7年間で5100億円投資、世界のメジャープレイヤーとシェアを争う ロームのSiC事業

2023年7月2日 15:25

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記事提供元:エコノミックニュース

 シリコン(Si)の限界を超える次世代素材、炭化ケイ素(SiC)を使ったSiCパワー半導体は今後、急速な成長が見込めるが、世界のメジャープレイヤーと互角の健闘をみせているのが、京都に本拠を置く日本企業、ロームである

 シリコン(Si)の限界を超える次世代素材、炭化ケイ素(SiC)を使ったSiCパワー半導体は今後、急速な成長が見込めるが、世界のメジャープレイヤーと互角の健闘をみせているのが、京都に本拠を置く日本企業、ロームである[写真拡大]

 シリコン(Si)の限界を超える次世代素材、炭化ケイ素(SiC)を使ったSiCパワー半導体は今後、急速な成長が見込めるが、世界のメジャープレイヤーと互角の健闘をみせているのが、京都に本拠を置く日本企業、ロームである。すでにSiC事業に対して7年間で5100億円の積極投資を決めており、未来に向けて果敢にチャレンジしている。

 ■倍々ゲームの成長が見込めるSiCの未来

 大電圧、大電流への耐性があり、自動車、ロボット、通信機器、コンピュータなど幅広い機器の電源(パワーユニット)で、交直流変換、電圧、電流、周波数のコントロール、スイッチングなどの用途で使われる半導体素子「パワー半導体」は、今や伸び盛りの分野である。その素材は今まで主にシリコン(Si)が使われてきたが、次世代素材の炭化ケイ素(シリコンカーバイト/SiC)を使ったパワー半導体がいま、大きく伸びようとしている。

 SiCはシリコンと炭素の化合物で、シリコンを電気炉で炭化させてつくられる。SiCパワー半導体の最大のメリットは、従来のSiパワー半導体に比べ電力損失が小さくなること。Si比で電力損失が最大で約70%低くなるというデータもある。

 

 メリットは消費電力の低減だけではない。電力損失のほとんどは熱に変わるので、機器内部の熱を逃がすファンや放熱器(ヒートシンク)を必要最小限にとどめることができ、その分、機器をより小型化し、コストも節約できるというメリットもある。

 電力損失も電力消費も小さいSiCパワー半導体は、「地球温暖化対策」「CO2削減」という世界的な課題に対応する「再生可能エネルギー」「省電力化」の産業トレンドにマッチしている。太陽光発電にも風力発電にも、電気自動車にも、ビルの電気設備にも、さらにロボットにも工作機械にも家電にも、SiCパワー半導体の活躍の場は大きくひろがると予想されている。

 矢野経済研究所は2023年5月、パワー半導体全体の世界市場(メーカー出荷金額ベース)は2022年の238.9億米ドルが、2030年には54.7%増の369.8億米ドルに拡大するという予測を発表した。そのうちSiCパワー半導体は、2022年見込みの14.6億米ドルが2025年には100%増の29.2億米ドルへ倍増し、2030年には442%増(4.42倍)の64.5億米ドルに達すると見込んでいる。SiCパワー半導体は、まさに倍々ゲームの勢いで伸びていくデバイスである。

 ■SiCのメジャープレイヤー、ローム

 パワー半導体の世界シェアは、1位はドイツのインフィニオン、2位はアメリカのオンセミコンダクター、3位がスイスのSTマイクロで、日本の三菱電機、富士電機、東芝が4~6位で続き、7位はアメリカのビシェイ、8位はオランダのネクスペリア。日本のルネサスが9位、ロームが10位となっている(2021年/OMDIA調べ)。

 10位以内に日本勢が5社も入っているので「パワー半導体は日本のお家芸」「日本の半導体産業最後の牙城」と言われることもある。

 さらに、その素材をSiCに絞れば業界地図は大きく変わる。SiC半導体のシェアを取りあっている主なメーカーは、ドイツのインフィニオン、スイスのSTマイクロ、日本のローム、アメリカのウルフスピードだ。

 パワー半導体で日本勢は好位置につけるが、とりわけ成長が期待できる次世代素材のSiCに限って言えば、ロームは日本勢のトップランナーであり、世界のメジャープレイヤーに割って入れるほどの存在感を示している。

 ■SiC事業に7年間で5100億円の積極投資

 前期、増収増益を維持したロームの2023年3月期決算によると、SiCパワー半導体が含まれる「半導体素子」のセグメント売上高は12.8%増、セグメント利益は5.4%増だった。電気自動車など「xEV」を中心に売上を伸ばしていた。

 「2025年度の売上高6000億円以上」を目指す中期経営計画「MOVING FORWARD to 2025」では、「電動車市場でグローバルトップシェア商品の確立」を掲げているが、その候補商品として絶縁ゲートドライバとともに「SiC」を挙げている。具体的には半導体素子の車載、産機向けのパワーデバイスで「EV主機インバータ向けSiCパワーモジュール開発」を成長方針に加えており、車載向けソリューションで、「大電力」「高電圧」に対応できるSiCパワー半導体によって成長の果実をより多く得ようという戦略が、そこから読み取れる。

 SiCの売上高は、2027年度にはSiをしのいでパワーデバイス事業の主役になると見込んでいる。SiCパイプラインは2025年度から2027年度までの累計で1兆7800億円であり、2027度のSiC事業の売上目標を2700億円以上と見定めている。拡大する需要に応え、売上目標を達成すべく、2021年度から2027年度までの7年間で累計5100億円の設備投資を行う計画だ。

 SiC事業のキャパシティ(月産ウエハ枚数)は、2025年度までに2021年度比6.5倍、2030年度までに2021年度比35倍という大きな増強を想定。2022年12月から量産を開始した筑後工場のSiC新棟では、需要の拡大に合わせて6インチウエハから8インチウエハへの変換が可能な設備を導入している。そして2027年度以降の生産拡大に向けて、次なる生産拠点を検討中だ。

 パワー半導体を「日本のお家芸」にしたのは三菱電機、富士電機、東芝だったが、倍々ゲームの急成長が見込まれる次世代のSiCパワー半導体では、集中投資を予定しているロームが日本勢の旗手になり、シェアで世界のメジャープレイヤーと互角にわたりあう可能性も秘めている。(編集担当:寺尾淳)

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