【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】賃金を上げて潰れる企業は需給バランスが取れていない。労働力不足を解決する方法

2017年11月13日 19:03

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記事提供元:biblion

 【連載第5回】今、日本企業の「稼ぐ力」が大幅に低下しています。長時間労働の常態化により生産性が低く、独自の施策によって効率化を進めることが重要課題となっています。経営トップは常にアンテナを高くして、自社や業界がどれだけの危機にさらされているのかを正確に知覚し、正しい経営判断につなげていく必要があります。本連載では、企業の「稼ぐ力」を高めるための8つのヒントをお伝えします。

【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】賃金を上げて潰れる企業は需給バランスが取れていない。労働力不足を解決する方法

 本連載は、書籍『大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)』(2017年9月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。今回の記事では、企業の稼ぐ力を高める8の論点から『論点5.労働力不足をいかに解決すればよいのか?』をご紹介します。
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建築・建設、サービス業などで深刻な人手不足

 どの業界でも人手が足りないという声が上がっています。生産年齢人口の全人口に占める割合は2020年以降に60%以下になると推計されています(図-19左)。

 今後ますますの労働力不足は日本社会の喫緊の課題とは言え、これは職種によってバラツキがあります。
 主な職業別の有効求人倍率の推移を見てみると、とび職などは7倍と非常に人手が足りていない一方で、一般事務は今世紀に入ってからの数字だけでも常に余っている状態です(図-19右)。
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 営業職も、リーマン・ショックによって大きく需要が落ち込み、多少は戻したものの、だいたい間に合っているという状態になっています。

 今の営業職は前述の通りスマホベースで何でもできますので、仕事自体に大きな違いはなくなってきています。にもかかわらず、そこで数字を残せる人とそうでない人との差が現れることになり、同じ営業支援ツールを使いながらも売れる人は5売るのに全く売れない人も出てきます。成果主義で処遇に差がつくのは必至でしょう。
 平均が2.3なのを3.6にするよりも、5売れる人を優遇してつなぎとめておくことが非常に重要です。

サービス業の人手不足、理由と解消案

 営業や一般事務は人手が足りていますが、建設・建築とサービス業は不足しています。外食産業での接客や給仕の仕事の有効求人倍率は、パートも含めると2017年5月の数字で3.56です。

 この理由は単純で、給料が安すぎるのです。人手が足りない、募集しても人が来ないのであれば、来てくれるだけの値段を払えばよいのです。労働コストを抑えておきながら「夜は一人で切り盛りしろ」と無理を強いるからブラック企業と呼ばれるのです。

 提供する商品の価値と値段のバランスが取れているのが市場原理で、賃金を上げて潰れるような企業はそもそも需要と供給のバランスが取れていないのです。
 労働コストを賄えるような価格設定をしても客が来れば問題はないのであり、価格は顧客にとっての価値で決まるというのが商売の大前提です。あるいはコンビニ弁当のように工場化して生産性をひたすら高めるというやり方しかないでしょう(図-20)。
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労働力不足への対策事例

星野リゾートの「マルチタスク」

 サービス業での人手不足解消の事例を1つご紹介しましょう。
 非常に苦労している日本のホテルや旅館を買収して次々と建て直している星野リゾートです。

 星野リゾートの再生手法の基本は「マルチタスク」で、これによって従来のおよそ半分の人員で同じレベルの仕事ができるようにしています。
 例えばフロント業務などは忙しい時間が決まっているのですから、1日中張り付いている必要はありません。フロントマンが掃除をしたり、食材などの買い出しをしたり、専業化させないことで効率を高め、人員を削減し、黒字化に成功しています。
 ただこれは、もちろん専業のスタッフを配置している場合に比べたらサービスのレベルは落ちることになり、やり過ぎには注意する必要があります。現に星野リゾートグループの中でも「星のや」ブランドの大型のところはよいのですが、「リゾナーレ」や「界」といったところは次第に評判が下がってきています。
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大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)


