ベースロード電源を見据えたEV推しか

2021年1月12日 15:36

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大規模分譲住宅の一戸建てなら充電設備を設置してEV車保有することも可能だ(画像提供:住友林業)

大規模分譲住宅の一戸建てなら充電設備を設置してEV車保有することも可能だ(画像提供:住友林業)[写真拡大]

●EVが一斉に充電することは想定したか 

 「一戸建ての一家3人が、4日間暮らせる」電力で300~400km程度しか走れないというのが、EV車の現状だ。

【こちらも】「ゼロエミッション車」に限定するカリフォルニアへの疑問

 それ程電力を必要とするEV車への電力供給を、「EV車化」をぶち上げる前に、真剣に試算したのだろうか。

●大規模分譲住宅地

 茨城県守谷市、つくばエクスプレス守谷駅から徒歩16分の962区画ある「ビスタシティ守谷」という分譲宅地がある。この分譲地を取得する家庭は、子育ても終わって、完全にリタイヤした高齢者層であるとは考え難い。何故なら、この層の人達は都会地のマンションを選ぶだろう。

 この分譲地を取得して、庭付き一戸建てで、子供を庭で伸び伸び遊ばせたい、子育て真っ最中の働き盛りの家族が主体となるだろう。こんな家族にとっては、車は不可欠だと思われる。

 車を保有しない家庭も存在するが、大多数は車を持ち、複数台数の自家用車を保有する家庭も多い。

 もし10%の家庭が車を保有していなくても、複数保有家庭が20%だと仮定すると、約900軒に自家用車が1,000台程度あることになる。そして、EV車を積極的に選ぶ「物好き」が10%居たとすれば、100台のEV車がこの分譲地に存在することになる。

 オーナーカーは、昔は「月1000km」程度が平均的な走行距離だったが、現在は多分半減しているのではないだろうか。

 「EV車は維持費が安い」とか、「近所へ行くならEV車で」とか考えて100台が月500km平均走行するなら、50,000km。フル充電で350km走行できるとして、50,000km走行するには142.8回充電が必要となる。

 つまり、分譲地内の10%のEV車だけで、フル充電142.8回×4日の571.2軒分の電気を余計に必要とする。

 これで、ガソリン車が規制されて、自宅に充電装置設置が可能だからと、EV車の台数比率が倍にでもなれば、電力会社としては結構大変なことになる。

 賢明なユーザーなら、プリウスに代表されるハイブリッド車や、日産ノートe-POWERの様な、発電専用車載エンジンを使ってモーター走行する「シリーズHV」を選ぶだろうが・・

●日本の電力事情

 原子力発電に対する拒否反応から殆どの原発が停止している現状で、中国の様な低効率な石炭火力発電ではなく、高効率な石炭火力発電である日本でも、「CO2規制」対象となっている。

 2020年10月13日付『「ゼロエミッション車」に限定するカリフォルニアへの疑問』記事には、「中国のレベルは論外」である為、表に含めなかったが、改めて下記の中国を含めた表を掲出する。

●各国の電源構成

  2017年
     石炭 石油 天然ガス 原子力 水力 その他 (CO2排出)
世界   38.5 3.3 23.0 10.3 15.9 9.0 (64.8)
米国   31.0 0.8 31.4 19.7 7.1 10.1 (63.2)
日本   33.2 6.6 37.5 3.1 7.8 11.8 (77.3)
フランス 2.7 1.3 7.3 71.5 9.0 8.2 (11.3)
ドイツ  39.0 0.9 13.5 11.8 3.1 31.7 (53.4)
中国   67.9 0.1 2.8 3.8 17.5 7.9 (70.8)

 中国の電源構成は、70.8%がCO2排出を伴う。

 CO2排出を伴う「石炭+石油+天然ガス」では日本は77.3%で、一見日本の方が酷い印象を与える。

 しかし、日本の「クリーンコール技術」によるものと較べて、中国は石炭が圧倒的に多い上に、前近代的な「煙もくもく」の石炭火力発電所では、その排出レベルが極端に異なる。中国大陸から飛来するPM2.5で、既に大迷惑を被っている事実からも判るだろう。

 低効率な排出ガスレベルが酷い中国の電気でEV車を走らせるよりも、排気ガスレベルがクリーンな日本製のガソリン車を走らせる方が、余程環境に優しい筈だ。

●原子力発電

 「稼働中の原発」も、「運転停止中の原発」も、原子炉から核燃料を取り出して「廃炉」にしない限りは、万一の巨大災害で原子炉が崩壊された場合には、危険性は変わらない。また、それ程の巨大災害が起こる確率は極小の天文学的数値レベルだ。

 事実、福島第1原発事故は、東京電力の杜撰な安全対策の結果だった。

 福島第1原発を襲った津波は高さ14メートルを超えたが、女川町を襲った津波は17メートルクラス規模の津波であった。こんな災害を受けながら、安全に停止した上に、近隣の被災者の避難所にまでなった東北電力・女川原発の安全性をもっと評価すべきだ。

 当時の女川原発のそれを上回る、現在考え得る限りの安全対策を既に追加実施した原発について、少数の反対論者の訴訟などで運転停止にしたままでは、国家的な損失だ。

●他国の非難は当たらない

 福島第1原発の処理水の放射線量は、韓国の「月城原発」の1/130でしかない。

 韓国の原子炉は垂れ流しの状況にも拘わらず、福島原発に関して、反日的な論調で「汚染水」と呼ぶが、「汚染水」を無害化して、何かにつけて日本に反対を叫ぶ「韓国の1/130」のレベルにまでキレイにしたのが「処理水」なのだ。

 運転停止中の原発を再稼働させる等の対応策を講じない限りは、我が国の電力事情は脆弱で、「原発には反対する」「石炭火力発電もCO2を排出するな」「電気代が高騰するのは絶対反対」ではどうせよというのか。

 不安定な「太陽光発電」に頼って、ベースロード電源が確保される訳がない。

●EV車に全面転換は実現不可能だ

 EV車の「自動車」としての機能が不備なままで、日本の電源事情にも考慮せず、それを保有する家庭の住宅事情も考えずに、CO2ばかりに焦点を当てれば、世界に冠たる日本の技術を無駄に枯死させることになりかねない。

 下手にEV車に同調すること無く、EV車は短期リリーフと認識して、「燃料電池車」と「水素エンジン車」で、世界に希少な「自動車を供給可能な国」の地位を堅守すべきだと考える。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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