復期待。
 ・9434ソフトバンク高配当。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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