インボイス制度導入に必須の「登録」が延期、計画通りにスタートできるのか?

2023年1月24日 11:18

印刷

 消費税の正確な納付を目的としたインボイス制度(適格請求書保存方式)は、23年10月からスタートする。その前段として定められていた「課税事業者」への登録l期限が、23年3月末から同9月末に延期となった。

【こちらも】インボイス、個人登録は2割未満 負担増への反発根強く、登録の遅れが制度全体に影響

 背景には、手続きの分かりにくさと、制度に対する不信感があると指摘されている。

 現在の消費税制度は、商品の販売やサービスの提供があった場合に課税される。取引には不課税取引や非課税取引、免税取引などが存在し、8~10%という税率の違いや、売上高が1000万円未満の零細事業者(免税事業者)には支払いの義務がないなど、仕組みは複雑だ。

 免税事業者でも消費税を請求できるが納付する義務はないから、「益税」となるとして制度の矛盾を指摘する声もあるが、免税事業者でも仕入れがあれば消費税を負担しているので、全てが益税になるわけでもない。・・・要するに分かりにくい。

 そのために生まれたのがインボイス制度だが、事業者は23年3月末までに税務署に「事業者登録」申請書を提出して、適格請求書発行事業者として登録される必要があった。

 事業者は登録番号が記載されている請求書の消費税金額を合算して、自社が受け取った売上代金から控除する。この流れが徹底されれば、同一の商品やサービスに対する取引が何度行われても、消費税を負担するのは最終消費者だけという事になる。

 登録事業者と非登録事業者の取引の場合、登録事業者(A)が非登録事業者(B)から仕入れを行うと、A社は登録番号が記載されていない請求書を受け取る事になるため、B社から仕入れした際に支払った消費税を、A社の売上代金から控除する事ができない。こうなると、A社はB社の消費税を負担する羽目に陥るので、B社は A社との取引から排除されるか、消費税相当分の値下げを求められる恐れがある。

 取引上の不利を回避するために登録事業者になると、納税時の事務負担が増大するとともに、今まで負担していなかった消費税の支払いを迫られる。かと言って、登録事業者にならなければ、以後の売上が減少する恐れは十分考えられる。零細事業者がどっちを選択しても、過酷な状況が必至なわけだから結論は出しにくい。

 制度変更の煽りを受ける零細事業者の裾野は広い。その中には、シルバー人材センターで働く高齢者も含まれる。シルバー人材センターは退職後の高齢者の受け皿として、多様な業務を遂行している。制度の発足時には、高齢者の生き甲斐を創出しようという意味合いが強かったようだが、人口減少で人手不足が叫ばれる今日では、社会経済活動の円滑化に大きく寄与している貴重な存在だ。

 シルバー人材センターは公益社団法人として利益を目的としていないから、業務の売上代金は事務所の諸経費を控除した残り全額が、業務に従事したシルバー会員に配分される。精々、毎月数万円程度の収入なので、登録事業者への転身を勧めても「そんな面倒くさい事をするなら、辞める」という事になって、事業の存続が危ぶまれる。結局、シルバー人材センターは消費税を負担するために、発注者の理解を得て受注価格を引き上げる道しか残されていない。

 タクシーの運転手やフリーランスなど様々な零細事業者にも、同様の背景が想像できる。東京商工リサーチの調べでは、22年11月末時点の登録率は、全体で44.6%、個人事業主は19.0%だというから、延期に追い込まれたようなものだろう。計画通り制度がスタートできるのかどうか、まだまだ波乱がありそうな気配である。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事