IKS014、エンハーツ治療歴のあるHER2陽性乳がん10人で奏効率50%―第1相中間解析

(Iksuda.com)[写真拡大]
LigaChem BiosciencesとIksuda Therapeuticsは2026年11月2日、開発中の抗体薬物複合体(ADC)IKS014について、エンハーツ治療歴のあるHER2陽性進行・転移性乳がん患者での第1相中間データを公表した。評価可能な10人中5人に、確定済みと確定前を合わせた部分奏効が認められ、客観的奏効率(ORR)は50%だった。
追加患者を含む更新データは、12月9日のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表する予定だ。エンハーツ治療後の患者に対する新たな治療法の開発に向け、小規模な集団で得られた初期の結果となる。
■10人中5人に部分奏効、1人は18カ月超持続
IKS014は、caxmotabart entudotinとも呼ばれるHER2標的ADCだ。抗体を使ってがん細胞へ細胞傷害性薬物を届ける仕組みを持ち、LigaChemのConjuALL技術を用いて開発されている。
今回の乳がん解析は、用量漸増段階で90mg/m²以上を投与された4人と、用量拡大段階の6人を合わせたものだ。前治療のレジメン数は中央値6、範囲2~12で、複数の治療歴を持つ患者が対象となった。
Iksudaによると、エンハーツ投与時の最良効果が病勢進行だった患者でも、IKS014による部分奏効が認められた。奏効が18カ月を超えて持続している患者も1人いた。
10人中5人という結果から二項分布の正確法で計算した95%信頼区間は、約19~81%となる。今後は、症例数を増やした解析での奏効率に加え、奏効の確定状況や持続期間が重要になる。
LigaChemは、この奏効率を、エンハーツ治療歴のあるHER2陽性乳がんに対するHER2標的ADC単剤療法で公表されたデータの中で最高水準としている。
■エンハーツ治療後の選択肢を探る
エンハーツの一般名はトラスツズマブ デルクステカンで、第一三共が創製し、アストラゼネカと共同開発している。第一三共の2026年10月の公表資料によると、抗HER2療法の治療歴など一定の条件を満たすHER2陽性の切除不能・転移性乳がんに対し、100を超える国・地域で承認されている。
日本でも治療の早い段階への導入が進んでいる。第一三共は2026年9月16日、ペルツズマブとの併用によるHER2陽性の手術不能・再発乳がんの一次治療について、一部変更承認を取得したと発表した。エンハーツ投与後に進行した患者への治療順序は、引き続き重要な研究課題だ。
米MDアンダーソンがんセンターの研究チームが2026年10月に発表した後ろ向き研究では、エンハーツ治療後にカドサイラ(トラスツズマブ エムタンシン)を投与された21人で、完全奏効・部分奏効は認められなかった。無増悪生存期間の中央値は2.2カ月だった。
専門メディアOncLiveによると、第2相SATEEN試験では、エンハーツ治療歴のあるHER2陽性転移性乳がんにトロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)とトラスツズマブを併用し、27人中1人に確定部分奏効を認めた。ORRは3.7%で、次の段階へ進むための有効性基準を満たさず、試験は第1段階で終了した。治療関連の好中球減少性敗血症による死亡も1人報告された。
同誌は、ダナファーバーがん研究所のPaolo Tarantino医師が、エンハーツで進行した後の治療選択を導く前向きデータの不足を、SATEEN試験の背景として説明したと伝えている。こうした研究を重ね、患者の治療歴や腫瘍の特徴に応じた選択肢を検討する必要がある。
■異なる薬物を届けるADCの設計
ADCの働きを考える際には、抗体が認識する標的と、抗体に結合させる薬物であるペイロードの両方が重要になる。エンハーツはHER2を標的に、トポイソメラーゼI(TOP1)阻害薬のDXdを届ける。TOP1はDNAのねじれを解消する酵素で、その働きを妨げることでDNA損傷を引き起こす。
トロデルビはTROP2を標的とし、TOP1阻害薬のSN-38を搭載する。転移性乳がん患者を調べた研究では、TOP1の変異と、TOP1阻害薬を搭載する複数のADCへの交差耐性との関連が報告されている。交差耐性とは、ある薬剤への耐性が別の薬剤の効きにくさにも関係することを指す。
IKS014のペイロードは、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)という微小管阻害薬だ。米国立がん研究所の説明によると、MMAFはチューブリンの重合を阻害し、細胞周期をG2/M期で停止させ、細胞死を誘導する。微小管は、細胞分裂時の染色体の分配などを担う構造である。
カドサイラも微小管阻害薬を搭載するADCで、ペイロードはメイタンシン誘導体のDM1だ。IKS014とは薬物の種類や結合方法が異なる。ADCの治療順序を検討する際には、ペイロードの作用点に加え、標的の発現や薬物の放出方法も考慮することになる。
LigaChemは、エンハーツと異なる作用機序のペイロードを用いることで、治療後に再発した患者や治療抵抗性の患者への効果を目指してIKS014を設計したとしている。今回の乳がんデータは、その開発方針をさらに検討する材料となる。
■MMAF、酵素で切れるリンカー、薬物抗体比2
IKS014は、抗HER2抗体とMMAFをβ-グルクロニドリンカーでつないでいる。Iksudaが公表した前臨床資料によると、このリンカーはβ-グルクロニダーゼによって切断され、リソソーム内での活性化を通じて薬物を放出する設計だ。リソソームは、細胞内に取り込まれた物質の分解などを担う細胞小器官である。
