2050年の市場規模は160兆円。いよいよ普及に向けて動き出した「水素」社会。

2015年5月17日 13:43

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記事提供元:エコノミックニュース

燃料電池車(FCV)「MIRAI」のデビューとともに、いよいよ本格的な普及に向けて動き出した「水素」社会。世界の水素インフラの市場規模は2050年には160兆円にまで膨らむことが予測されている。

燃料電池車(FCV)「MIRAI」のデビューとともに、いよいよ本格的な普及に向けて動き出した「水素」社会。世界の水素インフラの市場規模は2050年には160兆円にまで膨らむことが予測されている。[写真拡大]

 次世代燃料「水素」に対する関心が高まっている。日本政府は国をあげて水素社会の推進に取り組む姿勢を見せており、今年初めには、トヨタ<7203>が世界に先駆けて発売した燃料電池車(FCV)「MIRAI」を首相官邸及び経済産業省、国土交通省、環境省に公用車として導入した。

 また、4月10日に催された総合科学技術・イノベーション会議では、2020年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックまでに国内の水素インフラを整備し、水素エネルギーシステムを構築することで、来るべき「水素社会」の姿を世界に向けて発信する方針を示している。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「新エネルギー白書」の中で試算した水素エネルギーの経済効果は2030年に1兆円程度、2050年には8兆円となっている。また、日経BPクリーンテック研究所の予測によると、世界の水素インフラの市場規模は2030年には40兆円、2050年には160兆円にまで膨らむ。

 トヨタだけでなくホンダ<7267>も、2016年3月に行われる北米国際自動車ショーで燃料電池車を発売することを発表しているほか、日産<7201>もダイムラーAG、フォードと共に燃料電池システムの共同開発を進めており、早ければ2017年には手ごろな価格帯の量産型FCEVを発売する予定を公表している。価格やデザインの選択肢が広がればFCVの普及は一気に加速しそうだ。

 水素ビジネスのチャンスは、もちろん完成車だけに留まらない。例えば、水素ステーション関連では、2014年に日本初の商用水素ステーションをオープンした岩谷産業<8088>や、移動できるコンパクトなパッケージ型水素ステーション「ハイドロ シャトル」で注目される太陽日酸<4091>、さらには全国のENEOS約1万1000店舗での水素供給を目論むJXホールディングスなど、水素ステーション関連企業が盛り上がっている。

 他にも、燃料電池用水素を圧縮するために必要な基幹部品を製造する加地テックや、燃料電池セパレータ用チタン材などを扱う神戸製鋼所などの部品・材料メーカーも大きな恩恵を受けることになるだろう。

 「MIRAI」だけをとってみても、専用の基幹部品に関わるメーカーは多い。例えば、防振ゴム・ホース・ウレタンなど自動車用部品の製造・販売を行う住友理工<5191>も、これまで同社が培ってきた独自の技術を次世代インフラに活かしている企業の一つだ。

 同社が昨年末に開発を発表した「セル用ガスケット」は、燃料電池内で水素と酸素の流路を保ち、生成された水の排水性を高めるゴム製のシール部材だ。同社の誇る高分子材料技術が生み出した高機能ゴムによって幅広い温度範囲で長期シール性を実現し、自動車用防振ゴムなどの製品開発で培った精密加工技術を融合して、「MIRAI」に最適な信頼性の高いシール部材の製品開発に成功している。

 ちなみに、トヨタは発売1か月の国内受注台数が好調なことや、今秋からは米国や欧州でも販売を開始することを踏まえ、「MIRAI」の年間販売台数を2015年の700台から16年は2000台程度、さらに17年は3000台程度にまで拡大することを発表している。住友理工でも4月に「住理工FCシール株式会社」を新たに設立し、生産増に対応する環境を整えている。

 2020年の東京オリンピックは世界的なスポーツの祭典であると同時に、日本という国、日本の誇る産業技術を世界に発信できる又とない機会だ。20年までに水素ステーションをはじめとする国内の水素インフラが整っていれば、次世代自動車の世界シェアを獲得するための大きな追い風となるのは間違いないだろう。水素社会の幕開けとともに、日本経済の夜明けも近づいているのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)

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