欧州宇宙企業TECが4億5000万ドル調達 再使用カプセル「Nyx」とFFSCエンジン「Storm」を開発

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欧州を拠点とする宇宙企業The Exploration Company(TEC)は、4億5000万ドルのシリーズC資金調達を完了した。資金は、国際宇宙ステーション(ISS)への飛行を目指す再使用型貨物カプセル「Nyx」と、フルフロー二段燃焼サイクルを採用する高推力ロケットエンジン「Storm」の開発に充てる。
Nyxは2028年のISS実証ミッションを目標としているが、TECはこれまで、打ち上げから再突入、着水、機体回収までを通した飛行を完遂していない。Stormも段階的な要素試験を進めている段階であり、今回の調達は両プロジェクトを実証段階へ進めるための投資となる。
■欧州宇宙分野で大型のシリーズC
TECは2026年9月、4億5000万ドルのシリーズC資金調達を発表した。同社によると、欧州の宇宙企業が実施したシリーズCとして過去最大規模となる。共同主幹事は、米国のBessemer Venture Partners、欧州のAtomico、EQTが運用するScaleup Europe Fundである。
既存投資家のBalderton Capital、Plural、Cherry Ventures、Red River Westなども参加した。今回の調達により、2021年の設立以来の累計調達額は約6億8000万ドルに達した。
Scaleup Europe Fundは、欧州委員会と複数の欧州機関投資家などによって設立され、EQTが運用するファンドである。目標規模は50億ユーロで、宇宙、人工知能、量子技術、ロボット、クリーンエネルギー、バイオテクノロジーなどの戦略分野で、欧州企業の成長を支援する。
TECは、Airbus Defence and SpaceやArianeGroupなどの欧州宇宙開発に携わった技術者らによって設立された。本社をミュンヘンに置き、再使用型宇宙輸送システムの構築を目指している。
■欧州が目指す独自の貨物帰還手段
欧州はISSの建設と運用に長く関与してきた。欧州宇宙機関(ESA)が提供した実験棟Columbusは、ISSにおける欧州の科学研究拠点となっている。
一方、欧州は現在、軌道上の貨物を自ら地上へ持ち帰る実用的な輸送手段を保有していない。ESAの無人補給機ATVは2008年から2015年までISSへの補給に使われたが、任務終了時に大気圏へ再突入して廃棄される設計であり、貨物の回収には対応していなかった。
現在運用されるISS補給機のうち、研究試料や機器をまとまった量で地上へ持ち帰る能力を持つ主要な機体は、SpaceXのDragonである。Northrop GrummanのCygnusもISSへ貨物を届けているが、帰路では廃棄物などを積んで大気圏に再突入し、機体ごと燃え尽きる。
ESAは、ISSの運用終了後も見据え、低軌道の宇宙ステーションへ貨物を運び、地上へ回収する商業サービスの開発を進めている。2024年にはTECとThales Alenia Spaceをそれぞれ選定し、第1段階の開発支援として各社に2500万ユーロを拠出した。実証ミッションは可能であれば2028年、遅くとも2030年までの実施が想定されている。
■最大3トンを地上へ戻す「Nyx」
TECの当面の主力プロジェクトが、再使用型貨物カプセルNyx Earthである。低軌道の宇宙ステーションへ最大4000kgの貨物を運び、最大3000kgを地上へ持ち帰る設計となっている。同社は、この帰還能力を同種の宇宙機として世界最大規模と説明している。
Nyxは直径約4m、重量約8トンの機体として計画されている。大型ロケットで打ち上げられた後、自律航法によって宇宙ステーションへ接近し、ドッキングする。任務終了後は大気圏へ再突入し、海上へ着水して回収され、次の飛行に向けて整備される構想だ。
TECは2028年11月を目標に、NyxをISSへ飛行させ、ドッキングと地球帰還を実証する計画を示している。ただし、ESAの貨物帰還サービスにおける今後の契約や実証ミッションの実施条件は、同社の開発進展とESA側の選定手続きに左右される。
ISSは2030年までの運用が計画されている。NyxがISSでの実証機会を得るには、限られた期間内に安全審査、機体製造、地上試験、打ち上げ準備を進める必要がある。
■高推力エンジン「Storm」も開発
TECはNyxと並行して、再使用型の高推力ロケットエンジンStormを開発している。Stormは液体酸素とバイオメタンを推進剤とし、海面高度で最大180トン重の推力を目標とする。
採用するのは、フルフロー二段燃焼サイクル(FFSC)である。燃料と酸化剤を別々のプリバーナーに送り、それぞれのガスでターボポンプを駆動した後、両方の流れを主燃焼室へ導く。
ガスジェネレーターサイクルでは、ポンプを動かした燃焼ガスの一部を主燃焼室へ送らず排出する。これに対しFFSCは、プリバーナーを通過した推進剤を主燃焼室で利用する閉サイクルであり、高い燃焼室圧力や効率、再使用に適した運転条件を追求できる。一方で、酸化剤過多と燃料過多という性質の異なる二つの高圧流路を安定して制御する必要があり、開発難度は高い。
