重力レンズ効果の観測でダークマターの有力候補を特定か 香港大

2023年4月27日 08:20

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銀河による重力レンズ効果の図解。より遠く、赤みがかった銀河からの光は、より近く、青みがかった銀河によって曲げられ、遠くの銀河を拡大する自然の宇宙望遠鏡のような役割を果たす。この場合、赤みがかった銀河の複数の像が作成され、青みがかった銀河の周りにアインシュタインリングと呼ばれる赤みがかったリング状の特徴が形成される。(画像: 香港大学の発表資料より。(c)  ALMA, L Calcada, Y. Hezaveh et al.)

銀河による重力レンズ効果の図解。より遠く、赤みがかった銀河からの光は、より近く、青みがかった銀河によって曲げられ、遠くの銀河を拡大する自然の宇宙望遠鏡のような役割を果たす。この場合、赤みがかった銀河の複数の像が作成され、青みがかった銀河の周りにアインシュタインリングと呼ばれる赤みがかったリング状の特徴が形成される。(画像: 香港大学の発表資料より。(c) ALMA, L Calcada, Y. Hezaveh et al.)[写真拡大]

 宇宙空間に巨大な質量が存在するとその周辺の空間がゆがめられ、そこを通過する光が直進できなくなり、経路が乱される。このような効果を重力レンズ効果と呼ぶが、特に遠方にある銀河の姿が重力レンズ効果によってリング状にゆがめられて見える場合、この形状をアインシュタインリングと呼んでいる。

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 つい最近アインシュタインリングの形状のゆがみ具合を解析することで、重力レンズ効果をもたらしている質量物がなんなのかを推定する試みが、香港大学の研究者らによって実施され、その結果がNature Astronomyで公開された。

 この研究ではHS0810+2554と呼ばれる重力レンズ効果が見られる天体にフォーカスし、その効果が何によってもたらされているのかについて考察を試みた。具体的には重力レンズ効果をもたらす暗黒物質の有力候補と考えられているアクシオンとWIMPの2種の粒子を想定したシミュレーションを実施し、アクシオンを想定したケースでより観測画像に近い形状が得られることを突き止めた。つまり暗黒物質はアクシオンである可能性が高いとの結論だ。

 アクシオンは電子の1億分の1以下の質量しか持たない仮想粒子で、WIMPは逆に電子の質量の20万倍程度の質量をもつと考えられている重い仮想粒子だ。ただし今回の論文でダークマターの本質の見極めが完全にできたわけではなく、アクシオンもWIMPもその存在を直接観測できた事例はまだない。さらに言えばダークマターの本質が宇宙誕生時に無数に誕生していたかもしれない原始ブラックホールである可能性もあると主張する科学者も存在する。

 ダークマターは宇宙の質量の約26%を占める正体不明の存在だが、銀河の運動の観測結果は、ダークマターの存在を仮定しなければどうしても説明がつかない。また人類が観測可能な物質の質量は宇宙の質量の約5%しかなく、ダークマターの正体を解明しなければ宇宙の仕組みを正しく理解することにつながらない。それを特定できる日が来たとしても、宇宙の残る質量の69%の占めるダークエネルギーというさらに得体の知れない存在が人類に立ちはだかる。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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