【前編】東急パワーサプライ村井健二氏に聞く「電鉄グループがなぜ電力ビジネスに参入したのか」

2017年2月21日 17:04

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記事提供元:biblion

 【連載3回目】電力業界への「異業種企業の新規参入」の代表格である株式会社東急パワーサプライ。鉄道や百貨店、不動産、ホテルなどで知られる東急グループの電力業界参入には、どのような背景があったのか。〝沿線密着〟〝地域特化〟型ビジネスモデルについて、代表取締役社長の村井健二氏にお話を伺いました。(インタビュアー:一般社団法人エネルギー情報センター理事・江田健二氏)

【前編】東急パワーサプライ村井健二氏に聞く「電鉄グループがなぜ電力ビジネスに参入したのか」

 本連載は書籍『3時間でわかるこれからの電力業界―マーケティング編―5つのトレンドワードで見る電力ビジネスの未来』(2016年11月発行)より、電力ビジネスの今後を占うインタビュー記事を再構成して掲載します。(インタビュー日:2016/6/21)

株式会社東急パワーサプライ代表取締役/村井健二氏

株式会社東急パワーサプライ代表取締役/村井健二氏今回の連載でお話を伺ったのは、 東急グループの一員である、2015年設立の株式会社東急パワーサプライ代表取締役の村井健二氏です。

東急グループならではの電気サービスを提供し、沿線を日本一の住環境エリアに!

まず、今回なぜ異業種である東急さんが電力業界に新規参入されたのか、また貴社の電気サービスに対する基本的な考え方、といった辺りからお話を聞かせていただけますか。

 私ども東急パワーサプライは、ご存じの通り東急グループの電力小売事業者です。
 電力業界へは異業種からの新規参入ということになりますが、安心・安全・安定を旨としながら、〝安価〟を実現した料金プランが大きな特徴の1つです。
 また、鉄道をはじめとしたグループ各社との連携で様々なサービスを展開している点も、企業戦略上非常に重要なセールスポイントです。

 2016年4月の電力小売全面自由化によってエネルギー業界出身ではない異業種の会社が数多く参入されたかと言いますと、意外と少なかったのではないかと思います。
 なぜ少なかったのかというと、それは電力産業が薄利なビジネスであることが大きな理由でしょう。

 東日本大震災が起こる前、発電コストが抑えられていた時代であっても、電力会社の利益率は3%くらいでした。
 そのような、たった3%しか儲からない事業分野に異業種の方々がどういう目的で入ってくるのかは様々なお考えがあるのでしょうが、おそらくその辺りは冷静に判断する人が多かったのではと思います。
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Licensed by Getty Images私どもはその数少ない異業種参入組の1つですが、ではなぜ参入したかと言うと、沿線のお客さまに東急グループとの接点を持っていただく、または関係をさらに密なものにしていただく絶好のチャンスではないかと考えたからです。

 電気サービスは全世帯が対象になり得るサービスですし、この事業単体で利潤を追求するということ以上にグループとお客さまとの接点をより強固なものにするために電気サービスをやっていこうという発想です。

 東急パワーサプライはそういう位置づけの中で、幅広くお客さまにサービスを提供できるような料金設計を行ったり、既存の東急グループのサービスとの組み合わせプランを用意するなど、様々な仕組みを考えています。

 電力産業は設備や装置なども含めて大がかりな産業ですし、規模について語れば国家レベルの話にもなり得ます。
 一方で、私どもは地域に密着して電力事業に取り組んでおり、沿線ローカルに特化しているという点でも、他の電力小売事業者さまとは異なるユニークな視点で電気サービスを展開していけたらと思っております。
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Licensed by Getty Images

あくまでも東急線沿線エリアに的をしぼった電気サービスと、それに付随する様々なサービスの提供をめざしているのですね。

 はい。東急グループとしましては、今回の電力事業の開始によって、これまで築いてきた顧客基盤をより強くし、沿線の皆さまに1つでも多くの東急グループのサービスをご利用いただきたいと考えていますが、さらに、「東急線沿線を日本一の住環境エリアにしていきたい」という目標を持っています。

