ジスプロシウム価格、欧州と中国で16倍超の差 レアアース調達の課題

(Pexels/Hao Liang)[写真拡大]
中国国内と中国国外で、重希土類の価格差が広がっている。調査会社Benchmark Mineral Intelligenceによると、2026年第3四半期末のジスプロシウム酸化物の欧州向け価格は、中国国内価格の約16.3倍に達した。防衛、電気自動車(EV)、半導体関連企業にとって、調達先の地域や引き渡し条件を踏まえた価格の把握が重要になっている。
中国レアアース産業協会の価格指数は10月28日に258.3となった。一方、中国国外では重希土類の供給制約が続き、企業による新たな分離・精製設備の整備と、政府が関与する長期購入契約が進んでいる。
■中国国内指数と域外価格の開き
中国レアアース産業協会の指数は、2010年通年の取引データを基準の100とし、中国国内企業の日々の取引データの平均を用いて算出される。258.3は基準を158.3%上回る水準だ。専門情報サイトRare Earth Exchanges(REEx)が紹介した推移では、2026年4月上旬には約310まで上昇していた。
REExの10月29日付の価格評価では、ジスプロシウム酸化物は中国国内で1kg当たり210〜216ドル(約3万3200~3万4100円)、中国国外で2500〜5500ドル(約39万5000~86万9000円)だった。両者の価格帯を比較すると約12〜26倍の開きがある。テルビウム酸化物は中国国内の946〜955ドル(約14万9000~15万1000円)に対し、中国国外では1万〜1万3000ドル(約158万~205万円)と評価された。
同サイトによると、10月28日の中国市場ではジスプロシウム酸化物が上昇する一方、テルビウム酸化物とネオジムを多く含む混合酸化物は下落した。総合指数の動きと、個々の元素の値動きには違いがある。
Benchmarkによると、ジスプロシウム酸化物の欧州CIF価格は2026年第3四半期に150%上昇し、9月平均は1kg当たり3500ドル(約55万3000円)となった。中国国内のDDP価格に対する倍率は、第2四半期末の6.8倍から第3四半期末の約16.3倍へ拡大した。CIFは運賃・保険料込み、DDPは関税込み持ち込み渡しを表し、比較する際には取引条件にも注意が必要だ。
同社の9月の欧州CIF評価では、テルビウム酸化物は前月比23%上昇し、1kg当たり6745ドル(約107万円)となった。S&P Global傘下のPlattsも、9月30日の北米CIF価格をジスプロシウム酸化物3250ドル(約51万4000円)、テルビウム酸化物7500ドル(約119万円)と評価している。地域、評価日、取引条件が異なる各指標から、中国国外での調達価格の高さが読み取れる。
■輸出許可制度と供給の偏り
中国商務部と税関総署は2025年4月4日、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7元素に関係する品目を輸出管理の対象にした。対象には金属、合金、酸化物、化合物や一部の磁石材料などが含まれ、輸出には許可が必要となる。この4月の制度は、その後の10月措置の停止期間中も適用が続いている。
ロイターが2026年5月13日に報じた中国税関データの分析では、イットリウム、ジスプロシウム、テルビウムの輸出量は、規制導入後の期間に直前12カ月と比べ約50%減少した。中国国外で最大のレアアース磁石生産国である日本へのジスプロシウム供給は、比較対象期間の4%にとどまったという。
Benchmarkは2026年第3四半期の市場分析で、中国の輸出制限が中国国外の供給可能量を制約し、まとまった量のジスプロシウムやテルビウムを確保する買い手が高い価格を支払っていると説明している。国内価格と輸入先での価格に差が生じる背景には、こうした供給条件の違いがある。
中国国外の取引には、売り手と買い手が個別に条件を決める相対取引も多い。REExは、中国国外の価格形成の不透明さを指摘し、提示された価格と実際に引き渡せる材料の確保を分けて考えるよう促している。調達時には、数量や納期に加え、輸出許可、原産地、純度、顧客による材料認定も確認する必要がある。
■11月10日の公告期限と米中合意
中国が2025年10月に発表した追加措置には、中国国外で製造された特定のレアアース関連品目に対する輸出管理が含まれる。商務部公告第61号では、指定された中国原産品目の価値が、国外製造の対象品目の価値の0.1%以上を占める場合などに、中国国外からの輸出にも中国の許可を求める仕組みが示された。
ジェトロの解説によると、この価値比率の対象は、公告の付属書で指定されたレアアース永久磁石素材やターゲット材などだ。また、中国由来の採掘・製錬分離・磁石製造などの技術を用いて国外で生産した指定品目も対象に含まれる。適用範囲は、輸出する品目と原料・技術の条件によって決まる。
2025年11月7日の商務部・税関総署公告第70号は、これらを含む6件の公告の実施を2026年11月10日まで停止すると定めた。さらに中国商務部は2026年9月28日、関税・非関税措置の一部停止を含む米中のクアラルンプール合意を、2027年1月10日まで延長することで合意したと発表している。企業の調達判断では、この合意の具体化と個別の輸出管理公告の扱いが焦点になる。
政策の見通しを巡っては、予測市場Manifoldの「2026年11月30日にも10月措置の停止が続いているか」という設問が、10月末の確認時点で86%を示していた。同サイトは仮想ポイントを使う予測サービスで、この設問の表示では保有者6人、取引10件となっていた。
国際エネルギー機関(IEA)は2026年7月、追加的なレアアース輸出管理が全面的に実施された場合、中国国外で年間約6兆5000億ドルに相当する下流産業の生産が供給途絶リスクにさらされ得ると推計した。自動車、電子機器、防衛、エネルギーなど、少量の重要材料に依存する幅広い産業が影響を受ける構造だ。