SpaceXのRaptorも、液体酸素とメタンを使うFFSCエンジンである。RaptorはFFSCを採用して実際に飛行した最初のロケットエンジンとなった。
FFSCの開発例はRaptorだけではない。旧ソ連では1960年代にRD-270が開発され、複数回の地上燃焼試験が行われたが、搭載予定のロケット計画とともに中止され、飛行には至らなかった。米国でもAerojetとRocketdyneによるIntegrated Powerhead Demonstratorが地上試験に使われた。
Stormが計画通り完成すれば、欧州で開発される実用的な高推力FFSCエンジンの有力な例となる。Raptorに続いてFFSCエンジンを飛行段階へ進められるかが、技術面での大きな焦点となる。
■まず構成要素の試験を積み重ねる
Stormは、完成したエンジン全体を直ちに燃焼させる段階には達していない。TECは、プリバーナー、ターボ機械、燃焼室、ノズルなどの構成要素を段階的に開発し、部分システムから統合システムへ試験範囲を広げる方針を示している。
同社はフランス国立宇宙研究センターやESAと協力し、ドイツ航空宇宙センターの試験設備などを利用している。初期試験では、縮小型の燃焼室やプリバーナーの性能、燃焼安定性、運転条件を検証する。
Stormは、TECが構想する将来の再使用型大型ロケットの中核エンジンとして位置付けられている。ただし、そのロケットについて欧州の正式な調達計画や開発契約が確定しているわけではない。TECは将来の需要を見越して、開発期間の長いエンジン技術を先行して進める戦略を取っている。
TECは2026年6月、英国で宇宙機向け推進サービスや射場での燃料供給を手掛けるEuropean Astrotechを買収した。エンジン開発だけでなく、推進剤の取り扱いや射場サービスまで事業範囲を広げている。
■2回の実証飛行では回収に至らず
TECはこれまでに、Nyxへつながる技術を試す二つの小型実証機を宇宙へ送っている。しかし、いずれも計画した再突入・回収任務の完遂には至っていない。
最初の実証機Mission Bikiniは、2024年7月9日にAriane 6初号機で打ち上げられた。Ariane 6は主要な衛星の軌道投入には成功したものの、技術実証段階で上段の補助推進装置に異常が発生し、予定されていた最終燃焼を実行できなかった。
Mission Bikiniは、上段の最終燃焼後に分離される計画だったため、予定した再突入軌道へ入ることができなかった。この飛行では、TECの再突入技術を実証するデータは得られなかった。
2回目のMission Possibleは2025年6月23日、SpaceXのFalcon 9によるTransporter-14相乗りミッションで、米カリフォルニア州のヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた。直径2.5m、重量約1600kgの実証機で、合計約300kgの顧客ペイロードを搭載していた。
Mission Possibleは軌道上でペイロードへ電力を供給し、姿勢制御と再突入姿勢への移行を実施した。大気圏再突入後には、通信が一時的に途絶えるブラックアウトを経て、地上との通信を再確立した。
その後、高度約26kmで通信が失われ、カプセルは回収されなかった。通信が途絶えたのは、遷音速領域への移行とパラシュート展開に先立つ段階だった。TECは再突入までの主要目標を達成した一方、着水と回収を完了できなかったとして、ミッションを部分的成功と位置付けた。
■契約と将来需要を開発につなげられるか
TECは、公共機関と民間企業から20億ドルを超える契約およびコミットメントを獲得したとしている。ただし、この金額には確定契約だけでなく、技術的な条件や将来のステーション運用を前提とした合意も含まれる。
同社はESAの貨物帰還サービス開発に参加しているほか、Axiom Space、Starlab、Vastなど、民間宇宙ステーションを計画する事業者との合意を発表している。これらのステーション計画が進めば、複数の貨物輸送事業者を確保したい運営企業にとって、Nyxが選択肢の一つになる可能性がある。
一方、Nyxには安全なドッキング、再突入、パラシュート降下、着水、機体回収を一つのミッションで実証する課題が残る。特に、Mission Possibleで完了できなかった降下後半と回収工程は、今後の試験で確認すべき重要な部分となる。
Stormについても、構成要素の地上試験から統合エンジンの燃焼試験へ進み、目標とする推力や再使用性を実証するまでには複数の段階がある。さらに、Stormを搭載する大型ロケットと射場設備の建設には、今回の調達とは別の資金が必要になる。
4億5000万ドルの調達によって、TECはNyxとStormという二つの大型プロジェクトを並行して進める資金を確保した。次の焦点は、資金調達の規模ではなく、Nyxの完全な帰還・回収と、Stormの統合燃焼試験という技術的成果を示せるかに移る。
元記事: European Space Startup Raises $450M, Targeting First Raptor-Class Engine Outside US
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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