 近年の環境意識の高まりと相まって、電気をお使いいただくことについても意識の高い消費者が増えてきています。
 そういう意味で、東急線沿線の皆さまにエネルギー分野で何らかのサービスをプラスすることは、今の時代に適応した新しい生活サービスを提供することにつながるのでは、と考えております。昭和の高度経済成長期に東急グループは、多摩丘陵の当時は原野であった土地を買って電車を走らせ、スポーツクラブやカルチャースクールなどの施設・サービスを生み出してきました。
 これらも時代の要請だったわけですが、これからの時代に合わせたサービスは当然のように環境志向になっていきます。

 また少子高齢化への対応も必須でしょう。そういう意味で時代の先進モデルとしての街づくりを行っていく。さらには成功事例として世界から注目されるように、環境に配慮した生活空間づくりをアグレッシブに行い、沿線の方々の生活シーンを演出していきたいと思います。

新しい〝節電生活スタイル〟の提案でムーブメントを!

東急グループさんが積み上げた実績やノウハウ、信用力を活かし、電気だけでなく生活や環境全体に貢献していくということですね。今後の貴社のエネルギー業界における立ち位置についても聞かせていただけますか。

 私どもがめざしているのは、電気を基盤に「新しい生活体験を提案する」ということです。
 エネルギーサービスをお客さまに提供するとともに、生活体験を提供するという独自のやり方で、あえて発電事業などエネルギー産業の中核には入っていかないという姿勢をとっています。
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 環境省が2012年から取り組み始めた〝クールシェア〟という運動があります。要するに家の電気を消してみんな涼しいところに集まってくださいということで、これをシェアビジネスにつなげたわけです。

 「夏の電気バカンス大作戦2016」も、東急グループが持つ鉄道や商業施設という涼しい公共空間に出てきてください、その代わり暑い中協力いただいたので電車のポイントや商業施設で使えるクーポンを差し上げます、というものです。

 このキャンペーンをご利用いただくことによってデマンドレスポンスと同様の効果が実現されるわけで、それは必ずしも各家庭へのスマートメーター導入がなくては実現できないという話ではないわけです。
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Licensed by Getty Imagesまた、政府主導でピーク時節電をアナウンスするのとも違います。ピーク時に家の電気を消して外に出てください、そして東急の施設に、と――これを新しい「節電生活スタイル」として提案させていただいているということです。

 ゆくゆくは本当にこの東急線沿線全体を、住民の方々がそういうエコ生活を実践しているような空間にしたい。生活体験を具体的に提案し、そして住民の方々が少しずつでも実践していただくことで新たなムーブメントをつくりたいと思っています。

なるほど。いきなりデマンドレスポンスの仕組みを説明しても一般の方にはピンとこないでしょうから、ライフスタイル提案型のビジネスモデルでエコ生活の実践につなげるのは非常にスマートな方法ですね。

 江田さんは電力事業にもビジネスにもお詳しいのでパパッとストーリーを読み取ってくださいますが、まだ一般の方はそこまで読み取るのが難しいと思うのです。

 私どもは会社をつくってまだ間もないので、今回の夏の取り組みは顧客獲得のためのプレゼントキャンペーンに見えるかもしれません。でも今後こういうものを繰り返していった結果、沿線住民の方々が自然な形でエコ生活を送っているような状況になればいいな、と。
 東急パワーサプライという存在と東急線沿線にお住まいの方々とで、そういうサイクルをつくり上げたいというのが中期的な展望です。今は夏のキャンペーン中ですが、実はもうすでに社内で「冬になったらどんな生活体験を提案していこうか」という話をしています。
 電気というものは、例えば毎月電力会社から利用明細が送られてきても、それは家庭ではお母さんがマネジメントしているものであって、お父さんが見ることは稀ですよね。
 これからはそうではなくて、お父さんもお子さんも一緒に電気利用のことを考えていただけたらいいな、と思っています。

 今いろいろな料金プランやメニューが注目を集めていますが、他の電力会社に乗り換える動きはまだまだ少ない印象です。
 そもそも電気は価格を気にして消費動向が大きく変化するような消費財ではありませんから。
 だから「お子さんとお母さんと一緒にこれを食べに行こう!」とか、「お父さんと一緒にここに出かけよう」といった具体的な提案とくっつけて習慣づけていくのが〝電気サービスの身近化〟ではないかと思います。(後編へ続く。本連載は火曜日に公開します。)

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