弁護士の常識は、社会の非常識? カルロス・ゴーン被告逃亡に責任を負うべきは誰?

2020年1月25日 20:37

印刷

 日産自動車前会長でレバノンに逃亡したカルロス・ゴーン被告の逃亡責任はどうなっているのだろう。

【こちらも】カルロス・ゴーンが批判した司法制度 (1) アメリカとは逆、「無罪主張」では保釈されない

 ゴーン被告に非があるのは言うまでもない。一流の経営者としてカリスマと讃えられるほどの存在でありながら、判決まで5年ほどかかると弁護士に脅かされ、日本では起訴された事件の99%以上が有罪になるとの情報に恐れをなして、逃亡を決行したゴーン被告がとんだ食わせ者だったことは論を俟たない。

 ゴーン被告の要請を受けて保釈申請に及んだ無罪請負人を自称する弘中惇一郎弁護士が、保釈条件を適切に履行していたのか、という疑問の声が上がることは止むを得ないだろう。

 東京地検が「逃亡と証拠隠滅の恐れが強い」として保釈に強硬な反対したにも拘らず、保釈を決定した東京地裁に責任はないのかという疑問も否定できない。

 保釈問題が注目を集めていた19年4月、保釈条件の一つと浮かび上がったのがGPS(衛星利用測位システム)の発信機を体に装着することだった。欧米では以前から運用されている条件で、カナダで拘束されたファーウェイの孟晩舟副社長も足首に装着されている。

 日本では保釈が消極的に行われてきたため、GPSの導入が遅れていた。適切にGPSを運用するためには、装着後の対象者の所在を専属のスタッフがリアルタイムで確認しなければ意味がない。

 運用拠点の設置や設備の構築と担当者の配置など、予算措置がなければ到底実現できない高いハードルがあったのは事実だ。

 重要事件の被告が保釈中に逃亡する事例もなかったため、導入への切迫感がなかったとも言える。泥縄でゴーン被告にGPSを装着することが不可能だったため、いつの間にか、パスポートを取り上げて、自宅玄関をカメラ撮影することになった。

 妻のキャロル容疑者と接触することも原則禁止だったが、高野隆弁護士はゴーン被告が妻のキャロル容疑者と19年の11月と12月の2回、テレビ会議システムを使って面会したことを明かしている。

 高野弁護士は12月24日に行われた1時間ほどの面談に立ち合い、家族の近況や思い出話をしていたと語っているが、ゴーン被告とキャロル容疑者の面会が脱走の直前にこの2回しか行われていないのであれば、11月の面会時には「脱出計画のプランを語り」12月の面会時には「計画の詳細」を伝えていたとすら考えることができる。その後、キャロル容疑者は一足先にレバノンに赴き、ゴーン被告の到着を待っていた訳だ。

 そんなモヤモヤを感じていたところ、ゴーン被告の弁護人を務めていた弘中弁護士と高野弁護士に対する懲戒請求が、それぞれの所属弁護士会に提出されていたことが分かった。

 弘中弁護士の懲戒理由は「保釈中のゴーン被告を故意か重過失により出国させてしまったことは、保釈条件違反であり、その管理監督義務を懈怠(けたい)する行為」で、高野弁護士は「被告の逃走を肯定する発言をブログでしたのは重大な非行」としている。

 確かに、弘中弁護士はゴーン逃亡の第一報を受けたインタビューで、「保釈条件に違反する裏切り行為だが、気持ちが理解できないかといえば別問題」と述べた。高野弁護士は、ブログに逃亡の主な原因が妻のキャロル容疑者との面会が原則禁止された保釈条件であるとの認識を示し、「この密出国を全否定することはできない」との理解を表明した。

 どちらも遵法意識よりも優先するものをお持ちのようだ。

 両弁護士が懲戒請求に関するコメントを避けているので、どのように感じているかは不明だが、懲戒請求に納得を感じているのが社会の大勢であれば、物事の受け止め方には相当大きな幅があるようだ。一方に常識であっても、もう一方には非常識なことがある。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事