水素エンジン車耐久レース完走の意義

2021年6月18日 16:56

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富士24時間レースで完走を果たした「ORC ROOKIE Racing Corolla H2 concept」 (画像提供 トヨタイムズ)

富士24時間レースで完走を果たした「ORC ROOKIE Racing Corolla H2 concept」 (画像提供 トヨタイムズ)[写真拡大]

 大変嬉しいニュースだった。次世代の「内燃機関」に位置づけられるべき「水素エンジン」で耐久レースに参戦した「ORC ROOKIE Racing Corolla H2 concept」が、富士24時間レースで完走を果たしたのだ。

【こちらも】究極のクリーンカーその2 水素エンジン車

●COP3でのBMW水素エンジン車

 「京都議定書」が採択された1997年12月、国立京都国際会議会館で開催された「第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議 COP3)」に、BMWは水素エンジン車を展示していた。

 筆者が初めて「水素エンジン車」に接し、ここで入手したBMWのパンフレットの、「宇宙で一番クリーンなエネルギーは、太陽光発電で得た電気を用いて、水を電気分解して取り出した水素だ」(原文英語・筆者訳)との文言に触れたのだが、それは強烈な印象を残した。

●その頃の開発課題

 現地でBMWの担当者と話したが、この車の課題を訊ねたところ、「長期間放置すると、充填した水素が次第に無くなる」との回答を得た。

 これは多分当たり障りの無い回答で、本音は1本のシリンダー内で4行程を行う、レシプロエンジン故の、水素燃料ならではの課題、即ち「水素がエンジン内の高温部分に触れ、早期着火(バックファイア)する」難問を抱えていたのは想像に難くない。

 水素を噴射するインジェクターは、シール部にラバーを用いるにも拘わらず、シリンダーヘッドが高温になるため、取付け位置と遮熱に苦労する。

 そんな課題もあったのだろう。その後、BMWは「水素エンジン車」開発を断念した様だ。

●難題を克服して富士24時間を完走

 同じST-Qクラスの「ORC ROOKIE Racing GR SUPRA」の650ラップに対して358ラップであったが、通常のガソリンエンジンをベースにレースカーを開発するだけでも非常な困難が伴う。

 まして、コントロールの難しい「水素」を燃料とする次世代のエンジンを過酷な状況に曝される「耐久レース」に投入するのは、大英断だった。それ故に、この成果に感動した。

●企業代表者の矜持

 このレースにはドライバーネーム「モリゾー」を名乗る豊田章男社長自らもハンドルを握ったことにも、大きな意味があった。

 「一般人」と「世界最大の自動車メーカー代表者」とでは、その存在自体の意味合いが違う。

 既に「水素を燃料とする車」の安全性が確立されていることは、認識されている筈だが、未だ一部危険視する向きもある。

 その様な環境下で、自身もハンドルを握って参戦し、完走を果たしたことに対して最大の賛辞を捧げたい。

●完走車のデータ

 エンジン概要 : 総排気量1,618cc 直列3気筒インタークーラーターボ
 使用燃料:圧縮気体水素
 ◆#S耐 #富士24時間 決勝レース 32号車 水素エンジンカローラの記録
 〇走行距離 【1,634km(358周)】
 〇走行時間 【11時間54分】
 〇ピット時間 【12時間6分】その内水素充填時間 【4時間5分】
 〇水素充填回数 【35回】

 これを単純に「耐久レース」結果として分析すれば、水素充填時間は今後の開発課題であるとして、ピットストップ時間が大きかったことだ。

 レースの詳細は以下の記事に詳しい。

 TOYOTA NEWS #150|水素エンジン24時間耐久レース全記録|トヨタイムズ (toyotatimes.jp) 

 ここでは、先日行なわれた記者会見での、豊田社長のメッセージに注目したい。以下に一部を抜粋する。

●自工会・豊田会長のメッセージ

 水素エンジン車に対する豊田会長のメッセージを「原文のまま」にお伝えしたい。

 『先日の日米首脳会談では、菅総理が「2030年」というマイルストーンを置いて、カーボンニュートラルに向けた取り組みを加速するという強い意志を示されました。

 今、日本がやるべきことは技術の選択肢を増やしていくことであり、規制・法制化はその次だと思います。

 最初からガソリン車やディーゼル車を禁止するような政策は、その選択肢を自ら狭め、日本の強みを失うことにもなりかねません。

 政策決定におかれましては、この順番が逆にならないようお願い申し上げます。』

●EV車押しの原因を冷静に見極めよう

 中国が、自国の技術レベルの低さ故、土俵とルールを変えて強権的に普及を目指したEV車に、欧州勢がクリーンディーゼルの実現に失敗して、大きな市場である中国に擦り寄った結果の「EV車推し」の時流に流されて、日本の将来を誤らせる規制・法制化は、絶対に阻止しなければならない。

 2020年6月8日付「究極のクリーンカーその2 水素エンジン車」で触れた様に、本当に地球環境に優しい、究極のクリーンカーは「燃料電池車」と「水素エンジン車」しか存在しない。

 EV車は決してクリーンカーでは無い。

●水素エンジン車に強い味方

 ロータリーエンジンは水素を燃料とするシステムとの親和性が高い。

 レシプロエンジンには「早期着火(バックファイア)」が難問として存在するが、ロータリーエンジンは三角形の、おにぎり形状のローターが、繭型のハウジング内を遊星運動して回るエンジンで、吸気ポートから入った燃料(水素)はプラグが設けられた燃焼室へ移動する。

 そこでプラグで着火した燃料は、排気ポートへ送られるため、吸入した燃料が排気と接触しないので早期着火(バックファイア)が起こり難い。

 BMWの撤退で、「水素エンジン車」は「マイナーな内燃機関」であるロータリーエンジンのみとなり、相当の苦戦が予想されたが、今回の「ORC ROOKIE Racing Corolla H2 concept」が富士24時間レースで完走した事実で、「レシプロの水素エンジン」も現実の物となったことを、広く知らしめた。

 常々筆者が理想として語っている「水素社会の到来」への展望が大きく開け、自動車産業に関係する550万人に大いなる希望を与えてくれたのだ。改めて感謝と賛辞を捧げたい。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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