企業のCSRはボランティア? 理念や姿勢が現われるCSRへの取り組み

2019年5月19日 22:08

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記事提供元:エコノミックニュース

企業CSR活動の中でも盛んに行われている植林や植樹活動でも、企業によってその内容や目的は大きく異なる

企業CSR活動の中でも盛んに行われている植林や植樹活動でも、企業によってその内容や目的は大きく異なる[写真拡大]

 今や、大企業だけでなく、中小企業でも積極的に行われるようになってきたCSR活動。CSRはCorporate Social Responsibilityの略で、日本語においては度々「企業の社会的責任」と訳されることが多い。無論、この日本語訳が間違っているわけではないのだが、言葉の解釈によっては、そぐわない場合もある。

 単に社会的責任というのであれば、納税や雇用を健全に行っているだけでも、企業活動は社会的にその役割を十分にはたしているともいえる。また、「責任」という言葉から「当然、やるべきこと」というようなイメージが喚起されるため、企業側では自社のCSRの取り組みの積極的な広報に躊躇してしまったり、情報を受け取る側も「大企業なら社会に還元して当然」と思ってしまいがちだ。

 しかし、CSR活動は、企業が利害に関係無く行っているボランティア活動ではない。

 そもそも、企業がCSR活動を行う大きな目的は「企業価値の向上」だ。中には、経営者のボランティア精神などが大きく影響しているケースもあるが、企業としてのCSRの最終目的は、活動を通して企業をブランディングし、ステークホルダー への企業イメージの向上と、未来の顧客の獲得にある。そのために自社の経営資源や独自技術などを活かして、社会的な課題の解決に取り組んでいるのだ。また、社会側から見たCSRも同様に、企業が勝手に行っている活動ではなく、社会的な課題を企業のサポートを得て取り組む共同作業という認識が必要なのではないだろうか。

 そのためには、企業はもっと自社のCSR活動を宣伝した方が良いし、我々消費者側ももっと積極的にその活動内容を知ろうとするべきではないだろうか。

 企業CSR活動の中でも盛んに行われている植林や植樹活動でも、企業によってその内容や目的は大きく異なる。

 例えば、ミツバチ産品の製造販売で知られる株式会社山田養蜂場は、中国広東省韶関(しょうかん)市に広がる荒地を緑化するため、5月18日に植樹祭を実施した。同地は鉄鉱石をとるために森林伐採が行われた鉱山跡地で、今回の植樹祭では、日本と中国から約70名が参加し、アラカシやホルトノキなど9 種類の苗木約5000本の植樹を行うが、植樹祭以外の日程でも中国で植樹を行い、年内に 25000 本の木を植える予定だという。

 これだけの情報では、よくある単なる植樹活動だ。しかし、同社が様々な苗木を植えることに大きな理由がある。実は、広東省で行われている植樹の多くは、緑化と原料生産を目的にユーカリの植林ばかりが行われているという。ユーカリは成長がとても早く、建築材やパルプ製造などに適している有益な資源だからだ。ところが、その一方で外来種であるユーカリは、分泌される精油が、土壌の微生物を殺してしまうなどのデメリットも孕んでいる。このままユーカリの単一林化が加速してしまうと、他の植物にも悪影響を与え、生物多様性が失われてしまうだろう。そこで山田養蜂場では横浜国立大学名誉教授・宮脇 昭氏の指導のもと、 土地本来の樹種に基づく植樹を行っているのだ。

 また、花キューピットの運営で知られる一般社団法人JFTD や生命保険会社のアフラック、三越伊勢丹ホールディングスなど多くの企業が協賛に名を連ねる、公益財団法人「鎮守の森のプロジェクト」では、東日本大震災や阪神大震災での罹災経験から、自然環境面だけではなく、防災面での森や林の重要性を考え、これまでに約48万本以上もの植樹活動を行っている。同プロジェクトもやはり、単に木を植えているわけではなく、植樹予定地域の植生を調べ、どのような種類の木がどの位の割合で自生しているかをまず割り出したあと、現場の近くで自生している種子を拾って苗木に育て、植樹している。さらに植樹後も3年間をめどに草抜きなどのメンテナンスを行ったあと、自然の循環に任せて森になるまで見守っていくという。

 残念ながら、これらの活動は一般的にはあまり知られていない。知っていても、その内容や目的、意味まで掘り下げて考えることは少ないのではないだろうか。もちろん、中には単にイメージアップのために植樹活動を行っている企業も多いと思う。しかし、上記のように意味のあるCSRを行っている企業が多いことも確かだ。極端な言い方をすれば、CSRへの取り組みを見ると、その企業の理念や姿勢が見て取れる。そういった活動を知ることで、本当の意味で社会的責任を果たしている企業を知ることもできるのだ。(編集担当:藤原伊織)

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