宇宙に生命は存在し得るか? 赤色矮星を巡る惑星の大気観測プロジェクト、初データは「大気なし」を示唆

2026年7月13日 21:51

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宇宙で最も一般的な恒星である「赤色矮星(M型星)」の周囲を回る岩石惑星が、果たして大気を保持できるのか。この謎に挑む野心的な観測プロジェクト「Rocky Worlds」の最初の観測結果が発表された。NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とハッブル宇宙望遠鏡(HST)を用いた共同観測により、地球サイズの惑星「GJ 3929 b」は大気を持たない「むき出しの岩石」である可能性が高いことが示された。これは、宇宙における生命存在の可能性について、多くの研究者が期待していたよりも厳しい現実を突きつけるものとなるかもしれない。

■15ミクロンの赤外線で「見えない大気」を捉える技術

宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)は2026年7月9日、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とハッブル宇宙望遠鏡(HST)を連携させた観測プログラム「Rocky Worlds Director's Discretionary Time(DDT)」において、52光年先にある赤色矮星を周回する地球サイズの岩石惑星「GJ 3929 b」の最初の完全な測定を完了したと発表した。学術誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載された査読済み論文の分析によると、3シグマ以上の信頼度で、100ミリバールを超える二酸化炭素に富んだ厚い大気の存在が否定された。これは、大気による緩和層がなく、恒星の光を直接吸収して再放射している「むき出しの岩石」の性質と一致する。

天の川銀河に存在する主系列星の約75%は、GJ 3929のようなM型赤色矮星が占めている。その周囲を回る何十億もの岩石惑星が大気を保持できるかどうかは、単なる科学的好奇心にとどまらず、それらの系で生命を探査するための根本的な前提条件となる。今回の「Rocky Worlds」プログラムは、その検証に向けた記念すべき最初のデータポイントを獲得したことになる。

このプログラムを支える技術は「二次食(セカンダリー・エクリプス)測光」と呼ばれるもので、その原理は極めて精密だ。岩石惑星が主星の後ろを通過する際(二次食)、恒星と惑星を合わせたシステム全体の明るさがわずかに低下する。この全体の明るさと、二次食中に測定された恒星単体の明るさを比較することで、惑星自身が放つ熱放射(輝き)を分離して抽出することができる。このわずかな減光率(ppm単位)を測定することで、惑星に大気があるのか、あるいはむき出しの岩石なのかを判別できるのだ。

JWSTの中間赤外線装置(MIRI)は、この二次食を15ミクロンの波長で観測する。この波長が選ばれたのは、2つの独立した大気の兆候を同時に捉えられるからだ。二酸化炭素は15ミクロン付近に広い吸収帯を持つため、大気中に二酸化炭素が存在すれば熱放射を吸収し、測定される昼側の放射束はむき出しの岩石よりも低くなる。また、GJ 3929 bは潮汐ロック(常に同じ面を主星に向ける現象)されているため、大気がなければ昼側の表面温度は理論上の最大値に達する。もし熱を昼側から夜側へと循環させる大気が存在すれば、昼側の温度は下がり、二次食による減光は浅くなる。つまり、大気があれば二次食は浅くなり、むき出しの岩石であれば深くなるという、同じ方向性のシグナルが得られる仕組みだ。

2025年9月から2026年4月にかけて、MIRIを用いてGJ 3929 bの二次食観測が4回実施された。データは望遠鏡からダウンロードされた直後に、マクルスキー宇宙望遠鏡アーカイブ(MAST)を通じてすべて一般公開された。2026年6月25日に公開された4回の二次食データの同時フィッティング分析では、合算された二次食の深さが118 ± 22 ppm、昼側の表面輝度温度が641ケルビン(約368℃)と算出された。これは、大気の介在なしに恒星光を直接吸収して再放射する惑星の予想最大温度と一致している。

これらの観測が行われる一方で、ハッブル宇宙望遠鏡の宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)は、主星であるGJ 3929自体の紫外線出力を測定し、この恒星がどれほど激しく惑星に高エネルギー放射線を浴びせているかを記録した。JWSTには紫外線観測能力がないため、この2つの望遠鏡による共同アーキテクチャは、観測を成立させるために不可欠な要素であった。

