結核ワクチン候補M72/AS01E、Bio Farmaがインドネシアでの製剤化協力に意欲
インドネシア国営製薬会社Bio Farmaが、結核ワクチン候補「M72/AS01E」の国内での製剤化に向け、他社と協力する意向を示した。開発を担うGates Medical Research Institute(Gates MRI)は2028年後半の第3相試験結果を見据え、承認後の供給に備えた製造体制の整備を進めている。
■Bio Farmaが国内製剤化への協力を模索
インドネシアのANTARA通信によると、Bio Farmaの商業担当取締役フィトリ・プスパデウィ氏は11月5日、バリで開かれた第40回ストップ結核パートナーシップ理事会に合わせ、M72/AS01Eを国内で製剤化するための協力機会を探っていると説明した。製剤化には提携先との合意が、商業生産には臨床試験の成果と規制当局の承認が必要になるとしている。
この動きに先立ち、非営利の研究開発組織Gates MRIは2026年7月16日、インドのワクチンメーカーSerum Institute of India(SII)との製造契約を発表した。第3相試験が成功し、承認が得られた場合の大規模供給に向け、抗原の製造技術やノウハウの移転を進める。
発表によると、SIIは製造準備と生産能力の整備に自己資金で1億ドル超を投じる見込みだ。ワクチンの抗原成分M72をSIIが製造し、免疫応答を高める成分AS01Eは、GSKとSIIの別契約に基づきGSKが供給する。
両者の発表は、インドネシアと南アフリカの現地メーカーを、将来的に供給網の重要な工程へ参加させる方針も示している。Gates MRIは、技術移転には時間がかかるため、治験と並行して準備することで、承認から高負担国への供給までの時間を短くしたい考えだ。
■新たな成人向け結核ワクチンが求められる理由
世界保健機関(WHO)の「世界結核報告2025」によると、2024年に世界で結核を発症した人は推定1070万人、死亡者は123万人だった。死亡者は1日当たり3300人を超え、結核は単一の病原体による感染症として世界で最も多くの命を奪っている。
現在使用できる結核ワクチンは、1921年に初めて人へ接種されたBCGである。乳幼児の結核性髄膜炎や粟粒結核などの重症化予防に重要な役割を果たしてきた一方、青年や成人の肺結核に対する予防効果には大きなばらつきがある。過去の無作為化比較試験では、効果がほぼゼロから約80%まで異なる結果が報告されている。
BCGの効果の違いには、接種年齢や接種前の感染・感作などが関係すると考えられている。無作為化比較試験をまとめた研究では、結核菌への感染や環境中の抗酸菌への感作がない集団ほど、高い肺結核予防効果が認められる傾向があった。
M72/AS01Eは、青年や成人の肺結核を防ぐ新しい選択肢を目指す候補だ。第2b相試験では、結核菌に感染しているものの発病していない「潜在性結核感染症」の成人を対象に、活動性肺結核への進展を防ぐ効果が検討された。
■抗原と免疫補助剤を組み合わせる仕組み
M72/AS01Eは、結核菌由来の抗原と、免疫応答を高めるアジュバントを組み合わせたワクチン候補である。M72は、結核菌の抗原Mtb32AとMtb39Aに由来する組換え融合タンパク質で、免疫系が結核菌を認識するための標的となる。
GSKが開発したAS01Eは、脂質の膜でできた粒子であるリポソームを使うアジュバントシステムだ。細菌由来成分を修飾したMPLと、樹木の樹皮から得られる精製キラヤサポニンQS-21を含む。MPLは自然免疫に関わる受容体TLR4を刺激し、QS-21と組み合わせることで免疫応答を促す。
結核菌は、細菌を取り込んで排除するマクロファージの内部で生存できる。これに対する防御では、CD4陽性T細胞の一種であるTh1細胞が産生するインターフェロンγ(IFN-γ)などが、マクロファージを活性化する役割を担う。抗原に対する細胞性免疫を誘導することが、ワクチン開発の重要な狙いとなる。
QS-21の働きを調べたマウス研究では、投与後にリンパ節のCD169陽性マクロファージへ集積し、単球や好中球、樹状細胞の動員・活性化に関わることが示された。Batf3に依存する樹状細胞もT細胞応答に関与しており、自然免疫の刺激が抗原に特異的な免疫応答へつながる過程を示している。
同じAS01系のアジュバントは、日本でも使われる帯状疱疹ワクチン「シングリックス筋注用」にも採用されている。シングリックスが含むのはAS01Bで、AS01Eの2倍量のMPLとQS-21を配合する。2021年公表の長期追跡研究では、接種から平均7.1年までを通算した帯状疱疹予防効果は90.9%、平均5.1~7.1年の追跡期間中では84.0%だった。
■第2b相の成果を2万人規模の第3相で検証
M72/AS01Eの第2b相試験は、ケニア、南アフリカ、ザンビアで実施された。対象は18~50歳のHIV陰性成人で、血液によるインターフェロンγ遊離試験(IGRA)が陽性で、活動性結核の所見がない人だった。3575人が無作為に割り付けられ、3573人がワクチンまたはプラセボを少なくとも1回接種した。
2018年に公表された解析では、全参加者が少なくとも2年間の追跡を終えた時点で、細菌学的に確認された活動性肺結核に対する有効率は54.0%だった。2019年に医学誌New England Journal of Medicineに掲載された最終解析では、2回目接種後3年間の有効率は49.7%で、95%信頼区間は2.1~74.2%だった。
