何社が自動車メーカーを名乗れるか

2025年5月24日 14:43

印刷

Photo: 日産オースチンA50型=「技術の日産」も乗用車生産はオースチン(イギリス)のノックダウンで学んだ ©sawahajime

Photo: 日産オースチンA50型=「技術の日産」も乗用車生産はオースチン(イギリス)のノックダウンで学んだ ©sawahajime[写真拡大]

 昨今の様にEV車といった、正統派「自動車」からの派生機種が登場する以前を思い出して欲しい。その頃は内燃機関搭載車(ガソリン車やディーゼル車)が主流であった。

【こちらも】国産品に対する信頼性

●EV車台頭以前の自動車業界

 自動車生産には、高度な技術とそれを支える裾野の広い部品工業企業群が必須である。戦後の日本もそうだった様に、最初は先進メーカーと提携して「ノックダウン」と言う、車1台分を完成できる部品一式で輸入して、組立てる段階からスタートするケースが多かった。

 当時は、自動車先進国はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアといったところだろう。北欧にも、ボルボ、サーブといった優秀なメーカーが存在した。

 日本の場合、乗用車生産は、トヨタは独自開発に拘ったが、日産はオースチン(イギリス)、日野はルノー(フランス)、いすゞはヒルマン(イギリス)のノックダウンからスタートした。

 戦後の世界各国には、結構多くの「自動車メーカー」が存在したが、既に先進国と途上国には大きな技術格差が生まれつつあった。

●独自メーカーがある国と系列生産で対応する国

 多くの国々はと言えば、先進国メーカーの現地工場や、地元企業の組立て工場で受託生産をする国はあったが、その国独自の「自動車メーカー」は存在しないところが多かった。

 その国単独で自動車を生産できるのは、日本、アメリカ、ドイツだけだと言われてきたが、今やアメリカもドイツも、日本製部品に頼る場面が増えている。

 インドの様に、スズキの現地メーカーであるマルチが寡占状況の市場に、タタが進出して来た国もあれば、オーストラリアの様にGMの生産をしていたホールデンズが撤退した為、自動車メーカーが存在しなくなった国もある。

 「自動車」を生産するには、高度な工業技術と広い裾野の部品メーカーが必要なのだ。

●EV車も自動車の一種だ

 内燃機関搭載車の世の中が続く限り、中国は未来永劫マトモな「自動車生産国」の仲間入りは出来ない。そこで土俵とルールを変えて、EV車で転換を図ったのだ。

 しかしEV車は単に、「自動車」の心臓部である、高度な技術の結晶である「内燃機関」を、簡単に造れる「電動モーター」に置き換えようとしただけの物だ。

 マトモな「自動車」に焼玉エンジンを搭載しても「動力性能に劣る自動車」になるが、高性能電動モーターを適当な車体に搭載しても「自動車」にはならない。

 マトモな「自動車」を造れるメーカーなら、『内燃機関搭載なら、「満タンから残量ゼロに近づく」につれて軽くなるが、車載電池は重量が不変』、と言った特性を勘案して造れば「自動車」が出来る。

 しかしマトモな動力源を持って来ても、シャシ性能がマトモで無ければ「自動車」にはならない。

 テスラやBYDが、50年以上も前の「シャシ関係のトラブル」を引き起こすのも、マトモな「自動車」を造った事が無いからなのだ。

●日本のバイクメーカー数の変化が根拠

 ロードスター開発にも深く携わって来た立花啓毅氏(商品開発コンサルタント)によれば、 1960年代の2輪車全盛期に、日本には283社ものメーカーが存在したそうだ

 しかしこの中で、現在も継続して2輪を生産しているのは、ホンダ、スズキ、ヤマハ、カワサキの4社しか残っていないのが事実である。

 撤退して行ったメーカーには、三菱が「シルバーピジョン」、スバルは「ラビット」、ダンプやパッカー等の特装車や飛行艇の新明和工業も「ポインター」を作っていた。

 それ程の技術を持った企業であってさえこの様な状況なのだ。バイクよりも難しい「マトモなEV車」レベルに達するのは、数えるほどしか無いはずだ。

●生き残って「自動車」メーカーを名乗れるのは

 多分EV車メーカーで生き残るのは、「内燃機関搭載車で実績あるメーカー」以外では極めて少数だろう。

 土俵とルール変更と政治的圧力と政府の補助金だけでは「自動車」は造れない。

 「自動車メーカーを名乗れる」ぽっと出の企業には無理で、極めて少数の、技術に優れたメーカー以外は絶滅するだろう。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事