5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (73)

2022年12月31日 16:58

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イメージ図(筆者作成)

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 自分の考えを周囲に合わせたり、周りの人と同じ行動を取ろうとすることを「同調効果」と言います。これは、同じ目標に向かって周囲の人と仕事を進めていく「意思ある協調性」とは意味が異なります。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (72)

 「みんながやっているから(悪い行動でも)問題ない」。このような集団ヒステリー的な同調効果が働くと、人は間違った行為であっても、周囲の人と同じ行動を取ってしまい、熟慮した選択や行動を怠ってしまうそうです。

 古い例ですが、ビートたけしの「赤信号、みんなで渡れば怖くない」がそうです。これは間違った行動にもかかわらず、周囲に合わせることを優先してしまう「マイナスの同調効果」の1つです。40年以上前の標語ギャグですが、じつに普遍的。いまだに他者に引きずられて、信号無視する歩行者や自転車が絶えないわけですから。

 ここまでの説明だと「マイナスイメージが強い同調効果」ですが、イギリスでは「プラス方向の同調効果」を誘発する企画が話題になりました。

■(73)灰皿を投票箱にするCSVが、マイナス行動をプラスへと変容させる

 イギリスの環境保全団体が、「ロンドンの街からタバコのポイ捨てをなくす」ために同調効果を利用した画期的な喫煙所を設置しました。ポイ捨て防止には当然灰皿である「吸い殻入れ」が必要。その「吸い殻入れ」をなんと「アンケートの投票箱」にしてしまったのです。(イメージ図参考)

 その「投票式吸い殻入れ」の上部には、「ロナウドとメッシ、どちらが巧いサッカー選手か?」や「AppleとAndroid、いい電話はどっちか?」といった質問文が記されています。そして、そのすぐ下に2つの選択肢(答え)によって分けられた「透明ポケット」があり、それぞれに吸い殻の「投入口」が設けられています。2つの選択肢のうち、どちらかの投入口に喫煙者がタバコの吸い殻を入れて「2択投票」をしていく仕組みです。

 この2つのポケットは「ガラス窓」になっているので、そこに溜まっていく吸い殻の量が「投票数」として通行者に確認できるデザインになっています。つまり、現状どちらが優勢か、アンケートの回答状況が一目でわかり、吸い殻の回収量も視認できる秀逸な設計になっているのです。

 結果として、この「投票式吸い殻入れ」は、タバコのポイ捨てを46%も減少させ、約400万本もの吸い殻を回収したそうです。喫煙者たちに「関心の高いアンケートテーマ」を掲げ続け、自然と彼らに行動変容を促したことがポイ捨て減少につながったようです。

 この企画の長所は、「ポイ捨て絶対禁止」といった説教や「健康被害を訴える」恐怖訴求を使わずに、あくまでも「一般的な話題・テーマからの質問」で喫煙者たちとの「対話」を目指した点です。

 ネガティブワードで喫煙者たちを説き伏せて従わせるような対立軸を作るのではなく、文句を言わずに、自然と懐に入っていく巧妙さが、この企画にはあります。喫煙自体を否定しないクレバーなアプローチは、特筆に値します。

 今回はNPOの企画ですが、もし、仮にタバコメーカーのような一般企業からの発信であれば、Creating Shared Value (CSV)になりうる企画です。タバコのポイ捨てという社会状況を、喫煙者を責めることなく、別の関心事や他の問題と絡めながら、ポイ捨てという課題を解決するアプローチになっています。

 このように、実効性が高く、社会機能するCSV施策を積極的に打ち出す団体・企業に、ひいてはその国に、人は好感を抱くものです。その視点では、日本はまだまだ「クリエイティブ途上国」だと私は思っています。

 ※参考文献:「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」、「タバコのポイ捨てが46%減少 世界で広がる「投票式吸い殻入れ」対策がユニーク | ELEMINIST(エレミニスト)2022.03.08」

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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