¥1,500
「大前研一ビジネスジャーナル」シリーズでは、大前研一が主宰する企業経営層のみを対象とした経営勉強会「向研会」の講義内容を読みやすい書籍版として再編集しお届けしています。
 日本と世界のビジネスを一歩深く知り、考えるためのビジネスジャーナルです。
 ■生産性を高める経営 ~「稼ぐ力」を高めるための8の論点~
 ■変化する消費行動を追え ~消費者をどう見つけ、捉えるか~ 販売サイトへ

レジのないスーパーマーケット「Amazon Go」

 進化がとどまることを知らないアマゾンですが、レジのないスーパーマーケットの開店を予定していると報じられています。実際にこれをやるのかどうか分かりませんが、2016年12月にはアマゾンの従業員限定でベータ版の店舗が開店し、YouTubeにもプロモーションビデオがアップロードされています(https://www.youtube.com/watch?v=NrmMk1Myrxc)。

 「Amazon Go」というこの店では、客が商品を持ち帰るとカメラでそれを自動認識し、クレジットカードに課金するという仕組みでレジを廃止しています。

 一般的にスーパーマーケットの店舗運営には小さなところでも10名くらいの従業員が必要ですが、Amazon Goではレジ廃止に加え、配送センターで導入しているロボット技術を応用してできる限り店舗オペレーションを自動化し、人員削減を図っています。おそらく最低1名で店舗運営が可能になるという実験をしているのでしょう。
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サービス維持が限界のヤマト運輸をどうするか

 人手不足が深刻な業界の最たるものは、日本では物流です。
 アマゾンをはじめeコマースの普及により需要は高まる一方ですが、もはやサービス維持が限界にきているほど業界全体が疲弊しています。

 アマゾンの配送は以前は佐川急便が担っていましたが、2013年に取引を停止し、現在はヤマト運輸が引き受けています。
 佐川急便との取引停止の背景には、過度な運賃引き下げの要求、メール便での判取りや再配達の要求などがありましたが、にもかかわらずヤマト運輸はアマゾンの仕事を引き受けてしまいました。ヤマト運輸はすでに2017年10月1日からの宅急便基本運賃値上げを発表しており、これはアマゾンとの協議への布石と見られています。そのくらいまで、ギリギリのところまで追い込まれているという状態です。

 ヤマト運輸に限らず、今の物流で最大の問題はラストワンマイル、要は再配達です。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社が実施した調査では、再配達率は平均19.6%にも上ります。
 2016年の宅配便の取り扱い個数は38億6,930万個で、この2割が再配達となれば凄まじい労働量となり、まともに残業代を払ったらヤマト運輸の約700億の営業利益の半分は飛ぶと言われています。
 低賃金や拘束時間の長さからドライバーのなり手も慢性的に不足しています。これを解決するには、「通知・配達指定システム」「宅配ボックス」の普及促進と、アイドルエコノミーの活用検討が考えられます(図-23)。
 顧客のデータベースを構築して通販事業者へシステムを無償提供しユーザーへの通知をシステマティックに行う、インセンティブを与えて宅配ボックスの設置を促進する、Uberの物流参入に学び一般の遊休車両に配送をアウトソーシングする、といったやり方です。
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 また、物流全体の構造的な問題として、1つの家のポストに複数の業者の配達員が1日に何人も訪れているという非常に無駄な現状があります。これを一本化するという抜本的な構造改革も考えられます(図-24)。

 地域ごとに、あらゆる配達物を一元管理する協同組合をつくり、それぞれに物流拠点(デポ)を置いて、そこから各家庭に個別に配送するという仕組みです。
 このデポは必要に応じて各業者に委託してもよく、つまり物流のラスト1kmの部分を1つの業者が一括して担うというやり方です。この地域はヤマト運輸が、この地域は佐川急便が、あっちは日本郵便が、宅配も新聞もポスティングも何から何まで全部やる、という具合にすると車の量も減りますし、1日に何回もチャイムが「ピンポーン」と鳴ることもなくなりますので、これはお互いのためにとてもよいのではと思います。
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 (次回に続く)

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