理研らがマウスの認知機能回復に成功、統合失調症の新たな治療に期待

2017年3月4日 21:32

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記事提供元:エコノミックニュース

 統合失調症は幻聴・妄想などの「陽性症状」、意欲の低下・感情の平板化などの「陰性症状」、記憶力・注意力・情報処理能力などの機能が低下する「認知機能障害」を主な症状とする精神疾患である。従来の治療薬は、陽性症状の治療には有効だが、陰性症状と認知機能障害に対しては十分な治療効果が得られず、患者の社会復帰を妨げる要因となっている。また発症には、「NMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)」の機能低下が関わっていることが、古くから提唱されてきたが、そのメカニズムは不明だった。

 理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター行動遺伝学技術開発チームの糸原重美チームリーダー、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の林悠准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の桑原正貴教授、安田光佑大学院生らの共同研究グループは、新たな機序に基づく「統合失調症モデルマウス」の開発に成功し、このマウスの成熟個体に遺伝子治療を行うと、統合失調症に類似した症状が回復することを発見した。

 今回、共同研究グループは、脳の「視床髄板内核(ILN)」におけるNMDA受容体の機能が生まれつき低下している遺伝子改変マウス(ILN変異マウス)を作製した。そして、ILN変異マウスが記憶力・注意力・情報処理能力などの認知機能に障害を示し、活動量過多という陽性症状の一部に類似した症状を示すことがわかった。また、統合失調症患者にみられる睡眠覚醒の障害と神経オシレーション活動の異常を示すこともわかった。

 これらの結果から、NMDA受容体の機能低下を引き金としたILN領域の機能異常が、統合失調症の病態に深く関わることが明らかになり、ILN変異マウスを統合失調症モデルマウスとして確立した。さらにモデルマウスの成熟個体への遺伝子治療によりNMDA受容体の機能を正常に戻すことで、認知機能を“可逆的に”回復させることに成功した。これまで、精神疾患の多くは脳の発達期に生じた不可逆的な要因が関与すると考えられていたが、NMDA受容体の機能を後天的に回復させることが統合失調症の治療改善につながる可能性を示したとしている。

 今後、モデルマウスを用いてILNの役割を明らかにすることにより、統合失調症の発症機序をより深く理解し、ILNのNMDA受容体を標的とした薬や遺伝子治療その他の手法による治療法の探索に役立つ知見が得られると期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

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