古細菌で最小のゲノムを発見 「スクナ古細菌」は189遺伝子で複製の中核を保持

(turek/pexels.com)[写真拡大]
筑波大学などの研究チームは、海洋プランクトンの細胞に共在する微生物の遺伝子を調べ、既知の古細菌で最小のゲノムを持つ「Candidatus Sukunaarchaeum mirabile(スクナ古細菌)」を発見した。ゲノムは23万8034塩基対で、タンパク質をコードする遺伝子は189個。研究成果は2026年10月9日、学術誌「Current Biology」に掲載された。
スクナ古細菌は、DNAの複製やタンパク質の合成に必要な主要な遺伝子を保つ一方、栄養やエネルギーを得るための既知の代謝経路をほぼ失っている。研究チームは、必要な物質を他の生物に強く依存しているとみている。どの生物が宿主に当たるのか、細胞の姿や生態は今後の調査課題だ。
■従来の最小記録の半分以下
古細菌は、細菌、真核生物と並ぶ生物の大きな分類群の一つだ。スクナ古細菌のゲノムは、従来最小とされていた古細菌「Nanoarchaeum equitans」の約49万塩基対より約51%小さい。名称は日本神話の小さな神、少名毘古那に由来する。
研究チームは、静岡県下田市沖で採集した渦鞭毛藻「Citharistes regius」の単一細胞を解析した。この細胞には共生するシアノバクテリアなど複数の微生物が共在しており、その遺伝子配列の中から、古細菌に由来する小さな環状DNAが見つかった。
短いDNA断片を読むIllumina法と、長い断片を読むOxford Nanopore法のデータを使い、複数の方法で配列を組み立てても、約23.8万塩基対の切れ目のない環状配列が得られた。配列のGC含量は28.9%で、リボソームRNA遺伝子と31個の転移RNA遺伝子も含む。研究チームは、これらの結果から、古細菌の完全なゲノムを捉えたと判断した。
■代謝を縮小し、遺伝情報の装置を保つ
論文によると、189個のタンパク質コード遺伝子の52.4%は、遺伝情報の処理に関わる。ゲノムにはDNA複製、DNAからRNAへの転写、RNAからタンパク質への翻訳を担う装置の主要な構成要素が残されている。リボソームを構成するRNAの遺伝子も備えている。
一方、炭水化物の分解、脂質やアミノ酸の合成、エネルギー産生などに必要な既知の経路は、ゲノムからほぼ見つからなかった。機能を推定できたタンパク質のうち、遺伝情報の処理から明確に外れるものは5種で、4種は物質の輸送に関わる構成要素、残る1種の機能は定まっていない。この遺伝子構成が、他の生物への強い依存を示している。
筑波大学の中山卓郎助教はQuanta Magazineに、代謝は生命を定義する際の重要な要素の一つだと述べ、今回の発見が細胞性生命の多様さを示すと語った。微生物学者のTim Williams氏も同誌で、ゲノムを縮小した他の共生生物とは異なり、スクナ古細菌は自らの遺伝情報を増やすための遺伝子を残し、代謝に関わる遺伝子の大半を失ったと指摘している。
■巨大ウイルスや小さな共生細菌との比較
遺伝子数だけを見れば、スクナ古細菌の189個は巨大ウイルスの一部を下回る。例えばミミウイルスでは、改訂後のゲノム解析で979個のタンパク質コード遺伝子が予測されている。ウイルスがタンパク質を作る際には宿主のリボソームを利用するのに対し、スクナ古細菌のゲノムには自身のリボソームと翻訳装置を構成する遺伝子が残る。
2008年には、Didier Raoult氏とPatrick Forterre氏が、リボソームをコードする細胞生物と、カプシドをコードするウイルスを分けて考える枠組みを提案した。スクナ古細菌は、代謝に関わる遺伝子を極端に減らしながらも、細胞生物に特徴的な遺伝情報の装置を保持する例として、この議論に新たな材料を加える。
