光と電子との関係がより明らかに 筑波大の研究

2019年8月9日 07:45

印刷

2つの光パルス(赤と青の波形)がチタン薄膜へ照射される様子の模式図。図中央にはチタンの結晶構造が示されており、図右には光パルスが誘起する結晶内での電子密度の変化の様子が示されている。(c)Mikhail Volkov

2つの光パルス(赤と青の波形)がチタン薄膜へ照射される様子の模式図。図中央にはチタンの結晶構造が示されており、図右には光パルスが誘起する結晶内での電子密度の変化の様子が示されている。(c)Mikhail Volkov[写真拡大]

 光と電子との関係と言えば、1905年にアインシュタインが発表した光電効果における光量子仮説が有名である。彼はこの研究の成果が認められて、1921年にノーベル物理学賞を受賞している。

【こちらも】含水バイオマスを太陽光で濃縮する技術開発、筑波大

 光量子仮説とは、「光は粒子のようにつぶつぶになって空間内に存在している」という考え方で、原子核の周りをまわっている電子は光を当てると一瞬にしてそのエネルギーを吸収し、より高いエネルギー準位状態に瞬間的に変わると主張するものである。

 原子の中の電子は自分の持つエネルギー準位によって軌道や周波数が決まる。光からエネルギーを得た電子は、それまでの軌道より外側の軌道に瞬間移動するのである。また逆に原子中の電子がエネルギーを原子の外に放出することで光を発し、電子はより内側の軌道へと瞬間移動をおこす。

 蛍光灯が明るく光るのはこの原理を応用しているためで、蛍光灯が光を放つ瞬間には、電子は微小な距離とはいえ、私たちの常識では理解しがたい瞬間移動(つまり時間を必要としない移動)をおこしているのである。

 前置きが長くなったが、この度、筑波大学が発表した研究成果は、遷移金属中の電子の振る舞いについてのメカニズムを解明したというものである。

 一般的に金属原子内では電子は自由電子として内部を自由に移動ができる。これが銅線内で電流が流れる原理である。いっぽう、チタンやジルコニウムのような遷移金属では、一部の電子は原子核の束縛から完全に逃れることはできず、原子核の周りのごく狭い範囲に局在している。

 この遷移金属中の原子核の周りに局在している電子の挙動が、高温超電導や、金属の絶縁体転移などの現象をもたらしている。筑波大学では2種類の光パルスをチタンに照射し、一次パルスで電子を励起させておき、二次パルスを照射しながら電子の光エネルギー吸収特性の時間的変化を測定した。

 そのような結果をもたらすメカニズムについて、スーパーコンピュータによる電子運動のシミュレーションによって解明を試みたところ、光によって電子が遷移金属原子の周りに局在し、物質内部の微視的な遮蔽効果の変化に起因することが明らかとなった。

 この研究成果は、遷移金属の特性をごく短時間に変化させ、目的の特性を得る技術の実用化への足がかりとなるモノであり、様々な分野への応用が期待される。蛍光灯以来の大発明品が世の中に出現することを楽しみに待つことにしよう。(記事:cedar3・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事