最終解析の規定に沿った有効性評価集団では、肺結核の発症はワクチン群1626人中13人、プラセボ群1663人中26人だった。重篤な有害事象、免疫介在性疾患の可能性がある事象、死亡の頻度は両群で同程度だった一方、注射部位の反応やインフルエンザ様症状はワクチン群で多かった。免疫評価の対象者では、M72に特異的な抗体とCD4陽性T細胞の応答が追跡期間を通じて認められた。
この成果を、より大規模な集団で検証するのが第3相試験「NCT06062238」である。Gates MRIが実施主体となり、ゲイツ財団とWellcomeが資金を提供する。2024年3月に始まり、2025年4月に約2万人の登録を完了した無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、15~44歳の青年・成人を対象とする。
試験はインドネシア、ケニア、マラウイ、南アフリカ、ザンビアの5カ国54施設で行われている。HIV陰性でIGRA陽性の集団を主な有効性評価の対象とし、HIV陽性者やIGRA陰性者も組み入れて、安全性や免疫応答などを調べる。Gates MRIによると、参加者を最長4年間評価し、結果は2028年後半に見込まれる。
■治験参加と製造基盤を持つインドネシア
WHOによると、2024年の推定結核発症者数で、インドネシアはインドに次いで世界2位となり、世界全体の約10%を占めた。同国保健省が2025年9月に公表したブディ・グナディ・サディキン保健相の説明では、年間の新規発症者は約108万人、死亡者は約13万4000人に上る。死亡者数は1時間当たり約15人に相当する。
インドネシア保健省によると、同国内の第3相試験は2024年9月3日に始まり、2025年4月16日までに2095人を登録した。食品医薬品監督庁(BPOM)も2025年5月の発表で、国内5施設が参加していることと、試験の実施を承認済みであることを説明している。
Bio FarmaはBCGを国内の基礎予防接種向けに製造しており、他のワクチンでも国際供給の実績を持つ。同社が2022年に公表した会社紹介では、年間生産能力は32億回分超で、150カ国超への輸出実績がある。WHOの事前認証を受けた製品を持ち、途上国ワクチン製造業者ネットワーク(DCVMN)にも参加している。
SIIとの協力関係も既にある。Bio Farmaの発表によると、両社は2025年1月25日、潜在性結核感染を調べる皮膚検査「Cy-Tb」に関する協力契約を結んだ。同社は、インドネシアで使われるPPD RT23に代わる診断手段として位置付けている。
ANTARA通信によると、BPOMのタルナ・イクラル長官は2025年5月、治験参加国が国内生産に必要な知的財産権を得る機会への期待を示した。同じ場でゲイツ財団のワクチン開発担当者ラヤサム・プラサド氏も、結核、麻疹、風疹、肺炎、ロタウイルス、ポリオなどのワクチンを世界へ供給する拠点として、インドネシアを育てる展望を述べた。
■供給量だけでなく、価格と地域での利用体制も焦点に
SIIは、製造・販売する接種回数ベースで世界最大のワクチンメーカーと説明している。同社の2026年11月時点の会社紹介では、その規模は15億回分超とされる。M72/AS01Eでは、抗原の量産とGSKによるアジュバント供給を組み合わせ、両成分をそろえる生産・需要計画が重要になる。
Treatment Action Group(TAG)は、免疫補助剤の供給網に関する報告で、QS-21やMPLの原料調達と製造体制を検討している。また、2026年の結核ワクチン開発報告では、M72/AS01Eの販売地域、価格、現地メーカーの担当工程、供給量といった契約の具体化を課題に挙げた。地域製造への参加には、技術移転と役割分担の調整が伴う。
開発は複数の候補で進んでいる。TAGによると、弱毒化した結核菌を用いるMTBVACは、青年・成人の第2b相試験で登録を完了し、乳児の第3相試験も進行中だ。組換えBCG候補VPM1002では、2026年に公表された第3相試験結果を通じ、予防効果の評価や試験設計上の課題が議論されている。
WHOが2025年11月に示したモデル推計では、青年・成人の発病を50%防ぐワクチンが承認され、速やかに普及した場合、25年間で最大7600万人の発病と850万人の死亡を防ぎ、結核の影響を受ける世帯の負担を最大420億ドル(約6兆6400億円)減らせる可能性がある。WHOの結核ワクチン開発促進評議会は、インドネシアとブラジルの保健相が共同議長を務め、開発から導入までの協力を進めている。
Gates MRIは、有効性と忍容性が確認されれば2029年から国際的・各国の規制手続きへの申請を始める見通しを示すとともに、高負担国で利用できる手頃な価格のワクチンにすることを、パートナー共通の優先事項に掲げている。Bio Farmaの国内製剤化への意向は、治験に参加するインドネシアが、将来の供給体制にも関与するための一歩となる。
元記事: Indonesia’s Bio Farma Eyes Regional Hub Role in World’s Most-Watched TB Vaccine Supply Chain
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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