【2019秋冬東京 ハイライト2】「AT TOKYO」不在の中、問われる東京の真価

2019年3月23日 00:01

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記事提供元:アパレルウェブ

 アマゾンファッションウィーク東京2019秋冬が開催されている。ここ数シーズン、東京のファッションウィーク話題の中心となってきた、Amazon Fashionが独自に実施するプログラムAmazon Fashion“AT TOKYO”が行われていない今シーズン。東京と若手の真価が問われている。
アンリアレイジ(ANREALAGE)


 注目を集めたのが「アンリアレイジ」だ。「DETAIL」をテーマにした今シーズン。トレンチコートやデニムジャケットの衿をケープジャケットにしたものやダッフルコートのフードをドレスにしたものなど、パリでのコレクションに同じテーマで作られたメンズをプラスしたショーを発表した。ウィメンズが服の細部を300パーセント拡大し、服にしたのに対してメンズは150~200パーセント拡大。袖が服になるシュールレアリスム的な発想や80年代のアバンギャルドとも共通するデフォルメの手法は、日本の最新技術と素材を打ち出す以前に戻り、進化させたようにも見える。パリで「やっぱり東京はいい。“AT TOKYO”でショーをしたことで若い顧客が増えた」と語った森永。東京のショーの後にも「次もパリと東京でやりたい」と話した。経済状況に加えて、インターネットでパリコレクションがライブ配信され、数時間で全ルックが公開されることで、既に見たものになってしまう現在。80年代のようにパリと東京でコレクションをすることや初めて見たときの新鮮さを出すことは難しいし、メンズをプラスしたのも新しさと若い男性顧客を増やすことを狙ったものだろうが、東京でショーをすることがビジネスにつながるということが続けば東京のムードも変わるかもしれない。
「アンリアレイジ」2019秋冬コレクション
エマリーエ(EMarie)


 デザイナーとしての名前を改名したエマ理永(旧名 松居エリ)による「エマリーエ」は、 東京大学生産技術研究所で、AI(人工知能)とコラボレーションしたコレクションに挑戦した。人間の知能とAIによる相互作用とデザインの可能性を探った今シーズン。登場したのはAIがエマ理永のデザインを写真から学習し、画像を出力し、デザイナーが画像を服にしたというドレスやスカートだ。今シーズンのトレンドでもある自然からインスパイアされたデザインや神経細胞とその波形をプリントしたドレス、AIが貝とエマ理永のスカートを学習し、作られた画像をもとにデザイナーがデザインを広げたデザイン。今回は実験的なコレクションとなった。学習した情報量が少ないため、革新的なデザインというよりもバリエーションの広がり、バランスの変化が目立った。だが、今回の結果だけを見てAIとのコラボレーションはクリエーションよりも売れる商品を学習し、より広げるためと判断するのは早すぎる。多くのデザイナーや、歴史とアーカイブを持つクチュールメゾンやラグジュアリーブランドなどの膨大な情報をAIが学習すれば、将棋界のようにAIがデザイナーを上回り、AIが将棋の新手を編み出したように人間には考えられないデザインを出力する時代が来る可能性はあり、人口の多い国が膨大なデータを学習させ、売れ筋を作り、トレンドをアレンジするようなデザイナーは不要になる時代も遠くないかもしれない。カールラガーフェルドの情報を学習させたらどうなるのか、など様々なことを考えさせた。
「エマリーエ」2019秋冬コレクション
ハイク(HYKE)


 ヘリテージ&エボリューション、服飾の歴史、遺産を自らの感性で独自に進化させるをコンセプトにした「ハイク」。今シーズンはアメリカ海軍やイタリアアーミーのブランケットを始め、ダッフルコート、フィッシャーマンセーター、アメリカのウエスタンスタイルからインスピレーション得たデザインなど、服飾史や古着から着想したデザインを見せた。各国の軍服など、機能性を徹底的に追求することから生まれたデザインはシャープで都会的でありながら、同時にオートクチュールのようなエレガンスや気品も共存。ファーやフリンジなどもアクセントになっている。インスタレーション形式による発表から大会場でのランウェーショーに変えて2回目となる今回。メンズも含めデザインとクリエーションが更に広がったように見える。また、今シーズンが最後になるという「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」とのコラボレーションや「ジュリアス タート オプティカル(JULIUS TART OPTICAL)」とのコラボレーションによるアイウエアなど、コラボレーションも充実している。ファッション=若い人のもの、東京=アバンギャルドやストリート、メンズというイメージの中で、全く違う方向性、大御所とは違う意味で、大人の着られる服を作りながら、高く評価されているハイク。同じ日に開催された「ザ・リラクス(THE RERACS)」 もそうだったが、東京でショーを開催する意味も含めて、東京の目指す形のひとつを示しているように見える。
「ハイク」2019秋冬コレクション
マラミュート(malamute)


 「マラミュート」は、ランドスケープをテーマに、風という字を用いた言葉遊びでシーズンテーマの解釈を深めていったコレクション。初めてのショーとなった前回は、これまでのコレクションの総集編、ブランドの紹介という形だったが、今シーズンはストレッチを効かせたアンティーク調の花柄ニット、ヴィンテージ風テーラードジャケット、ドットボタンの留め方によってムードが変化するというキルティングコート、ゴールドの色使いなど、クラシックでナチュラルな中に機能性や未来的なムードをプラスしたコレクションを見せた。映画からのインスピレーションやニットなど、しっかりとしたベースを持っている同ブランド。ショー形式でコレクションを見せることで、ニットだけではなくアイテムが広がるとともに、モデルの動きやヘアメイクなどが加わり、展示会以上にブランドやデザイナーの世界観、服の美しさが伝わってくる。ショーがすべてではないが、デザイナーにしっかりとした世界があればショーがその魅力を更に強め、アイテムや展開を広げることを改めて思い出させた。
「マラミュート」2019秋冬コレクション
コトハヨコザワ(kotohayokozawa)


 若手では「コトハヨコザワ」の、肌を露出した春夏のようなコレクションも印象的。多くの若手が既に歴史となっている「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」や「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD)」、「マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)」の技法や構図を手段として部分的に取り入れながら、デザイナーの考えや今感じていることを日記をつづるように表現する中で、昨年末にタイに旅行したときのイメージや心地いい服を生み出した。足を出したり、出しているように見えるトロンプルイユ、アシメトリーなど様々な手法で作られたデニム、プリーツを解体し再生したようなデザイン、タイ語のモチーフ。脱ぎかけのジーパンが浮遊しているように見えるパンツは手品のようにテグスでつるしているという。手品的驚きやユーモアはダブレットのジャケットなどとも共通するが、体験とアイデアを大胆に表現した若く力強いデザインが楽しい。
「コトハヨコザワ」2019秋冬コレクション
 
 
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取材・文:樋口真一

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