抗体への薬物の結合位置も制御している。抗体1分子当たりの薬物数を示す薬物抗体比(DAR)は2で、カドサイラの平均約3.5、エンハーツの約8と異なる。部位特異的な結合によって、組成のそろったADCを製造することを目指している。
ADCの設計では、薬物の搭載量とともに、リンカーの安定性、複合体の疎水性、血中動態などを調整する。IKS014では、薬物の種類、放出条件、結合位置を組み合わせることが、ConjuALL技術の特徴となっている。
MMAFと近縁のモノメチルアウリスタチンE(MMAE)は、ともに微小管を阻害する。MMAEは旧Seattle Geneticsが開発したアドセトリスにも使われ、細胞膜を通過して周囲の細胞にも作用するバイスタンダー効果を持つ。MMAFは末端の荷電したカルボキシ基により膜を通過しにくく、周囲の細胞へ拡散しにくい性質を持つ。
MMAFを搭載する別のADCには、多発性骨髄腫治療薬ブーレンレップ(ベランタマブ マホドチン)がある。同薬は切断されないマレイミドカプロイルリンカーを用いる。米食品医薬品局の承認時の解析では、DREAMM-2試験の2.5mg/kg群95人でグレード3~4の角膜症が44%に認められ、眼科検査と投与調整が重要な管理項目となった。
■105人の安全性データと今後の評価
IKS014の第1相試験NCT05872295は、非盲検・非ランダム化の多施設試験で、オーストラリア、米国、ニュージーランド、シンガポールで進められている。2026年4月のデータカットオフ時点で、用量漸増・追加登録段階に71人、用量拡大段階に34人、計105人が登録されていた。
Iksudaによると、40~120mg/m²を3週間ごとに投与した用量漸増段階で最大耐用量には到達せず、用量拡大段階では105mg/m²を選択した。105人中16人、15.2%にグレード3の治療関連有害事象が認められ、最も多かったのは低カリウム血症の7人、6.7%だった。
頻度の高かったグレード1~2の治療関連有害事象は、低カリウム血症36%、ドライアイ34%、角膜炎34%、口腔乾燥28%だった。同社は、グレード5の有害事象と治療関連の重篤な有害事象は報告されず、高グレードの間質性肺疾患・肺臓炎も認められなかったとしている。
エンハーツについては、2022年にESMO Openで公表された9件の単剤試験の統合解析で、1150人中15.4%に薬剤関連の間質性肺疾患・肺臓炎が認められた。グレード3以上は3.5%だった。ADCの開発では、抗腫瘍効果の持続性とともに、眼や肺を含む有害事象を継続して評価することが重要になる。
■開発権利と中国での第3相試験
IKS014を創製したLigaChemは、2006年設立で韓国・大田に本社を置くKOSDAQ上場企業だ。旧社名はLegoChem Biosciencesで、英国ニューカッスルを拠点とするIksudaに、中華圏と韓国を除く地域での開発・商業化権を供与している。
LigaChemが2021年12月27日に公表した契約では、契約一時金と短期マイルストーンを合わせて5000万米ドル(約79億円)、開発・承認・商業化のマイルストーンを含む総額は最大10億米ドル(約1580億円)で、売上高に応じたロイヤルティーは別途支払われる。
LigaChemは2025年、Iksudaへの2500万米ドル(約39億5000万円)の戦略投資も発表した。投資完了時の持ち分を26.6%とする計画に加え、既存主要株主の株式を取得する権利・義務を定めた契約を結び、全て実行した場合には最大73.9%を保有すると説明している。
中華圏の権利はFosun Pharmaが保有する。中国ではFS-1502の名称で、HER2陽性進行・転移性乳がんを対象にカドサイラと比較する、別の第3相試験が進行中だ。
World ADC Awardsの主催者によると、2025年の「Most Promising ADC to Watch」部門ではIKS014が最優秀賞を受賞した。同部門の最終候補にはPfizerやMersana Therapeuticsの薬剤も含まれた。一方、「Best ADC Platform Technology」部門ではConjuALLが次点に選ばれた。
■12月9日のSABCSで更新データを発表
SABCSは2026年12月8~11日、米テキサス州サンアントニオのヘンリー・B・ゴンザレス・コンベンションセンターで開催される。Iksudaの発表予定は、12月9日午前7時~8時30分の米中部標準時、日本時間では同日午後10時~11時30分で、会場は301 ABCとなる。
IksudaはESMO 2025に続き、ASCO GI 2026でも第1相データを発表している。食道がんの解析では、HER2陽性患者10人中5人に反応が認められ、測定可能病変を持たない患者1人の完全奏効も含まれていた。乳がんに加え、他のHER2発現腫瘍でも初期の抗腫瘍活性を検討している。
エンハーツ治療歴のあるHER2陽性乳がんの用量拡大コホートは、計25人の登録を目指す。12月の発表には4月以降の追加登録患者のデータも含まれる予定で、より多くの患者での奏効と安全性の結果が、次の開発段階を検討する材料となる。
元記事: IKS014 Hits 50% Response Rate in Post-Enhertu HER2 Breast Cancer: Payload Switch Drives Result
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク
