リュウグウの砂から濃厚な塩水の痕跡、窒素化合物が集まる環境を確認

2026年9月6日 18:05

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記事提供元:Tech Times

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小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰ったリュウグウの砂から、炭酸ナトリウムや岩塩などの塩結晶の周囲に、アンモニアをはじめとする多様な窒素化合物が集まっていることが分かった。約45億年前、リュウグウの母天体内部で水が凍結や蒸発によって減少し、残った塩水が濃縮された過程を記録していると考えられる。

窒素化合物はアミノ酸や核酸塩基などの合成に関わる。今回の発見は、母天体内部に水が存在しただけでなく、水の減少に伴って反応性物質が集まる環境が生まれ、生命の材料につながる化学反応が促された可能性を示している。

■塩結晶の周囲に集まった窒素化合物

京都大学白眉センター・理学研究科の松本徹特定助教らによる研究成果は、2026年8月27日付で科学誌「Nature Astronomy」に掲載された。研究グループは、リュウグウ試料を赤外分光法、X線吸収分光法、透過型電子顕微鏡などで分析した。

その結果、炭酸ナトリウムや塩化ナトリウムなど、水に溶けやすい塩結晶の周辺から、アンモニウムを含む粘土鉱物、炭素と窒素が三重結合したC≡N構造を持つ有機物、硝酸塩などが見つかった。塩を含まない別の試料からは、窒素化合物に対応する明瞭な特徴が確認されなかった。

アンモニウムは、層状の構造を持つ粘土鉱物の層間に取り込まれていると考えられる。窒素化合物がリュウグウの砂全体に一様に分布しているのではなく、水の減少によって生じた塩の集積部に集中していることが、複数の分析手法から示された。

これは、アンモニアやC≡N構造を持つ反応性物質が母天体の形成時に取り込まれ、その後の水質変成を通じて塩水中に移動し、水が失われる最終段階まで残っていた可能性を示す。これらの物質は、母天体内部で起きた非生命的な有機物合成に窒素を供給したと考えられる。

■水の減少が生んだ濃厚な塩水

リュウグウは直径約900メートルのC型小惑星で、約45億年前に形成された、より大きな母天体の破片からできたと考えられている。過去の研究では、その母天体内部で岩石と水が反応する水質変成が起きていたことが明らかになっている。

松本徹らは2024年、リュウグウ試料から炭酸ナトリウム、塩化物、硫酸塩を含む塩を発見した。これらは、アルカリ性の水が凍結または蒸発し、残った塩水の濃度が高まる過程で形成されたと解釈されている。

水が凍る際には、溶けていた塩類の多くが氷から排除され、残った液体に集まる。蒸発によって水分が減る場合も、溶存成分の濃度は上昇する。こうして生じた濃厚な塩水から各種の塩が沈殿し、その周辺にアンモニアなどの窒素化合物も集まったとみられる。

今回の研究は、こうした塩水の濃縮過程と窒素化合物の分布を結び付けた。重要なのは、塩と窒素化合物が同じ結晶格子に一括して閉じ込められていたということではなく、塩の結晶と、その周囲にあるアンモニウム含有粘土や含窒素有機物、硝酸塩が空間的に結び付いていた点である。

水が減ることで溶存物質が集まり、互いに反応しやすくなる構造は、生命誕生以前の化学を考える上で重要な補助線になる。研究グループは、濃厚な塩水によってアンモニアなどの反応性物質が高濃度で出会い、より複雑な生命材料へとつながる反応が促された可能性を指摘している。

■地球由来の汚染を抑えた帰還試料

「はやぶさ2」は2019年、リュウグウの2カ所で試料を採取し、2020年12月に地球へ届けた。回収された試料の合計重量は約5.4グラムだった。

試料コンテナは真空状態を保ったまま地球へ帰還し、JAXAの地球外試料キュレーションセンターに運ばれた。試料は真空または高純度窒素の環境で回収、保管され、地球大気や水分などによる汚染を極力避けて取り扱われている。

今回調べられた塩は湿気にさらされると変化しやすく、地上に落下して雨風にさらされた隕石では保存されにくい。小惑星から直接採取した試料だからこそ、母天体内部に存在した塩水の状態を詳しく調べられた。

これまでの分析では、リュウグウ試料からアミノ酸、カルボン酸、アミン、芳香族炭化水素、核酸塩基など、多様な有機分子が見つかっている。2026年3月には、古賀俊貴らの研究グループが、DNAやRNAを構成するアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルの5種類すべてをリュウグウ試料から検出したと報告した。

核酸塩基がそろっていることは、遺伝暗号そのものや生命が存在したことを意味するものではない。一方で、生命が利用する基本的な分子が、生物の存在しない小惑星環境でも形成され得ることを示す観測結果である。

今回明らかになった塩水の濃縮過程は、そうした多様な分子の生成や変化を支えた母天体内部の化学環境を読み解く手掛かりになる。塩水、有機物、粘土鉱物が共存し、水の量が時間とともに変化することによって、複数の成分が移動、濃縮され、相互作用する場が生まれたと考えられる。

■ベヌー試料にもアンモニウム含有粘土

2026年5月には、NASAの探査機OSIRIS-RExが持ち帰った小惑星ベヌーの試料とリュウグウ試料の双方から、アンモニウムを含むフィロケイ酸塩が確認された。両試料で見つかった粒子は、近赤外線領域でよく似たスペクトル特性を示した。

リュウグウとベヌーという別々の小惑星で共通する鉱物が見つかったことは、アンモニウムを粘土鉱物に取り込む過程が、初期太陽系の水を含む小天体で起きていた可能性を示している。今後、両試料の共通点と相違点を詳しく比較することで、窒素化合物がどのような環境で保存され、変化したのかをさらに絞り込める。

濃厚な塩水という共通構造は、準惑星ケレスなど、地下に塩水が存在したと考えられる太陽系の水天体を理解する手掛かりにもなる。ケレスでは炭酸ナトリウムを含む明るい堆積物が観測されており、地下の塩水に由来すると考えられている。リュウグウ試料は、こうした天体で塩水の濃縮と窒素を含む有機化学がどのように結び付くかを考えるための、直接分析できる記録となる。

■生命材料が形成された環境を探る

今回の研究が示したのは、リュウグウの母天体に生命が存在したということではなく、生命を構成する物質につながる化学反応に適した環境が形成されていた可能性である。

これまでに見つかったアミノ酸や核酸塩基などの有機分子に加え、今回、窒素化合物が塩水の濃縮過程と結び付いて分布していることが確認された。リュウグウの母天体は、生命材料となる分子を単に含んでいただけでなく、水、鉱物、塩、有機物が相互作用し、反応物が集まる化学環境を備えていたと考えられる。

小惑星に由来する物質が初期地球へ運ばれ、生命の起源にどの程度寄与したかは、帰還試料だけでは決められない。それでも、地球外で生命関連分子がどのように形成され、濃縮され、保存されたのかを物質の記録からたどれるようになった意義は大きい。

「はやぶさ2」が持ち帰ったわずかな砂は、約45億年前の母天体内部で水が減少し、濃厚な塩水が生まれ、その周囲に窒素化合物が集まった過程を残している。生命材料の化学進化を考える上で、リュウグウは初期太陽系に存在した反応環境を具体的に読み解ける貴重な試料となっている。

元記事: Ryugu Salt Crystals Locked Nitrogen Into Life’s Building Blocks 4.6 Billion Years Ago

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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