Moore Threads製GPUを10万枚規模へ―JD Cloudが中国産AIクラスタ構築を計画

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中国EC大手の京東集団(JD.com)は9月9日、クラウドコンピューティングサービス「JD Cloud」で、中国のGPU開発企業「Moore Threads」の全機能GPUを基盤とする10万カード級のAIコンピューティングクラスタを構築する計画を発表した。大規模モデルの学習や推論、具身知能などに利用し、幅広い業界へ計算資源を提供する方針である。
一方、Moore Threadsが公表している95%の線形スケーリング効率は、10万カード構成ではなく、MTT S5000を使った1万カード級クラスタでの測定値である。10万カード規模で同等の効率を維持できるかは明らかになっておらず、採用するGPUの具体的なモデル、完成時期、ノード間ネットワークの構成も公表されていない。
■国産GPUによる10万カード級クラスタ
計画は、2026年に開かれたJDDiscovery京東全球科技探索者大会で発表された。クラスタにはMoore Threadsの全機能GPUを採用し、大規模モデルの学習と推論、具身知能、物理シミュレーション、学習用データの生成などを支える。
両社はチップ、クラウドプラットフォーム、モデル学習を含むソフトウェアとハードウェアの協調最適化を進める。JD Cloudの独自モデル群「JoyAI」の学習や改善にも利用し、外部企業にも計算資源を開放する計画だ。
JD CloudとMoore Threadsは、これ以前にも1万カード級の国産GPUクラスタを構築している。ただし、今回発表された10万カード級クラスタについて、既存環境を単純に10倍へ拡張するのか、新しいGPUやネットワーク技術を導入するのかは示されていない。
また、発表はクラスタの構築計画を示した段階であり、稼働開始時期や総投資額、料金体系、サービス提供地域は明らかにされていない。したがって、現時点では完成済みの10万カード級システムとして扱うべきではない。
■MTT S5000の性能と公表済みの仕様
Moore Threadsの現行データセンター向け主力製品は、大規模モデルの学習と推論に対応する「MTT S5000」である。第4世代MUSAプラットフォームと「Pinghu」アーキテクチャを採用し、FP8からFP64までの演算精度を扱う。
同社の公式仕様によると、MTT S5000は1枚当たり最大1000TFLOPSのAI演算性能、80GBのメモリ、毎秒1.6TBのメモリ帯域幅を備える。MTLinkによる8枚の相互接続に対応し、カード間帯域幅は毎秒784GBとしている。いずれもMoore Threadsが公表した仕様値である。
ソフトウェア面では、MUSAがPyTorch、Megatron-LM、vLLM、SGLangなどに対応する。Moore Threadsは、既存コードの移行負担を抑えられるとしているが、実際の移行作業や性能は、使用するモデル、演算子、ライブラリ、精度形式によって変わる。
なお、JD Cloudは10万カード級クラスタに採用するGPUの具体的なモデルを発表していない。このため、MTT S5000が使われると現時点で断定することはできない。Moore Threadsは次世代の「Huagang」アーキテクチャと、それを採用するAI向け製品「Huashan」も開発しており、構築時期や製品の供給状況によって構成が変わる可能性がある。
■95%の線形スケーリングは1万カード規模の公称値
Moore Threadsは、MTT S5000を使った1万カード級の大規模学習環境について、線形スケーリング効率が最大95%に達したと説明している。これは、GPUを千枚規模から1万枚規模へ増やした際に、学習処理のスループットが理想的な増加量の95%に相当したという意味である。
同社はさらに、モデルFLOPS利用率(MFU)が高密度モデルで60%を超え、MoEモデルで約40%に達したとしている。MFUは、モデルの処理に実際に使われた演算量を、GPUの理論上の最大演算能力と比較する指標である。これらの数値もMoore Threadsが自社環境で測定、公表したもので、第三者による同条件での比較検証は確認されていない。
重要なのは、95%という値が10万カード級クラスタで測定されたものではない点だ。Moore Threadsの公式説明では、1万カード級の事前学習環境における結果として示されている。10万カード級へ拡張した場合の線形性、MFU、消費電力、障害発生率、実効稼働時間については、まだ測定結果が公表されていない。
大規模分散学習では、GPUを増やすほど、勾配やパラメータを同期する集合通信の負荷が大きくなる。カード間接続だけでなく、サーバーやラックをまたぐノード間ネットワーク、ストレージ、ジョブ配置、障害復旧の設計が実効性能を左右する。
