火星アルカディア平原の地下氷を探る レーダーが読む気候史と探査資源

2026年11月2日 15:40

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記事提供元:Tech Times

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火星のアルカディア平原には、厚さ数十mに及ぶ氷に富んだ層が地下に広がっていると考えられている。軌道上からのレーダー観測とクレーター地形を組み合わせた研究は、その広がりや性質を探るとともに、将来の有人探査で利用する水資源の候補を示している。

両極の氷にも、過去の環境を読み解く手掛かりがある。北極と南極で、主な氷の堆積域と周囲のクレーターに残る氷を比較すると、堆積史の共通点と違いが浮かび上がる。

■受賞講演で紹介された地下探査の成果

米パデュー大学の惑星科学者アリ・ブラムソン准教授は、2026年10月25〜30日に米ワシントン州スポケーンで開催された米国天文学会惑星科学部会の第58回年会で、Harold C. Urey Prizeの受賞講演を行った。同賞は、惑星科学で優れた業績を挙げた若手研究者を顕彰する賞である。

米国天文学会は、ブラムソンがレーダー観測、地形学、モデル計算を組み合わせ、火星中緯度の広大な地下氷の理解を進めたことなどを評価した。同学会のAAS Novaによる講演報告では、アルカディア平原の地下氷と、南北の極域に残る氷の研究が紹介されている。

観測の中核となるのは、NASAの火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)に搭載された浅部地下探査レーダーSHARADだ。MROは2006年から火星を周回しており、SHARADは中心周波数20MHz、帯域幅10MHzの電波で地下構造を調べてきた。

電波の一部は、誘電特性の異なる物質の境界で反射する。反射波が戻るまでの時間と、物質中での電波の速さを使うと境界の深さを推定でき、探査機の移動に沿って地下の断面を描ける。氷と岩石の境界や、塵の含有量が異なる氷の層などが観測対象となる。

SHARADはイタリア宇宙機関(ASI)が提供し、現在のThales Alenia Spaceにつながる企業が開発した装置で、地下約1kmまでの境界を調べることを設計目標としている。実際に電波が届く深さは地下物質の性質によって変わり、これまで極域の層状堆積物や中緯度の埋没氷河などが調べられている。

■アルカディア平原の地下氷はどこまで広がるか

アルカディア平原の広域地下氷を示す研究は、ブラムソンらが2015年に学術誌Geophysical Research Lettersで発表した。調査対象は北緯38〜52度の範囲にあり、研究チームは段状の地形を持つクレーターと、SHARADが捉えた地下反射面を照合した。

衝突クレーターの内部にできる段差は、地下に性質の異なる層があることを探る手掛かりになる。研究チームは高解像度画像から地形モデルを作り、深い段差までの深さと、近隣の地下反射面から返る電波の遅延時間を組み合わせて、上部の物質の誘電率を求めた。

得られた平均的な比誘電率は2.5±0.28だった。周囲の氷に関連する地形や、衝突で氷が露出した地点の観測も踏まえ、研究チームは、地下反射面までの層の大部分を水氷が占めると解釈した。これは、土の粒子間の空隙を満たす量を超えて存在する「過剰氷」と呼ばれる氷である。

2017年の関連論文では、アルカディア平原の氷層の厚さは30〜80m、面積は反射が捉えられた領域に基づく約25万平方kmから、反射地点全体を囲んだ約120万平方kmまでと整理されている。約120万平方kmという値は、観測地点の配置から求めた外縁の規模を表す。比較すると、外務省が示すエジプトの国土面積は約100万平方kmである。

2015年の論文が示した氷の体積の推定範囲は、約1万3000〜6万1000立方kmだ。この地域では、新しくできた衝突クレーターが浅い地下氷を露出させた例も観測されている。地形、レーダー、露出した氷という異なる証拠を組み合わせることで、地下氷の分布を調べられる。

■北極と南極に残る異なる堆積史

火星の両極には、厚さ数kmに達する水氷を主体とした層状堆積物がある。その周辺のクレーターにも、主な堆積域から離れて氷が残っている。こうした孤立した氷の堆積物を比較すると、極域で氷が蓄積した過程を探ることができる。

ライリー・マクグラッソン、ブラムソンらは、2023年のJournal of Geophysical Research: Planets掲載論文で、両極の周辺クレーターにある氷を系統的に調べた。研究では、地表からの反射と地下からの反射を分け、それぞれの極の層状堆積物と比較している。

