相場展望3月17日号 米FRB:0.25%金利引上げ、インフレ抑制積極化 ウクライナ停戦交渉:ロシア軍増強の時間稼ぎ?

2022年3月17日 09:01

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/14、NYダウ+1ドル高、32,945ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦公開市場委員会(FOMC)を3/15~16日に控え、米長期金利が2019年7月以来の水準に上昇し、相対的な割高感からハイテク株に売りが出た。
  ・反面、原油先物相場が大幅に下落し、ガソリン高が消費減退につながるとの警戒感が薄れ株式市場を下支えした。
  ・FOMCでは2018年12月以来の利上げが見込まれ、委員らの金利見通しではタカ派寄りの予想が示されるとみられている。
  ・3/14の米長期金利は一時2.14%と2019年7月以来の水準に上昇した。PER(株価収益率)が高いハイテク株への売りが強まり、スマホのアップルや顧客情報管理のセールスフォースの下げが目立った。
  ・市場では「米国のリセッション(景気後退)が意識される中、FOMCで米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引締めペースを見極めようと慎重になっている投資家が多い」との指摘があった。
  ・一方、原油相場の下落は、株式相場の支えになった。原油安を好感しNYダウは一時+451ドル高まで上昇する場面があった。買い一巡後は、長期金利上昇が嫌気され一時▲126ドル安まで下げるなど、不安定な相場展開だった。

【前回は】相場展望3月14日号 ウクライナ侵略⇒インフレ加速⇒金融引締め⇒景気後退⇒過剰マネー相場終焉⇒株価修正 今週のFOMCに注目、金融引締め第1弾

 2)3/15、NYダウ+599ドル高、33,544ドル(日経新聞より抜粋
  ・原油先物相場が連日で大幅に下落し、インフレ懸念が和らいだ。消費関連株や、足元で下げがきつかったハイテク株など幅広い銘柄が買われた。
  ・米原油先物は一時、先日比9%安の93.53ドルを付け、ウクライナ侵攻が起こる前の水準に下落した。
  ・米2月卸売物価指数は前月比+0.8%上昇と、上昇率は前月+1.2%から低下した。市場では「インフレのピークアウトが意識され、消費が冷え込むとの観測が後退した」との指摘があった。
  ・消費関連が買われ、ディズニー+4%高、ホームデポ+3%高とNYダウを牽引した。
  ・前日まで長期金利上昇を警戒して売られていたハイテク株も買い直された。
  ・FRBの利上げ姿勢で相場は下げていたため、持ち高調整の買いが入ったとの声も。

 3)3/16、NYダウ+518ドル高、34,063ドル(日経新聞より抜粋
  ・ウクライナとロシアの停戦交渉や、中国政府による景気刺激策への期待が強まり、景気敏感株を中心に買いが優勢だった。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果を発表すると、利上げ加速を警戒した売りでNYダウは下げに転じる場面もあり、相場は乱高下した。
  ・ウクライナのゼレンスキー大統領は3/16のビデオ演説で、ロシアとの停戦に向けた対話について、「交渉に現実味が出てきた」と述べた。中国政府が景気対策や、米中の企業会計監査を巡る対立の解決に向けて動いていると新華社通信が報じたこともあり、投資家の不安心理がやや和らいだ。
  ・FRBは、3/16のFOMCで政策金利を+0.25%引上げ、利上げは2018年12月以来。2022年の利上げ回数7回、2023年も4回の利上げを実施し、最終的な政策金利は2.75%に高まるとの予想を示した。
  ・一方、長期金利を従来の2.5%から2.4%に引下げ、景気をある程度犠牲にしてでもインフレを抑える方針を示した。公表結果後、NYダウは売りが膨らみ▲153ドル安となる場面があった。
  ・売り一巡後は、再び買い優勢となった。FRBは9兆ドル規模に膨らんだバランスシートの縮小方法の詳細については発表しなかった。市場の一部では、削減額など詳細が発表されるとの観測があったため、発表がなかったことで持ち高調整の買いも入ったようだ。
  ・航空機のボーイングが+5%高、中国比率の高いナイキの上げも目立った。米長期金利の上昇で利ザヤ改善期待で金融株も買われ、ハイテク株も高い。

