産総研、エビやカニの殻から新しい断熱材「撥水エアロゲル」を開発

2017年9月10日 07:56

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キトサンエアロゲルと撥水エアロゲルの水滴滴下の様子(左)と、撥水エアロゲルの電子顕微鏡写真。(画像:産業技術総合研究所発表資料より)

キトサンエアロゲルと撥水エアロゲルの水滴滴下の様子(左)と、撥水エアロゲルの電子顕微鏡写真。(画像:産業技術総合研究所発表資料より)[写真拡大]

 産業技術総合研究所(以下、産総研)は、エビやカニの甲殻から得られる天然高分子であるキトサンを素材に、撥水(はっすい)性、光透過性、柔軟性を兼ね備えた超低密度の多孔体であり、断熱材として利用することができる「撥水エアロゲル」を開発した。

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 現在、民生・家庭部門における、建物の省エネルギー化は急務となっている。エネルギーの出入りが大きい部分といえば窓やガラス戸であるのだが、それらに用いられる断熱材に、採光の機能を有したまま高い断熱性を持たせることは容易ではない。そこで注目されているのが、エアロゲルである。

 よく知られたエアロゲルには超低密度のシリカゲル(シリカエアロゲル)があるが、脆い、加工しにくい、破損しやすい、おまけに破片が散る、などの様々な難点があって、普及はしていない。そこで、新しい素材が求められている。

 産総研は、以前から、キトサンを骨格とした超密度の多孔体、キトサンエアロゲルの開発に携わってきた。この素材は絡み合った三次元の網目構造を持ち、体積の97%の空隙を持つ。また、同じバイオマスであるセルロースと比べ、より簡便な方法で多孔体を製造できるというメリットがある。

 ただし、キトサンは水との親和性が高い多糖類高分子であるため、湿気に弱いという厄介な問題があった。キトサンエアロゲルは隙間だらけであるのでとりわけそれがひどく、大気中の水分に触れるだけで変質してしまうなど、実用化には課題があった。従って今回の開発の中心的テーマとなったのは、キトサンエアロゲルの耐湿性の向上であった。

 今回作られた撥水エアロゲルは、キトサンエアロゲルの三次元構造は基本的には維持したまま、その内部に疎水化剤を作用させたものである。これにより、光透過性断熱材として、たとえば住宅やビルの窓に直接貼り付けるという形での実用化へと道が拓かれたのだ。

 なお、この研究の詳細は、英国王立化学会の学術論文誌Nanoscaleのオンライン版に掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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