重力波望遠鏡の感度を上げる新技術を実証 カギは量子雑音 国立天文台など

2020年5月3日 08:31

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研究グループが構築したフィルター共振計。量子力学由来のゆらぎを制御し、高感度で重力波が検出できる。 (c) 国立天文台

研究グループが構築したフィルター共振計。量子力学由来のゆらぎを制御し、高感度で重力波が検出できる。 (c) 国立天文台[写真拡大]

 光速で伝わる時空のさざ波である重力波。ブラックホールやダークエネルギー等の解明に、重力波を検出する望遠鏡が役立つ。国立天文台は4月28日、重力波望遠鏡の感度を上げる新技術を開発し、その実証に成功したと発表した。

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■アインシュタインが予言した重力波

 重力波の存在は、一般相対性理論を提唱した独物理学者アインシュタインによって1916年に予言された。超新星爆発や連星の合体等の現象で重力波の検出が可能だとされる。1世紀近くも観測できなかった重力波だが、2015年に米重力波望遠鏡LIGOが直接観測に成功した。

 現在稼働中の重力波望遠鏡は、レーザー干渉計と呼ばれるものだ。重力波による時空の歪みが生じるとレーザーの光路に差が生じ、光の強さの変化として重力波が検出される。光が通過する腕が長いほど重力波を高感度で検出できる。国立天文台のKAGRAなど世界最大級の重力波望遠鏡は、腕の長さが数キロメートルある。

 ただし、光路の変化は非常に小さいため、「量子雑音」と呼ばれる量子力学的な起源で発生する物理量のゆらぎが存在する。量子雑音を制御することが、高感度で重力波を検出するカギとなる。

■観測可能な重力波が約8倍に

 国立天文台、東京大学、イタリアやドイツなどの研究者らから構成される国際グループは、重力波共振計TAMA300を改良した300メートル長のフィルター共振計を構築し、100ヘルツ以下の低周波数ゆらぎの制御に成功した。低周波数のゆらぎの制御は困難で、これまで成功した事例がなかったという。

 研究グループが開発した新技術は、KAGRAだけでなくLIGOや欧州重力波望遠鏡のVirgoにも採用可能だ。これにより感度が現在の約2倍になり、観測できる重力波は約8倍になるという。多くの重力波が高感度で観測できることで、一般相対性理論の検証や重元素の起源、中性子星の解明が進展することが期待される。

 研究の詳細は、米物理学誌Physical Review Lettersに4月28日付で掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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