老化もたらす活性酸素種、月や火星では有益な酸素供給源にも ESA

2022年3月8日 16:40

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月面で活性酸素種から酸素を作り出す工場のイメージ (c) ESA

月面で活性酸素種から酸素を作り出す工場のイメージ (c) ESA[写真拡大]

 活性酸素種は、酸素分子に由来する反応性に富む、分子群の総称だ。人体内でも生成され、これが蓄積され続けると老化の原因となることが知られている。欧州宇宙機関(ESA)は、この活性酸素種が月面や火星表面で多く生成されている可能性があり、それらから人間が呼吸するために必要な酸素を抽出すれば、地球から大量の酸素を持ち込まなくとも、月や火星での長期滞在が可能になるとの研究結果を発表した。

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 この情報の発端となったのは、1976年に火星に送り込まれたバイキングによる生命探査実験である。バイキングで火星の土壌サンプルに微量栄養素の液体を投与したところ、大量の酸素放出が確認された。当初この結果に対して生命存在の証拠との判断を下す科学者もいたが、のちに土壌サンプルを160度の熱で滅菌処理して微量栄養素投与をしても酸素放出が確認されたことから、生命存在の証拠と考える科学者は少数派となった。

 その後も、バイキング実験における酸素放出の原因究明は、多くの科学者らによって続けられる。結果、火星の環境下では、酸素供給源となりうる活性酸素種が、極端な温度と微小隕石によって破壊破砕された鉱物が強力な紫外線照射を受けることによって、生成されることが解明された。

 バイキング実験を火星や月面の各地で実施すれば、活性酸素種の存在を探索できることが証明されたのである。またバイキング実験時の酸素放出反応を応用すれば、気体酸素が存在しない火星や月面において、人間の呼吸に必要な酸素を安定的に供給できることも明らかになった。

 科学者の推定では、1.2ヘクタールの面積で、1人の宇宙飛行士が生き続けるのに十分な酸素が生成できるという。

 現在は新型コロナやロシアのウクライナ侵攻などの影響を受け、人間を月に送り込むアルテミス計画の実現時期の見通しが立たなくなっている。だが宇宙に人間が長期滞在するために必要な周辺技術の開発は、着々と進められている。今人類は明るい未来を信じて、その足場固めをするべき時期なのであろう。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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