間もなく解禁される「無線給電」、どんな利用が可能なのか? (下)

2022年2月6日 20:17

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 無線給電メリットの2つ目は、バッテリーの重量を極力抑えることが出来ることだ。急速に利用が進むドローンの悩みは、飛行時間の長さとバッテリーの重量との呪縛だ。飛行時間を求めると、バッテリーは重くなる。2倍のバッテリーを積んでも、飛行距離が2倍になる訳ではない。

【前回は】間もなく解禁される「無線給電」、どんな利用が可能なのか? (上)

 現在のドローンは、機体重量の3分の1程をバッテリーが占めることもあるようだから、無線給電によりバッテリーを軽量化できればより長距離飛行が可能になる。何より、パッテリー切れに神経をすり減らすストレスから解放される。

 同様の恩恵は、電動の垂直離着陸(eVTOL)機(空飛ぶクルマ)にも及ぶ。バッテリーの重量が抑えられれば、機体の軽量化につながり航続距離や飛行時間が増加する。

 無線給電には給電範囲の広い空間伝送型と、送電機と受電気が隣接する必要がある近接接合型がある。さらにそれぞれは方式の違いにより2つに分けられる。

 空間伝送型には給電効率が数%で、IoTセンサーなどへの活用が想定されるマイクロ波方式と、20%程度の給電効率でAGV(自動搬送ロボット)やドローンでの利用が見込まれている光伝送方式がある。近接接合型には給電効率が80~90%で、国際標準規格Qiが定められ既にスマホなどで利用されている電磁誘導方式と、給電効率が70~90%で、EVなどへの用途が想定されている磁界共鳴方式がある。磁界共鳴方式は位置ずれに対応しやすいという特性があり、自動車のような重量物に適している。

 国内では約20万に及ぶ基地局設備持つソフトバンクが、情報通信研究機構(NICT)や京都大学、金沢工業大学の支援・協力を得て、電力を携帯の基地局から飛ばす技術の開発を始める。ソフトバンクは当初有人環境で使える920メガヘルツ帯の周波数で、1ミリワット弱の電力を携帯の基地局から半径10メートル程度の範囲に飛ばす実験を開始する。低電力でも機能するスマートウオッチやイヤホンなどがエリア内にあれば、バッテリーのチャージが不要になる可能性がある。

 この実験の帰趨によっては、ソフトバンクのビジネスモデルが「通信データ量で課金するモデルから、電力使用量によって課金するモデルへと変化する可能性」を秘めている。通信会社が電力会社に変貌するかも知れない。

 可能性が広がる無線給電だが、人体への影響や電波障害を懸念する声もある。特に、空間伝送型の光伝送方式のように、ロボットやドローンを動かすような大きな電力を空中に飛ばす方式の場合には、人や障害物をよける補助技術を機器に搭載することが求められる筈だ。

 今回微弱な電力を供給する920メガヘルツ帯のみが解禁されることにも、今後2~8年間の期間を掛けて安全な給電環境への技術革新に期待する規制当局の思惑が滲み出ている。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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