相場展望12月20日 世界主要4中央銀行、『金融引き締め』に舵切る 『金利上昇』『市中の資金回収・縮小』へ身構える

2021年12月20日 08:43

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)12/16、NYダウ▲29ドル安、35,897ドル(日経新聞より抜粋
  ・12/15の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めに前向きな「タカ派」姿勢を示したことが改めて警戒され、ハイテク株を中心に売りが出た。
  ・12/15の株高は、「売り方の買戻しに過ぎなかった」と指摘があった。12/16朝方に+262ドル高の場面があったが、買戻し一巡後、売り優勢となった。
  ・ナスダック総合は前日の上げ幅+327を上回る、下げ幅▲385となった。
  ・ハイテクから、インフレに強い景気敏感株に資金が移る流れが起きた。
  ・テスラ、エヌビディア、アマゾンの大型株の下げが目立った。

【前回は】相場展望12月16日 米国、テーパリング早期完了⇒「利上げ」へ 日本株、年末までに資金化し、調整に備える?

 2)12/17、NYダウ▲532ドル安、35,365ドル(日経新聞より抜粋
  ・今週は世界の主要中央銀行が、金融政策の正常化を進める方針を相次いで示した。
  ・規制緩和の縮小に伴い、株式市場に資金が流入しにくくなるとの見方から、売りが優勢となった。
  ・新型コロナ感染拡大から景気回復の遅れを警戒し、景気敏感株の売りが目立った。
  ・カードのアメックス、建機のキャタピラー、利ザヤ悪化の金融株が売られた。一方、通信のベライゾンは上昇した。

●2.米FRBは「量的緩和の縮小完了は、来年3月に前倒し」そして『金融引き締めに転換』

 1)FRBは、インフレ圧力に対し2022年に3回の利上げ実施、3月に資産購入終了見通し
  ・2022年に3回の利上げ示唆は、従来の予想2回よりもタカ派化した。
  ・「利上げ」が、2022年から3年間という期間に8回の利上げ実施する見通しも示唆された。
  ・インフレの抑制という観点から、『利上げ⇒資金回収(膨張したFRBの資産縮小)』は必要。何故ならば、今回のインフレを引き起こしたのは、新型コロナのパンデミック(世界的流行)の急激な景気落ち込み対策として、必要を大幅に上回る施策を世界主要各国の政府と中央銀行が実施したことに起因している。

   (1)世界主要国政府による巨額な財政支出
   (2)世界の中央銀行の過剰すぎる金融緩和政策

 2)世界主要中央銀行の政策
  ・中央銀行の資産購入によるバランスシートの膨張の結果
   (1)『低金利』を必要以上に長期化させた。
   (2)市場に必要以上の『超膨大な資金供給』を続けた。
  ・過去の利上げを見ると、2004~2006年間にFRBは17回の利上げを実施した。
  ・米FRB(連邦準備制度理事会)の来年3月末にバランスシートの拡大がゼロとなった時点で、金利見通しは大きく変わる可能性が出てきた。

 3)米国株式市場の反応
  ・米国株式市場は12/15のFOMC(連邦公開市場委員会)での結果決定後、「不透明感が出尽くし」として、株価上昇で反応した。ただ、FOMCに内容は、よく考えると『タカ派的な決定』だったことに間違いなく、翌12/16は、NYダウこそ▲29ドル安と弱含みだったが、ハイテク株の多いナスダック総合は金利低下で追い風にもかかわらず大幅下落した。
  ・今後の市場の動向に引き続き警戒が必要に状況に転換したと思われる。
   (1)株式・債券市場
   (2)国際商品先物市場(原油・鉱物・農産品など)
   (3)為替市場

●3.ウォラー米FRB理事、「3月FOMCで利上げも選択肢」と言及(フィスコ)

●4.米12月製造業購買担当者景気指数(PMI)は57.8に低下、1年ぶり低水準(ロイター)

 1)市場予想は58.5、工場の労働力や原材料の供給制約は緩和の兆しが出ている。

 2)製造業は米経済の12%を占める。

●5.12月サービス部門の仕入れ価格指数は77.4と、11月の75.7から上昇  (ロイター)

