地銀の気候変動開示が促進する、地域経済の活性化

2023年5月23日 16:30

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 5月19日から広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、気候変動対策についても議論が交わされた。残念ながら日本はこの場で存在感を示すことができず、2030年までの石炭廃止には反対を表明し、ゼロエミッション車の拡大に向けた具体的な目標設定にも反対を示すこととなった。

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 トップ会談における日本のスタンスがこれでは、気候変動に向けた今後の活動の進展に影響を与えるだろう。ただ日本の各地域を起点とした動きは、活発化し始めている。

 その1つが、地銀における気候変動情報に関する開示の増加である。TCFDと呼ばれる気候変動に関連した財務情報開示や議論を目的としたコンソーシアムは、気候変動予測とその対策に関する情報開示について提言しており、9割の地銀がその提言に賛同の意向を示している。

 更にTCFDの枠組みに沿って気候リスクを開示する地銀は、2022年10月末時点で76行と、1年前の16行から大幅に増えている(日銀の金融システムレポートより)。

 気候変動に関する開示について、メガバンクはTCFDに沿った開示を既に行っている。それだけでなく、2030年までのサステナブルファイナンス目標の設定やカーボンニュートラル宣言、GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net-Zero)やNet-Zero Banking Alliance(NZBA)等の活動への参画を通じて、積極的に活動している。

 一方、地銀についてはこれまで意欲的に取り組んでいるところは一部に限られていた。その理由は、地銀が取引する地域の中小企業では温室効果ガスの排出量を把握していないところも多く、また算出にあたってはコストもかかることや、算出の難易度が高いこと等が挙げられる。

 排出量算出について定めた「GHGプロトコル」では、銀行自らの直接の排出量(スコープ1)と、使用した電気や熱等の使用による間接排出(スコープ2)に加え、銀行の投融資先の排出量(スコープ3)が求められるが、このスコープ3の算出が難しいことが1つの障壁となっている。

 だが今後は、銀行にとっても地域企業にとっても、排出量算出とその情報開示を行わないことがリスクになってくる。地域の企業にとっては、対策に遅れがあることでサプライチェーンから外れることや、競合に対する競争力の低下につながる可能性がある。その企業に融資する銀行にとっては、投融資資金の回収ができなくなるリスクが高くなり与信コストが上昇する。

 このような危機感を背景に、日銀の金融システムレポートにある通り、気候変動リスクへの対策と情報開示の動きが地銀で広がっている。また、情報開示に向けた体制作りやルール作りのコンサルティング、排出量算出ツール等が増えてきていることも後押しとなっている。

 一連の動きは進展することはあっても後退することは考えられない。企業にとっては他社に先んじることがビジネスチャンスになり、銀行にとってはその仕組みをサポートすることが地域経済活性化につながる。地域の銀行と企業が一体となった対応が熱量を帯びることで政府をせっつくことができれば、日本全体の取り組みが盛り上がり、世界に比べ遅れがちな気候変動対策も進むだろう。(記事:Paji・記事一覧を見る

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