日産の戦略車「アリア」は「戦略のトヨタ」と「取りあえずの日産」の差を解消できるのか? (2)

2020年7月16日 12:07

印刷

ワールドプレミアされた日産・アリア(画像: 日産自動車の発表資料より)

ワールドプレミアされた日産・アリア(画像: 日産自動車の発表資料より)[写真拡大]

■『トヨタはHV(ハイブリッド)、日産はEV(純電動車)』と別れた理由

 『トヨタはHV(ハイブリッド)、日産はEV(純電動車)』と別れた理由を考える時、まず、トヨタは世界の中で燃費削減に向けて積極的であったメーカーであったことを念頭に置きたい。HVをいち早く開発し、実験的なクルマとして「プリウス」を発売したのは1997年12月10日である。今からさかのぼること22年余り前ということになる。赤字覚悟の発売だった。

【前回は】日産の戦略車「アリア」は「戦略のトヨタ」と「取りあえずの日産」の差を解消できるのか? (1)

 その当時、プリウスが売れる車であるとの見込みが立っていたわけではなく、「先駆ける必要性」を強く感じていたトヨタ経営陣のコメントが印象的だった。そして何よりも、そのシステムの「簡素でかつ効率が高い」ことが普及を後押しした。

 現在でも、ホンダのクラッチを使った80km/h付近でのモーター走行とエンジン走行の切り替えるシステム、日産のエンジンを発電専用に用いる「e-Power」システムと比較して、トヨタ方式HVは効率が高いシステムである。これは、WLTCモード燃費を比較すれば明白だ。

 トヨタHVシステムは、世界の自動車メーカーが採用したい機構であろうが、長らくトヨタの特許であり、他社が勝手に採用できるものではなかった。そこで、ドイツなど欧州勢はクリーンディーゼルで対抗してきたが、「燃費計測改ざん」が露呈して、EVに舵を切らなければならなかったのが実情だ。

 一方、プリウスが発売された同時期の日産自動車は、1999年3月27日にルノーが日産の株式の36.8%を取得することで、事実上の倒産を迎える時期であったためか、燃費規制には出遅れていた。

 ようやく体制が整った時、当時のカルロス・ゴーンCEOは「EVで行く」とコメントしていた。しかしその後、資金効率の観点から、バッテリーの自主開発を手放すなど現実的路線に転じており、リーフに遅れてe-Power搭載車の発売に舵を切ってきている。

 e-PowerはHVの一種で、エンジンを発電専用に使い、走行はモーターで行う方式だ。この方式は低速領域では使いやすいが、高速域ではEVと同じ欠点を有する。燃費も、トヨタ方式HVに比較して未だに効率が劣る状態だ。

 そして現在、日本国内では日産はEVのリーフを発売しているが、トヨタは未だにEVを発売していない。これは、トヨタは「様子を見ている」と言うより「バッテリーの性能が不足している」状態であり、十分実用的な小型EVを造れないことが背景にある。バッテリーのエネルギー集積度がもう一段向上すれば、技術的な見地から実用車開発が出来る情勢になる。

 また、エンジンの燃焼効率がさらに上がると発電の熱効率に追いついてくるわけで、EVの必要性がなくなってくることも考えられる情勢であるため、水素エンジン、燃料電池車(FCV)も含めて、トヨタは「全方位の対応」をしているのだ。この中で、トヨタはFCV、HVとも特許を公開して普及を促している状況だ。

 こうしてみると、世界のメーカーの中でもトヨタは先の見通しを持って戦略的に動いていることが分かる。結果はどう出るのかは別にして、経営者が創業家であることが、現状では良い結果に現れている。

「ウーブン・シティ構想」など、この先のビジネスモデルを見通そうとしていることも含めて、「トヨタは先を見通そうと戦略的に動いてきている」と言える。それに対し、「配当」を目標に投資効率を最優先とするグローバル経営者の方針によってビジネスモデルが揺れる日産は、「HVに出遅れたのでEV」とする「取りあえず」の「目先の利益を優先」してきた様相が見えている。

 今後は、日産・アリアでこうした動きに歯止めをかけ、日産がEVで戦略的ビジネスモデルを構築していくことを期待したい。

 新型コロナウイルス感染拡大の現在のビジネス環境で、どの様な結果になるのか?注目していこう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事