 1)現行の調査開始以来の最高となり、インフレがしばらくの間、著しく高止まりする可能性を示している。

2)サービス部門は、米経済の3分の2超を占める。

●6.IMF、世界の債務は昨年過去最大の226兆ドル、利上げ局面でリスク(ブルームバーグ

 1)国際通貨基金(IMF)は、世界の債務が2020年に226兆ドル(約2京5,800兆円)と過去最大に膨れ上がり、金利上昇の中で、その持続可能性を巡り懸念が高まりつつあると指摘した。

 2)予想より速いペースでの利上げは、債務負担の重い国に圧力となり、政府や企業に債務と支出に削減を強いて、経済成長を阻害しかねないとIMFは分析した。

 3)世界の国内総生産(GDP)に対する債務の比率は256%と28ポイント上昇し、年間の伸び率として第2次世界大戦後最大となった。

 4)昨年は中国だけで、世界債務増加の26%を占めた。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)12/16、上海総合+27高、3,675(亜州リサーチ)
  ・12/15開催の国務院(政府)の常務会議で、景気テコ入れに向けて、中小・零細企業に対する金融支援強化が決定された。
  ・銀行貸し出しの指標となる最優遇貸出金利も、26カ月ぶりに引下げされるとの観測も浮上したこともあり、期待感が相場の支えとなる流れとなった。
  ・業種別では、石炭が急伸、鉄鋼、セメント、インフラ関連、ハイテクが買われた。

 2)12/17、上海総合▲42安、3,632(亜州リサーチ)
  ・米バイデン政権は12/16、中国ウイグル人弾圧、中国軍支援をしているとして中国の42企業・団体への投資や輸出制限措置を科すと発表した。
  ・新型コロナ感染拡大で、中国経済を牽引する1つの浙江省で多数の企業が一時休業を宣言している。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、反面、火力・原子力発電株がしっかり。

●2.中国の不動産融資の不良債権比率2倍超に拡大へ、S&Pが推定(ロイターより抜粋

 1)不動産融資の不良債権比率
  2020年末 2% ⇒ 2021年半ば 2.5% ⇒ 2021年末 5.5%予想

 2)不動産開発企業の約3分の1が資金繰り難に陥っていると推定。その結果、銀行融資全体の不良資産比率も押し上げられ、2021年は約0.20%上昇して1.75%になるとの見通しを示した。

●3.中国・浙江省1,000万人超の大規模検査、感染拡大で(テレ朝)

●4.中国当局は、恒大集団を救済しないことを示唆(ブルームバーグ)

   1)中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁は12/9、「恒大が債務を履行できないのは市場の問題であり、市場に基づくやり方で扱われることになる」と述べ、約3,000億ドル余りの負債を抱える恒大を救済しないことを示唆した。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)12/16、日経平均+606円高、29,066円(日経新聞より抜粋
  ・米FOMCは12/15、量的金融緩和の縮小(テーパリング)の加速を決めた。ただし、金融引き締めペースは想定の範囲にとどまり、米株式市場は大幅上昇した。
  ・東京市場もその流れを受け、景気敏感株を中心に幅広く買いが入った。
  ・短期筋の売り方の買戻しも進み上げ幅を広げた。
  ・海運株、キャノン、エプソン、デンソーが高く、反面、新生銀、太平金が安い。

 2)12/17、日経平均▲520円安、28,545円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米ハイテク株安が投資家心理をやや悪化する中、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和の縮小、欧州中央銀行(ECB)は資産購入打ち切り、日本銀行の資金繰り支援策の縮小が、相場変調につながると見た売りで大幅下落。
  ・東京エレク・ソフトバンクG・ファストリが売られ、7&I・エプソンが上昇。

●2.日本銀行含めて、世界主要中央銀行は『金融引き締め』に転換の舵を切ったか

 1)世界主要銀行は、相次いで金融引き締めの動き
  ・米FRBは12/15、テーパリング(量的緩和の縮小)加速、2022年に3回利上げを示唆
  ・英イングランド銀行は12/16、政策金利0.15%引上げ⇒0.25%
  ・欧州中央銀行(ECB)は12/16、緊急債券購入縮小と2022年3月完了、規制緩和縮小
  ・日本銀行は12/17、コロナ禍に対応した緩和策の縮小

