「水素社会」はほんとうにやって来るのか? 補助金乱発なれど、先が見えないH2インフラ

2015年8月1日 22:53

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記事提供元:エコノミックニュース

トヨタのFCV「MIRAI」のショールームと岩谷の水素ステーションが合体した東京・芝公園に出来た都内初の施設

トヨタのFCV「MIRAI」のショールームと岩谷の水素ステーションが合体した東京・芝公園に出来た都内初の施設[写真拡大]

 トヨタ自動車が昨年、燃料電池車(FCV)「MIRAI」を販売開始して以降、燃料電池を使って発電する家庭用給湯機器メーカーも販売拡大に動き始めており、世界に先駆けて一般の消費者にも水素の利用を拡大する取り組みが進んでいる。 安倍晋三首相は成長戦略で「水素社会の実現」を掲げている。自動車だけではなく、水素利用の裾野は拡大する方向で進んでいる。

 FCV普及の鍵を握るインフラ環境整備も進んでいる。過日、トヨタ、日産、ホンダの自動車メーカー3社と経済産業省がFCVの普及に向け、「水素ステーション」の運営にかかる費用のほぼ全額を補助するとニュースが報道された。インフラ事業者に対する運営費の支援内容に加え、インフラ事業者と共同でサービスの向上などに向けた水素充填システム環境づくりに取り組むという。これは今年2月12日に発表した、燃料電池自動車用の水素ステーションの整備促進に向けた支援策を共同で推進するとの考え方に沿った施策だという。

 前述した自動車メーカー3社は、政府による水素ステーションの運営支援と協調し、水素供給ビジネスへの参入を決めたインフラ事業者に対して水素ステーションの運営に必要な経費の一部を支援するとともに、この支援策の周知を図り、水素供給ビジネスへの新たな事業者の参入を促進していく。メーカー3社は、水素ステーション1カ所について年3300万円を上限に3分の1を補助する。残る3分の2は国が補助することですでに決定している。

 7月の時点で、水素ステーションは全国で23カ所がオープンし、58カ所の設置が決定。ステーションの建設には約5億円、運営には年間3300万~4000万円程度が必要だとされている。その建設・設置費の半額は国が補助している。

 ただし、当面はFCVの台数は非常に少なく利益が出にくい。そのため国とメーカー3社で運営費を出し合ってステーション設置促進を推し進めていく計画だ。移動式のステーションを複数の場所で使う例を含め、当面全国で100カ所を目指すという。補助は2020年までの予定。

 ひとつの水素ステーションの黒字化には1日90~100台程度のFCVが満タン充填する必要があるとされ、全拠点100カ所が黒字営業するには、1万台ほどのFCVが毎日満タン充填する必要となる。

 トヨタによれば、FCV「ミライ」の生産は2017年末時点で累計約5700台になるとしている。今後、日産とホンダがFCVの販売をどこまで伸ばせるかも水素ステーション普及のカギを握りそうだ。

 また、東京都では2020年のオリンピック開催までに都営バスの臨海副都心部路線に100台規模の燃料電池バス「FCバス」を運行させるとしている。東京都心部では、このあたりの消費量も見込める。

 当面、水素ステーション運営費の支援は、水素供給・利用技術研究組合(HySUT/ハイサット)に設置する「燃料電池自動車新規需要創出活動助成事業」への資金拠出を通じて行なう。HySUTは、燃料電池自動車の一般ユーザーへの普及開始を目指し、水素供給インフラの構築とビジネス環境の整備を目的として2009年7月に技術研究組合法に基づいて設立された法人。現在、エネルギー関連企業に加え自動車会社など、19社・団体を組合員として活動している。

 運営費の支援内容は以下のとおり。支援対象者はHySUTの組合員であり、支援基準は、一般社団法人「次世代自動車振興センター(NeV)」の「燃料電池自動車新規需要創出活動補助事業」で認められたステーションの運営に係る経費(人件費や修繕費等)が対象。支援割合は1/3、かつ、支援上限額は1基当たり年間1100万円。ただし、政府施策や水素ステーションの設置・運営状況に応じて、見直す場合もあるという。

 また、これとは別に東京都もすでに発表しているFCV購入補助金に加えて、都内に水素ステーション建設を促進するためステーション建設補助事業をスタートさせている。この事業で2020年までに東京都内に35カ所以上の水素ステーション設備オープンを目指すという。

 トヨタ自動車は、FCVやFCVの燃料である水素についての情報発信施設「TOYOTA MIRAIショールーム」を、4月に東京都港区にオープン。そこでは、岩谷産業が運営する東京都内で初となる「イワタニ水素ステーション芝公園」を併設する。将来の水素社会の実現に向けて、FCVや水素を身近なものと感じてもらうことを目的に開設したという。(編集担当:吉田恒)

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