■防衛、EV、半導体を支える材料
ネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB)磁石は、モーターなどに使われる高性能な永久磁石だ。物質・材料研究機構などの研究発表によると、高温用のネオジム磁石では、磁化を保つ力である保磁力を高めるため、ジスプロシウムやテルビウムが用いられる。高温にさらされるEV駆動モーターや防衛機器では、材料の選択が性能と調達の両面に関わる。
米陸軍が2019年に掲載した解説は、2013年の米議会調査局報告を引用し、F-35戦闘機1機に必要なレアアース材料を920ポンド、約417kgとしている。レアアースは、誘導装置、電子機器、レーザー、モーターなど、さまざまな防衛用途を支えている。
米国の防衛調達では、合衆国法典第10編4872条などに基づき、中国、ロシア、イラン、北朝鮮に関係する対象磁石・材料の調達が制限される。2027年1月1日以降に締結する契約では、対象国での採掘・精製・分離にまで調達制限が及ぶ。対象にはNdFeB磁石やサマリウム・コバルト磁石などが含まれ、適用除外や例外の条件も設けられている。
半導体製造では、イットリウムを含む材料が装置部材を支える。酸化イットリウムはエッチング装置などの耐プラズマ被膜に使われ、イットリア安定化ジルコニアも装置部材に用いられる。イットリウムアルミニウムガーネット(YAG)は固体レーザー材料として実用化されている。
ロイターが2026年5月に引用したArgusのデータでは、中国国外のイットリウム価格は2025年4月以降、約140倍に上昇していた。レアアースの用途は磁石に加え、エルビウムを使う光ファイバー増幅器や、テルビウム、サマリウムなどを含む光学・レーザー材料にも広がる。産業ごとの調達リスクを把握するには、用途ごとに必要な元素と材料の形態を見ることが重要だ。
■価格下限付き契約で供給網を育成
米政府は、長期契約と価格下限を通じて中国国外の供給網整備を支援している。MP Materialsが2025年7月に発表した米国防総省との10年間の取り決めでは、備蓄または販売される同社のネオジム・プラセオジム(NdPr)製品に、1kg当たり110ドル(約1万7400円)の価格下限が設定された。
Lynas Rare Earthsも2026年3月、米政府向けのレアアース酸化物供給契約を最終化するため、法的拘束力のある基本合意書を締結したと発表した。4年間で9600万ドル(約152億円)を購入に充て、NdPr酸化物の下限価格を1kg当たり110ドル(約1万7400円)とする内容だ。MP Materialsとは契約期間や枠組みが異なる。
ブラジルのSerra Verdeは、米政府機関と民間資本が出資する特別目的事業体との間で、磁石用レアアース4元素を対象とする15年間の全量引き取り契約を確保している。USA Rare Earthの2026年4月の投資家向け資料では、ジスプロシウムの下限価格は1kg当たり575ドル(約9万900円)、テルビウムは2050ドル(約32万4000円)と示された。これらは各契約の対象生産物に適用される価格条件だ。
USA Rare Earthは、Serra Verdeの買収を2026年9月3日に完了したと発表している。4月の買収契約発表時の評価額は約28億ドルだった。鉱山・加工設備と、分離、金属化、磁石製造をつなぐ供給体制の整備を進める方針だ。
■新規設備と調達指標の整備が進む
MP Materialsは、カリフォルニア州マウンテンパスで重希土類分離設備の整備を進めている。2025年11月の決算説明資料では、ジスプロシウムとテルビウムを合わせて年間200トン超を分離する初期能力を計画として示した。2026年9月の投資家向け説明でも、年内の生産開始を目標としている。
Lynasはマレーシアで重希土類分離能力を拡張している。同社の2026年6月期年次報告書によると、ジスプロシウムとテルビウムの酸化物は2025年6月期に初生産し、2026年6月期には顧客への初出荷を行った。既存生産の拡大と新規設備の建設が並行して進んでいる。
オーストラリアのIluka Resourcesは、西オーストラリア州エネアバで軽希土類と重希土類の両方を生産する精製所を建設中だ。同社は2027年の試運転を予定しており、自社と第三者の原料を処理する供給拠点として整備している。
価格指標を契約に取り入れる動きもある。Mining Weeklyによると、Arafura Rare Earthsが2026年10月に締結した5年間の引き取り契約は、NdPr酸化物を年間850トン供給し、国際取引の独立した価格指数に連動させる内容だ。BenchmarkやS&P GlobalのPlattsによる指数が参照先の例として挙げられている。
S&P Globalが2026年1月に報じたProject Blueのデビッド・メリマン調査責任者の見通しでは、代替供給設備の建設と立ち上げが進む間、中国国外の重希土類供給には2026年から2027年にかけてボトルネックが続く。Bloomberg Intelligenceも同年3月、公的投資が増えても新規供給の立ち上がりには時間がかかり、短期的な不足が続くとの分析を示した。
中国国内の総合指数、地域別の酸化物価格、長期契約の下限価格は、それぞれ異なる取引を映している。調達モデルでは、必要な元素、製品形態、原産地、納期、認定条件に合う価格を選ぶ必要がある。価格差の大きい重希土類では、見積額とともに、必要な材料を必要な時期に確保できる供給網を評価することが欠かせない。
元記事: China Rare Earth Index Masks 16x Dysprosium Gap Ahead of November Deadline
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク
