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Anthropic、サムスンと独自のAI推論チップ開発に向けて初期協議か――2nmプロセス採用を視野に
AIスタートアップのAnthropic(アンソロピック)が、サムスン電子とカスタムAIチップの製造に向けた初期段階の協議に入ったと報じられた。この動きは、Nvidiaへのほぼ全面的な依存から脱却しようとする主要AI企業の最新の試みとなる。一方で、最先端の半導体製造分野でTSMCを追うサムスンにとっても、重要な大口顧客を獲得する好機となる可能性がある。
■サムスンとの初期協議と人材獲得の動き
米The Informationの報道によると、対話型AI「Claude(クロード)」を開発するAnthropicとサムスンとの協議は、まだ初期の模索段階にあるという。関係者3人が同メディアに語ったところによると、Anthropicはプロセッサの仕様、電力要件、クラスター構成を定義している最中であり、チップの最適化対象や性能、サーバーラックへの組み込み方法などは未定だ。現時点で物理的なプロトタイプは存在せず、製造スケジュールも決まっていない。
しかし、水面下での動きは着実に進んでいる。Anthropicは2026年6月初旬、OpenAIのカスタムチップ開発チームの2人目のエンジニアであったクライブ・チャン(Clive Chan)氏を採用した。同氏はOpenAIで約2年半にわたり、ブロードコム(Broadcom)設計の推論アクセラレータ「Jalapeño(ハラペーニョ)」の開発に携わった人物であり、ソフトウェア層からAIアクセラレータを設計するノウハウをAnthropicにもたらすとみられている。
■なぜサムスンなのか:資金と技術の両面から探る
サムスンが提携先として浮上した背景には、資金面でのつながりと製造技術の2つの要因がある。
資金面では、サムスンは2026年5月に実施されたAnthropicの650億ドル規模のシリーズH資金調達ラウンドに、SKハイニックス(SK Hynix)やマイクロン(Micron)とともに戦略的インフラパートナーとして参加している。しかし、サムスンが他の2社と決定的に異なるのは、自社で半導体受託製造(ファウンドリ)事業を運営している点だ。SKハイニックスとマイクロンはメモリチップの製造に特化しているが、サムスンは他社が設計したチップを自社工場で製造できる能力を持つ。
技術面において、両者の協議はサムスンの2nm(ナノメートル)プロセスノード(正式名称:SF2)と先進パッケージング施設に焦点を当てている。SF2は、従来のFinFET構造から「Gate-All-Around(GAA)」ナノシートトランジスタへと移行した次世代アーキテクチャだ。GAAはゲートがチャネルの4方を取り囲む構造で、電流制御を厳密に行えるため、前世代比で同一電力なら15%の性能向上、または大幅な消費電力削減が可能とされる。サムスンは2025年末にSF2の量産を開始したとされている。
また、現代の高性能AIチップは単一のダイ(半導体チップの本体)で構成されることは稀で、コアロジックやメモリインターフェースなどを2.5Dや3Dスタッキングなどの先進技術で1つのパッケージに統合する。サムスンのパッケージング部門はこの異種混合集積(ヘテロジニアス・インテグレーション)を専門としており、今回の協議には製造プロセスだけでなくパッケージングの設計も含まれている模様だ。
■狙いは「学習」ではなく「推論」チップ
今回のチップ開発において、Anthropicの狙いは「学習(トレーニング)」ではなく「推論(インファレンス)」にある。膨大なデータセットを用いてモデルを教育する学習分野では、依然としてNvidiaのGPUが圧倒的なシェアを誇り、短期的には代替手段が存在しない。しかし、日々何百万人ものユーザーにClaudeの回答を返す「推論」プロセスにおいては、独自のカスタムチップが大きな経済的メリットをもたらす可能性がある。
学習用チップには極めて高いスループットと柔軟なアーキテクチャが求められるのに対し、推論用チップには低遅延かつ低コストでの高速応答が求められる。つまり、汎用計算のオーバーヘッドを排除し、特定のトランスフォーマー演算を理論上の限界効率に近い形で実行できる専用ハードウェアが理想となる。
OpenAIがブロードコムと共同開発し、2026年6月24日に発表した推論専用チップ「Jalapeño」は、初期テストにおいて一般的なAI GPUと比較して約50%のコスト削減を示したとブロードコムのホック・タンCEOはBloombergに語っている。Claudeを大規模に展開するAnthropicにとっても、モデルのアーキテクチャに最適化されたカスタムチップを導入できれば、同様の劇的なコスト削減が期待できる。
■地政学的リスクの回避とOpenAIとの交渉決裂
サムスンが魅力的なパートナーであるもう一つの理由は地政学的な要因だ。サムスンの韓国国内の工場や、2027年に2nm生産を開始予定の米国テキサス州テイラーの工場で製造されるチップは、米中間の半導体摩擦の影響を受けにくい。韓国および米国の法管轄下で稼働するサムスンの工場は、機密性の高い企業データを扱うAI企業にとって、ガバナンス上の安心感をもたらす。
さらに、タイミングも重要だ。サムスンは当初、OpenAI向けにARMベースのカスタム推論NPU(ニューラルプロセッシングユニット)を開発していたとされるが、韓国メディアの報道によると、両社間の戦略的相違により2026年6月初旬に協議が頓挫した。OpenAIのサム・アルトマンCEOは、予定していたソウル訪問をキャンセルしたと報じられている。
サムスンがOpenAIプロジェクトに向けていた開発リソースや2nmの生産枠をAnthropicに振り向けることができれば、Anthropicは実績のあるパートナーを獲得でき、サムスンはTSMCとの差を縮めるための大口顧客を確保できるという、双方にとってメリットのある関係が成立する。
■懸念されるサムスンの「歩留まり」問題
一方で、サムスンの2nm計画には「歩留まり(良品率)」という大きな課題が残る。歩留まりが低いと、チップ1個あたりのコストが上昇し、供給の安定性も損なわれる。サムスンの第1世代SF2プロセスは、2025年の大半を通じて歩留まりが50〜60%の範囲にとどまっていたと報じられており、これはアナリストが商業的に存続可能とみなす70〜80%の基準を下回っている。競合するTSMCのN2プロセスはすでに65〜80%の歩留まりに達し、AppleやNvidiaなどの大口顧客向けに量産に入っているとされる。
サムスンの性能最適化版である第2世代の「SF2P」ノードは、2026年初頭時点で歩留まりが70%近くに達しているとの報道もあるが、これが商業規模の大量生産において安定して維持できるかは未知数だ。チップの安定調達と予測可能なコストを重視するAnthropicにとって、この不確実性は重要な検討事項となるだろう。
なお、Anthropicのチップ調達に関する協議はサムスンに限定されていない。同社はMicrosoftのチップや、英国のスタートアップであるFractile(フラクタイル)のチップの採用についても協議を行っているとされる。また、Googleも将来のTPU(Tensor Processing Unit)製造に関してサムスンと協議中であると報じられている。
■Nvidiaの牙城と今後の展望
現在、AIチップ市場は依然としてNvidiaが支配している。The Informationの推計によると、Nvidiaの市場シェアは74%に達している。AI学習インフラへの需要が急増しているため、競合他社がカスタムシリコンの開発を急いでも、Nvidiaの優位性は揺らいでいない。
しかし、AI運用のインフラ負荷は環境面での課題も突きつけている。2025年には、データセンターの拡張とAIハードウェア製造の影響で、Googleの炭素排出量が25%増加、Amazonも16%増加したことが両社のサステナビリティレポートで明らかになった。電力を抑えつつ多くのユーザーを処理できる推論最適化チップは、経済的な理由だけでなく、規制や環境への配慮からも不可欠な存在になりつつある。
Anthropicはサムスンとの協議について具体的なコメントを避けたが、The Informationに対し「AWSのTrainium、GoogleのTPU、そしてNvidiaのGPUは、当社のコンピュート戦略を拡張する上で引き続き中心的な存在であり続ける」との声明を出した。サムスンもコメントを控えている。
この声明は、並行して進められるカスタムチップ計画と矛盾するものではない。既存のパートナーシップは現在のインフラを支えるものであり、サムスンとの協議が実を結べば、3〜5年後には自社設計のカスタムチップがそのポートフォリオに加わることになるかもしれない。
■注目ポイントQ&A
●Anthropicが開発を検討しているカスタムAIチップはどのようなものですか?
サムスンとの間で、2nmプロセス技術および先進パッケージング技術を採用したカスタムAI推論チップの製造について初期段階の協議が行われていると報じられています。現時点ではプロトタイプはなく、具体的な仕様や製造スケジュールは未定です。
●カスタムAIチップを導入することで、どのようなメリットがありますか?
特定のAIモデル(Claudeなど)の演算処理に特化させることで、汎用GPU(Nvidia製など)が持つ不要なオーバーヘッドを削減し、推論コストを大幅に引き下げることが可能になります。先行するOpenAIの推論チップ「Jalapeño」では、初期テストで約50%のコスト削減が示されたと報じられています。
●サムスンの2nmプロセス(SF2)の課題は何ですか?
主な課題は「歩留まり(良品率)」です。サムスンの第1世代SF2プロセスの歩留まりは50〜60%台にとどまっていたとされ、商業的に採算が合うとされる70〜80%の基準を下回っていました。改良版のSF2Pでは70%近くに改善しているとの報道もありますが、大量生産における安定性はまだ証明されていません。
●AnthropicはNvidiaやGoogle、Amazonのチップ使用をやめるのですか?
いいえ、その予定はありません。Anthropicは、AWSのTrainium、GoogleのTPU、NvidiaのGPUが今後も同社のコンピュート戦略の中心であり続けると表明しています。カスタムチップが実現した場合、既存のチップを置き換えるのではなく、特定の推論ワークロードを処理するための新たな選択肢として追加される見込みです。
元記事: Anthropic in Talks With Samsung to Build Custom AI Chip, Aiming at 2nm Process
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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