さらに小さなゲノムを持つ共生細菌もいる。吸汁性昆虫に共生する「Candidatus Carsonella ruddii」のゲノムは約15万9000塩基対だが、アミノ酸合成などに関わる遺伝子を残している。一方でスクナ古細菌は、そうした代謝経路をほぼ欠きながら、DNAの複製や遺伝子の発現に関わる装置を比較的よく保っている。
■機能不明の巨大タンパク質が占める4分の1
スクナ古細菌のゲノムには、機能が分かっていない巨大なタンパク質をコードする遺伝子が8個ある。合わせて5万9946塩基対を占め、ゲノム全体の約25%に相当する。予測される最大のタンパク質は4756アミノ酸からなる。
1000アミノ酸を超えるタンパク質は189種中13種で、全体の6.9%を占める。論文で比較した40万塩基対未満のゲノムを持つ細菌群では、この割合は1.5%だった。8種の機能不明タンパク質には膜を貫く部分が予測され、研究チームは細胞膜で働く可能性が高いとみている。
近縁の小型古細菌の一部には、宿主の細胞との接触や侵入に関わる大きな表面タンパク質がある。研究チームは、スクナ古細菌の巨大タンパク質も宿主との関係を支える可能性を挙げた。Quanta Magazineの取材に対し、微生物生態学者のPuri López-García氏は、進化によって配列が大きく変わったため、既知の遺伝子との比較では機能を特定できないタンパク質が含まれる可能性も示している。
■新たな系統と、まだ見えない宿主
研究チームは、149の古細菌ゲノムから選んだ70種の保存性の高いタンパク質を使って系統を解析した。最尤法ではスクナ古細菌がNanobdellati群全体の姉妹系統に、別の解析法ではHalobacteriotaの近くに置かれた。295通りの配置を調べる統計検定でも16通りが残り、系統樹上の正確な位置は定まっていない。
それでも、既知のどの古細菌の門にも収まらない、遺伝的に大きく隔たった系統であることが示された。研究チームは国際海洋調査「Tara Oceans」のデータも調べ、スクナ古細菌に近縁とみられるリボソームRNA配列を複数の海域で見つけた。さらに観測地点76の試料から組み立てたメタゲノムでも関連配列を確認し、この系統を「Sukuna-clade」と呼んでいる。
関連配列は、主に海水試料の5~20マイクロメートルの粒径画分から検出された。研究チームは、比較的大きな微生物と結び付いた生活様式との整合性を指摘する。ただし、スクナ古細菌そのものは遺伝子配列から知られる段階で、渦鞭毛藻C. regiusや、そこに共在する別の微生物のどれが宿主なのかは特定されていない。
■最小細胞の研究に加わる自然界の実例
比較対象となる合成細菌「JCVI-syn3.0」は、J. Craig Venter Instituteなどが2016年に作製した。ゲノムは53万1560塩基対、遺伝子は473個で、実験室の培地で増殖できる。スクナ古細菌のゲノムはその半分以下だが、両者は対象とする細胞の条件が異なる。
この比較は、細胞が使える外部資源によって、保持する遺伝子の構成が変わることを考える手掛かりになる。スクナ古細菌では、物質を得るための機能を大きく減らす一方、遺伝情報を複製・発現する中核が残った。研究共著者のThorsten Allers氏もLaboratory Newsに、この発見は、細胞が遺伝情報を維持しながらどこまで単純になれるかを考える手掛かりになると説明している。
研究チームは今後、宿主の特定と細胞の直接観察を進め、巨大な膜タンパク質の役割や他の生物との関係を調べる方針だ。スクナ古細菌のゲノム配列は、DDBJ、ENA、GenBankに登録番号AP040136で公開されている。
元記事: Scientists Report Smallest-Ever Archaeal Genome: Cell Encodes Fewer Proteins Than Many Viruses
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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