■赤色矮星の過酷な環境と「宇宙の海岸線」の書き換え

主星のGJ 3929は、質量が太陽の約31%、表面温度が約3,400ケルビン、光度が太陽の約1%という典型的な赤色矮星(M型星)だ。このタイプの恒星は決して珍しい存在ではなく、天の川銀河の主系列星の4分の3以上を占める統計的な「標準」である。また、太陽に似た恒星と同等かそれ以上の割合で岩石惑星を従えている。赤色矮星のハビタブルゾーン(生命居住可能性領域)は主星の極めて近くに位置するため、そこを回る岩石惑星の公転周期は短くなる。その結果、地球から見て主星の手前を通過(トランジット)する確率が高くなり、より高温の恒星を回る惑星よりも観測が容易になる。

この位置関係こそが観測を可能にする一方で、結果を厳しいものにする要因でもある。赤色矮星の至近軌道を回る惑星は、何十億年にもわたって強力な紫外線やX線にさらされ、大気中の揮発性物質を剥ぎ取られてしまう可能性がある。特に若い赤色矮星は、太陽の数十万倍もの強度で高エネルギー放射線を放出する。GJ 3929 bは、主星の「金星ゾーン」と呼ばれる領域に位置しており、地球が太陽から受けるの約17倍もの恒星放射束を浴びている。その位置は、大気散逸の境界線を示す理論モデル「宇宙の海岸線(Cosmic Shoreline)」において、大気を失う側に分類される。今回の4回にわたる二次食データは、このターゲットに対する予測を裏付ける形となった。

「宇宙の海岸線」とは、2017年に惑星科学者のケビン・J・ザーンレ氏とデビッド・C・キャトリング氏によって提唱されたフレームワークだ。惑星の脱出速度(揮発性物質を引き留める重力)と、生涯にわたって主星から受けた累積高エネルギー放射線量を比較し、厚い大気を保持している太陽系天体と大気のない天体を分ける経験的な境界線を描いたものである。太陽系の惑星をプロットすると、火星がちょうどこの境界線上に位置する。Rocky Worldsプログラムは、系外惑星のデータをこの図にプロットし、赤色矮星システムにおいてもこの境界線が維持されるかを検証するために設計された。

しかし、2025年の研究では、大気の保持にとってさらに不利な方向へと境界線が修正された。赤色矮星が近接惑星に与える累積のX線および紫外線照射量を再分析したところ、実際の照射レベルは従来のザーンレらの予測値に比べて平均2.1倍、前主系列段階の活動や恒星フレアを含めると3.1倍も高いことが示唆された。また、別の2025年の流体力学的散逸モデルを用いた研究でも、Rocky Worldsの観測対象のほとんどが、従来の境界線よりもさらに不利な「大気なし」の領域に属するという結論が出ている。これらの理論的洗練を総合すると、大気を保持した赤色矮星の岩石惑星が存在するとしても、それは観測対象の多数派ではなく、極めて少数派になる可能性が高いと予測されている。

それでも、このプログラムのターゲットリストは、恒星環境や惑星の性質(非常に強い放射線を受けるものから、ハビタブルゾーンの近くや内部に位置するものまで)が多岐にわたるよう設計されている。理論からの推測だけでなく、実際の検出・非検出データに基づいて、経験的な境界線の位置を正確に描き出すことが目的だからだ。

STScIのアシスタント天文学者であり、同プログラムの副リードを務めるハンナ・ダイアモンド=ロウ氏は、「これこそがRocky Worldsプログラムが存在する理由です。これらはハイリスク・ハイリターンな観測ですが、最初のターゲットを完了できたことは、私たちがその手法を確立している証拠です」と述べている。

■技術的・組織的な挑戦とオープンデータポリシー

最初の実証の場としてGJ 3929 bが選ばれたのは、劇的な大気検出の確率が最も高かったからではない。科学的価値と観測の実現可能性が最も優れた組み合わせだったからだ。主星が比較的近く明るいこと、惑星の公転周期が2.6日と短く頻繁に二次食が起こること、そしてCARMENESやMAROON-X分光器などの既存の装置による視線速度データが十分に存在し、軌道を絞り込んで二次食のタイミングを正確に予測できたことが理由である。

この軌道予測は、プログラムにおいて最も技術的に困難な課題の一つだった。岩石惑星の軌道要素にわずかな不確実性があるだけでも、二次食のタイミング予測に数分から数時間のズレが生じてしまう。JWSTの莫大な運用コストを考慮すると、広い時間窓をダラダラと観測するのは非効率極まりない。そこでチームは、2段階のチェックポイント戦略を開発した。まず、大気がないと仮定した場合の明るさで二次食を検出するのに十分な回数の観測を行い、タイミング予測を洗練させる。その後、検出を確認し、追加の観測を重ねた上で完全なデータセットを公開するという戦略だ。2025年9月の最初の二次食データの公開、同年10月の2回目の公開、そして2026年6月の4回合算データの公開は、この戦略がGJ 3929 bにおいて完全に実行されたことを示している。

世界中の科学者たちが、JWSTの観測開始前に収集された未公開の視線速度測定データを提供し、精密なタイミング予測を支援した。この協力体制は、単なる運用の便宜ではなく、意図的に設計された枠組みである。

STScIのミッションサイエンティストであり、Rocky Worlds DDTプログラムを率いるネストル・エスピノーサ氏は、「これは私たちの実証の場でした。最初の観測を完了できたことは、このプログラムが技術的、科学的、そして共同研究の面でも機能することを示しています」と語る。なお、プログラムの2番目のターゲットである「TOI-771 b」の本格的な観測も始まっており、最初の二次食データは2026年6月26日に公開されている。

Rocky Worldsプログラムの大きな特徴の一つが、データの「専有期間ゼロ(即時一般公開)」ポリシーだ。データは望遠鏡からダウンロードされ次第、一切の猶予期間や独占アクセス期間なしで一般公開される。実際、学術誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されたXueら(2025年)による「大気なし(裸の岩石)」を示す査読済み論文は、シカゴ大学の独立した研究チームが公開された最初の2回の二次食データにアクセスし、データ公開からわずか数ヶ月で分析を投稿したものだ。その後、2026年6月にはConnorsらによる4回の二次食データを用いた論文が続き、最新の測光パイプラインを用いて分析が行われた。

オープンデータがもたらす分析の乱立を管理するため、STScIは最近、2つの調整メカニズムを立ち上げた。「Rocky Worlds DDT Data Challenge」では、コミュニティに対して異なるパイプラインを用いて観測データを分析し、結果を比較することを求めている。この成果は、2026年11月16日から18日にかけてボルチモアのSTScIで開催されるワークショップで発表される予定だ。もう一つの「Community Involvement Initiative」は、研究者が分析手法や補完的な観測、出版計画を共有するためのオープンなフォーラムであり、その運営委員会の推薦受付は2026年7月17日まで行われている。

エスピノーサ氏は、「私たちはコミュニティに帰属するものを作りたかったのです。目標は画期的な科学成果を生み出すことだけでなく、多くの研究者が共に貢献し、協力し、学び合える枠組みを構築することです」と述べている。また、STScI所長のジェニファー・ロッツ氏は、「このチームの取り組みは、科学運用、エンジニアリング、スケジューリング、ソフトウェア開発、そして大規模プロジェクト管理の専門知識を結集し、天文学において最も技術的に困難な観測を実行するという、当研究所のユニークな能力を最大限に示したものです」と評価した。

■観測の精度と今後の展望:ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡の登場

手法における重要な懸念点として、二次食測光による大気検出には数十ppm(100万分の数パーセント)レベルの信号を区別する必要がある一方、15ミクロンにおける赤色矮星のスペクトルを解釈するために使用される恒星大気モデルには40〜80 ppmの不確実性が存在するという問題がある。これは検出対象の大気シグナルよりも大きい。モデルの不確実性が厳密に制御されなければ、本物の大気シグナルが見落とされたり、モデルの誤差によって誤って「大気なし」と判断されたりする危険性がある。

Rocky Worldsチームはこの系統誤差を認識し、対策を講じている。MIRIのフィルターホイールを観測前に特定の構成に配置して検出器を調整する「プレ・スルー・フィルター実験」により、15ミクロンの時系列測光に影響を与える初期の不安定性を低減させている。また、前述の「Data Challenge」は、競合するデータ処理パイプラインをベンチマークし、どの手法が系統誤差に対して最も堅牢であるかを特定することを目的の一つとしている。さらに、プログラムで計画されている10以上のターゲットによる統計サンプルは、すべての惑星に同様に影響を与える系統的な傾向を特定するためのセーフガードとなる。

現在、Rocky Worldsプログラムは約12個の厳選された近隣ターゲットに対して基準となる手法と大気特性のデータを提供しているが、NASAの「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」が打ち上げられれば、このターゲット数は劇的に拡大する見込みだ。

ローマン宇宙望遠鏡は2026年6月21日にフロリダ州のケネディ宇宙センターに到着し、2026年8月30日にスペースXのファルコン・ヘビー・ロケットによる打ち上げを控えて最終調整に入っている。ハッブルの100倍の視野を持つ3億画素の広視野赤外線カメラを搭載し、特定の天体を狙う従来の望遠鏡では不可能な規模とスピードで空をサーベイする。ローマンの「銀河バルジ時間領域サーベイ」だけでも、赤色矮星を回る小型惑星を含む、数万個の新しいトランジット系外惑星を発見すると予測されている。

この2つのプログラムの連携には明確な論理がある。JWSTとハッブルが観測手法を確立し、「宇宙の海岸線」に沿った最初の実証データを構築し、ローマンが将来の調査プログラムのために新たな候補惑星を大量に提供する。将来のセンサス(全数調査)によって、赤色矮星の惑星系では大気のない岩石惑星が支配的であることが確認されるのか、あるいは一部の惑星が大気を保持できていることが明らかになるのか。その結果が、宇宙で最もありふれた惑星環境における生命発見の統計的確率を左右することになるだろう。

■太陽に似た恒星を回る惑星への適用は?

なお、JWSTによる大気検出手法は、太陽に似た恒星(G型星)のハビタブルゾーンを回る岩石惑星には適用できない。これが、Rocky Worldsのようなプログラムが現在重要であり、かつ将来の「Large Interferometer For Exoplanets(LIFE)」のような長期ミッションが必要とされる理由だ。

JWSTが用いるトランジット分光法や二次食測光は、惑星が地球から見て主星の手前や後ろを通過することを前提としている。この幾何学的条件は、冷たく小さな恒星のすぐ近くを回る惑星(まさに赤色矮星を回る岩石惑星)に圧倒的に有利に働く。太陽に似た恒星のハビタブルゾーンを回る惑星は、主星から遠く離れており、トランジットの頻度も極めて低いため、JWSTが現実的な観測時間内で大気の有無を判定するのに十分な信号を蓄積することは不可能だ。そうしたターゲットの探査には、根本的に異なる望遠鏡のアーキテクチャが必要となる。

■注目ポイントQ&A

●GJ 3929 bが「大気を持たない可能性が高い(むき出しの岩石)」とはどういう意味ですか?

JWSTによる4回の二次食測定の分析から、GJ 3929 bの昼側の表面温度が、大気による熱の循環や二酸化炭素による熱の吸収がない、恒星光を直接反射・放射する惑星の理論値と一致したことを意味します。データは、100ミリバールを超える二酸化炭素に富んだ大気の存在を、科学的な信頼基準である3シグマ以上の精度で否定しています。これは惑星が地質学的に死んでいることを意味するわけではありませんが、火山活動などで二次大気が形成されたとしても、赤色矮星からの強力な放射線によってすでに剥ぎ取られてしまった可能性を示唆しています。

●赤色矮星を回る岩石惑星のほとんどには大気がないということでしょうか?

その可能性があり、最新の研究では当初の想定よりもさらに厳しい状況が示唆されています。大気保持の境界線を示す「宇宙の海岸線」モデルの2025年の改訂では、赤色矮星が惑星に与える累積の高エネルギー放射線量が、従来の予測の2.1倍から3.1倍に達することが判明しました。また、別のモデル研究でも、Rocky Worldsプログラムの対象惑星の多くが「大気なし」の領域に属すると結論づけられています。ただし、このプログラムは様々な環境の惑星を調査するため、最終的なターゲット全体のデータが出揃うことで、理論通りの厳しい結果になるのか、あるいは大気を保持できる例外的な惑星が存在するのかが明らかになります。

●数十光年も離れた惑星の大気の有無を、JWSTはどのようにして検出しているのですか?

JWSTのMIRIという装置を使い、惑星が主星の後ろに隠れる「二次食」の際の、システム全体の極めてわずかな明るさの低下(ppm単位)を測定します。大気のない惑星は昼側が非常に高温になり、夜側へ熱を逃がせないため、二次食の際の減光(熱放射の減少)が深くなります。一方、大気があれば熱が分散され、さらに二酸化炭素が15ミクロンの赤外線を吸収するため、二次食の減光は浅くなります。この減光の深さを複数回測定・分析することで、大気の有無を判別しています。

●一般の研究者もRocky Worldsのデータ分析に参加できますか?

はい、参加可能です。STScIはデータを即時一般公開するポリシーをとっており、誰でもアクセスできます。また、異なるデータ処理パイプラインを比較する「Rocky Worlds DDT Data Challenge」(2026年11月にワークショップ開催)や、分析手法や計画を共有するフォーラム「Community Involvement Initiative」(運営委員の推薦は2026年7月17日まで)といった、共同研究を促進する枠組みが用意されています。

元記事: Red Dwarf Rocky Planets: JWST Survey’s First Result Points Toward an Airless Galaxy

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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