北極周辺では、調査した堆積物のうち1例を除いて地下反射面が確認され、主な北極層状堆積物と共通するレーダー上の特徴が見られた。研究チームは、これらの氷が同時期に堆積した可能性、または似た環境条件の下で形成された可能性を挙げている。

一方、表面反射の違いは、上部約5mの粗さや物質の性質に差があることを示唆する。地下の共通点と表面付近の違いを組み合わせると、広域的な堆積環境と、その後に各地点で働いた局地的な作用を考える手掛かりになる。

南極周辺の堆積物は北極周辺より多様で、近隣の南極層状堆積物との類似性に基づき、2つの群に分けられた。研究チームは、この違いが複数の堆積時期や形成環境を反映している可能性を示している。南北それぞれの記録を比較することは、火星の氷の蓄積と移動を説明する気候モデルに観測上の制約を与える。

■自転軸の変動と地下氷の保存

火星の自転軸の傾きは現在約25度で、地球の約23.5度に近い。地球では傾きの変動が比較的小さい一方、火星では長期的に大きく変動する。軌道計算では、最近約450万年間はおおむね15〜35度の間で変化し、それ以前には平均的な傾きがより大きかった時期が示されている。

傾きが変わると、緯度ごとの日射の分布も変化する。極域で氷が昇華しやすくなったり、別の緯度で雪や氷が蓄積しやすくなったりするため、自転軸の変動は火星の水の移動を考える重要な要素になる。アルカディア平原の氷も、過去の気候条件で形成された堆積物として研究されている。

2015年の論文では、氷層の広がりや塵の少なさなどから、降雪による形成が有力な候補とされた。関連する気候モデルは、自転軸の傾き、水蒸気の供給源、大気中の塵などの条件が整うと、中緯度で氷が蓄積し得ることを示している。

長期保存の鍵となるのは、氷の上を覆う乾いた土砂や塵だ。ブラムソンらが2017年に発表したモデル研究では、氷が昇華した後に残る塵などが被覆層を作り、その後の氷の損失を抑えることで、氷層が数千万年にわたり残り得るとされた。同研究は過去2100万年間を計算しており、地下氷が複数の自転軸変動サイクルを越えて保存される仕組みを提示している。

■有人探査の着陸候補地としての魅力

アルカディア平原が注目されるのは、地下氷に加え、比較的低い標高や平坦な地形を備えるためでもある。NASAが公開した着陸候補地の検討資料では、この地域と周辺の低く平坦な場所が提案されてきた。低標高の場所では、着陸機の減速に利用できる大気の層が厚くなる。

NASAは2019年の地下氷分布に関する発表でも、アルカディア平原の広い範囲を有望な調査対象に挙げた。有人探査では、氷への近さとともに、極域より温暖で日照を得やすい緯度、着陸時の安全性などを併せて検討する必要がある。

地下氷から得た水には、飲料水や生命維持、電気分解による酸素・水素の製造などの用途が考えられる。NASAの資源利用技術の研究では、回収した水を放射線遮蔽に使うことも検討されている。現地で必要な資源の一部を調達できれば、地球から運ぶ物資を減らすことにつながる。

■次世代レーダーが目指す浅い地下の把握

地下氷を資源として評価するには、氷の上面までの深さ、氷の厚さや純度、上を覆う土砂の性質を、候補地点ごとに詳しく調べる必要がある。SHARADの公称鉛直分解能は真空中で15m、水氷中では理論上約8.5mであり、数十m規模の層構造を調べるのに適している。

より浅い地下を細かく調べる構想が、International Mars Ice Mapper(I-MIM)である。ASI、カナダ宇宙庁(CSA)、JAXA、NASAによる観測定義チームは2022年に最終報告書を公表し、ブラムソンは共同議長を補佐する役職を務めた。JAXAも同年9月に報告書の公開を案内している。

報告書は、中低緯度の地表から深さ10m以内にある水氷と、その上を覆う物質を調べ、将来の有人探査の計画に役立てることを目標に掲げた。中核装置として検討されたのは中心周波数930MHzのレーダーで、浅い地下の氷の厚さを調べる要求には鉛直分解能0.5mが示されている。

高精細な地下探査では、中心周波数に加え、帯域幅、地下物質による電波の減衰、観測方式が重要になる。ブラムソンの研究グループは、地球でもアイスランドの氷河で地中レーダー観測や氷のコア採取に取り組んでいる。軌道観測、地形解析、モデル計算、地上での調査を組み合わせる手法が、火星の氷の形成史と利用条件を具体化する鍵となる。

元記事: Radar Maps Mars Ice Sheet Bigger Than Egypt: Polar Caps Show Asymmetric Climate Records

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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