10万カード級では、カード単体の演算性能以上に、クラスタ全体の通信効率と運用能力が重要になる。JD CloudとMoore Threadsは、今回のクラスタで使うノード間ファブリック、ネットワークの階層構造、通信帯域、冗長化方式を公表していない。このため、1万カード級で得られた公称95%の線形性を10万カード級へそのまま当てはめることはできない。
■商用クラウドではソフトウェアと運用能力も焦点
10万カード級クラスタを企業向けクラウドとして運用するには、大規模な学習を実行できるだけでなく、複数の利用者と処理を安全かつ効率的に管理する必要がある。
求められる機能には、利用者間のワークロード分離、学習や推論など異なるジョブの動的スケジューリング、GPU障害を検出して処理を継続する耐障害性、チェックポイントからの学習再開、利用時間や計算資源を正確に計測する課金管理などがある。
Moore Threadsは、MTT S5000が障害の検知、通知、隔離や、不調なノードの交換を支援するRAS機能を備えるとしている。また、MUSAは大規模分散学習に必要なソフトウェア環境を提供する。しかし、これらの仕組みを10万カード規模のマルチテナント型クラウドで運用した実績や、サービス水準に関する詳細は公表されていない。
CUDAを前提として構築された既存のAIワークロードをMUSAへ移す場合も、フレームワークが対応しているだけで移行が完了するとは限らない。独自のCUDAカーネル、外部ライブラリ、監視システム、分散学習用ソフトウェアなどを使っている企業は、互換性と性能を個別に確認する必要がある。
一方、中国の顧客向けにハードウェアとソフトウェアを一体で調整できることは、Moore Threadsの競争力になり得る。JD Cloudとの協業では、JoyAIや具身知能向け処理に合わせてクラスタ全体を最適化できる可能性があり、汎用ベンチマークだけでは測れない商用上の利点となる。
■データ管理と法令への対応
企業がJD Cloudの計算資源を利用する場合、データが保存、処理される地域や、適用される契約条件と法令を確認する必要がある。特に、個人情報、営業秘密、学習用の非公開データ、モデルの重みなどを扱う企業にとって、データの所在とアクセス管理は重要な検討事項となる。
中国の国家情報法第7条は、組織と国民に対し、法に基づいて国家情報活動を支持、援助、協力することを求めている。サイバーセキュリティ法にも、ネットワーク運営者が公安機関や国家安全機関へ技術的な支援と協力を提供することを定めた条項がある。
もっとも、中国のデータ関連法制が、同国内で処理されるあらゆるデータについて一律の国内保存を義務付けているわけではない。データの種類、事業者の区分、処理量、越境移転の方法などに応じて要件が異なる。利用企業は、JD Cloudが提示する保存地域、越境移転、暗号化、鍵管理、ログ、政府機関からの要請への対応方針を、自社のデータ管理基準と照合する必要がある。
MTT S5000に搭載されるPH100チップは、Moore Threadsによると、中国情報安全測評センターが実施する安全可靠測評に合格している。ただし、この認証の対象範囲と、クラウドサービス全体のセキュリティ評価は分けて考える必要がある。
■実運用で問われる10万カード級の効率
Moore Threadsは2020年に設立され、2025年12月に上海証券取引所の科創板へ上場した。2025年の売上高は15億500万元で、前年比243.37%増となった。一方で、研究開発費などが重く、同年は最終赤字だった。
同社はMTT S5000を使った1万カード級クラスタの商用展開を進めるとともに、10万カードを超える規模を視野に入れた次世代アーキテクチャを開発している。JD Cloudとの計画は、中国製GPUを単発の研究設備や限定的な実証環境ではなく、企業が利用する大規模なクラウド基盤へ広げる試みとなる。
今後の評価で重要になるのは、GPUの理論性能や公称スケーリング効率だけではない。実際のモデル学習や推論における処理速度、クラスタ全体の利用率、消費電力、障害時の復旧時間、ソフトウェアの互換性、計算資源の価格などを総合的に見る必要がある。
JD Cloudが10万カード級クラスタを完成させ、複数の企業が継続的に利用する段階へ進めば、Moore ThreadsのハードウェアとMUSAの大規模運用能力を評価する材料が得られる。公称95%の線形スケーリングが示しているのは1万カード級での結果であり、10万カード級の実効性能は、今後の構築と運用によって初めて明らかになる。
元記事: Moore Threads Claims 95% Scaling on 100,000 GPUs: No Independent Auditor Has Verified It
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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