カナダ、Galileo利用へEUと交渉へ 北極圏の測位と安全な衛星通信で協力

2026年11月1日 13:38

印刷

記事提供元:Tech Times

(Esa.int)

(Esa.int)[写真拡大]

カナダと欧州連合(EU)は2026年10月30日、衛星測位システム「Galileo(ガリレオ)」のサービスをカナダが利用する枠組みに向け、交渉を始める方針を発表した。安全な衛星通信網「IRIS²」での協力についても探索的協議を進め、北極圏を含む測位・航法サービスと通信基盤の強化を図る。

■首脳会議で宇宙協力を拡大

方針は、10月29~30日にモントリオールで開かれた第21回カナダ・EU首脳会議の共同声明に盛り込まれた。両者は「未来に向けた同盟(Alliance for the Future)」を打ち出し、貿易、デジタル技術、資源・エネルギー、金融、安全保障、人の交流で協力を深める。

宇宙専門メディアSpaceQによると、宇宙協力の文書にはメラニー・ジョリー産業相と、EU初の防衛・宇宙担当委員であるアンドリウス・クビリウス氏が署名した。共同声明は、安全な通信に加え、地球観測能力に関する協力の深化も掲げている。

カナダとGalileoの技術協力には長い歴史がある。カナダ宇宙庁は2003年、Galileoの開発・検証段階への参加と1,100万カナダドル(約12億4000万円)の拠出を発表した。Galileoが初期サービスを開始したのは、その13年後の2016年である。

■政府向け暗号サービスと信号認証

Galileoには、政府が認めた利用者向けの暗号化サービス「Public Regulated Service(PRS)」がある。欧州委員会によると、安全保障・防衛用途を想定し、妨害電波や偽信号を使うスプーフィングへの耐性を高め、厳しい電波環境でもサービスの継続性を確保する設計だ。

欧州宇宙機関(ESA)の技術資料では、PRSは中心周波数1,575.42MHzのE1帯と、1,278.75MHzのE6帯で信号を送る。広帯域信号による干渉への耐性と、暗号化によるアクセス制御を組み合わせている。

EUの制度では、PRSを利用する第三国には、機密情報の保護やサービス利用に関する国際協定などの条件がある。利用側にはPRSを所管する当局の指定や、暗号鍵・対応受信機を適切に管理する体制も必要になる。カナダの具体的な利用条件は、今後の枠組みづくりで詰めることになる。

欧州以外の衛星測位にも暗号化サービスはある。米GPSは軍用のP(Y)コードを提供し、米軍は妨害耐性と暗号保護を強化するMコードへの移行を進めている。ノルウェーとEUの2010年の衛星航法協力協定にも、ノルウェーのPRS利用への関心と、その条件を別途協議する方針が記されている。

一般向けには、Galileoの航法メッセージ認証サービス「OSNMA」が2025年7月24日に初期運用を開始した。受信機は暗号技術を用いて、衛星の軌道や時刻に関する航法データがGalileoから送られ、改変されていないことを検証できる。利用にはOSNMAに対応した受信機と認証処理が必要だ。

さらに、民生用途の信号認証サービス「SAS」の試験も進む。ESAの技術解説によると、受信機が記録したE6帯の信号を、後から得る鍵で復号した照合用データと突き合わせる仕組みだ。OSNMAによるデータ認証に測距信号の認証を加える構想で、初期サービスは2027年を予定している。

■無償の高精度サービスでも連携

Galileoの高精度サービス「High Accuracy Service(HAS)」は、2023年1月24日に初期サービスを開始した。衛星の軌道や時計などの補正情報を、Galileo衛星のE6-B信号とインターネットを通じて世界向けに無償配信している。対応受信機と精密単独測位(PPP)の処理により、位置推定の精度を高める。

欧州GNSSサービスセンターによると、完全サービスの精度目標は、測位誤差の95%値で水平方向20cm、鉛直方向40cmである。初期サービスから提供範囲と性能を段階的に拡大する計画で、土地測量、精密農業、建設現場の位置出し、資源開発などへの活用が見込まれる。

カナダ政府は首脳会議の説明資料で、HASとの測地分野の連携を正式化する方針を示した。測地は地球の形状や地表の位置を精密に定める分野であり、政府は欧州の測位能力との連携によって、北極圏を含む国内の高度な測位サービスへのアクセスを広げるとしている。

■北極圏の測位から重要インフラの時刻同期まで

高緯度地域での衛星測位では、衛星の見え方や電離圏の状態が重要になる。地平線に近い低い仰角の衛星から届く信号は、大気中を通る距離が長くなり、伝搬遅延や反射の影響を受けやすい。北極圏では、こうした条件を踏まえた受信・補正技術が求められる。

米政府のGPS.govは、上空が開けた場所でのGPS搭載スマートフォンの典型的な精度を半径4.9mとしている。実際の精度は衛星配置、遮蔽物、大気、受信機の性能によって変わる。GPSとGalileoなどを併用すれば、測位に使える衛星や観測の選択肢を増やせる。

