理研ら、エネルギー散逸少ない「トポロジカル電流」を実証 高効率な太陽電池開発に期待

2020年8月13日 07:06

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硫化ヨウ化アンチモンの結晶構造(左)とエネルギー散逸のない「トポロジカル電流」の実証結果(右)(写真:科学技術振興機構の発表資料より)

硫化ヨウ化アンチモンの結晶構造(左)とエネルギー散逸のない「トポロジカル電流」の実証結果(右)(写真:科学技術振興機構の発表資料より)[写真拡大]

 物質中を通る電流は、不純物等の要因でエネルギーが散逸する。こうしたエネルギー散逸のない電流として「トポロジカル電流」が注目されている。理化学研究所(理研)、科学技術振興機構(JST)は11日、トポロジカル電流の存在の実証に成功したと発表した。

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■量子力学的な性質を利用するトポロジカル電流

 物質中を移動する電荷が散乱する原因として、不純物以外にも格子の欠陥や振動が考えられる。通常の電流では、こうした電荷の散乱によりエネルギーが散逸するため、エネルギー散逸のない電流の仕組みが求められている。

 エネルギー散逸のない電流として、「超伝導体」と呼ばれる低温で抵抗がゼロになる、物質中を移動する電流が候補として考えられる。だが超伝導体は非常に低温である必要があるため、室温で動作するデバイスの実現は困難だという。

 超伝導体に代わる方法として近年注目を浴びているのが、トポロジカル電流だ。電子の波が位相変化により一方向に生じるトポロジカル電流は、超伝導体と異なり室温でも実現可能だ。

 トポロジカル電流の有力な候補として、光の吸収により電子を放出させる「光電効果」を利用した「光電流」が考えられる。強誘電体など、空間反転させると構造が異なる物質では、外部からの電場がなくても電流を発生させられるが、光電流の一種であることを実証した例はこれまでなかった。

■効率のよい太陽電池開発に期待

 理研、JST、東京大学の研究者らから構成されるグループが注目したのは、「硫化ヨウ化アンチモン」と呼ばれる物質だ。代表的な強誘導体であり、可視光を強く吸収する半導体の性質をも有するという。

 研究グループは、硫化ヨウ化アンチモンの結晶中の格子欠陥が、光電流に及ぼす影響を調べた。欠陥密度の異なる硫化ヨウ化アンチモンを多数用意し、擬似的な太陽光を照射することで生じる光電流を測定。その結果、光を照射しない状態では、電気伝導度が大きく異なるものの、光を照射すると光電流はほぼ同じ値であることが判明した。

 研究グループはさらに、さまざまな温度で実験を実施したところ、光照射下での光電流はほぼ同じであり、格子欠陥等による散乱に対し強いことが実証された。本成果で実証した光電流を利用することで、効率のよい太陽電池の開発が可能になるだろうと、研究グループは期待を寄せている。

 研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」にて、11日にオンライン掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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