●2.米国株:良い所取りした買い優勢相場⇒置き忘れた懸念材料は後回しの相場展開

 1)好材料で買い優勢
  ・不透明感のあったFRB金利引上げの決定。
  ・ウクライナ侵攻の停戦交渉が進展。

 2)忘れられた懸念材料の消化はこれから
  ・インフレ退治の積極的な金利引上げ策は、景気後退を連れてくる。
   ⇒ FRBのインフレ抑制策が、オーバーキルを招く。
   ⇒ スタグフレーション(金利引上げ+景気後退)のリスクに次の展開で向き合う。
  ・ウクライナ侵攻の停戦合意交渉は、始まったばかりで終わっていない。戦闘継続中。
   ⇒ ロシアのウクライナ侵攻軍は戦力ダウンで立て直しが必要。
  ・将軍4人戦死(全軍隊で24人)、戦死・戦傷者多数、戦意低下。
  ・精鋭ではなかった。
  ・ロシア軍の近代化遅れが露呈。兵站も弱点。
   ⇒ ロシアはウクライナ戦線に兵力増強中で時間稼ぎのため、停戦協議を利用?
  ・北方領土から戦力移動(3/16)。
  ・ロシアのカザフスタン進駐軍の移動。
  ・カザフスタン共和国軍のウクライナ侵攻への要請。
  ・チェチェン共和国の独裁者でありプーチン大統領に忠誠を誓う軍閥トップ(兵3万人)がウクライナのロシア軍に加勢(3/13)。
  ・シリヤなどから傭兵(16,000人)を募集・ウクライナ戦線に投入。
  ・プーチン大統領親衛隊までウクライナ戦線に投入する構え。
   ⇒ ウクライナの要求は、ロシアが容易に受諾するとは思えない。
  ・ロシア提案「中立国」は拒否する構えを出しており、交渉が進展するかは不透明。
   ・ウクライナは停戦の条件として、「米英トルコ」による保障を求めている。

 3)米国株の3/15~16の上げ相場は、大幅下落に対する揺り戻しで終わる可能性にも着目したい。
  ⇒ 過剰マネー相場終焉の残り火となる可能性。

●3.米FRBは3/16、+0.25%の金利引上げ決定、インフレ抑制へ、市場予想通り(フィスコ)

 1)2年間続けてきたゼロ金利を解除。

 2)2022年の利上げ回数は、7回を予想。

 3)セントルイス連銀ブラード総裁は、+0.50%の引上げを主張し、決定に反対票。

 4)米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定要旨
  ・インフレは引き続き上昇へ。
  ・FOMCは積極的な利上げペースを示唆。
  ・FRBのバランスシートの縮小は、今後のFOMC会合で開始を決定する。

 5)市場の反応
  ・2年国債利回り1.99%まで上昇、米国債は急落。
  ・米長短金利差が縮小し、リセッションを警戒。

●4.ウクライナの中立化、ロシアが受け入れの姿勢(ブルームバーグより抜粋

 1)露ペスコフ大統領府報道官:「スウエーデンやオーストリアの中立モデルでの議論は、ある種の妥協点とみなすことができる」と述べた。

 2)ウクライナ当局者:停戦合意交渉中も、ロシア軍はウクライナ各地で攻撃を緩めないと指摘し、交渉進展に懐疑的。

 3)ロシアのウクライナ侵攻は21日目に入った。

●5.米2月小売売上高は前月比+0.3%、予想+0.4%・1月+3.8%から下げた(フィスコ)

●6.米2月輸入物価は前月比+1.4%、1月+1.9%から鈍化、輸入インフレも一段落(フィスコ)

●7.ロシア政府は3/14決定、穀物輸出停止、国内の食糧自給を優先(ロイター/共同通信)

 1)小麦、トウモロコシの輸出禁止は6月末まで。
   白糖、粗糖の輸出禁止は8月まで。

●8.ロシアは、欧州の人権問題を扱う欧州評議会を脱退、評議会は即時に除名(産経新聞)

 1)ウクライナ政府は、ロシア軍による東部での病院占拠を非難。

●9.国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)は3/16、ロシアに侵攻を即時停止命令(フィスコ)

 1)ロシアは審理欠席。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/14、上海総合▲86安、3,223(亜州リサーチより抜粋
  ・景気不安が強まる流れとなった。
  ・新型コロナ感染が全国的に広がる中国では、代表的ハイテク企業が本社を構える深圳市など、複数の大都市が事実上のロックダウンに踏み切っている。経済活動の停滞が懸念される状況だ。
  ・また、中国人民銀行(中央銀行)が3/11発表した今年2月の金融統計では、国内金融機関の新規融資が前月実績から予想以上に縮小し、マネーサプライM2の伸び率も予想を下回っている。
  ・業種別では、消費関連の下げが目立ち、ITハイテク関連も安く、銀行も冴えない。素材・公益・エネルギー・運輸・不動産なども売られた。反面、航空機製造など防衛関連の一角はしっかり。
 
 2)3/15、上海総合▲159安、3,063(亜州リサーチより抜粋
  ・前日比▲4.95%安と、約1年8ヶ月ぶりの安値水準に大幅続落した。
  ・新型コロナ感染症の急増が危惧される流れとなった。感染が全国的に広がる中国本土では、代表的なハイテク企業が本社を構える深圳市など、複数の大都市で事実上のロックダウンに踏み切った。3/14に確認された1日当たりの新規感染者数は、再び過去2年で最多となった。北京市近郊の河北省廊坊市でもロックダウンが実施されるなど、各地で経済活動が停滞している。
  ・取引時間中に、小売売上高や鉱工業生産などが上振れたことを手掛かりに、指数が下げ渋る場面がみられたものの、引けにかけて売りの勢いが改めて強まった。
  ・業種別では、景気動向に敏感なエネルギー・素材が下げを主導し、不動産も急落。