 2)日本銀行12/17発表した、新型コロナ禍に対応した緩和策の縮小内容
  ・来年3月末までが期限となっている新型コロナ対抗の資金繰り支援策について、
   (1)大企業向けは、来年3月で打ち切り。
   (2)中小企業向けは、6カ月延長し来年9月まで。
   することを決めた。

 3)日本銀行の「コロナ禍に対応した緩和策の縮小」に、黒田総裁は苦しい説明
  ・日銀政策決定会合12/17、「新型コロナ対応の資金繰り支援策を一部、延長」を発表。黒田総裁は、記者会見で「早い延長決定で安心感につながる」と語った。

 4)オミクロン株の感染拡大に緊張が高まっている中での、日銀の決定は「全体として、金融引き締めに向かうサイン」と受け取らざるを得ない
  ・大企業向けは縮小。中小企業向けは延長と言っても、わずか6カ月に過ぎない。この時期の決定は、聞きようによっては、「9月で打ち切り通告」とも受け取れる。
  ・新型コロナ「オミクロン型」の感染力は現在のデルタ株より4~5倍強力だという。新変異株が増加し始めて「不安感が増している時」の日銀総裁発言とは思えない。「オミクロン型の国内外の経済に与える影響を引き続き注意深く見ていく」と述べた。英国、ドイツ、米国でも感染再拡大している。日銀発表の「引き続き注意深く見ていく」ならば、今日12/17に縮小を決定する必要はなかったのではないか。
  ・日本のインフレは現状+0.1%と低く、インフレ発生とは言えない。「退治しなければいけないインフレは、日本では発生していない」。日本は、米国の+6.8%や欧州とは違う。まして、米FRB、欧ECB、英イングランドの中央銀行が「引き締め政策」を発表した同時期の日銀発表である。
  ・加え、日銀は今年3月末に「ETF購入を事実上停止」する形で「ステルス金融引き締め」をした。

 5)日銀の金融引き締め策は、「真綿で締めあげる」様なもの
  ・2021/03 ETF購入の厳格化(毎年6兆円程度購入実行⇒年6兆円枠内で適時購入)。厳格運用後、4/1~12/17までのETF累計購入額はわずか2,804億円に過ぎず、実績から見ると廃止したのも同然となっている。
  ・これは、事実上の「ステルス金融引き締め」とも言えよう。

 6)日本株式市場は3月末の、事実上の金融引き締め策決定で4月初頭から大幅下落
  ・日銀のETF購入による「買い支え」が無くなったことで、中長期投資の海外投資家は日本株の購入を見送った。
  ・結果として、日銀の「買い支え」が無くなったことで、売り仕掛けに不安感が解消したとして海外短期筋は、安心して『買い仕掛け⇒売り仕掛け』に転じることができ、日経平均は約4,000円ほど下落し、米国株比で日本の株価水準を押し下げる要因となった。

 7)日銀の「ステルス引き締め」でダメージを受けた投資家は、今回の決定を聞いて「思い出す」はずだ ⇒ 警戒が高まる可能性
  ・米FOMC発表後の米国株は12/15、急上昇した。日本株もその流れ受けて12/16、売り方の買戻し・先物買いもあって、急騰した。
  ・日経平均は12/17、前日の反動で下落基調だった日経平均は、日銀の「追加引き締め策」の発表が伝わり、「さらに下げ足を速めた」。
  ・日本株式も、今後の市場の動向に警戒が必要な状況に転換した可能性が高まりそうだ。

●2.企業動向

 1)ヤマサ醤油  約100商品を来年3/1出荷分から4~10%値上げ(共同通信)
 2)三菱ケミカル 半導体向け樹脂3割増産(共同通信)
 3)トヨタ    2030年までに4兆円規模の投資、EVを30車種に(zakzak)
 4)武田薬品   米ノババックスのコロナワクチンを製造承認申請(読売新聞)
          年間2.5億回分を山口県光市で製造。政府とは1.5億回分契約済。
 5)中外製薬   コロナ飲み薬の開発断念、厚労省は補助一部返金求める(読売新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・7013 IHI    業績好調。
 ・8088 岩谷産業  業績堅調。
 ・9202 ANA    赤字幅縮小。旅客数回復期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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