【匠の技って何?(下)】AIを使った生産方式も「匠の技」が基本 開発モデルを蓄積

2017年12月16日 18:39

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■AIを使った生産方式も“匠の技”が基本

 最近では、将棋のAIが棋士の能力を上回ってきたことが知られてきている。しかし、AIも過去の棋士たちの対戦データを大量に取り込んで学んでいるのだ。AIであっても“匠の技”が基本なのだ。

【前回は】【匠の技って何?(上)】日本メーカーは「匠の技」に頼りきっている?製造とは?

 コンピュータ制御技術が大幅に拡大している。自動車に積まれているコンピュータも大幅に拡大され、「2年たてば古代の遺物」と言われるほど進歩が激しくなってきた。その対応のため、マイナーチェンジの間隔は2年または3年程度に拡大されたが、モデルチェンジに近い大幅な改良がなされている。ダッシュボードの設計も、それを可能にするように作られてきており、モデルチェンジ間隔の4~6年を待たずに、制御内容は生まれ変われる体制が取られてきた。

 “匠の技”にこだわり過ぎて量産技術に後れを出しているがごとくトヨタを批評するのは、真に「失礼な話」で、現在の量産技術は「トヨタ方式」であり、世界の量産工場が必死で追いかけているのが本当のところだ。この半世紀日本経済が成り立っているのは、「トヨタ生産方式」があるおかげだ。現在、日本経済が苦しくなっている、つまり「生産効率」が低いなどと揶揄されるのは、役所を含めてサービス業、物流などにおいては「トヨタ生産方式」ほどの世界をリードできる生産技術がないためなのだ。世界は「トヨタ生産方式」を上回る生産方式を求めて熾烈な競争をしているところで、「IoTを使った開発、生産、販売、整備」の新方式をドイツが進めているのだ。生産方式の現実を知らなければ、開発シミュレーションなど完成出来るわけもない。

 自動車の制御機構は大幅に増え、プログラム開発では全体のシステム開発技術が統合されてきている。それはボーイング747を開発するときに進めた技術で、自動車業界もプログラムの「バグ」対策の必要性もあり、設計技術を改革しなければ、開発に時間がかかり過ぎてしまうのだ。そこでも製造技術の基礎は”匠の技”であり、これを失わないようにトヨタは「学校」を設けている。自動車は「機械メカニズムと電子制御の統合」なのだ。プログラム開発だけで考えてはならない。機械メカニズムについての製造知識が、多くの専門家・ジャーナリストに欠落している。

■開発モデルを蓄積する「モデルベース開発(MBD)」

 現在、開発の二重手間をなくすために、マーケットの要求を掴むと開発モデルを選び出し、既に開発されている部分の設計を過去のモデルから使うことにしている。これは、最近「モデルベース開発(MBD)」と呼ばれるようになってきたものだが、プログラム開発から考えられたシステムで、現在の設計管理技術としては当然の方法となっている。しかし、これは特別の革命とは言えず、どの産業でも開発の短縮を考え、かなり以前から取り組んでいる方向性だ。

 50年前プログラマーだった筆者は、ベテランプログラマーたちが過去のモジュールを組み合わせるだけで開発が出来るのをうらやんでいた。新人はあらゆるプログラムを開発していかねばならず、先輩たちのモジュールを使わせてもらいたいと思っていた。しかし、当然に同じプログラムを各人がそれぞれ開発している状況は、「とんでもないムダ」と会社も捉えて、少しずつモジュールを会社のデータベースとして登録し、使わせてくれる方向性で動いていた。コストダウンである。

 MBDはこの考え方を拡大し、VRなども動員して開発の手間を削減する方向性だ。新技術と結びついて拡大出来てきているが、概念は古くからあり、製造技術の“匠の技”に頼り切っていない証拠ではない。ましてMR(マーケットリサーチ)で市場の要望を捉え、開発が始まる基本は変わらない。自動車だけでなく商品の開発は、MRを使わないとしても市場の要望を捉えることから始まる。MBDは「開発設計管理技術」の拡大発展であり、ボーイングが目指した開発短縮の方向性と似ている概念だ。製造技術との混同は論外だ。

 現在、自動車メーカーが過去の開発モデルを蓄積して、同じ部分は流用するのは当然だ。エンジン、ミッションなども多くの車種で共用しているが、「モデル」と呼べる単位でなくとも、「モジュール」あるいは「サブアセンブリ」単位で共用化するべきなのだ。TNGA、スカイアクティブなどでプラットフォームを共有するのも、同じ考え方の応用だ。規模が大きければ大きいほど、開発期間が短縮できてコストダウンが出来るのは明白であろう。今後、メガ・サプライヤーの活用が進んでくると、「車のデザインだけが違っていて中身は同じ」ということが起こるのかもしれない。

 製造を理解することを、「現場を知らないと出来ない」ことが不思議でならない。現在のシミュレーター技術には製造・生産技術も含まれており、データを取り込んできているはずだ。それでも「タカタのエアバッグ」のごとく、「化学薬品の経年変化」の概念が取り込まれていなかったために起きた一大事もある。「10年間現物を保管し、順次爆発実験をしていれば発見できたのに」と思われるようなことも起きるのだ。どれほどシミュレーター技術が進歩しても、「不明な部分が大多数」である現実は変わらない。それが「現場、現物主義」の必要性なのだ。

 故意に“匠の技”批判をして、EVブームを煽る動きがあるのだろうか?(kenzoogata)

関連キーワードトヨタ自動車VR人工知能(AI)IoT(Internet of Things)タカタボーイング

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