衛星測位が担うのは、現在地の表示だけではない。測位・航法・時刻情報を意味するPNTのうち、時刻情報は通信や金融、電力にも使われる。米国立標準技術研究所(NIST)は、GPSによるナノ秒単位の時刻計測や、携帯通信網の同期、金融取引の時刻記録、電力網の監視におけるGPS依存を説明している。

経済への影響も政策課題だ。カナダの報道機関The Logicによると、MDA Spaceのマイク・グリーンリーCEOは2026年初めの講演で、カナダが現在のPNTシステムを利用できなくなった場合、経済損失が1日最大10億ドル(約1580億円)に達し得るとの見方を示した。

カナダのイノベーション・科学・経済開発省は、10月22日の発表で初の「PNT Resilience Framework」を説明した。枠組みは10の重点分野を設け、国家PNT窓口、国内で管理する時刻基盤、干渉監視、測地基盤、宇宙・地上双方の技術などを、今後検討する施策として挙げている。

■IRIS²は協力の枠組みを探る段階

IRIS²について、カナダ政府は対話と情報共有の枠組みとなる行政上の取り決めを通じ、EUとの関与をさらに探る方針だ。政府、防衛、緊急対応、重要インフラ、商用利用を対象とする安全な通信網を巡り、協力の条件や方法を検討する。

IRIS²の中核を担うSpaceRISEは、ルクセンブルクのSES、フランスのEutelsat、スペインのHispasatで構成する。欧州委員会は2024年12月16日、同コンソーシアムと設計・開発・配備・運用に関する12年間のコンセッション契約を結んだ。官民が資金と役割を分担する事業である。

事業に関わるインドラの2026年10月の投資家向け資料では、主な衛星群は計348基で、高度約1,200kmの低軌道に330基、高度約8,000kmの中軌道に18基を配置する。低軌道による低遅延の通信と、中軌道による広いカバー範囲を組み合わせる構成だ。同資料は、最初の打ち上げを2029年、政府の認可利用者向け初期サービスを2030年としている。

事業規模は、2024年の契約時の約106億ユーロから拡大している。インドラの2026年10月資料では約156億ユーロとされる。欧州中央銀行の10月30日の参考レートで換算すると、それぞれ約118.4億米ドル、約174.3億米ドルに相当する。欧州委員会とSpaceRISEによる設計・運営・資金面の見直し交渉は、2026年8月7日にまとまった。

EU域外国との協力では、ノルウェーとアイスランドが2026年3月26日、GOVSATCOMとIRIS²への参加を認める協定に署名した。欧州委員会によると、政府向けに衛星通信能力を共同利用するGOVSATCOMは同年1月に運用を開始している。クビリウス委員はIRIS²を欧州の戦略的自律性を支える計画と位置付け、「欧州版Starlink」とも表現している。

■MDA Spaceが66基向けアンテナで初期契約

政府間協議と並び、カナダ企業もIRIS²の供給網に入る。宇宙用ロボットアーム「Canadarm」やレーダー、衛星システムを手掛ける上場企業MDA Spaceは10月30日、Thales Alenia Spaceとの間で、初期配備する低軌道衛星66基向けのデジタルアンテナ関連機器に着手する契約を発表した。

契約は作業開始を認める「Authorization to Proceed(ATP)」で、金額は1億カナダドル超である。同社はMDA AURORAの広帯域デジタル・フェーズドアレイアンテナと制御装置を供給する。電子的にビームを制御する機能を備え、モントリオールの施設で設計・製造・試験を行う。

グリーンリーCEOは、2029年に打ち上げ予定の初期衛星向け機器を担うことを、同社とAURORA技術にとって重要な節目と位置付けた。MDA Spaceによると、今回のATP契約は2026年度第4四半期の受注残に計上する。担当業務全体の最終契約は、契約条件の確定を経て締結する。

■国内の次世代測位技術にも投資

カナダは欧州との連携と並行し、国内の開発・運用基盤にも資金を投じる。ジョリー産業相は10月20日、Xona Space Systems Canadaに対する1,500万カナダドル(約17億円)の支援を発表した。モントリオールに衛星の運用、システム開発、製造の拠点を設ける、総額6,480万カナダドル(約73億2000万円)の事業を支える。

Xonaは低軌道のPNT衛星網「Pulsar」を開発している。同社はセンチメートル級の測位を目標に掲げ、カナダ政府はGPSやGalileoを補完し、従来の衛星測位信号が弱い場所や妨害を受ける環境での信頼性を高める技術として支援している。

衛星測位には、米国のGPS、EUのGalileo、ロシアのGLONASS、中国のBeiDouなどがある。カナダのPNT強靱化の枠組みは、既存の衛星測位に加え、低軌道衛星、地上の信号、各種センサーなどを組み合わせる方向を示す。政府は、北極圏や沿岸、人口の少ない地域など、それぞれの地理的条件に応じた技術の組み合わせを重視している。

元記事: Canada Opens Formal Talks on Galileo Access as Arctic GPS Accuracy Degrades to 1 Kilometer

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

関連キーワード