証券業界が日銀に怒り心頭なのも頷ける

2018年8月1日 21:27

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 個人の家計金融資産部門から、30兆円もの巨額な「投資信託資産」が消えてしまう仕儀となった。理由は、日銀の統計上の「ありうべきはず」の凡ミス。

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 資金循環統計:金融機関や家計別に資産・負債の推移を示す。年に1回「正確を期す」意味から過年度分の、見直し改定を行っている。ことに絶対はない。見直し自体は、なんら否定すべきものではないし大いになされるべき。だが今年6月下旬に発表された改定値には「唖然とさせられた」という以外に、言葉が見つからない。こう記せば読者諸氏にも「唖然」にご同意頂けるはずである。2005年以降の数値にさかのぼって改定作業を行った結果、以下のような事態が判明したというのである。

*17年12月末の家計に占める投資信託保有額が改定前の109兆1,000億円から76兆4,000億円まで、約33兆円激減した。

*改定前は12年の3.8%から17年の5.8%まで上昇していた家計資産の投信額比率が、改定後は14年の4.6%を頭に低下し17年には4.1%まで下落していた。

 何故、こんなことが起こったのか。日銀の調査統計局は「調査項目が多数あり、見直しが追い付かなかった」と釈明しているというが、日銀関係者はこう語っている。

 「家計の(投信)保有額は投信の総額から、金融機関など他の部門の保有額を差し引いて算出する。改定のミスは、ゆうちょ銀行がこれまで外国債券としていた資産の一部が実は投信だったことを見定められなかった。結果、ゆうちょ銀行が保有する投信を個人(家計)が保有しているものとして間違って計算していた。それが今回の改定で見直された」

 気づいた後はその分だけ金融機関の保有額が膨らみ、逆に家計保有額は減額された次第。「見誤っていた分が30億円ならともかく、30兆円となると黙ってはいられない」(大手証券)も当然といえる。

 証券業界はこの間「貯蓄から投資へ」という御上の掛け声を支えに「NISA(少額投資非課税制度)」に象徴される策に背を押され、「投信の時代到来」と声を大にして投信営業を行ってきた。それをいまさら「家計に占める投信資産はこの間、減少していたのです」とは言い難い。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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