 3)3/16、上海総合+106高、3,170(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策への期待感が相場を支える流れとなった。
  ・中国の国務院(政府)の金融安定発展委員会が3/16に開催され、劉鶴副首相は「市場に有利な政策を積極的に打ち出す」と強調した。「緊縮的」な政策は慎重となる方針を示した。
  ・指数は、このところ急落していただけに、買戻しも入りやすかった。
  ・新型コロナ感染の再拡大し、米中対立悪化を警戒して売られる場面があったものの、指数は中盤からプラスに転じ、引けにかけて一段高となった。
  ・業種別では、金融が相場を牽引し、ITハイテクも急伸、消費関連も高い。

●2.米国は、中国がロシアを支援すれば「深刻な結果を伴う」と警告(毎日新聞)

 1)中国はロシアに兵器供与の意向、米が同盟諸国に通知=米高官(ロイター)

●3.香港株式市場は3/15、株式市場は3/15、この2日で▲10%超下落した(NHK)

 1)中国本土各地で新型コロナ感染が急速に広がったことを受け、投資家の間で中国経済の先行きへの警戒感が一段と強まった。

 2)個人消費などへの影響に対する懸念から、売りが売りを呼ぶ展開となった。景気を支える金融緩和策がすぐには実施されないとの見方が広がり、売りにつながった。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/14、日経平均+145円高、25,307円(日経新聞より抜粋
  ・前週末の下げで値ごろ感が出たとみられた主力株に買いが入った。
  ・ドル高・円安で117円台後半となり、輸出採算改善の思惑から自動車や機械など輸出関連株が上昇し、一時+400円を超える場面があった。
  ・機関投資家による年度末の持ち高調整が一巡し、売り圧力が和らぐ中で、バリュー(割安)株を中心に買いが入った。
  ・郵船や商船三井、JFEなど相対的に配当利回りの高い銘柄の上昇も目立った。
  ・ウクライナとロシアに停戦に向けた進展がありそうだとの観測から、過度なリスク回避の姿勢が和らいだことも日本株の買いにつながった。
  ・観光需要喚起策「GT TOトラベル」の再開が、旅行や出張などの需要回復するとの期待から、空運・鉄道・レジャー関連が買われた。
  ・世界経済減速や資源高に伴うインフレへの警戒も根強く、消極的に内需関連に物色が向かった面もある。

 2)3/15、日経平均+38円高、25,346円(日経新聞より抜粋
  ・原油先物市場や円相場の下落が、投資家心理の支えとなった。
  ・一方、米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える中、前日に米長期金利が上昇したのを警戒して日経平均が下がる場面もあり、1日を通して方向感に欠ける展開。
  ・最近は原油高が企業収益や家計を圧迫するとの見方から株式相場を下押しするケースが多かったため、原油が先物市場で100ドルを割り込んだため、投資家の過度な懸念が和らいだ。
  ・ドル円が5年ぶりに118円まで円安に進み、輸出採算に改善につながるとみて、自動車株をはじめとした輸出関連株に物色が向かった。
  ・ロシアとウクライナの停戦合意が進まず、依然として先行き不透明感が強いことや3/15の香港株や上海株の大幅下落が日経平均の上値を抑えた。

 3)3/16、日経平均+415円高、25,762円(日経新聞より抜粋
  ・原油先物相場が下落し、過度なインフレ加速への懸念が後退した。
  ・米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表を前に株価指数先物に売り方の買戻しが散発的に入った。
  ・3/15の米国市場でWTI原油先物が▲6%超の下げとなり、原油高が企業収益を圧迫するとの懸念が和らぎ、空運株などを中心に幅広く買いが入った。
  ・アジア市場で上海株や香港株が大きく上昇し、投資家心理が強気に傾いた。
  ・東エレク・アドテスト・トヨタ・ソフトバンクGが高く、第一三共・NTTが下げた。

●2.日本株は、上昇を予想

 1)日本株は、米国株に連動しやすい構図となっている。

 2)株価が大幅下落しているため、値ごろ感から年金資金が流入して、株高となりやすい。

 3)外資系先物手口からも、買い上げたいバークレイズが今回も牽引役となり得る。

 4)ただし、主要中央銀行(米FRB、欧ECB、日銀)の市場への資金供出は期待できないため、株価上昇は一定となる可能性がある。

●3.日本政府は3/15、ロシアを最恵国待遇から排除へ(毎日新聞)

 1)排除した場合の関税は引上げられるが、軽微。
  カニ  4 %⇒ 6%
  ウニ  7  ⇒10
  鮭   3.5 ⇒ 5
  天然ガス、石炭は優遇適用前からゼロ。

 2)日本政府は効果が見込めないため、今後、輸入禁止を検討する。

●4.ブリジトン、ロシア生産停止を決定、輸出も3/14から停止(NHK)

●5.三井住友FG系列航空機リース会社は、ロシア航空会社に全35機の契約解除通告(ロイター)

●6.企業動向

 1)森永製菓  50品目で3~11%値上げ、5/31発売分から実施(TBS)
 2)JX金属   エネオス傘下。2,000億円で茨城県に工場新設。半導体向け先端素材生産(朝日新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4502 武田薬品   業績堅調、高配当。
 ・2502 アサヒ    業績堅調。
 ・5802 住友電    業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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